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僕らのマル秘井世界部!  作者: 何ヶ河何可
42/61

もえる頬は、さながら果実2 #伍

途中の部集会シーンは読み飛ばし可。

後ほど確り振り返るので。

 同日、お昼休み。教室でいつものように近隣の机を四つ組んで、いつものメンバーで昼食を囲む。因みに席を借りてる隣の人には、夏休み明けの席替えのときに交渉済みである。

 遥花ちゃんはお弁当の包みを広げていて、七継ちゃんは蓋を開けるや早速タコさんウインナーに突き刺さっている爪楊枝を摘んでいる。

 麩弓ちゃんは水筒を飲んで喉を潤してから、私に視線を向け、自分のおでこを指し示す。


「今日は前髪ちょっと違うんだね」


 私は本日のお弁当の中身を一目見てから答える。


「うん、朝の占いでシースルー」


 と、遥花ちゃんの後ろに、私らのグループへ向かってくる人たちを視認する。千風ちゃんとその友達だ。千風ちゃんのにこやかにしてきた目を見て、私もニコニコして返す。

 ん、多分だけど私じゃなくて遥花ちゃんに用事があるって彼女の目が言ってるな。

 私は組んだ四つの机の対角に座っている遥花ちゃんに声を掛ける。


「遥花ちゃん、千風ちゃんが来たよー」


 ゆかりご飯をもぐもぐしていた遥花ちゃんが私を見、丁度横に着いた千風ちゃん達を見上げる。


「どうしたの、チーちゃん」

「ありがと、商井ちゃん。ハルちゃんまだ情報の授業のやつ共有してないでしょ?」


 私に一瞥くれてから、遥花ちゃんに詰め寄る。

 遥花ちゃんは口元を抑えつつ、若干身を引く。


「あ、やべ」

「今週から発表資料作りたいから、スムーズに進める為にグループチャットに共有しておいてって言ったのに。授業明後日だから、明日までにのせといてね。あとハルちゃんだけだよ」

