其の漆拾伍 合流
──“裏側”。
「フム、今回の景色はこれか」
「何度来ても不思議な場所だな」
お三方の案内の元、拙者らは裏側へと来ていた。
今回の景色は妙な風が吹き抜け、燃え盛る森の中に少し濁りのある水が流れておる。カーイ殿らの得意魔法が反映されているように御座るな。
だから仕方無い事ではあるが、火事の森とはあまりよろしくないの。
そのまま正規の道を通り、町を越えて別の場所へと向かう。刺客の可能性を考えたのか、町を拠点にはしていない様子。それが正解よの。
「この辺りだ。魔物とかも居ないし、食料もまあ確保出来ない事はない。中々に快適だぜ」
「そうに御座るか。それは何よりだ」
案内された場所は洞窟のような所。外は拓けており、見晴らしも良い。
此処ならば敵の位置も把握出来、隠れるにも持って来いだろう。実際、洞窟の周りには何人かの見張りが居た。
「カーイ、マーヌ、セーダの三人と……キエモンか。そしてその騎士達は……」
「情報を吐かせる為に連れて来た。此処に来るまで何度か目覚めたが、その度に意識を奪ったが為に死にかけている。目隠しもし、口にも詰め物を込めている。そして耳も塞いでおる。故にこの者達から此処が明かされる事は無かろう」
「そ、そうか。手慣れているな。出身国で慣れざるを得なかったのか」
「そんなところよ。然し、慣れた訳では御座らん。他者を傷付ける行為はいつだって心が磨り減る所業。何度やっても慣れぬものだ……」
拙者は今までに何人を殺め、傷付けたに御座ろうか。
数万人は確実に殺しており、傷付けた数だけなら十万を越えているだろう。
だがそうであっても生き、温もりのある肉体を斬る感触も生暖かい返り血を浴びる感覚も慣れぬものよ。
この手に握った剣の重さと冷たさは一生忘れられぬ。いや、忘れてはいかん。死した者達をも背負って死ぬまで苦しむのが拙者に出来る事だ。
やれやれ。鬼神に等しき身となりながら何を思うておるのだろうか。我ながら不思議なモノよ。いくら反省しようと、いくら罪を償おうと、奪った命の数に変わりはないのだからな。
「キエモン?」
「あいや、何でも御座らん。罪悪感に苛まれておっただけよ。虫のいい話だ。拙者は被害者ではなく加害者なのだからな」
「……。苦労があったようだな。取り敢えず敵の気配は無いんだな? では、ファベルさんの所へ案内する」
「お頼み申した。騎士殿」
見張りの騎士の案内により、敵兵とカーイ殿らと共に洞窟の奥へと向かう。
そこには未だに包帯が巻かれたファベル殿。そしてサベル殿にブランカ殿、ペトラ殿が居た。
「お、キエモン。無事だったか」
「サベル殿も無事で何より。此処に居る者達で全員か?」
「いや、いくつかに分かれて別々に拠点がある。」
「そうに御座るか」
此処に居る拙者と親しき者はファベル殿とサベル殿にブランカ殿とペトラ殿。それに加えて皆とも顔見知りではあるので問題無かろう。
そして此処に居る以上、ブランカ殿やペトラ殿も此方の一派に付いてくれたとの事。それは有り難し。
会話の最中、ファベル殿が立ち上がり、拙者の前へと来る。
「不甲斐ないな。私が居ながら此処まで追いやられるとは」
「致し方無かろう。拙者やフォティア殿らのような戦力は出払っていたのだ。相手が騎士団長二人と言うのは分が悪い。まだ遠征から帰っておらぬ部隊もあろう」
「それはそうだが、そうであっても止められなくては騎士団長の名折れ。穴があったら入りたいが、今の状況がそうだな。横穴に入るしかない」
「そう卑下するでない。ファベル殿」
戦力差があった為に仕方の無い事なのだが、そうであっても己を悔い、恥じるファベル殿。
何ともまあ、自分に厳しかろう。敗戦であっても、完全に敗れた訳ではない。将の首は取られておらず、戦力も残っている。現状ではそこまで恥ずる事も無かろうに。
「ヴェネレ様は無事なのか?」
「ウム。共に行った者は皆無事よ。故に戦力集めを兼ねてファベル殿らへ接触を図った次第に御座る」
「そうか。無事で良かった。それを聞いては立ち止まっていられないな。キエモン達は戦力に数えて良いのか?」
「無論だ。そろそろこの者達も目覚めよう。色々と情報を聞き出すと良い」
「ああ。心は痛むが、拷問などもやむを得ないか」
戦況は、別段不利と言う訳ではない。此方側の陣営にはフォティア殿とファベル殿。拙者やミル殿にマルテ殿のような隊長格もおる。
一先ず改めて話し合いへの準備する最中、拙者の元へブランカ殿とペトラ殿が小走りで駆け寄って来た。
「キエモンさん。エルミスさんはご無事なのですわよね!?」
「ウム、問題無い。マルテ殿と共に別動隊との合流を図っておる」
「良かった……」
「しっかしキエモンさん。一体連絡無しにどこへ行ってたんだ?」
