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其の玖拾捌 連続討伐任務

 ──“シャラン・トリュ・ウェーテ、近隣の沼地”。


『『『…………!』』』

「フム、おったの」

「ウジャウジャ居ます……」

「ヌルヌルですわ……」

「早くもベタベタして気持ち悪いな……」


 降り立つや否や、目当てのスライムが仰山おられた。

 増えすぎたスライム。まさに読んで字の如く。エルミス殿らは鳥肌を立てており、無意識に腕を擦っていた。


「一体何が原因で増えたのだろうかの」


「一ヶ月くらい前に雨続きだったからですわ。スライムは水気を好む魔物。発生源は不明ですけど、雨の次の日にはよく見かけるんですの」


「一説ではしばらく留まった水に魔力が宿ってスライムになるって聞くし、雨の振り返しが来たって訳だ」


「ですから、生き物というよりは魔力の塊に近い物体ですね。魔力を補う為に共食いとか他の生物に襲い掛かったりはた迷惑な魔物です」


「成る程の。まだ妖や物の怪。魔物の本は読んでおらぬ。博識じゃな。主ら」


「「「いやいやいや……」」」


 褒め、お三方は照れるように頭を掻く。

 褒められると嬉しいのは当然。さて、向こうも既に拙者らへと気付いておる。いつの間にか囲まれていた。

 早速相手致そう。


『『『…………』』』

「来ました!」

「フム、基本的に取り付く為、覆い被さってくるのだの」


 粘着性の体を広げて飛び掛かる。それを拙者は跳躍で避け、エルミス殿らもほうきにてかわす。

 刀を抜き、周囲のスライムを切り裂いた。


『…………』

「……フム、これは難儀な」


 斬られた傍からたちまち再生する。

 元より水と魔力の体。拙者の刀では斬り倒せぬか。


「火炎の精霊よ。熱き焔にて焼き払え! “ファイア”!」


『『『──ッ!!』』』


 対し、エルミス殿らは順調に蒸発させておる。

 成る程の。基本的に打撃や斬撃は無効。然しこの世界で物理的な力を使う者は少なく、初級の魔法で簡単に倒せるからC級認定されておるのか。

 火なれば蒸発させ、風なら乾かし、土なら吸収する。動きも遅く、基本的に攻撃力も御座らん。水魔法と物理的な攻撃が効かぬだけの魔物。拙者にとっては強敵だの。


『『『…………』』』

「まあ、魔力の元を断てば良いだけ。やろうと思えば可能か」


 またもや数匹のスライムが飛び掛かるが、神通力にも等しき力をほんのりと纏わせて切断した。

 此処に来た当初の拙者の相手が鬼ではなく、スライムだったら力を主張する事も出来なかった。

 現世の戦場でも拙者だけが生き残ったりと、己が思うより運はあるのかもしれぬな。


「いや、鬼神にならなくともやろうと思えばやれるかの」

『『『───』』』


 刀を一定の角度と力で斬り込み、空気と刀の間に摩擦を生み出し熱を作る。そのまま焼き斬り、消滅させた。

 魔法のような炎は出せずとも一定の大きさなら蒸発させられる熱を使うだけで勝てそうだ。

 依然として問題は無し。杞憂で御座った。


「一通り片付けたの」

「そうですね。数が居たので少し疲れました」

「変異種はおりませんでしたわ」

「ま、国の近くでは確認されてないし、そうそう居ないよなー」


 辺りは水浸しに御座った。全てがスライムの亡骸……とでも言うのだろうか。

 沼地故に自然へと還元される事に御座ろう。通信魔法でギルドへと連絡した後に拙者らはそこを離れ、次いでリザードマンの討伐に荒野へ赴く。


「荒れ地だの。先程とは打って変わって乾燥しておる」

「夏というだけあって暑さがより際立ちますね……」

「アツアツですわ」

「沼地の方が涼しくて過ごしやすかったなー」


 着いた先は場所も環境も真逆の場所。

 ジメッとはしておらず、カラッとした熱気。確かに暑いがあまり嫌な暑さではないの。

 そして討伐対象となるリザードマンの群れがおった。


『キュル?』

『シャー……』

『シュルル……』


 斧のような物を片手に動物の死骸に群がる蜥蜴トカゲ

 二足歩行の蜥蜴など初めて見たの。いや、ヤモリかもしれぬ。どちらにせよ武器を扱うだけの知能は有しておるのだろう。


『……!』


 すると、そのうちの一匹が舌を出して空気の流れを読み、拙者らに気付いた。


『『『シャア!』』』

「き、来ました!」

「リザードマンは肉体で周りの気配を探知しますものね」

「よし、やるか!」


 駆け出し、一目散に拙者らの方へと迫り来る。

 速さはまあまあ。然し馬よりかは遅いの。常人では簡単に追い付かれる程なので脅威的ではあろう。


『ギャア!』

「フム、スライムよりかはやり易いの」


 斧が振り下ろされるよりも前に刀を抜き、その頭をねる。

 スライムは工夫せねば倒せなかった。ただ斬れば良いだけのリザードマンは温情だろう。


「──水の精霊よ。高速の矢となり、敵を貫いて下さい! “ウォーターアロー”!」

『……!』


「あらゆる精霊さん。敵を討ちなさい。“レインボースラッシュ”!」

『『『『…………!』』』』


「土の精霊よ。壁となり、敵を潰せ。“グランドプレス”!」

『『……!』』


 エルミス殿の放った水の矢がリザードマンの体を貫き、ブランカ殿の魔力が複数匹を討ち滅ぼし、ペトラ殿の地面によって更なる数が押し潰された。

