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其の陸拾捌 海の島

「海が浮かんでいます……」

「話には聞いていたけど、理解出来なかったんだ……これを目の当たりにするとそりゃ話は伝わっても分かる訳ないよね……」

「無重力みたい……」


 遠目から“海の島”を見、エルミス殿とヴェネレ殿、セレーネ殿が順に話す。

 拙者と同じく初見のセレーネ殿とエルミス殿に、話には聞いていたらしいが理解が及ばなかったヴェネレ殿。

 呆気に取られる三人だが、その気持ちも分かる。拙者ですら目の当たりにして尚、理解が追い付かぬのだから。

 呆気に取られる拙者らを他所に、マルテ殿が話を進めた。


「さて、あの中へと入るぞ。入国手続きをすれば普通に入れる。“海の島”と“シャラン・トリュ・ウェーテ”は別に敵対もしていないからな。逆に観光名所として良好な関係にある」


「ちょっとちょっとマルちー。そう言うのの説明はウチの役目なんだけどー?」


 海の島は“シャラン・トリュ・ウェーテ”にとっての観光地で御座ったか。

 確かにこの様に奇っ怪な場所、一度は行ってみたくもなるの。特に夏などは過ごしやすかろう。海だからの。

 フォティア殿の言葉は無視し、マルテ殿は先へ行く。拙者らもその後を追うように進んだ。


「お待ちしておりました。“シャラン・トリュ・ウェーテ”から御越しくださったフォティア様率いる騎士団ですね。事前に情報をお預かりした、シュトラール=ヴェネレ様。ジュピテール=フォティア様。フォーコ=マルテ様。アマガミ=キエモン様。リーヴ=エルミス様。セレーネ様。ご確認致しました。入国を許可します」


「拙者は名を預けた覚えなど無いのだがの」

「もちろん手続きは私達で済ませてあるよ。だから安心して♪ キエモンっち!」

「そうであったか。かたじけない」


 預かっていたと言う名と身分の証明。見に覚えが無くとも、国が手回しして下さるので御座ろう。

 水球の出入口となっている所を抜け、何故か履き物を脱がされた拙者らは海の島へと入国した。



 ──“海の島”。


「ほう、これは美しい」


 見渡す限りに広がるのは、青い海のみ。

 天と地の境目も無く全てが冷涼な海であり、拙者らの足場すら浅瀬のような水辺に御座った。

 水の球体へと入ったのだから当然と言えば当然。そんな浅瀬にも白や青を基調とした建物は連なっており、装飾が施され人々も行き交っていた。


「全部が水なのに、特別冷たいって感じでもないね」

「そうであるな。温水の如き水辺。履き物を脱ぐ必要がある理由が分かった」

「これじゃあ靴が濡れちゃうもんね」


 よく踏み締めれば足元は砂浜という事が分かる。

 裸足なのでガラス片などがあったら危険だが、そう言った危険物は置かれていない様子。ゴミの取り締まりも厳しいのであろう。それは当然か。


「一先ず調査を開始しよう。街の観光等は終わってからだ」

「そうであるな。マルテ殿。何かしらの当てはあるのか?」

「ああ」


 頷いて言葉を返す。既に下調べ程度は終わらせているのだろう。仕事が早く、テキパキと事が運ぶな。

 街を行き、マルテ殿はこの国へ来る理由となった事を話す。


「なぜこの“海の島”が“月の国”と関連性があるとなったのか、その理由の一つは海にも月はあるからだ」

「海の月。海月クラゲなどで御座るか?」

「それは違うが。夜、水面にも月は浮かぶだろう。それはこの国でも例外じゃない……と言っても通常のそれは単なる反射。しかしこの国には気になる文献があった。それが二つ目の理由。その為の調査だ」

