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其の捌拾参 決着・開戦

「──“キャノンウィンド”!」

『ドーン』


 風の砲弾が射出。シルフが手助けし、更なる威力となって直進。斬り伏せ、天へといなしたがその余波だけで地上の多くが吹き飛んだ。

 拙者の位置からしてヴェネレ殿にもマルテ殿らにも他の班にも影響は及ばぬが、もし避けておらねばそのまま近場の山河が消え去っていた。ただでさえ多くの自然が崩壊している現状、森の生き物達が不憫よの。


「成る程ね。君は常に何かを守っているみたいだ。本来ならそれは僕の役目なんだけど、負担を掛けてしまって悪いね」


「誠にそう思っているのならば早いところ投降して欲しいの」


「そう言う訳にはいかないさ。これが今の僕の役目なんだ。星に風が吹き続けるように止まる事はない」


「残念だ」


 刀を握り、リュゼ殿へと迫り行く。

 当人も雷速で避け、閃光の如く移動しつつ間合いを図る。

 さて、今度は何が狙いで御座ろうか。


「君の使う剣。真似してみようかな」

「剣術と言うものは見様見真似でどうこうなるモノでは御座らんよ」


 風を杖に纏い、さながら刀の如く扱う。

 だが動きは素人同然。ただぞんざいに振るっているだけ。

 狙いは付けているようだが読みも浅く隙だらけ。雷と化し、動きは速いが見切れぬ速度ではない。


「こう言うのを剣戟けんげきって言うんだっけ!」

「そんな大層なモノではなかろう。主が闇雲に振った剣を拙者がいなしているだけよ」


 稲妻の軌跡と共に斬り付けられる全てをいなし、数撃で弾き飛ばして喉元へ刀を突き付けた。


何故なにゆえ急に刀としようと考えたのかは分からぬが、既に拙者の勝ちは決まっている。さっさと諦めて欲しいものだがの」


「そう言う訳にはいかないのが現状さ!」


 刹那に飛び退き、複数の風弾を形成。瞬時に撃ち出されては大地を抉って巻き上げ、更には風の刃を打ち付け切り分けるよう地面を引き離した。

 それが天へと舞い上がり、リュゼ殿は仰々しく両手を広げる。


「さあ、着地出来そうな木々は全て倒れた。そして今造ったステージ、浮遊島。この高さから落ちれば君も無事では済まない筈だ。これなら遠慮無くシルフの力を発揮出来る。自然への影響を考えなくて良いからね!」


「……」


 大地を斬り、風にて浮かせる事で生まれた浮遊島。此処なれば地上への影響関係無く終わらせられる。

 考えたの。リュゼ殿も無闇矢鱈な破壊行為は気にしていた様子。本当に真面目なお方。斯様かような者が何故なにゆえ侯爵へと仕えるのか疑問よの。気紛れにしても限度があろうからに。


