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僕らのマル秘井世界部!  作者: 何ヶ河何可
24/61

木曜日の真面目ちゃん

 初めまして、一井(いちい)と申します。

 水耕高校に通っている16歳です。

 学年は二年生で、クラスは五組、部活は女子卓球部に所属しております。

 チャームポイントを挙げるなら、貰い物のアメピンです。特に髪がどこかしら邪魔というわけでもないのですが、ただ使わずに持っているのも持ち腐れな気がするので邪魔にならない位置にいつも留めてあります。邪魔な髪をまとめる為のヘアピンなのに、付けると邪魔になるとは役割としては矛盾していますよね。

 卒業後の進路は、我が国最難関の国立大学を志望しております。自分で言うのもなんですが、勉強は割とできる方です。水耕高校では一位と二位以外取ったことがありません。全国模試は、さすが全国レベル、一桁を目指して毎回頑張ってますが、結果はあと一歩及ばずでいつも返ってきます。どうやったら上位の人達を超えられるのでしょうか。やっぱりそこら辺の方法は塾に行かないと教えてもらえないのでしょうか。

 好きな食べ物はパイナップルです。酢豚に入ってても、ハンバーグに乗っててもパイナップルをメインに食べられるぐらいには大好きです。パイナップルはただの引き立て役では終わりません。寧ろ豚肉や挽肉がモブ役で三下です。因みにパイン飴はそこまで好きではありません。

 反対に嫌いな食べ物は蒲鉾です。ピンクの部分が虫を原料に作られていると知ってから食べられなくなりました。着色料として微量混ぜ込まれている程度だと、今となっては知っていますが、一度刻まれた偏見を覆して食べられるようになるのはなかなか難しいものです。

 とまあ、自己紹介はこの辺でよろしいでしょうか。語り部である私について、ある程度知ってもらった方が良いのかなと思いやってみたのですが、どうでしたでしょうか。今回の話で私が語り部となるのは今だけですから、言ってしまえばここまでの一人語りは全て忘れてもらって構わないのですが、まあ、私としては覚えておいて貰えると普通に嬉しいです。

 あ、あと。秘密ですが、井世界部にも所属しています。

 と言うか、こっちが本題です。

 秘密結社井世界部(いせかいぶ)の掃討班、木曜日チームに私は籍を置いています。普段の活動は、怪井という化け物退治と、たまにある解消班のストレス霧散のお手伝いです。私がメインで人間関係の潤滑油になることはまず無いです。そういうのは不得手ですから。……ここまでの自己紹介でどんな印象を受けておられるか分かりませんが、一応私は武闘派です。暴力的解決は好みませんが、勉強の次ぐらいには暴力が得意です。

 井世界部の説明については、今更改めてするまでもないと思うので省略させていただきます。

 あ、そんなこんなで大羊が湧くまでの暇を潰していたら、水曜日チームの方々が井世界に現れました。


   ***


 二階校舎の南廊下、定番の待機位置で窓に背中を預けて寄りかかっていると、南東の階段から男女の二人組が歩いてきた。ツインテールの一年生の女の子と、黒縁メガネの二年生男子。名前は知らないが、井世界部で使っているアプリのアカウント名だったら知ってる。女の子は“コバンシャチ”で、男子は“検討使”だ。

 コバンシャチさんと検討使さんは待ち合わせをしていたわけではないようで、何やら互いに言い合いながら南廊下を近づいてくる。

 ある程度の距離になると、


「おはようございます。よろしくお願いします」


 と、コバンシャチさんが礼儀正しくお辞儀をした。釣られるように検討使さんが軽くお辞儀をし、私も「よろしくお願いします」と軽い会釈を返す。

 朝の監視活動とでも言えば良いのか、サボりを抑止するための前後の当番による見張りは、先週から現在まで継続中である。一時の気の緩みにより学校を滅亡させかけた検討使さんは、一度学校を滅亡させてその罪悪感に殺されれば良いのにと思う。水耕高校を裏から操り、守るのが私たちの使命なのに、その使命を忘れるとはどういう了見なのだ。

