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其の捌 騎士登録

「只今戻り申した。ヴェネレ殿」

「もう! 危険な事ばかり! 唐突過ぎて武器の支給も間に合わなかったよ!」

「面目無い。然し、其れについては問題無くなった。その場に居合わせた兵……あいや、騎士であらせられるマルテ殿のお陰で鬼は討伐し終えた故」

「あ、マルテさんが……じゃなくて! 私、キエモンをスカウトした立場だから責任感じてるの! もしオーガに殺されちゃったりしたらどうすればいいの!?」


 戻るや否や、ヴェネレ殿にお叱り受けてしまった。

 確かに鬼は危険な妖。拙者の国でも多くの人を殺めている。この国での鬼も同一であれば危惧されるのも当然の感性。

 迷惑を掛けてしまわれたで御座るな。


「すまぬ。だが、拙者はそう簡単に殺られぬ自信がある」

「そうだとしても、魔法が使えない君は心配なの! もう、ちゃんと考えてよね……」

「承知した」

「本当かなぁ……」


 妖術を使えぬ拙者は、まだヴェネレ殿にとって護られる側のようだ。

 事実、この国付近へ来た時拙者はヴェネレ殿に命を救われた。その御恩を返したいのだが、まだ暫くは必要無さそうで御座る。


「まあいいや……過ぎた事だしね……。取り敢えず、騎士の証を受け取りに行こうか」


「そう言えばまだ貰って御座らんな」


「そっ。それがあれば色々と事がスムーズに運ぶようになるから、便利なものだよ」


「そうであるか」


 騎士の証とやら。正式な登録というものは終わっておらんからな。

 役職に就き、拙者に救いの手を差し伸ばしてくれたヴェネレ殿に返さねば。


「ほら、取り敢えず行くよ! キエモン!」

「怒っておられるか?」

「そう見える?」

「うむ」

「当たり!」


 手を引かれ、登録の場所へと向かう。

 少しして何かをハッとし、ヴェネレ殿は拙者の手を離した。

 何で御座ろうな。つい先程も似たようなやり取りをした記憶がある。が、特に気にもしておらぬ故にそのまま後を追う。

 拙者らはその場所へ着いた。



*****



「此処であるか? ヴェネレ殿」

「うん。正式な授与式は後日行うから、今は騎士の証だけを受け取って」


 拙者とヴェネレ殿が来たのは、大聖堂と言われる場。

 神仏との交流を行う場所らしく、拙者の知る場所では神社や仏閣に近いようだ。

 なんでも騎士は神仏に身を預けるモノであり、戦などで生き残る為の祈りを行うとの事。

 由緒正しい儀式のようだが、ヴェネレ殿はと言うと、


「まあ、げん担ぎみたいなものだね。実際に神様なんて会った事無いし、祈っても普通に死者は出る。気分的に奮い立たせるのが主な目的かな。神様なんて所詮はお話の中だけの存在だよ」