「ごめーん。もうなんなら今やっとくよ」


 そう言ってリュックからスマホを取り出す遥花ちゃん。


「別に今じゃなくても良いけどさ……」


 スマホをいじり始めた遥花ちゃんに申し訳なさを滲ませる——と、油断していた私に視線を投げて、


「それじゃ、私行ってくるねー」


 緊張を吹き飛ばすようなやる気に満ちた笑顔で手を振られた。

 唐突な話し相手の切り替えに、ワンテンポ遅れて私は激励する。


「っん、頑張ってねー」


 片手で口内を隠し、もう片手で箸を持ったまま振り返す。あぁ、そっか。これから文化祭委員の集会だっけ。

 がんばれー、千風ちゃん。そう内心で、もう一度エールを送り直す。

 そんな私たちのやりとりを見ていた七継ちゃんが、ハムを齧りつつ疑問を漏らす。


「商井、蜷伝ちゃんと仲良かったっけ?」


 私の代わりに、遥花ちゃんがスマホを打鍵しつつ推測で答える。


「あれじゃない? 先週、相談に乗ってたじゃん。今のも、多分それ関係の会話でしょ?」


 スマホ弄りながらなのに、随分と鋭い。麩弓ちゃんも「たしかにぃ」と頷いてしまっている。

 それとなく口を濁すつもりだったけど、まあ、良いか。隠すべきところを隠しておけば。


「そうそう。千風ちゃんに相談されてから話すようになったんだー。彼女、今がんばってるからさ、みんな応援してあげたら? 内容は言えないけど」

「えぇー、なにそれ。ゼッタイ恋愛相談じゃーん。うわー、めっちゃ気になるんだけど」


 七継ちゃんは、箸をカチカチさせて思案し始める。

 それを、行儀悪いよーと、スマホをいじる手を止めて遥花ちゃんが諌める。

 七継ちゃんは、今度はマカロニサラダの胡瓜を器用に摘み出し始める。

 その様子を眺めていた麩弓ちゃんが、カニクリームコロッケを半分食べて嚥下したのちに、空いた口を開いた。


「あ、ねぇね、みんな知ってる? 今度、市民ホールの向かいにカフェできるんだって」


 話したくて仕方なかったような、楽しげな声である。


「道路挟んでスーパーとかあるほうでしょ? 知ってるよ、結構有名だもんね、あの店」


 某有名コーヒーチェーン店がこの町に初上陸ということでこの前ママが麩弓ちゃんと似たようなテンションで話していた。

 完全なる胡瓜抜きマカロニサラダを作った七継ちゃんが、それを箸で掴みながら喋る。


「へぇー、初耳なんだけど。デマじゃないんだ? こんな田舎に都会の代名詞みたいな店ができるなんて」

「ほんとだよほんと。みんな言ってるし」


 麩弓ちゃんは答えて、カニクリームコロッケのもう半分を口にする。

 グループの宿題を終わらせて、遥花ちゃんが昼食に戻ってくる。


「私も聞いたよ。てか、部活終わりに先輩たち話してなかった?」


 喋ってから、柴漬けの胡瓜をパリポリと噛む。

 対して七継ちゃんは、緊張の面持ちで胡瓜を一枚、箸に取る。


「えー? そこに私いた?」

「どうだろ? コートの掃除当番やってたかも」

「あーじゃあ、聞き逃してたわー。私、絶対行きたいから絶対覚えてるだろうし」


 パリポリと、一枚目を眉間に縦じわを刻みながら飲み下した七継ちゃんは、次の胡瓜にいく前に水筒を手に取る。

 遥花ちゃんは、柴漬けをもうひとつまみ。


「私は少し待って評判聞いてから行くよ」

「いやそんなん聞くまでもないでしょ。全国展開どころか海外発で全世界展開なんだから。全人類の舌に合うに決まってるじゃん」

「そうだよ。チェーン店でその店の味の評価待ちとか聞いたことないよ。逆に店ごとの味の違いに拘るオタク感あるよ」


 七継ちゃんと麩弓ちゃんによる怒涛のツッコミに、遥花ちゃんはたじたじになる。


「え、えぇ……なんか、その、ごめん」


 気圧されすぎて、せっかく掴んだ柴漬けを溢してしまった。


「遥花ちゃん、机に漬物落としてるよ」


 慌てた様子で、予め敷いていた弁当包みの上に落ちた胡瓜の柴漬けを蓋に乗せる。

 白米を咀嚼しながらそれを見やっていたら、スカートのポケットが振動を伝えてきた。

 昼休みに通知——となるとだいたい見当はつく。机の下、スカートの上の暗がりでスマホのホーム画面を開くと、井世界部専用アプリのアイコンに通知マークが付いていた。画面の輝度(きど)を最低まで下げて、更に真っ昼間からダークモードをオンにする。正面から眺める私ですら見え難くなった液晶を、目を凝らして辛うじて操作し、表れた文章を黙読する。


隙間時間の間

<今日の六時間目に部集会をやります

 必ず参加して下さい


 予想はしていたけどやっぱり部集会か……なんだろうな……最近問題になってることか、或いは週末に迫った文化祭に関連してることかな……?

 参加については、1-1の六時間目は数Aなので問題ない。

 けれども席が前のほうなので、座学の時に部集会が開かれると毎度ヒヤヒヤしているのだ。今まで奇跡的にバレていないけど、そろそろ危ない気がする。

 友達との歓談中に俯いて一人スマホを弄り続けるものじゃないので、再びスマホをスカートのポケットに入れ込んで顔を上げる。

 話題はカフェからコスメに変わっていた。いきなり話にはついていけないので、聞き耳を立てつつ、カップのグラタンに箸を突き立てる。

 はぁ……てか、部集会なんで授業中にやるんだろ

 普通に考えて授業以外の時間にやれば良いのに。朝とか放課後とか、それこそお昼とか。なんだったらわざわざ学校にいる時じゃなくても良い気がする。

 ……なんだか急に鬱気味になってきたし

 部集会ほんと嫌だなぁ……

 ていうか、昔のイヤホンとか無い時代の井世界部員はどうしてたんだろう。毎回毎回授業を抜け出すわけにはいかないし、イヤホン以外の耳に付ける小型機器があったわけでもないだろう。まさか部員はエスパーで会話していたとかじゃあるまい。