 コバンシャチさんと検討使さんの会話が終わり、三人もいるのに廊下は静寂に包まれる。井世界部では部員同士の必要以上の交流・干渉が原則禁止されているので自然な成り行きである。

 しばらくして、木曜日メンバーの阿久田井(あくたい)君が東廊下から登場した。


「おはよう、阿久田井君」


 水曜日チームの二人の前を素通りしてきた阿久田井に、私は朝の挨拶をする。


「ん」


 彼は口を開かずに言って、寝癖そのまんまの頭を掻きながら、眠そうな目を窓の外に向ける。全てを見下した角度で物を見るのは、何も阿久田井君の背が高いからというだけじゃない。彼の斜に構えた態度は、立っていようが座っていようが関係なくいつものものである。

 それから長尺の無言が通常運転で場を支配する。井世界部のルールというのもあるだろうが、阿久田井君は元々無口なタイプだし、私も無理に人と話そうするタイプではないし、水曜メンバーも沈黙が嫌いには見えないので、ごくごく自然な成り行きである。

 同じ二階南廊下に並んでいながら、しばらくの間各々が各々の時間を過ごす。好きなことをするほどの時間はないので、好きに思考を巡らせる。

 そうして数分が経過した頃、阿久田井君が口を開いた。


「出た」


 それは大羊出現の合図である。


「じゃ、いつも通り頼んだ」


 マニュアルが存在するかのように毎回言う戦闘の開始宣言が今日もなされ、阿久田井君は二階の窓から躊躇なく飛び降りる。中レンガへ綺麗に着地し、大羊へ走り寄りつつも、武器の三節棍を両手に持って即座に構えを取れるように準備する。深く黒い霧の塊に牡羊の頭蓋骨が接着剤で付けられたような見た目の怪井に、阿久田井君は一定の距離で気づかれる。しかしこれは折り込み済みで、阿久田井君は大羊の殺人突撃を闘牛士よろしく躱して、大羊が次の突進のために体勢を整えている間に方向と距離を調整する。阿久田井君が幾度かそれを繰り返す間に、私は大羊に気づかれないよう南廊下から中レンガにジャンプする。

 ん? 誰かに見られてるような……水曜日チーム以外の誰かに……いや、気のせいか

 今は大羊退治に集中しなくてはと気を取り直して、私は二階南廊下を支える支柱の一本を右に持った鉈の峰で2回ほど叩く。材質的にあまり響くと表現するほど良い音は出ないけど、その鈍くとも大きい音が囮役交代の合図である。

 鉈と学校の白壁がぶつかる音を聞いて、阿久田井君が次の突進までの猶予に大羊と私を結んだ線の中点に移動する。待ち構え、角で突き殺さんと向かってくる大羊を間一髪で避ける。その一瞬で大羊の標的が阿久田井君から彼の後ろに居た私に変わり、一切の減速もなしに突っ込んでくる。

 が、弾き出されるように縦に振るわれた三節棍によって大羊は、恐らくダイヤモンドよりも硬いと思われる頭蓋骨を走った勢いそのままレンガの地面に擦り付ける。大根おろし並みの凹凸があるレンガ張りにスライディングを強制させられた大羊は、急激に減速し私の足元数歩手前で停止する。それでも一ミリも傷がつかずノーダメージという風貌の大羊に呆れ、のそりと強者のような余裕を見せて立ち上がるその顔面に、亀裂に沿って鉈を切り上げる。大羊は蒸発前の黒い液体を傷口から大量に噴き出し、事切れたように倒れ伏す。

