分離
「おいおい、お前んとこのお嬢様、めちゃくちゃ強いじゃねえか」
ラピは笑いながらいう。
「二十年に一人の天才、だからな」
リーゼが正しく評価されていく。なんて素晴らしいんだ。
「貴様などいらないな、なんでいるのか不思議なくらいだ」
「おいおい、突っ掛からなくてもいいじゃねえか、そんなによお」
「黙れ。天才ゆえの苦悩。それをわからない凡人が天才たちを語ろうとするな」
「おいおい、だいぶ拗らせちゃってるなこの坊ちゃんも」
ラピは呆れて肩をすくめる。
ヴィクティムのこれは出会った時から同じだから。それに、今は妖精を捉えられなかったことに苛立ちが強い。
まともに言葉を聞いてくれる状態じゃないな。
「別れる。お前たちは足手纏いだ、私一人で行く」
「おいおい、監督官は一人だぜ? どうするんだよ」
ラピは監督官の方を見る。
「お好きにどうぞ」
「だそうだ。じゃあな。貴様たちの魔力の乱れで逃げられたらたまったものじゃない」
そう言って、ヴィクティムは踵を返し、森の奥へと進んでいく。
「おい、いいのかよレクス! 仮にもあいつが一番なんだったら、俺たちだけでやるってのも難しいんじゃねえのか!?」
「いいよ、好きにさせよう。一人で動く奴がいるなら、一人でいるのも一緒でやるのも一緒だよ」
「……まあ、それもそうか」
そうして、俺たちはあっけなく別れた。
「けど、いいんでしょうか……。ヴィクティムさんの方に監督官さんがいないですけど」
「そうね。どう評価されるのかしら」
「心配はいりません」
監督官が口をひらく。
「妖精には映像記録の魔術もかけられています。別の魔術師ですが。ですので、妖精の捕獲映像に関しては問題なく取れますので、評価はできます」
「はあ? じゃあなんで各グループに一人監督官がついてるんだよ?」
「……それはまあ、後々わかります。彼のように一人になるタイプはよくいますが、まあ大まかな位置は森に仕込んだ低級精霊の報告でわかるので、最悪の事態はないですよ」
「…………」
最悪の事態、か。
やっぱりグループである意味はそこにあるかな。
考えら得るとしたら、やはり……。
「まあいいよ。俺たちは俺たちで妖精を捉えよう」
「おう、もう俺たちは一蓮托生だぜ! 一人がいいってやつは他にいねえよな?」
エステルもサシャも、静かに頷く。
「よし。じゃあ、俺たちはもう一回しっかりと自己紹介をしよう。何ができるのか知りたい」
俺たちは一度立ち止まり、情報共有を開始した。
「じゃあ改めて俺から。俺はラピッド、属性は青だ。第二属性が赤だから、強化もそこそこいける。よろしくな」
「私はサシャ。属性は黒特化。他はあまり高くないかな。よろしく」
ラピとサシャは簡潔に自分の紹介をする。
ラピは青魔術師……リーゼと同じ変化魔術か。赤も得意となると、完全戦闘特化だな。
サシャは黒魔術師。俺と同じタイプか。ただ、特化と言うことは結界とかバリアが得意なタイプかな。フィールドを自分たちに有利に誘導できそうだ。
「えっと、私はエステルです。属性は白です、お願いします……!」
「「!」」
エステルの紹介に、二人は驚きの表情を浮かべる。
「白か……生成魔術の使い手はかなり珍しいな」
「私も初めて見た。なるほど、こんなビクビクしてるのに二次試験までこれてる意味はこれね」
「サシャ、あんま喧嘩腰は良くねえぜ?」
「あら、そんなつもりなかったんだけど……ごめんなさい」
サシャはエステルに軽く頭を下げる。
「う、ううん! 大丈だよ、私自身あまり戦い慣れてないのは事実だし。けど、頑張りましょうね!」
エステルはなんとか元気を振り絞り、グッと拳を握る。
「んで、最後はお前さんだぜ、レクス」
「あぁ。俺はレクス、属性はサシャと同じ黒。第二属性は青だ」
「お、いいね、結構絡めてが得意そうな組み合わせじゃねえか」
まあ、特化は黒だけど、俺の場合ほぼ全ての属性が均等に高い。
だから、全て自在に操れるが……とりあえずこのパーティを補強するとしたらこの組み合わせの申告が一番だろう。
言ってないのに不意に違う属性に特化した魔術を使い出したら怪しまれるからな。
「OK、行けそうな気がしてきたぜ! なんとか俺たち四人で突破して、ヴィクティムの野郎をビビらせてやろうぜ!」