 順当に、授業外の時間に集まっていたのだろうか。朝とか放課後とか、それこそお昼とか。

 もしくは、井世界部は実はそんな昔には存在しなくて、創部されたのはつい最近——ここ二、三年のことだったりするのか。

 部集会に限らず、過度な匿名性の保持も、明らかにスマホが無いと成り立たない決まりである。まるでスマホがあること前提の部の運営方針だ。 

 そう考えると、井世界部に対する歴史と伝統ある厳かなイメージが、かなりライトになって親しみ易さすら覚えてしまう。

 それほど部集会も気負うものではないように思えて、ほんのり心が軽く、明るくなる。


「なに一人で笑ってんのー、商井」


 七継ちゃんに指摘されて、急いで口の筋肉に力を入れる。

 不思議そうな表情で麩弓ちゃんが覗き込んできた。


「あれ? 今笑ってた? 私わかんなかったや」

「私も気づかなかった。ナッちゃんよく分かったね」

「えぇー? 結構分かりやすいけどな、商井のニヤニヤ」

「やめてよ、その言い方。私キモいみたいじゃん。早く食べて歯磨きに行こうよ」


 あ、話逸らしたー、と揶揄われたが、最後の一口をかき込んだので言葉を返せない。

 昼食を済ませたら四人で歯磨き。これは私たちのルーティンである。

 昼休みの真ん中前後はたいてい、トイレ前の流しが歯磨き激戦区となるので少し早めに行くのもまた、いつの間にか決まっていた私達のルーティンだ。

 私はお弁当箱に蓋をして、専用の小さいバックに戻し入れる。交代するように歯ブラシの入った袋を机上に置いて、


「早くしないと混むよ〜〜」


 と、余裕綽々、催促した。














 六時間目。

 数Aの教科書を開き、意味を理解しないままノートを取りながら、片肘ついて片耳を澄ます。

 やっぱり心臓に悪いなぁと、やけに大きい鼓動の音と、低くて小さい教師の声、そして頭ひとつ抜けて聞き取りやすい部長の声を一斉に捉える。

 さながら音楽の先生みたいなハキハキした喋り方で、井世界部の緊急部集会が始まった。


「あ、あ、これ聞こえてる? 音入ってたら誰かリアクション頂戴……ん、数名ありがとう。少し待ってね。まだ全員じゃないから。

「……よし、揃ったね。部集会の連絡、直前になったのに、みんな集まってくれてありがとう。それじゃあ、これから部集会を始めていきます。よろしくお願いします。

「今回は話し合いではなく、周知して欲しいことと、それに関わって指示を出したいから集会を開いた。いつも通り最後に意見は求めるから、議論の余地があればそこでお願い。

「ではまず、みんなに知っといて欲しいことから。以前より、部員数名から、体育教師の檻多田(おりたた)三傘(みかさ)先生に対する生徒側の忌避感について報告を受けていた。私も気づいてはいたものの、井世界部の介入は必要ない程度の、よくある陰口や集団嫌悪だと思っていた。しかしながら、部員数名からの報告の内容と、部としての対処の申し出を鑑みた結果、檻多田先生の件は見過ごせないとして、井世界部全体で対処する決断に踏み切った。

「受けた報告をまとめると、夏休み明けから檻多田先生への嫌悪感は徐々に増していっている。忌避している主な生徒集団は、檻多田先生が授業を担当している二年生の女子と、同じく檻多田先生が顧問をしている女子サッカー部である。特定の個人による激しい嫌悪は今のところ発見されていないので、集団心理によるものだと、私含め報告してくれた数人は推察している。

「ストレスの規模としては、小さな同情・共感ストレスも含めて、多く見積もっても学年の半数。約3クラス分の人が抱いていると考えている。

「正直に言うと、これは今すぐ大型の怪井になっても不思議ではない規模である。しかし、そうはなっていない。理由としては、三つ考えられる。一つは、嫌悪がストレスであると同時に嘲笑というストレス発散になっていること。部員から聞いた陰口の内容は、ほとんどが檻多田先生を嘲っているものだった。中には本当に生理的嫌悪に見舞われているだけの生徒もいるのかも知れないが、ストレスとその発散を二重に行っている生徒の数が圧倒的に多いと思われる。そのために、怪井化までのスピードは物凄く緩やかであると考える。

「二つ目は、ストレスがいくつかに分裂してしまっていること。今回のストレスを抱く側は、檻多田先生への過剰なヘイトという点で共通点を持つものの、実態としては複数のグループに別れている。確認しているだけでも、女子サッカー部の中でも二つのグループがあり、各クラスごとや、更にもっと細分化されてる可能性も否めない。そういう小集団が時間も場所もまとまりなく嫌うことで、ストレスが合体して大きくなることなく、小さく分離したままである、と考える。

「三つ目は、もうすでに怪井化していること。これは一人の部員の仮説になるが、最近発見されたオタマジャクシ型の怪井がそれなんじゃないかと思っている。根拠は、夏休み明けという発生時期の一致と、慢性的なストレスに見られる継続して怪井が出没するという特徴である。オタマジャクシはいつどこにでも現れて中々掃討できずにいたので、檻多田先生に対する忌避感を原因としている可能性は十二分にある。またオタマジャクシの異様な弱さも、他二つの大型の怪井化しない理由を含めて考えれば辻褄が合う。

