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通知精霊

「お疲れ様~」

「お疲れ様です……!」


 リーゼとエステルは、手に持った木製のジョッキを突き合わせる。

 テーブルには、それなりに豪勢な食事が並ぶ。


「奢りだから、安心して!」

「い、いいんですか!?」

「もちろん! せっかく友達になったんだしね、これくらい任せてよ」


 と、リーゼはえへんと胸を張る。


「こんなの、村じゃ食べたことないですよ……!」


 エステルは目を輝かせる。


 俺たちは一日目のラドラス魔術学院の試験を無事に終え、早々にお疲れ様会を開催していた。

 もちろん、リーズの提案だ。


 ローデウスさんからある程度のお小遣いを貰っており、試験中の贅沢を許されていた。


「ところで、一日目どうだった?」

「さすがに、リーゼリアさん――」

「リーゼでいいよ!」

「!」


 エステルは一瞬びっくりして目を見開く。

 そして、少し恥ずかしそうに、リーゼの提案に従う。


「では……えーっと、リ、リーゼさんの能力測定を見ちゃうと、自信なくなっちゃうなあというのが本音というか……」

「そう? エステルも凄かったと思うよ? ねえ?」

「あぁ。希少価値の高い白魔術に、魔力放出の能力が抜きんでてる。普通に評価されてもおかしくないと思うぞ」

「かなあ……ならいいんですけど」


 どうかなあ、とソワソワしながらエステルは飲み物をちびちびと飲む。


「そういえば、一日目の結果ってどうやって届くんだろ?」

「確かにそうですね……。通過者発表の掲示板とかも教えて貰ってないですし、通過者一人一人に試験官の先生方が教えに来るっていうのは考えずらい……ですよね」

「なんだ、お前ら知らないのか?」

「知ってるの、レクス?」


 俺は頷く。


「専属の魔術師がいるのさ。精霊の――おっと、言ってる傍から来たぞ」


 俺は窓の外を指さす。


 すると、遠くから緑色の光を放つ小さな何かが近づいてくるのが見える。


「わ、何々!?」

「精霊さ」


 それは、手のひらサイズの精霊だった。

 魔術により動く、意思のある生き物だ。


 精霊はひゅんひゅん! と物凄い速さで窓から室内へと入ってくると、リーゼとエステル、そして俺の周りをグルグルと回りだす。


「え、これもしかして!?」


 シャンシャンシャン、と羽音を鳴らしながら精霊は俺達それぞれの手のひらに止まると、くるっと回る。


 すると、ボン! と小さく弾け、一枚の紙へと変化する。


 そこには、“一次試験 通過”の旨が記載されていた。


「やった~! やっぱり私の言った通りでしょ!?」

「は、はい! 嬉しい……!」


 エステルは嬉しさのあまり両手で眼を抑え、ぷるぷると震えている。


「レクスもおめでとう! やっぱり受かると思ってたよ!」


 リーゼは俺にぐいっと抱き着いてくる。

 それを見て、エステルは顔を赤くする。


「あわあわあわ……お、お二人はそう言う関係……!?」

「え、いや、家族みたいなものだからそこまで深い意味は……」

「何か変?」


 言われて、エステルはもじもじとしながら首を横に振る。


 いつも通りとはいえ、やっぱり外から見るとそう見えるか。

 リーゼに言って――も聞かないか……。まあ、諦めるしかなさそうだ。


「さて、通知の内容だが……何々、通過者は全部で80名か」

「結構少ないね」

「殆ど落ちたみたいですね……私が受かったのが嘘みたいですけど……」

「それで、えーっと……明日は学院の敷地内にある森で実技試験みたいだ」

「あぁ、入って左の奥の方にあったね! そんなのが見えてたよ」


 敷地内に森があるとは、どれだけラドラス魔術学院が広いかが分かる。


「実技試験だからな、実戦形式……魔物との戦いも想定しておいた方がいいな」

「が、がんばりましょう……!」

「うん! 楽しみ~!!」


 こうして、俺達は全員そろって一次試験を突破した。

 明日は、実技試験だ。


◇ ◇ ◇ 


「ご苦労諸君。君たちは選ばれし80名だ」


 ラドラス魔術学院東部の森。

 試験突破者総勢80名が、森の入口に集合していた。


 試験官である髭面の男性は俺達を見回し、続ける。


「一次試験では基本的な魔術師としての資質を見させてもらった。ようは、いくら努力してようが、才能が無ければ意味が無いという事だ」


 試験官はやれやれと肩を竦める。


「残念ながら、魔術とはそう言う物だ。そして二次試験……お前たちが今日挑む実技試験は、魔術師としての力を見るものだ。ここにいる連中は最低限のスタートラインに立っている魔術師達。あとは、自分がどれだけできるか、それを存分に俺達にアピールしてくれ」


 ここからが本番だ。

 まあ、リーゼが落ちることはあり得ないけどな。


 そうして、俺達はグループに分けられる。


 5名1組、計16グループ。

 そして、そこにそれぞれ1名の監督官が付く。


「お前達は仲間同士であり敵同士。仲良く試験を進めながらも、仲間を出し抜けるだけの魔術の力を示す必要がある。せいぜい後悔のないように」


 グループでの実技演習か。

 問題はない……が……。


「頑張りましょうね、レクスさん」

「あぁ。よろしくな」

「えー私だけ違う……」


 俺とエステルは同じグループだったが、どうやらリーゼだけは別グループのようだ。


「あまり暴れすぎるなよ、お前は規格外なんだから」

「うう……レクスが護衛なのに」

「遠くから見ておくよ」

「視えないでしょ!」


 リーゼは拗ねてぷんぷんとグループの方へと合流しに行く。

 まあ、直接は見えなくても守りようはある。


 さて、それよりも面倒そうなのは……。


「何で貴様がここにいる」


 その憎悪の籠った声に、俺は短くため息をつく。

 よりによって、グループに一緒になるかね。


「……俺も受かったからに決まってるだろ」


 振り返ると、そこに立っていたのは長い茶髪を軽く結び、顔に怒りをにじませた男だった。


「――ヴィクティム・ハーベロイ」

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