 ……うーん、やっぱり視線を感じるな

 と、朝の一仕事を終えて気を抜いていると、近寄ってきた阿久田井君が三節棍を振るってきた。


「ちょっ、なに」


 すんの、と言いかけて、背後から地面に黒い液体が飛び散ったのが目に入る。


「……わりぃ、前に部集会で言われてたオタマジャクシがいたもんだから」


 本当に悪いと思っているのか微妙な仏頂面で阿久田井君は言う。

 私が後ろを振り向くと、そこにいたらしいオタマジャクシはもう消えていて、その大きさ故か、飛び散った墨汁も既に跡形もなくなっていた。


「…………なあ、部集会で聞いたオタマジャクシって足、生えてたっけ」

「足? そんなことは言ってなかったけど」

「……だよな…………」


 阿久田井君は三節棍を束ねて片手に持ち直し、空いた片手で顎を触る。


「もしかして、私の後ろにいたやつは足が生えてたの?」

「ああ。2本。厳密には、足っぽい突起が尻尾の両脇に」


 釣られて私も考え込む。

 オタマジャクシに足……順当に考えるなら、蛙に成長してる可能性かな。

 成長する怪井というのは、ごく稀にだがいる。姿形を変えたり、単純に巨大化したり。井世界部ではなんの捻りもなく成長型と呼称しているタイプだ。

 オタマジャクシの怪井も成長型だったか。蛙の子は蛙ならぬ、御玉杓子の親は御玉杓子ではなかったということか。

 この前の緊急部集会では、いくら討伐してもまた湧いてくるところから察するに慢性的なストレスが要因で出没する大羊型だろうと言われていた。また、一つのストレス要因が同一個体を複数生んで一体の怪井とする群集型だとも見られていた。

 大羊型と群集型に加えて、成長型……怪井の分類はこれと断定できるものではないし、反発し合うようなタイプは無いので、重複はいくらでも考えられる。

 けれど、それなら原因となるストレスはなんなのかっていう疑問が出てくる。会議では有力な説が挙がらなかったので、保留・経過観察と結論が出された。

 オタマジャクシの成長を真っ直ぐに受け取るなら、ストレスの肥大化となる。

 ただ、そんな安直に考えても良いものか。

 もう少し捻くれた方が良い気もするし、怪井のことだから一筋縄ではいかないと思い込んでる節もある。

 思考が、永遠に上り続けるループする階段の錯覚、あの世界に入り込んでしまったような感じがして、一度頭を整理するために視界に写るものへと意識を向ける。

 阿久田井君と、正面玄関に向かう水曜日チームの背中。

 途中で阿久田井君と目が合い、お互い疲れを目元に馴染ませる。

 ここで考えていても仕方がない。そう行き着いた私は、井世界部の人達に取り敢えず報連相することにした。


「とにかく、今は戻りましょう」


 それを聞いて、頷きもせずに阿久田井君は歩き始める。



 今日たまに感じていた視線の正体も分かったことだし、それも含めて先輩に相談しよう。

-訂正とお詫び-

 「僕らのマル秘井世界部!」を毎度お読みいただきありがとうございます。今回から読み始めたという方もありがとうございます。


 誠に勝手だとは存じておりますが、題しております通り訂正とお詫びをしたく、あとがきのスペースを使わせていただきます。何卒ご理解のほどよろしくお願いします。


 さて、訂正の内容についてですが、前回まで“緊急会議”や“会議”と書かれていたものですが、これらを全て“緊急部集会”及び“部集会”にこれからは直させていただきます。理由と致しましては、そっちの方がかっこいいと思ったからです。緊急会議ってなんかダサいなぁと思いながら前回は執筆しておりましたが、今回“部集会”を思いついて「これ以上しっくりくるネーミングはないな」と思い至りました。

従って、もう既に投稿済みの“会議”は修正致しませんのでどうかご容赦下さい。この先に出てくる“部集会”と既にある“会議”は同一のイベントを指すものだと思っていただけると理解が早いかと思います。


 この度は急な単語の変更をしてしまい、大変申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。

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