一日目終了
次々に上がる感嘆の声。
しかも、それだけでは終わらない。
青く輝いていた水晶はさらに輝きを増すとガタガタと震え出す。
そして、バリ! と歪な音をたて、水晶にヒビがはいる。
「そんな……水晶にヒビが!?」
「前代未聞だ……!!」
「おいおい、どうなってんだ!?」
もはやそれは一種のショーだった。
リーゼの周りには人だかりができ、その能力測定の様子を興味深げに覗いていた。
「リーゼリアさん、凄いですね……!」
「あいつは二十年に一人の天才だからな」
「お疲れ様です。確認します」
リーゼの測定が終わり、測定結果を見ていた試験官が驚きの声を上げる。
「えっ……!」
「何かありました?」
「あ、いえ、す、すみません……」
試験官は小さく頭を下げル、コホンと咳払いをし、気を取り直すとリーゼに向き直る。
「結果は……魔力属性は青」
「最優の魔力属性! さすがリーゼリア・アーヴィン……!」
会場も、期待取りの属性に歓声が上がる。
魔力をさまざまな物に変化出来るのが、変化魔術の特徴だ。
雷、水、火……攻撃力という点においては、青魔術師は抜きんでている。
「……体内魔力量は7、魔力放出量は6、持続時間は6……です」
「「「!?」」」
「あれ、何かすごい感じ?」
きょとんとするリーゼとは裏腹に、会場は驚きを通り越して、呆れていた。
マックス7の測定にて、7、6、6……規格外にも程がある。
「さすが、二十年に一人の天才……か」
誰かがボソリとそう呟く。
その言葉には、諦めが込められていた。
会場の観客の中には、そのまま帰るものもちらほらいた。リーゼという天才を見て、自分が場違いだと思い直してしまったのだ。
良くも悪くも、リーゼのその能力はその時多くの人間に影響を与えた。
「あれ、なんかさっきより人少なくなった?」
戻ってきたリーゼは周りを見てそう口にする。
「自分の分の測定が終わったんだろ」
「あぁ、そっか。次はレクスかな?」
「だろうな」
「頑張って! レクスも一緒に訓練してきたし、きっといい数字出るよ!」
「それでは、次の方」
呼ばれて、リーゼはポンと俺の背中を押す。
さて、どうするか。
体内魔力量、魔力放出量、持続時間……。下手にデカい数字が出ると、リーゼより目立ってしまう。だが、やりようはあるか……。
魔力の放出は本来一方行だ。それを操作してさまざまな流れを生み出すのが魔力操作、そうやって魔術を操っていく。
しかし、この水晶は特別製だ。より魔力を正確に測定するために、水晶の中心へと魔力を誘導する形になっている。だから、魔力は本来の一方行的な流れを取る。
だから、俺はあえてその流れを乱し、魔力を発散することで出力を弱める。
そうすれば、全体的に測定結果のレベルが低く出るはずだ。
リーゼの測定が7,6,6……座学が満点と過程して、俺が事前に集めた突破基準と照らし合わせると、二日目に行けるための点数は……。
「では、お願いします」
試験官から水晶を手渡される。
新品だ。
俺はじっとそれに集中する。
すると次第に、水晶が黒味がかってくる。
「黒魔術?」
「結構レアじゃん」
リーゼやエステルまでとは行かないが、それなりに歓声が上がる。
白ほど珍しくはないが、黒属性と言うのも中々レアなのだ。
「レクス!? すごいすごい!」
リーゼも大喜びで飛び跳ねている。
そして、徐々に水晶の光が消えていくと、何事もなく測定が終了する。
試験官は確認しますと言いながら、水晶を回収する。
少しして、測定結果を確認した試験官が安堵した様子で結果を報告する。
「体内魔力量は…………2」
「「2……?」」
さっきのリーゼからの落差に、周囲の受験生たちの困惑した様子が伺える。
試験官は更に続ける。
「魔力放出量は3、持続時間は2……です」
「へ、平均的だ……」
「ま、まあさっきが凄かっただけで、普通こんなもんだよな。ちょっと合格するには物足りねえけど」
よし、平均的っと。うまく調整できたかな。
これくらいあれば、筆記と合わせて一日目を突破するくらいは行けるだろう。
「お疲れ、レクス! いいじゃんいいじゃん、黒魔術師!」
リーゼは、笑顔で迎えてくれる。
「あぁ、ありがと」
「お疲れ様です」
エステルも俺をねぎらってくれる。
まあ、こんなもんだな。
とりあえず、俺が目立ちすぎる事態は避けられたか。うまく魔力を調整できてよかった。
「さて、後は明日に備えるだけだね~!」
そんなことを言いながら、俺達は会場を後にする。
すると、近くに立っていた赤髪の男が近寄り、興味深げに俺を見る。
「何か……?」
なんだ、俺の実力不足をなじりにきたか? さっきのヴィクティムみたいに。
「君は……魔力を拡散したな?」
「!」
男の目は、じっと俺を見つめている。
「——なんの話だ」
「試験官は所詮、臨時で雇っている底辺の公認魔術師だ。わからなくても無理はない」
悟られた? いや、確かに偽装はしなかったが、違和感はなかったはずだ。
そもそも、魔力の強弱や反応は分かっても流れまで把握するのはほぼ不可能だ。魔力の流れは根本的に異なる。言うなれば風の吹いている方向を風だけを視認するようなものだ。
「言ってる意味が……。全力だったけど、上手くいかなかっただけだよ」
「どうかな。あの水晶にかけられた魔術は強力なものだ。その魔力の流れを誘導された状態で、流れに逆らうなんて、相当魔力操作に長けていないと不可能だ」
「仮に俺が魔力の流れをいじってたらの話ね。でも、見えないだろそもそも」
すると、男は自分の目を指さす。
「《《俺の眼》》なら見える」
こいつ……魔眼所持者か!
これだから厄介なんだよ……!
「魔眼……。けど、買い被りだよ。俺にそんな複雑な操作はできないよ」
「いや——……まあ確かに、そういう偶然もあるだろうな。早とちりは俺の悪い癖か」
言いながら男は踵を返す。
「どうせ明日も来るだろ? そこで詳しく確認すれば良い。折角楽しくなってきたし、俺の見間違いでもそれはそれで面白い。試験なんてただの遊びだと思ってたけどさ」
「俺が受かるとでも?」
「君は受かるよ、面白いし。まあ、また明日ね。今日は帰るよ」
そういって、男は去っていった。
ちょっとまずいか、これ。