「“風の息吹き”!」

『フゥー』


 杖を振り、放たれたるは暴風。それがシルフによって強化され、浮き上がった大地を全て吹き飛ばしながら拙者の元へと向かう。

 現在の足場を飛び越え、隣の足場へと移動。そこから更に踏み込み、刀にて肩を貫いた。


「……っ。遂に捉えられた……! いや、今までは敢えて当てなかったのかな。明確な隙を狙っていたのか……!」


「買い被り過ぎよ。そこまで大したモノでは御座らん。ただ風によって動きやすくなった次第。主の周囲をなるべく破壊したくない手心が今に繋がっておる」


「成る程ね。僕は自分で自分の首を絞めていたのか。まるで真夏の戦闘に置いて、敵へ冷風を送るようにね。……じゃあ、僕自身が状況を打破しなきゃね!」


 飛び退き、己に刺さった刀を無理矢理引き抜く。それによって更に傷口が広がり、勢いよく出血した。

 大した根性よ。かなり痛く、一気に脱力するような感覚に陥ると言うに。拙者も現世の戦にて身を以て立証済み。リュゼ殿の今の元気は空元気という事も理解しておる。

 即ち、彼は即座に仕掛けてくる事の意。いずれ貧血で倒れてしまわれるからの。


「“風刃連斬+シルフ”!」

『ズパーン』

「……」


 無数の斬撃が飛び、拙者の立つ大地を粉微塵とした。

 下方からは変わらず風が吹き抜けておるが、それこそリュゼ殿の気紛れで存続が決まる。直ぐに別の大地へと飛び乗り、瞬時にけしかけた。


「……っ。“風連撃”!」

『たあ』

「……」


 風が放たれたが峰で殴打する。

 咄嗟故にシルフの手助けは無いかと思うたが、召喚したらその時点で如何なる魔法であっても風ならば付与するらしい。

 確かに先程からそうしておったの。だが拙者の攻撃は直撃。本来ならば今ので意識を失うところだが、


『…………』

「効いたよ……かなりね……!」


 シルフが自動的に回復させておる。精霊。便利なものよの。自分の意識外の部分まで気を使ってくれる。

 だがエルミス殿程の回復術ではなく、まだ傷はそのまま。本当に効いてはいるので御座ろう。


「……」

「……一気に畳み掛けるね……!」


 好機とあらば仕掛けるのみ。ちと長く戦い過ぎた。なるべく殺さぬようにする為であるが、考えればエルミス殿が居る。

 此れ即ち生きてさえいれば如何なる状態であっても治せるという事。殺さぬ事は前提とし、そろそろ終わらせる。


「……」

「……ッ!? 僕の腕が……!?」

『……!』


 刃にて腕を切り落とし、シルフが即座に風の治療を施す。

 杖の方を狙ったのだが、それだけは落とすまいと反応だけしたので御座ろう。

 だが、その気になった拙者の前では無意味な抵抗よ。


「……」

「カハッ……!」


 腕に気を取られている隙に腹部を柄にて打ち付ける。殺すつもりならこのまま剣尖で貫く事も出来たが、目的はそれでは御座らん。

 空気の漏れるような音と共に怯みを見せ、顎を鞘にてカチ上げる。舌を噛んだか血が流れておる。死してはおらん。


「“風の”──」

「遅い」

「……ッ! (雷速の僕を……遅い……?)」


 呂律が回らぬ状態でもなお抵抗の意思を見せる。やはりこの者は生かし、今後ヴェネレ殿の為に仕えて頂こう。


「これで終わりだ」

「ヘハ……()ほろ()……──(“鬼”か……ようやく彼の言葉を理解したよ……)」


 刀を振り上げ、峰を下に向ける。そのまま狙いを付け、的確に意識を失うであろう場所を叩いた。


「……っ。────」

『あ……』

「切り捨て……では御座らんな。御免だけでは単なる謝罪になってしまわれる。まあ良かろう」


 何度も述べよう。決して殺しはしておらん。リュゼ殿なれば良き手駒になり申し候。

 それが名誉か不名誉かは本人次第であるが、詳しくは戦が終わったらであるな。今は時間が惜しい。


「死んではないが、致命傷ではある。主は?」

『んー……。…………』

「成る程の。せめて出血は止めるか。そうであっても目覚めるのは後……よし、国の近場まで拙者が背負い、後は縛り付けて置こう」

『うん』

「想うてはいるが、結果は受け入れるか。大した精霊よ。では参ろうぞ」