 B級。即ち初日に会った鬼と同程度の危険度となっているこれらを容易く打ち倒す彼女ら。順調に強くなっておるの。隊長へと昇格するのもそう遠くないかもしれぬ。

 拙者も囲っていた複数匹を切り捨て、残りのリザードマンはエサとなる動物の死骸を持って逃走した。

 この後に控えるオークはともかく、リザードマンの依頼は殲滅では御座らん。討伐とあるが、全滅させてくれと依頼文にも書かれておらぬからの。

 敵意の無くなった者は追わず、この場を後にする。


「さて、次が問題よの。如何程の者が控えているのか、未知数だ」

「奇しくも国境付近……昨日ファベルさん達が調査を行った場所ですね」

「怪しさしか御座いませんわ」

「流石にA級相当となると厳しいかもな」


 空を飛び、目的地へ警戒を高める。

 国境と言うても“シャラン・トリュ・ウェーテ”の国境。広野の先にある場所は星の国“スター・セイズ・ルーン”。

 今回の件に置いては一番怪しい国だが、近くに森の国“フォレス・サルトゥーヤ”もあるのでまだどちらかは断定出来ぬ。

 兎も角この二国が怪しいのは変わらぬ。昨日の感覚で火の国“フォーザ・ベアド・ブーク”の者達はこの様な事をせぬように思える。同盟国である“海の島”も同等。

 何にせよ、今回のオークがどのオークか、それを見定め変異種だった場合は捕獲して調べる必要がありそうだ。



*****



りました……!」


「見たところ変わった様子も無し。だがこの場所は人通りも多い。先程のリザードマンも同様、人の勝手な都合だが殲滅するか」


 国境付近に広がり、少し自然も見えてきた広野。そこにはオークの群れが集っていた。

 基本的に森に住む存在だが、その繁殖力の高さから棲み家は定まっていない。何処に居てもおかしくないという事だ。

 人通りの邪魔になる。スライムもリザードマンもオークも同等。悪く思うな。


「参る」

『『『…………!』』』


 ほうきから降り、大地を踏み蹴って駆け出す。

 オークも存在に気付いたらしい。空を見上げていた。


「……む? 空を?」


 惟れば変。既にエルミス殿らも低空飛行をしておるからの。あんなに上空高く見上げる必要などない筈。

 そも、拙者の存在にすら気付いていないような──


『グオオオォォォォッッ!!!』

「……!」


 瞬間、空から肉塊のような何かが落ち、雄叫びを上げる。これまた拙者を気に掛けず駆け出し、オークの群れへと突撃した。


『『『グガァァァ!!!』』』

『オオオォォォォッ!!!』


 オークらも応戦。棍棒や斧、剣などを構え、


『ガァ!』

『『『───』』』


 ──刹那の刻に消滅した。

 遅れ、周囲がオークの赤黒い血にまみれる。

 厳密には消滅では御座らんな。拳一つであの群れ全てを粉微塵に消し去った。

 その何かは拙者の方を見やり、雄叫びを上げて駆け出す。


『オオオォォォォッ!!!』

「見境無しか」


 まだエルミス殿らが到達していないのが幸いか。拙者の眼前へと迫って拳を突き出し、それを紙一重でかわした。


「フム、かなりの威力ぞ」


 腕を突き出した風圧によって大地が抉れ、奈落のような地割れを生み出して吹き飛ばした。

 単なる風圧で奈落が造られる程の腕力。とてつもないの。A級……いや、腕力だけならS級並みのモノは有しておろう。


『グガァ!』

「…………」


 次いで薙ぎ払うような回し蹴りが打ち出され、そのまま切り裂かれたかのように大地が浮き上がった。

 一挙一動で地形が変わる。騎士団長を始めとして何度か見た威力だが、凄まじいものよ。


『ウガァ!』

「……」


 両手を組み、巨腕が振り下ろされる。

 飛び退くようにそれも避け、大地が沈んで大穴が形成された。

 そこから連鎖するように周囲が崩れ落ち、互いに足場が限られる。


「い、一体何が……!?」

「人型の……魔物?」

「間違いない……変異種だ……! キエモンさんが一人でいなしてるぞ!」


 エルミス殿らも到達。割れた大地を見て恐れおののいておる。まだ暫く降りる事はオススメ出来ぬな。


「お三方は暫し待たれよ。此奴、一挙一動で地図の書き換えが必要になりうる力を秘めておる。間違いなくA級相当はあろう魔物だ」


「……っ。はい! 分かりました!」

「悔しいですけど、仕方ありませんわね……!」

「確かに私達じゃ一瞬で粉々だ……」


 三人の物分かりは良い。侯爵との戦により、騎士団長の実力を目の当たりにしたからの。

 と言うても直接戦った訳では御座らんが、遠方から確認した力だけで力量の差は把握した事に御座ろう。


「三人は近場にて人等が居ないかを確認してくれ。もし居れば避難誘導を。広範囲を巻き込む戦いになりそうだ」


「……! そうです。私達にもやれる事があります……!」

「そうですわ。王国騎士として人々の手助けをしなければ……!」

「そうだな。ここはキエモンさんに任せて置けば良いんだ!」


 戦闘に加わる事が出来ずとも、人々を護る騎士にやれる事は多々ある。

 三人は理解して飛び去り、この場は拙者と変異種の物の怪だけとなった。


『グオガァァァ!!!』


「何をそんなに吠え、暴れ、他者を殺めるのか。哀れな生き物だ」


 雄叫びを上げ、再び巨腕が振るわれた。衝撃波の方向を見切って躱し、背後が大きく陥没する。

 さて、任務の途中に巡り会ったお目当ての存在。捕獲は出来るだろうか。

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