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其の玖拾壱 調査任務

「フム、成る程。これが拙者の国で言うところの“ゐ”に等しき文字か。覚えてみれば簡単よの」


 侯爵による騒動から一月ばかりが過ぎた今日こんにち、拙者は順調に文字を学んでいた。

 もうほぼ読み書きが可能もなっておる。此処まで仕上げるのに四ヶ月か。任務などで一日中没頭出来る事が無かったとは言え、長かったの。


「然し、侯爵の暗殺以降何の音沙汰もないの。それもまた面妖な」

「そうですよね。わざわざ侯爵とヴェネレ様の暗殺を目論んだのに……一ヶ月も何の反応もないなんて」

「音信不通……」

「それはまた違うような……」


 因みにこの場には拙者と同じく勉強中のセレーネ殿。そして色々と教えてくれる為にエルミス殿、ブランカ殿、ペトラ殿がおられる。

 文字の読み書きにも一段落付いた。さすれば気掛かりは隣国の問題。どの隣国かも存ぜぬが、此れ程迄に動きが見えぬのは気になるところよ。


「ファベル殿らも各々(おのおの)で調べているらしいが、侯爵を殺めた者の所在も掴めぬとの事。拙者らも任務を受けるに当たり、少し遠出を目的としたモノを選んだ方が良さそうだな」


「そうですわね。もう一ヶ月。騎士の在り方にも慣れましたもの。近隣のクエストだけではなく、そろそろ遠出したりもしたいですわ」


「そうだよなー。やろうぜ、遠征!」


 そうよの。なんやかんやあり、新入り同士だが拙者を隊長とした班になっておる。

 そして拙者自身、今までの実績を元に階級も騎士団の隊長に昇格した。かなりのすぴぃど出世らしく、誇らしい事だろう。

 侯爵の下克上、及びヴェネレ殿の王位継承問わず、元より隊長に昇格させるつもりだったと聞いた。そう言った階級を上げる者達もおるとの事。


「ではそうするか。遠出の必要がある任務は基本的にB級以上のモノが多い。ただ遠いからではなく、その国で解決出来てない程に危険なモノらしいからの。肝に命じておこう」


「はいですわ!」

「任せとけ! 新隊長さん!」

「精進致します!」


 B級以上。と言うても侯爵騒動よりかは幾分マシであろう。騎士団長並みの妖やものはそうそうおらん。

 遠出の時の心得さえあれば後は大丈夫であろう。


「オーイ、キエモン! みんなー!」

「む? ヴェネレ殿」

「あ、ヴェネレ様。お久し振りです!」

「ごきげんよう、ヴェネレ様」

「こんちはー。ヴェネレ様!」


 任務をどうするか話している最中、書庫へヴェネレ殿がやって来た。

 姫君がまたバタバタしておるが、ヴェネレ殿らしいの。


「三日振りくらいよの。如何した?」

「そうそう、三日間ずっと働き詰めでさ……じゃなくて、昨日報告がきたんだけど、例の隣国のうちの一国でちょっとした動きがあったみたい。だからそれについてキエモン達には教えておこうかなって」


 隣国での動き。それは重要だ。

 この国へ害を成す可能性の一つではあったものだが、肝心の動きが何も無かった。内容次第では国が大きく傾くの。


「ここだと人も多いし、王室で詳しく話すよ」

「そうか。ではお供致そう。丁度今、もう少しらん……ランクの高い任務を受けようと話していたところだ。よしなに頼む」


 何もまだ戦が始まる訳では御座らん。基本は偵察などそう言った役割であろう。

 他国であれば遠征へと繋がる。都合の良い事この上無しに御座る。


「そうなんだ。タイミングばっちりだね。うん、丁度良いし、クエストの方はキエモン隊長率いるみんなに任せるよ」


「が、頑張ります!」

「ホホホ、良いですわね。腕が鳴りますわ!」

「まだ戦闘が決まった訳じゃないけどなー!」


 乗り気の面々。今日は拙者の勉学に付き合って貰っていたからの。そろそろ体を動かしたくなったのだろう。

 書庫を離れ、王室へと向かった。



*****



 ──“王室”。


「してヴェネレ殿。動きとは?」


「そう急かさないで。動きがあったのは火の国“フォーザ・ベアド・ブーク”。大きなものじゃなくて、小競り合いみたいなものかな。元々気性が荒くて情熱的な国民性だから小さなイザコザは結構あるんだけど、今回の件はちょっと特殊なの」


