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僕らのマル秘井世界部!  作者: 何ヶ河何可
23/61

きっとこれは蛇で言うところの足 #弍

 後日談を語ろう。

 音無門が家出をして、カンガルー型の怪井が現れた月曜日から十日ほどが経過して、その間に何があったのかを。

 病井ではなく、蛇井でもなく――俺、佐々井の視点で。


 かの月曜日より三日後、音無門は久しぶりに学校へ来た。

 妊娠疑惑の噂が最もホットな話題として学校の裏を駆け巡っていたあの時期の登校再開は、最悪だった。自分の悪い噂が立っていると知って、もう一度怪井化するのではないかと井世界部員はヒヤヒヤしていた。

 俺達は他の部員にも注意勧告を流し、警戒を強めた。

 病井も可能な限り音無門の会話相手となり、ストレスを溜めさせないよう寄り添い続けた。

 噂の伝播に関しては、茹でだこウインナーさん筆頭に噂そのものを消す方向ではなく、噂話をさせない方向で防いだ。噂話というのは流言や風説に置き換えられるように、“無根拠かもしれない”という前提が必ず置かれる。その“無根拠かもしれない”に人はさながら樹液に寄る虫の如く飛びつくわけだが、噂の流布がまだ狭い範囲である場合には“無根拠かもしれない”に付け入ることが可能だ。つまりは、妊娠疑惑が流れてる現場で、妊娠してない根拠を流してしまえば噂の内容を有耶無耶にすることができる。この時に流す妊娠してない根拠なんていうのは、言ってしまえばでっち上げで構わない。信じるに足る根拠があるものだけを信じる人間はそもそもその場にいないからだ。信用ならない与太話だろうが、それっぽさがあればゴシップ大好き人間にとっては真実足り得るからだ。

 しかしながらこの手段が取れるのは、先にも明言したが噂がそこまで拡散されていない時だけだ。拡散し切って蔓延した状態になると、例えデマだろうと掻き消すことは難しくなる。事実無根の徹頭徹尾デタラメなお話も、人口に膾炙すれば真実とされてしまう。真実はいつも一つであるが故に、広まったもの以外は真実ではなくってしまう。他の可能性を世間は許さなくなってしまう。

 そうなったら、噂話の真偽を揺るがすような言葉が入る余地なんてなくなってしまう。

 さらに、まだ流れた噂が真っ赤な嘘だったらある種気持ち的に楽ではあるのかもしれないが、今回は鏡に映してもひっくり返らない真実が流布したために、全くの嘘を流すというハードルが加えられた。

 妊娠したという噂の広がり具合と、それが真実であること。

 その二つから我々は早々に――具体的に言うなら次の日の火曜日には噂話をさせないで鎮火を早める方向へと舵を切った。

 この方法も前述した方法とあまり変化ない上に、解説するほどのことでもないのだけれど、強いて言うなら音無門に関する噂話が始まったら、会話を打ち切るないしは話題を変えることに専念したというだけだ。例を出すなら、「そういえば」とか「ていうか」とか「それよりも」とか。そんな感じの枕詞を多用して無理くり噂話をできない状況を作った。個人的には「それよりも」を使ってしまうと今の話題よりももっと興味を惹かなければならないため、「それよりも」はあまり使わずに、汎用性の高い「そういえば」を好んで使っていた。

 そういう我々の努力の甲斐あって、十日経った今日、音無門の噂話は井世界部員が介入するまでもないだろうという結果を得た。

 噂話の収拾がついたと、我々は結論を出した。

 なぜ十日後の今になって音無門の件をまとめているのかと疑問に思われたかもしれないが、そういう理由だ。

 さて、最後に、音無門と日立日のその後について述べておこう。

 彼らは、あれから十日経った今現在、よりを戻している。

 音無門が三日後に登校してきて、それからまた土日を挟んだ次の月曜日には、あの狂ったペアは元通りになっていた。

 その二連休に何があったのか。どういう会話があって、どういう交渉があって、どういう会談が行われたのかについては、俺は知る由もない。

 俺に狂ったペアが再び付き合い始めたと教えてきた病井なら、ひょっとしたら知っているかもしれないが、俺は聞くつもりはない。

 病井はと言えば、無論ヨリを戻したことに口出ししようかと考えていた。日立の本性を音無門に伝えるか迷っていると相談してきた。

 それには、やめておけと返した。

 狂ったペアはあれで幸せなのだと、引っ掻き回してストレスを生むよりも触れないでいる方が学校は安全なのだと、そう説得した。

 わざわざ他人を不幸にする役目を買って出る必要はない。

 教えて不幸にするくらいなら、教えずに幸せでいてもらった方がありがたい。

 知らぬが仏というやつだ。

 あとは裏の顔を知ったその時に鬼が出ようが蛇が出ようが、その時はその時で対処するしかないだろう。悲しみに暮れるかもしれないし、怒り狂うかもしれないし、あるいは案外受け入れるかもしれない。

 そんな風に淡い期待をして先送りや先延ばしをし続けるのも、この部活で学んできたやり方の一つだ。期待通りになることは滅多にないが、全くないわけでもない。

 問題は潜在化したのだ。

 表面上は上手くいっている。

 ならば、手や口を出すのは論外だし、ましてや無い足を出すのは言葉の上でも意味がわからないだろう。

 まあ、兎に角。我々井世界部は今回の音無門妊娠の件を一件落着と、そう見たわけだ。

 今後何かあるかもしれないし、何もないかもしれない。

 鬼が出るか、仏が出るかは当人同士の関わり合いかた次第だ。

一旦これで一区切りです。思いついたらまた書きます。


しばらく更新はないだろうと思いますが、完全なる自己満で月曜〜水曜までのメンバーをまとめときます(これまでに出てない人含む)。

月:間井、病井、顎ヶ井、蛇井、宇田ヶ井

火:佐々井、芳賀湯井、虎井、尾石井

水:土井、唐井、鎹井、小金井





今回の話は色々と思うところがあって、それをまとめると、不徳の致すところ、面目ねぇって感じです。

もうちょっとだけでも上手くやりたかった。

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