『ゴー』


 此処で寝かせていては、万が一早くに目覚めた場合ヴェネレ殿の方へ向かってしまう可能性もある。

 故に国の近くまでは運び、後はマルテ殿らにでも頼み拘束する事にした。

 拙者とリュゼ殿の少し長引いてしまった戦闘。それが終わり、拙者は大分離れたであろうマルテ殿らを追い行くので御座った。



*****



 ──“シャラン・トリュ・ウェーテ・近隣”。


「マルテ殿。エルミス殿。ブランカ殿にペトラ殿。ようやく追い付いた」

「キエモン。無事だったか。……フッ、背負っているリュゼさんを見るに、勝ったのだな」

「無論だ。拙者、お約束はお守り致す」

「それもほとんど無傷で……騎士団長を相手にとてつもないな」

「そうでもない」


 少し行き、マルテ殿らと合流致した。

 些か距離はあったが、拙者が少し力を込めて走れば何て事のない距離。何とか攻め込むよりも前に付けたので上々だろう。


「エルミス殿。見ての通りリュゼ殿は片腕が無くなっておる。一応それも持ってきた。治療してやってくれ。後は拘束を頼む」

「は、はい! 癒しの精霊よ。私に力を貸し、対象を癒してください。“ヒール”!」

「切断された腕も治る……本当に凄い回復魔法だ。では、私の炎魔法で拘束する。──赤き炎の縄よ……」


 リュゼ殿の治療と拘束も終え、命に別状が無くなったところで拙者は改めて向き直る。


「して、現在の状況は?」


「見ての通りだ。私達は正面から城へと乗り込む準備を。既にファベルさん、フォティアさんの班も定位置に付いている」


「そのようだの。至る箇所に気配が散っているようだ」


 近くの森、城の周辺。周りの囲いや堀。そこに拙者らの仲間達が待ち構えている。

 城には見張り役も当然おるが、今のところ見つかってはおらぬ様子。騎士団長も後一人だけ。戦局は拙者らが圧倒的に有利で御座る。


「私達も指定ポイントへ向かおう。少数精鋭だからこその正面突破だ」

「ウム、そうであるな。エルミス殿らは本当に此方こちらで良かったのか?」

「はい。怪我をする可能性が一番高いですから。私が回復魔法で治します……!」

わたくしも立つなら前線ですわ。箱入りであってもやれる所をご覧に入れて差し上げます」

「ま、私は2人の付き添いかな。友達だからな」


 その拙者らは他の騎士達を連れていない。理由はマルテ殿の告げた通り少数で攻め込む為。

 本来なれば正面にはなるべく人員を割き、囮と陽動による撹乱させた方が良いが、今回の目的は国民達に気付かれぬよう夜明けと共に城を落とし、ヴェネレ殿を復権させる事。

 故に一番目立つ正面口こそ少数で攻め、他の者達を潜入させるのが狙いだ。


「では、参るとしようか」

「そうだな。私が先陣を切ろう。夜の暗闇。炎魔法がよく映える」

「そうか。任せた」


 マルテ殿がほうきに乗って先を行き、その後を拙者とエルミス殿らが追うように突き進む。

 マルテ殿は杖を携え、経を唱えた。


「──赤き焰の精霊よ。その炎を撃ち出し、我が道を示す標となれ。“レッドキャノン”!」


 宵闇の中へ目映い火の弾が撃ち出され、城門へと直撃。炎が燃え広がり、城にて待機していた騎士達が慌てた様で姿を見せる。

 既に予想くらいはされていようものだが、実際に行われると対処も難しいのだろう。


「敵襲だーッ!」

「ファベル一派だな!」

「ヴェネレさm……ヴェネレ一派もだ!」

「迎え撃て!」

「暗くて見えにくいが、たったの四、五人か?」

「あんな少人数な訳がない! ファベルさn……ファベルやフォティアもどこかに潜んでいる筈だ! 周囲にも注意を払え!」

「無論だ!」


 現れた騎士達は杖を構え、空からも拙者らに直る。

 当然の如く拙者らだけではないと判断しているようだの。では、あの人数だけでは拙者ら五人すら止められぬところを見せ、残りの騎士や見張り達も炙り出すとしよう。

 リュゼ殿との戦闘が終わり、直後に始まった攻城戦。さて、国盗り合戦。此処からが本番に御座る。

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