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筆記試験

「さてと、最初は筆記試験だね」

「そうだな」

「レクスは……大丈夫だね、記憶力とか知識とか凄いし」


 俺たちは試験会場へ向けて歩いていた。


 試験会場は受験者が多いため複数に分けられている。

 俺とリーゼは申し込みが同時だったため、どうやら同じ会場らしく道すがらこれからの試験について語っていた。


「筆記なあ……リーゼの最難関だな」

「そうなんだよおお~!」


 リーゼは泣きそうな顔で俺の肩に顔を埋める。


「一日目の筆記と能力測定に合格できないと二日目は呼ばれないでしょ!? レクスだけ呼ばれたらどうしよう……」

「大丈夫だろ。筆記が極端に悪くても、能力測定で何とでもなるよ、リーゼなら」

「かなあ……昔から勉強は頑張っても微妙だったから、試験って言うだけで何か駄目そうな気持になってくるよ」


 これだけナーバスになるリーゼも珍しい。

 魔術に関しては圧倒的なのだが、魔術以外――一般教養を問われるような問題には極端に弱い。


 まあ、魔術学院だしそこら辺の配点は低いとは思うけど。


「あんまりネガティブだと、受かるものも受からないぜ」

「……まあ、そうだね。うん、私ならきっと能力測定で突破できるよ! ね!?」

「リーゼを落とす学校があったら俺が聞きたいよ」

「だよね! 何かレクスに言われたら安心してきた!」


 リーゼは自信が戻ってきたようで、ルンルン気分で試験会場へと入る。

 中は大講堂のような感じで、パッと見ただけでもかなりの人数が座っていた。


「うーん……あ、この辺りだね」


 リーゼは自分達の列を見つける。

 中央前方の列だ。


 真ん中手前辺りが指定された席なので、俺達は席目指して既に着席している受験生の後ろを通っていく。


 すると、俺たちの席の手前に座っている少女が居た。

 しかも、大分後ろに椅子を引いて、頭を抱えている。

 青い髪をした、小柄な少女だ。


「すみません、後ろ通してもらっていいですか?」


 しかし。


「私なら出来る、私ならできる、私ならでき――出来ないよおお……」


 緊張しまくっているのか、俯きながらブツブツと何か言っている。


「あの……」


 俺はもう一度トライするが、聞こえていないようだ。

 ダメだ、自分の世界に入ってて気づいてない。


「あらら……凄い緊張してるね」


 そう言って、今度はリーゼが少女に話しかける。


「ねえ!」


 耳元の近くで声をかける。


「……」

「ねえ! もしもーし!」

「わぁ!?」


 二度目の問いかけで、青髪の少女はびくりと跳ね上がる。

 小柄な体型に、リーゼよりも大きな胸。まるで小動物のようだ。震え方までそっくり。


「び、びっくりしました……」


 少女は胸に手を当てて目を見開き、こちらを不安そうに見上げる。


「ごめんごめん、緊張してそうだったから。私たちそっちなの、後ろ通してもらってもいい?」

「あっ、あっ、ごめんなさい……! どうぞどうぞ……」


 少女は申し訳なさそうに、顔を赤くしながら席をずらす。


「ありがとう」


 俺が奥、そしてリーゼが手前に座る。


 すると、リーゼはその子が気になるのか、興味深そうに話しかける。


「ねえ、ウェルトールは初めて?」

「えっ、あ、はい……私、こんな都会に出てきたのも初めてで……」


 少女は泣きそうになりながら語る。


「ふうん、結構田舎からきたの?」

「そりゃもう……私、平民なので……」

「じゃあレクスと一緒だ! ほら、こっちの人!」


 俺と少女は目が合い、小さく会釈する。


「と、友達……なんですか?」

「うん! 友達で家族で、護衛だよ!」


 その言葉に、少女は僅かに顔を上げ、驚きの表情を浮かべる。

 予想外とでも言いたそうな顔だ。


「あなたは……えっと、貴族?」

「うん! リーゼリア・アーヴィン、よろしくね」

「そうですか、貴族でも平民と仲良く――って、リーゼリア・アーヴィン!?」


 名を聞いた途端、少女は驚きの声を上げる。


「あ、あれ、そうだよ? なんかあった?」


 すると少女はいやいやいや、と手を左右に振る。


「私達の世代でリーゼリア・アーヴィンを知らない人はいないですよ……」

「あら、私有名人みたい」

「凄い、まさか隣なんて……」


 少女はようやく顔を上げる。


 クリっとした丸い翡翠色の瞳に、小ぶりな鼻と口。

 美人なリーゼとは違い、美少女という感じだ。


「わ、私エステルって言います。よろしくお願いします」


 エステルはぺこりと頭を下げる。


「よろしくね!」

「はい……! 何だかリーゼリアさんのお陰で緊張が無くなってきました……!」

「お、いいねぇ」


『静粛に』


 不意に、前の方から声がする。

 正面に立つのは、黒と金のローブに身を包んだ試験監督だ。


「来た……始まるぞ」


『これより、第228期の入学者試験を開始する』


 そうして、試験の用紙が配られ、一通り試験について説明がなされる。


 実技試験と能力測定以外で、敷地内での魔術の使用は禁止。もちろんカンニングも禁止。試験終了後も試験を続行することは禁止……と、一般的な禁止事項が述べられていく。


 そして、一日目午前の試験は、筆記試験。

 魔術に関することから、一般教養まで幅広く問われる。


 この午前の筆記試験と、午後の能力測定を合わせた結果から、一日目の合格が発表される。そして、一日目を合格した者だけが二日目の実技試験にいけるのだ。


 俺とリーゼは、顔を見合わせる。

 そして、お互いに小さく頷く。


 もうあとはやるだけだ。


『それでは――筆記試験、開始』

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