 と、この様に考えている。

 祈りを捧げようと死ぬ時は死ぬ。それが世の在り方。

 然し、拙者の国では南無阿弥陀仏と唱えれば極楽浄土へと渡り行けると言う話がある。死してなお平穏を願うのならばそう唱えよと拙者は教わった。

 生の最中も死後も負担を掛けられるとは、仏様も大変で御座るな。


「あ、神父さんが居てくれたね。あの人から受け取るの」


「相分かった」


 神父。おそらく住職のような方。この者から騎士の証とやらが受け渡されるらしい。

 その方の前へ行き、会釈を交わす。神父殿は言葉を綴った。


「汝、如何なる時も国の為、命を賭ける事を誓うか?」


「誓いましょう。拙者の命を救い、居場所を与えて下さったヴェネレ殿。主君の為、この身を預け、共に命を尽くす所存」


 国の為に命を賭すか。その問い掛けについては悩む余地無し。命を救われた事実のみが確信であり、生涯を捧げる覚悟はある。


「その覚悟、本物とお見受けしました。では、この国を護る誇り高き騎士の証明を貴方に授けましょう」


 して、拙者は証となる物を手渡された。

 それは輝かしい金属からなる代物。

 記章の類いであろうか。これを身に付ける事によって正式にこの国へ使える身となるのだろう。


「おめでとう。キエモン。詳しい紹介は授与式と同日に行うね! これでキエモンも晴れてこの国の騎士かぁ。出会って数時間の仲だけど、なんだか感慨深いなぁ」


 嬉々としたヴェネレ殿がはしゃぐように話す。

 ヴェネレ殿が嬉しそうで何より。これにて拙者もこの国の兵。今この時から国へ尽くすとしよう。


「それで、これからキエモンはどうするの?」

「まずは戦えなくてはならぬ。故に武器の調達に参ろう」

「あー、試合で使ったような剣とかが必要なんだ。じゃあ私が手配してあげる!」

「そうで御座るか。それは有り難き事。頼み申し候」

「いいっていいって! 私が連れて来たんだからね! あ、けどどういう感じの武器が好みなのかは分からないからキエモンも来て!」

「了解した。付き従い候」


 この城についてはヴェネレ殿の方が詳しい。そしてこの国の武器についても同じく。

 そのヴェネレ殿が着いて来てくれるのであれば頼もしい事この上無し。

 拙者達はその場所へと向かい行く。その道中。


「見つけたぞ! キエモン!」

「む? 其方そなたは」

「あ、マルテさん!」


 渡り廊下にて赤髪赤目の騎士、マルテ殿が息を切らしながら姿を現した。

 はてさて、一体何事か。


「如何致した? マルテ殿。拙者、今はヴェネレ殿と共に」


「理由は簡単だ。キエモン。君は私を他の騎士や民衆の相手をさせただろう! それは構わないが、君の手柄でもあるのになぜ去ろうとする! 騎士たる者、自身の成果に誇りを持ち、人々に自分が居ると証明しなくてはならないんだぞ!」


「成る程。そうであったか。我が国でも戦果に伴い、御礼として領土や金品を与えられていた。拙者はその様な事に興味が無く主張はしなかったが、この国では騎士として人々へ安寧を与える為にも大々的に誇る必要があるのか」


「そうだ! 民衆が安心を得、いつものように生活出来る為に絶対的な信頼は不可欠! 新たな騎士の加入は希望だ! 救われる者が増えるという事だからな。加えて君程の実力者。それが人々に伝わればより良い方向に事が運ぶだろう!」