「特殊?」


 火の国にてあった動き。

 国自体がそう言った特徴を有しているらしく珍しき事では無いようだが、それはそれとして特殊との事。

 エルミス殿が復唱するように返し、ヴェネレ殿は頷いて返す。


「そう。それが密偵の報告によると。火の国の中でも有数の……えーと、私達で言うところの騎士団長みたいな役職の人達が動いたんだって」


 動きがあったのは騎士団長のような立場の者達。

 確かにそうで御座るな。それ程の地位に就く者が動きを見せるのは大層な事柄。余程の何かが無い限りは動かなかろう。


「だからキエモン達には探りを入れる為に“火の国”から出ている依頼を受けて欲しいの」


「フム、直接は仕掛けず、密偵の者では行けぬ場所などを見てくれば良いという事に御座るな」


「そう言う事。あくまで偵察だから行ける場所は限られている。任務を受けて国に入るならそう言った部分もカバー出来るからね」


 身分を明かす訳にはいかぬ偵察隊。故に身分証明が必要となる場所などには入れない事もある。侵入し、バレてしもうたら大事になるからの。

 故に任務と言う形で向かえばその点も抑えられる。国内だけで依頼をこなし、まだ他国の任務を受けておらぬ拙者達ならば素性も知られていないので適任だろう。


「相分かった。その役目、拙者らが担い申す」

「ありがと。場所は火の国“フォーザ・ベアド・ブーク”。情熱的な熱い国。頑張ってね! 私は仕事が忙しいから今は行けないけど、吉報を待ってるよ!」


 今は行けない……か。意味深な言い回しよの。

 今回はあくまで偵察の延長線。然れど本番となったらヴェネレ殿も向かうという事に御座ろうか。彼女ならやり兼ねん。


「ヴェネレ……じゃなくてヴェネレ様。なんか企んでる言い回しだよね? ヴェネレ様の仕事はそう簡単に終わらない量なんだけど」


「いやだなぁ。ソンナコトナイジャナイ。私は何も考えてないよ」


「カタコト! あと何も考えていなかったらそれはそれで問題だから!」


 ミル殿もその素振そぶりに気付き、指摘する。やはり本番となればヴェネレ殿も自ら動くつもりのようだ。

 ヴェネレ殿は頼りになるが、立場を考えれば大きく動くのは少々問題に御座るな。


「とにかく、テキトーに任務は選んだからどれを受けるかはキエモン達で決めてね!」


「行動が早いの。偵察向き依頼を選んでおる。流石よ」


 手回しの早さも然る事乍ら、的確にこなすのは素直に感銘致す。

 既にヴェネレ殿は立派に王女としての貫禄もある……かは分からぬが、立派な王女という部分は訂正せぬぞ。

 拙者らは渡された任務依頼を広げる。


 調査依頼が“街道付近に現れる魔物の原因調査”。

 護衛依頼に“国までの商人の護衛”。

 討伐依頼として“国付近に出現した強靭な存在の討伐”。

 形式は様々だが、いずれも国に寄る必要のあるものばかり。調べ事には丁度良かろう。


「商人の護衛はともかくとして、他二つの依頼はそのまま事象が直結しているように思えますわ」


「街道付近に現れる魔物……その原因は間違いなく国付近に現れた強靭な存在ですね……」


「つか、なんなら商人が困ってんのもそれが原因じゃね?」


 ブランカ殿、エルミス殿、ペトラ殿が順に話す。

 確かに全ての任務は一つの事柄に収束しておる。他にも気になる任務は色々とあるが、“酒場の手伝い”や“街の大清掃”。“物資をお城まで”等々単純に人手不足からなる物が多い。最初の三つを選択すべきであろうの。


「ではこれらを受けよう。結局のところ、一つの任務が原因なのはそうであろうからの」


「オッケー。“フォーザ・ベアド・ブーク”からわざわざこの国まで回ってきた依頼だから、難易度は相応だよ。気を付けてね」


「了解した。では早速行くとするか」

「久々の班行動だ!」

「そんなに久し振りと言う感じじゃありませんけど、遠出と言う在り方ならそうですわね」

「ドキドキします……」


「じゃあ私は留守番……」


 高揚するペトラ殿。冷静なブランカ殿。緊張が見えるエルミス殿。

 性格は三者三様。然れど相性が良く、多くの任務を塾す。彼女らならば更なる高みを目指す事も可能に御座ろう。

 セレーネ殿には留守を任せ、拙者らは受けた任務、目的となる火の国に向かい行く。



*****



 ──“フォーザ・ベアド・ブーク”。


「いやぁ、こんなにあっさり来れるなんて。ありがたいね。“シャラン・トリュ・ウェーテ”の優秀な騎士達よ」


「いえ、護衛など容易い所業。力になれたのなら何よりぞ」


 早速依頼を受けた拙者らは、早くも護衛対象となる商人と共に“火の国”へと到達していた。

 困っている事には変わらぬ故、受けて達成したのだ。

 これで一つ目は達成。残り二つは国内での依頼。基本的な内容は魔物、即ち妖等の調査。

 国の前で身分の登録があるので入っても変に怪しまれる事はなかろう。


「それで、君達はこれから国に入るのかい?」

「ウム、詳しい調査も依頼にあるからの。主はもう大丈夫か?」

「ああ、お陰様で。ありがとね。はい、報酬金」


 報酬金を受け取り、改めて拙者らは町中へ入った。

 その町の景観は火の国と言われるだけあって赤や橙を基調とした物であり、やはり煉瓦造りの在り方。

 建物のみならず歩廊等も暖色で、町全体が黄昏時を彷彿とさせる色に染まっていた。

 色合いが故か、ほんのりと暖かさを感じる。今の季節を思えば当然の事でもあるが、日光からなる熱とはまた別の感覚。見れば絶え間無く松明に火が灯っており、より熱を感じる。


「あ、暑いです……」

「すごく暑いですわ……」

「あっちぃ~……」


 無論、かなりの暑さとなっているであろう。

 夏の高い温度に加えて燃え盛る松明。町中の色合いもあり、体感温度はどれ程となっている事やら。

 エルミス殿ら三人は服装も相まり、より暑そうに思えるの。


「こんなに暑いならもう少し薄着で来るべきでしたわ」

「一応夏服なんですけどね……この暑さは想定外でした……」

「私は他の2人より薄着だけど、それでも堪えるなー」


 衣服や手を使い、仰ぐお三方。

 想定以上に暑き町。火の国“フォーザ・ベアド・ブーク”。

 さて、調査を開始するとしようかの。

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