「ちょっとした遠出よの。色々と情報も掴めた」
「マジ!? 流石だな。キエモンさん!」
エルミス殿や拙者を心配していたらしく、二人には安堵の色が浮かび上がる。
突然仕えていた国が敵になり、仲間の何人かからは連絡が途絶えていた。こうなるのも当然に御座ろう。迷惑を掛けてしまって申し訳無い。
「良し、即席だが話し合いの場は設けた。キエモン、皆、席に着いてくれ」
替えの包帯や体を拭く為の水入り桶などで散らかっていた場を片付け、拙者らは席に着く。
何より戦況及び全体的な状態を把握する必要がある。その為の確認。ファベル殿の怪我を踏まえ、直ぐに合流するのはまだ無理よの。出来るのはなるべく目立たぬよう精々何人かを連れて行くくらいだ。
何にせよ、その為の話し合いが行われた。
「──以上だな。戦況も何も、警戒の強い街付近には近付けず把握出来る事は見たままだが、キエモンは何か分かったか?」
既にある程度は終わり、一番近日に町へ寄った拙者へ話を窺われる。
ファベル殿らが街から撤退したのは数日前。よって、最近入った拙者の情報は貴重に御座ろう。
「ウム、拙者も見たままを話そう。敵兵の数は分からぬが、既に拙者とフォティア殿で二十人近くは片付けた。だが、最たる障害であるリュゼ殿ともう一人の騎士団長は会っておらず、侯爵も討ち取っておらん。一番の情報になりうるものならば城が四つの魔法障壁によって護られているという事よの」
「魔法障壁……城全体を覆っているという事か。キエモンとフォティアが居たのならそれくらい警戒していてもおかしくないな。街全てが奴らのテリトリーとなっており、城まで絶対的な防壁に守られたとあれば突破は困難を極める」
おそらく拙者が来た時点での状況とファベル殿らの時の状況は変わらない。故に一番の問題になりうる事柄は城に覆われた魔法からなる障壁。
火、水、風、土のそれは突き破るのも一苦労であろう。特に騎士団長が関わった水と風の防壁はの。
「フム、それについてもう少し詳しく話し合うか。他の拠点にも情報の拡散をしておく必要もあるな」
「ウム、そうに御座るな」
──その刹那、突風のようなモノが貫通するかの如く吹き抜け、洞窟全体を舞い上がらせた。
「「……!?」」
「なんぞ?」
自然の暴風か。はたまた敵か。おそらく後者に御座ろう。
拙者は即座に立ち上がり、動けぬファベル殿の代わりに外へと向かう。その後ろからはブランカ殿とペトラ殿が付いてきていた。
「主ら……」
「私達はキエモンさんの班ですわ!」
「そう言うこと! 私らもやられっぱなしは癪だし!」
「そうか。分かった」
行動が早いの。同期として誇らしい事だ。今年の新人は優秀よ。
フム、我ながら何を思うているのか。何となく先達面してしまうの。
サベル殿も奥の方へ散らばった物を纏めておる。彼方も支援方面での行動が早い。長く処理班だっただけあるものよ。
「……。成る程。主が直々に参ったか。リュゼ殿」
「そうだね。久し振り……でもないか。ほんの数時間前振りだからね。過ぎ行く風がまた再びやって来ただけさ」
「相変わらず詩的よの。どういう意味かはよく分からぬが」
突風の正体はリュゼ=トゥルビネ殿率いる十数人の騎士部隊。
まさかこの場所が早くに見つかり、騎士団長格が直々にやって来るとはな。
これはまた難儀な事になりそうだ。……拙者にとっての。
「リュゼさん……!」
「まさか貴方が来るとはな……!」
「君達は新入りだっけ。ゴメンね、名前までは覚えていないんだ。台風の後に風が無くなるのと同じように、その時点での事は分かっていてもその後は意に介さなくなる質なんで」
「ふん、そうですか。台風の風はその時点では目立つと思うけれど、その後は基本的に無風になる。即ち一度過ぎた事は覚えていないという事ですわね……!」
「よく分かったな……ブランカ」
「ウム、見事よの……」
リュゼ殿との会話はフォティア殿とは別方面でやりにくいの。
だがまあ、関係は無かろう。此処に敵として来たなら討つのみに御座る。
「念の為、今一度お訊ね申す。主の目的は?」
「ここに居る騎士達の……捕獲かな。反抗するなら最悪の場合として命を奪う事も辞さない」
「よく分かった。主らは敵か」
「今まで通りね」
間違いなく、この場には敵としてやって来たリュゼ殿。此方側の内通者であったら良かったのだがの。
今日会ったばかりであり、そこまで親しくもないが嘗ての味方が敵と確定するのは心苦しいものよ。
「さあやろう。風の流れのように、気紛れに変化する戦いを」
「ウム、意味は分からぬの」
臨戦態勢に入り、互いに構える。
今日という日は目まぐるしく流転しているの。拙者はただ、海の島にて得た“月の国”に関する情報を伝えたいだけと言うに。
戦況とは常に変化を続けるものよ。




