魔力測定
「まあ……意外といい感じ?」
リーゼは試験時間終了後、眉間に皺を寄せながらそう口を零す。
「おぉ、悪くない感じか」
「うん! レクスの言ってたところが沢山でたね、さすが……!」
「まあ、傾向はあるだろうからな」
例年の筆記試験には傾向がある。
出題者は著名な魔術師や学者が担っている。今年の担当者の過去出題した問題を洗い出せば、ある程度傾向が掴める。
もちろん、問題は非公開。だが、受験した魔術師なら山ほどいるから、大体問題は覚えているものだ。いろいろと冒険者の仕事の流れで集めて、それをリーゼに展開していたという訳だ。
「エステルはどうだった?」
「わ、私!?」
エステルは慌てて顔を上げる。
「え、そうだけど……なんでそんな驚いてるんだ」
「いや、まさか試験の後も話しかけてくれるとは思ってなくて……」
「えーだってもう友達でしょ! この後の能力試験もどうせ一緒だろうし、今日は一緒に行こう!」
と、リーゼのいつもの明るさ。
その明るさに当てられてか、エステルの緊張していた顔もほぐれていく。
「えへへ……あ、ありがとう。私はまあ、ほどほどだよ」
「エステルみたいなタイプが言うほどほどは、結構できたってところだな」
「うう……まあ……」
エステルは照れ臭そうに笑う。
「さて、次は能力測定だよ、さくっと終わらせて二日目に行こう!」
◇ ◇ ◇
能力測定とは、魔術師の現段階の能力を測定することを指す。
魔術は戦闘のための手段としての側面が強い。それは、戦闘が強ければそのまま他の魔術の上手さにも直結するからだ。例外はあるけど。
そこで、魔術学院では入学者の足きりに、魔術の各種の能力を測定するのだ。
測定する能力は全部で四つ。
1.魔力属性
2.体内魔力量
3.魔力放出量
4.魔力放出持続時間
どれも、魔力の基本三操作を身に着けていれば問題ないものとなっている。
ようは、魔術が使える人間かどうかを見られる訳だ。
もちろん、この基本操作自体才能や努力により大きな差が出る。同世代の中でもトップの実力を持つ魔術師たち。それらを選抜し、より高等な教育を施してこの国の為の魔術師を育成する。それがラドラス魔術学院だ。
俺たちは魔力測定の会場にやってくる。
正面には女性の試験官が複数人立っており、その前にはそれぞれ水晶玉が置かれている。
既に会場に来ていた生徒が先行して測定を開始しており、全員の注目が最前列で受けている受験者たちに向けられる。
「頼む頼む…………行きます……!!」
男の受験生はその水晶を持つと、一気に魔力を注入する。
すると、水晶の色が変わって行き、そして光り輝く。
その色は薄い赤色だ。それを見て、周りの受験生たちがおぉ……とどよめきを上げる。
「――――……はぁはぁはぁ!!」
「お疲れ様です。確認します。結果は、魔力属性は赤――」
「何、あれだけ?」
リーゼはその光景を見ながら拍子抜けしたという感じで肩を竦める。
「魔力を全力で注入することで、その魔力から持続時間や体内魔力量、その他魔力に関連するデータを計算して算出してくれるんだ」
「へえ、凄い魔道具だね」
「それでは次の方」
「! は、はい! 行ってきます……!」
「頑張れ!」
呼ばれて、前に立っていたエステルが水晶の元へと行く。
水晶を恐る恐る持ち上げ、握ると、ぐっと力を籠める。
「お手並み拝見だな」
「頑張れ~エステル~!」
「それでは、魔力を注入してください」
「はい……!」
エステルは魔力を練成すると、全力で水晶に魔力を注ぎ込む。
「んんんん~~~!!」
すると、徐々に水晶が白っぽくなっていく。
「魔力属性白!」
「超レアな魔力属性だ……!」
周りの受験者たちが一斉にざわざわと声を上げる。
「白……生成魔術か。確かに面白い」
「凄い、エステル!」
魔力属性とは、魔術師個人個人によって変わる魔力の得意傾向のことだ。
赤は強化魔術、青は変化魔術、白は生成魔術、そして黒は付与魔術。基本的に魔術師は全ての属性に素養があるが、最も適性のある者を魔力属性としている。
とりわけ青魔術師……つまり、変化魔術は最優の属性と呼ばれ、戦闘面で大きなアドバンテージを得ることが出来る。
少しして、試験官の合図に合わせてエステルが水晶から手を離す。
エステルははあはあと息を荒げている。
「お疲れ様です。確認します。結果は、魔力属性は白、体内魔力量3、魔力放出量5、持続時間2です」
「すげえ……!」
「放出量5!? 創造神だ……」
「白で放出量5は……破格だな……」
白魔術師は、生成魔術に長けている。
物質の生成から、ゴーレムの生成……とにかくあらゆるものを生み出す。
エステルはさらに放出量が7段階中5……つまり、使い方次第では超巨大な物を生成できる可能性もあるということだ。
「では次」
「はい……! 行ってくるね!」
「おう、ほどほどにな」
リーゼはエステルとハイタッチして、入れ替わる。
当然、リーゼの顔は割れている。
既に全員の注目がリーゼに集まっており、周囲は完全に静まり返っていた。
心なしか、試験官すら緊張の面持ちだ。
二十年に一人の天才……いったいどれほどなのかと。
「そ、それでは……、魔力を注入してください」
「はい!」
陽気に元気よく。リーゼはその水晶に力を入れる。
瞬間、リーゼの持つ水晶は、真っ青に輝きだす。