妖精と不穏
俺たちはヴィクティムの居なくなった穴を埋めるべく、四人で連携して妖精を捉えることにした。
もし先にヴィクティムが捕まえてしまえば、そこで俺達のグループは強制的に終了となる。だったら、ヴィクティムより先に妖精を捕まえなくては。
「——“感知結界”」
サシャは付与魔術を使い、展開した結界に感知能力を付与する。
結界とは規則の付与された特異領域だ。
魔力を使って生成したり変化させたりするのとは違い、より土地に根付いている魔術だ。
そのため、魔力は発動時の一瞬だけ使用するが、それ以降はその土地のマナを使用するため本人の魔力はそこまで消費されない。その分、魔術師の力量は規則を付与出来る範囲や正確さとして現れる。
「だいたい半径20メートルくらいの動くものなら感知可能だよ。妖精のあの動きなら多分私でも見逃さないはず」
「上出来だぜ、サシャ」
ラピは満足げに頷く。
「サシャ、助かるよ。俺はそこまで感知結界は得意じゃないから」
「まあパーティだからね。協力していこうよ」
――ということにしているが、当然同じ黒魔術師の俺に出来ないわけが無い。
俺はこっそりと100メートル級の感知結界を展開する。
流石に20メートルでは範囲が狭すぎて索敵には時間がかかりすぎる。
感知結界程度の魔力なら、おそらく妖精が範囲内に入ったとしても気付かれることはない。まあ、リーゼレベルになれば、多分サシャの結界なら気がつくな。
とりあえず、俺が先行して索敵して、うまくグループの進行方向を誘導していくか。
「よし、じゃあ進もう」
何もない森を進む。まだリーゼから先、とっぱしたグループは報告されていない。
と、しばらく歩いたところで俺の結界に妖精の反応が見つかる。
ここから14時の方向、100メートル地点だ。
「――サシャ」
「何、レクス」
俺の前を行くサシャがこちらを振り返る。
「グループがそれぞれ散らばった距離や方向から考えて、そろそろ14時の方向に進んだほうが良いかも。他のグループの領域と干渉すると取り合いになりかねないから」
「確かに。じゃあそっちの方向に進んでみようか。ラピもいいでしょ?」
「おう。頭使うのはレクスの方が向いてそうだからな。俺は従うぜ」
こうして俺たちは異論なく14時の方向へと進み、そしてサシャがぴくりと動きを止める。
「どした?」
「……いた。正面、木の裏の方ね」
「! 了解、じゃあ予定通りの動きで捉えよう」
俺たちはその場で立ち止まり、息を潜め近づく。
茂みの隙間から、優雅に飛ぶ妖精が目に入る。
「呑気に飛んでやがる」
「だね、サクッと捕まえよう」
「レクスさん、どうしましょうか……?」
3人とも、俺の方を見る。
どうやら思考は俺に任せるのが暗黙の了解らしい。
「——そうだな。エステル、生成魔術はどれくらい使える?」
「えっと……一軒家くらいの規模なら」
「上出来だ。なら、簡単に捕まえられそうだ」
「まじか?」
俺は頷く。
「いいか、まずエステルが生成魔術で檻を作る。恐らくさっき見た妖精の速度なら捕まえるまではいけない。だが、そこで残りの3人が活躍する」
「ほう?」
「意図的に魔力を放出するんだ。それで妖精の経路を絞って檻に誘導する。ただ、手のひらサイズの檻に入れるのはまず無理だ。だから、せいぜい一階だての家屋くらいの檻が理想だな。そこへ誘導し、ラピの強化魔術で最後は鬼ごっこだ」
「俺だけ辛くねえか?」
「悪いけど我慢してくれ。ラピの足だけが頼りだよ」
その言葉に、ラピは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「そういうことなら任せておけ! 俺の強化魔術は一味違うぜ!」
作戦が立案され、いよいよ欠航の時が近づいていた。
四方に散らばり、妖精を囲む。
あとは俺の合図で、エステルが檻を生成して準備完了だ。
「よし、じゃあ——」
瞬間。東の方角から猛烈な生態反応を検知する。
これは……速すぎる! ここまで5秒とかからない。
「お前ら、伏せろ!」
「「「!?」」」
俺の声に、反射的に3人は姿勢をさらに低くして退避の態勢をとる。
瞬間、ガサッ!!! と茂みが揺れ、次いで、ものすごい早さで駆け抜けるヴィクティムが現れる。
「ヴィクティム!?」
「貴様ら——逃げろ、ガチのやつがくるぞ!!」
「あぁ!?」
これはまずい。
この反応は、冒険者の時によく感じた野性の反応だ。
ヴィクティムの向かって来た方、草むらの方を見ると、そこに赤い二つの目が光っていてた。