「人々を護る騎士。フム、理解した」


 マルテ殿が紡ぐ言葉。それは騎士としての在り方であり、侍の掲げる武士道のような信条。さながら騎士道と言ったところであろうか。

 この国の騎士は拙者の国にとっての武士や侍のようなものなのだろう。


「やれやれ。本当に理解しているのか?」


「ウム。拙者の国では侍や武士の掲げる信条がある。この国でもその様な事があると肝に命じたで御座る」


「サムライ……は兵士だな。……ブシ? しかし、そうか。それは何よりだ。邪魔して悪かったな。キエモン」


「いや、騎士の在り方を深く理解していなかった拙者に落ち度がある。此方こそすまぬ」


 頭を下げ、謝罪をするマルテ殿。

 だが、今回は拙者の知識不足が主な理由。マルテ殿は何も悪くない。

 次いでマルテ殿はヴェネレ殿の方へと視線を向けた。


「お邪魔した。ヴェネレ様。今ヴェネレ様はキエモン殿と城内デートを嗜んでいるようですから。すみませんでした」


「デ……ち、違うよ! そんなんじゃないから! 私はただここに呼んだ責任としてキエモンに案内をね!」


「フッ、そうか。ヴェネレ様が連れて来た殿方であったな。やはりお目が高い。誠実で真面目で、それでいて強き者。父君もキエモン殿ならば認めてくださるだろう」


「だから違うって! 確かにお父……様もなんか勘違いしたり認めたりしたけど、キエモンを連れて来た事への他意は無いよ!」


 何やら悠々と話すマルテ殿に必死に返すヴェネレ殿。

 話の内容は理解した。

 マルテ殿は拙者の事を高く評価して下さり、強さに拘りを見せるヴェネレ殿は今しがた拙者の実力は認めていないという事であろう。

 ならばそれに応えるのみ。拙者は二人の会話に入った。


「そうであるか。拙者はまだヴェネレ殿のお目に掛かる程の器では無き様子。ならばヴェネレ殿に認めて貰えるよう、精進致し候」


「え!? キエモンもそう思って……け、けど、まだ会って数時間の仲だし……そんなの早いし……まだ心の準備が出来てないから……」


 先程までの気迫が無くなり、ヴェネレ殿が急にしおらしくなる。

 確かに会って数時間の身。拙者の実力は中々に評価し辛き事だろう。


「その心意気は理解した。ヴェネレ殿の為、我が身を尽くす。何処までも着いて行き候」


「そ、そこまで私に……出会って数時間なのに……で、でもこれで靡いたら私尻軽女って思われちゃうかな……陰口とか言われたり……」


 尻軽? 足軽の一種であろうか。語感は似ておる。

 ヴェネレ殿も戦場に赴く事があるのだろう。この国では妖術を扱う者が戦に駆り立てられるらしいからな。

 ならば拙者がヴェネレ殿の助けになるべきだ。


「その時は拙者がお供致す。共に敵を薙ぎ払い、討ち仕留めよう」


「そこまでするの!? いや、別にそこまでしなくても……」


「む? そうであるか。しかし戦場。敵兵は討つか捕らえるべきだろう」


「陰口くらいでそんな……器の小さい人くらいだよ。それを言われて徹底的に打つのは」


「なんと器の広き方。命のやり取りの中、敵へ慈悲を与えるか。改めて惚れ直したぞ。ヴェネレ殿」


「惚れ……!?(や、やっぱりキエモンも……こんなに直球で言われたの初めて……何この胸の高鳴り……私ってこんなにチョロい女だった……? ガードは固い方だと思ってたのに……)」


 例え戦場に出たとしても、命を狙われても許すと言う懐の深さ。

 やはりヴェネレ殿は善き者。

 だがしかし、敵はそうも考えぬだろう。拙者は敵を討ち、ヴェネレ殿を護らねばならぬ。


「……。何となく話が噛み合っていないな……」


「拙者、ヴェネレ殿に尽くし、隣で死する事を改めて誓い申し奉ろう」


「隣で死……それってお墓まで一緒にって事……? いや、そうなったら確かに最終的に行き着く先はそうなんだけど……まだ積み重ねが足りないし……」


 戸惑いを見せるヴェネレ殿。

 気持ちは分からなくも無い。死を謳う事は残される側にとっては酷であろう。

 そこへ、若干の困惑を見せたマルテ殿が言葉を発する。


「……。君達、いや、先にけしかけたのは私で悪いのも私なのだが、その私から見ても牴牾もどかしいと言うか歯痒い感覚に陥る……ヴェネレ様とキエモンが話している内容、全くの別物だぞ……」


「え?」

「む? そうであったか」


 何という観察眼。流石は強者つわもの

 拙者とヴェネレ殿は話している事が違ったようだ。


「拙者はただ、共に騎士として戦場へ赴く身故に、男女関係無く背中を合わせ、命を預ける中として今一度誓いを立てようと」


「え……そ、そうだったんだ……私、早とちりしちゃった……」


「して、ヴェネレ殿は如何様な事をお考えで?」


「私は……~~っ。少なくともキエモンとは違う事だから気にしないで!」


「そうか」


 何やら慌てた様子で否定する。

 気にするなと言われれば気になるが、それを聞くのは無粋な事。ならば黙認するとしようぞ。

 これにて話は終わり。拙者はヴェネレ殿へ訊ねる。


「ではヴェネレ殿。武器の調達に赴こうぞ。騎士となった今、先程のようにいざという時動けなければ意味がない」


「そ、そうだね。それじゃ、マルテさん」


「武器……そう言えば君は魔法を使えないのだな」

「そうだ」


 武器の調達。妖術を扱うこの国では珍しき事。

 それを鑑み、少し思案したマルテ殿は提案するように話した。


「ならばキエモン。私に考えがある。そこへ行かないか? 良ければヴェネレ様もご一緒に」


「何か当てがあるのか? マルテ殿」

「ああ。こう見えて顔は広いんだ」

「ならばお頼み申そう」

「私も気になる!」


 マルテ殿の当て。

 それが何かは分からぬが、頼りになるのは先の戦闘で理解した。故にその当てとやらを頼る事にする。

 マルテ殿の案内の元、拙者とヴェネレ殿はそこへと向かい行く。

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