「以上三つの理由を踏まえて、この件はストレスの規模こそ大きいものの、ゆっくり丁寧に確実に対処していけるだけの猶予がある、と私は見ている。

「それよりも、檻多田先生に集まる生徒側の嫌悪よりも、私が重く見ている懸念点が一つある。

「それは、大勢の生徒から嫌われているという檻多田先生側のストレスである。

「報告内容と、私が調べた限りでは、おそらく檻多田先生は自身が一部の生徒からよく思われていないことを知っている。知っていなければおかしいレベルに、ところ構わず悪口を吐き流されている。

「しかしながら、こちらも怪井化していない。オタマジャクシのような小型の怪井すらも出現していない上に、候補となるような身元不明の怪井も見つかっていない。

「子トカゲという線も考えたが、あれはあまりにも情報が足りていない。また、人間との意思疎通が可能であるという前代未聞の特異な技能を持つ怪井が、他人から嫌われ自分への悪口を聞くという在り来りで有り触れたストレスを、源にしているとは思えない。大勢から卑下されるというスケールこそ他とは一線を画すものの、特殊性という点で子トカゲには繋がらない。

「こうは言っても、こちらに関してはとにかく情報が欲しい。ので、後ほど専用の情報収集係を指名しようと思う。もし現時点で何かしら有力そうな情報があれば、このチャットに書いて欲しい。

「では次に、二つの件に対する井世界部の対応を発表する。」



 と、部集会に意識を集中していた脳へ、石ころのように言葉が投げつけられた。


「商井、ずっと肘ついてどうした? 体調でも悪いか?」


 白髪染めが抜けてきた頭髪の数学教師が、心配してそうな口ぶりで私に目線をくれる。睨まれたわけじゃないが、後ろめたい気分もあるせいか、妙な威圧感を感じる。それにこれ以上詮索をされても困るので、潔く肘を下ろして、イヤホンを隠しつつ外す。


「あ、ぃや、なんでもないです」


 筆箱の中にイヤホンを持って行き、中を探す動作で奥に隠蔽してから、消しゴムを握って外に出す。


「そうか、なんでもないなら良いんだ。授業は真面目に受けろよ」


 そう、きつぅーく釘を刺されて、太鼓のように鳴る心臓を撫で下ろす。

 優しい先生で良かったぁ


 ……あぁでも 後で部集会の内容教えてもらわないと


以下、雑談シーンのカットしたところです。折角書いたしね、という気持ちで載せます。カットしたまま手を加えないのは手抜きということでm(_ _)m


***


少し補足を入れると、水耕高校には化粧に関する校則が無い。お化粧しちゃ駄目とも、して大丈夫とも記述されていない。これは実質的なルール上の黙認であり、化粧をするか否かも、その程度も、どんな種類のものかも、全て生徒個人の判断に委ねられている。そして、注意する教師陣も個人の判断で注意することとなる。ルールで決まっていないから、かなり緩く釘を刺されるだけなんだけど。

 先生方も校則がきっちりしてないから大変だろうなぁ。何かあったらバッシングを受けるのは学校側であり教師なんだから。

 なんて思いながらも、私達四人もちゃっかり軽めのメイクをしているのだけれど。

 化粧が黙認されているとは言え、そこまでケバケバしい人も中々いない。それは男女ともに同じである。まあ若干、学年による化粧の派手さの違いはあるが。一番派手目な人が多いのは二年生だ。三年生は受験や人によって推薦・AOがあるから、一年生は学校で化粧ができることに浮かれている人以外はまだ慣れていないから、というのが大凡予想できる理由である。入学初日にクラスでの自己紹介で浮かれまくって尖り過ぎちゃう人と同じ感じで、めっちゃ気合の入った化粧で初日に登校してくる人は一定割合いる。それから引けなくなるか、大人しくなるかは人によるけど。

 因みに麩弓ちゃんは後者のタイプだった。クラスでも一、二を争う気合の入り様で、登校してきて直ぐに、誰と話す間もなく速攻でトイレに行きすっぴんで戻ってきた時は、その潔さに絶対友達になろうと思ったものだ。そのあと、仲良くなってから入学式の日の話を聞いたら、「黒歴史は短ければ短いだけ良いからね〜」と肩を前後に揺さぶられた。どうやら一生忘れていて欲しい黒歴史だったらしい。

 あの一瞬しか見ていないのに未だに思い出せるのだから、どれだけのインパクトがあったことか。きっと生涯忘れられないだろう。

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