「フム、水面の反射ともまた違う海の月……月と言う単語は確かに気になるの」

「そう言うことだ」


 満月でも半月でも、夜空の海には月が映る。それは景色が鏡のように映っているだけ。だが此処にはそれについての理由があり、それが手掛かりになりうるかもしれぬとの事。

 この世界は奇々怪々。何があっても不思議ではない。単なる現象で済まぬのが在り方なのであろう。

 また一歩進み、水を蹴って歩む。


「まあ、夜まではまだ時間もある。その文献があった近くでしばらくは過ごすとしよう」


「そうか。了解した」


 マルテ殿が指差す方角にあるのは神殿のような物。まさに文献などがありそうな所よの。

 見たところ他は飾り付けなど彩り豊かで華やかな面持ちだが、彼処だけは白一色。全ての無駄な物を排除したかのような場所に御座る。

 そこへ行き、一先ず夜まで待つ事にした。


「──して、何故フォティア殿らは下着姿となっておるので御座るか? この日の強さ、肌の露出は抑えた方が良い」


「これは下着じゃなくて水着! 折角海の島に来たんだからね! この格好しなきゃ勿体ないよ!」


「そうであったのか。露出的な趣味があるのかと思うておった」


「その偏見だけはウチもやめて欲しいなー」


 この世界ではほぼ裸体同然な程に薄着の者も多いが、今回は敢えてそうしているとの事。

 女子おなごがそう簡単に肌を見せるなど品の無い事だが、この世界の理がそれなのだろう。先程外を一通り見たが、今現在のフォティア殿らのような格好も多かった。


「ど、どうかな。キエモン。私の水着」

「如何ですか……? その、私の姿……」

「キエモン……似合ってる?」

「フフ、どうだ。キエモン。私の姿。照れて直視出来ないか?」


「フム……」


 フォティア殿に続き、下着同然の格好となったヴェネレ殿らが拙者へ見せにくる。

 よく似合うておるな。然し、照れて直視出来ないと言う事は無かろう。


「似合っているぞ。皆の者。さながら天女の如き美しさ。とても可憐だ」


「えへへ……」

「そんなキエモンさん……」

「良かった……」

「フッ、高評価なのは嬉しいな」


「だがの。直視出来ぬと言う事は無かろう。主ら全員の裸体を拙者は目の当たりにしてるんだからの」


「「……!?」」

「ハッハッハ! それもそうであったな。キエモン」

「そう言えば……」


 今更下着で恥ずかしがる事もない。それ以上のものは既に見ておる。

 ヴェネレ殿とエルミス殿は赤面し、マルテ殿とセレーネ殿は個々で反応を示していた。

 そんな中、フォティア殿が興味津々な面持ちでグイッと迫る。


「ちょっちキエモンっち! 裸体を見てるってどゆ事!? 超絶気になるんだけど! ーか、みんなまとめて食べちゃったワケ!?」


「フォティアさん!? 食べ……ってその……!?」


「……? 食しては御座らん。ただ見ただけよ。確かに山姥などは女子おなごを剥いで食うが、拙者は食人鬼ではない故。何故そのような発想に繋がるのか」


「アハハ~。キエモンっちはマジで純心だねぇ。みんなまとめてって事どころか、ウチが思っている全てがなさそー」


 何で御座ろうか。本当にフォティア殿の考えている事は分からず、苦手意識が出てくるの。

 人間性はむしろ好いており、信頼もしているが言葉が分かりにくい。れどそれは拙者にも言えた事。この世界では拙者の言葉も訛りによって伝わりにくかったりするからの。

 どっちもどっち。国が違う事によって生じる事態は此方側から歩み寄らねばならぬ。


「まいっか! とりま泳いじゃおー! せっかくの海だし、勿体無いっしょ!」


「あ、そうだね。キエモン。一緒に泳ごう!」

「わ、私も……泳ぎます」

「私は浮かぶ……」


「水練に御座るか。確かに全身を使うそれは鍛練になる。夜まで暇を持て余しておるからの。泳ぎに出るのも悪くない選択よ」


 遊んでいる場合では御座らんが、フォティア殿のみならずヴェネレ殿らも乗り気。

 単なる遊びとも違い、泳ぐ事で修行になるのならしても良いかもしれぬ。出来れば冬に寒中水泳もしたかったがの。


「フッ、鍛練的な観点から見るか。流石だな。キエモン。その案に私も乗ろう」

「もー。キエモンっちもマルちーも堅いなぁ。海での遊びなんだからもっと気楽に行こうよ!」


 逆にマルテ殿とは思考的にも馬が合う。だが、鍛練をするつもりなのは拙者とマルテ殿くらいよの。

 特に断る理由も無い。暗殺者のような殺気も無し。暫し寛ぐのは良かろう。


「そうよの。気楽にしよう。とは言うても、神殿近くに水練場はあるのか?」


「そりゃもちろん! なんてったってここは“海の島”だよ! もう泳ぎ放題の遊び放題! さあ、みんなで水着パーティーだよ!」


「気分が高揚しているの。何がそこまでフォティア殿を駆り立てるのか」


「こう言う性格なのだ。フォティアさんはな。軽く流してくれ」


「アハハ……フォティアさんはこう言う人だからね……良い人なんだけど」


 気分の高まるフォティア殿。彼女を拙者よりかは詳しく知るヴェネレ殿らが苦笑を浮かべ、取り敢えずの夜までの時間潰しは決まった。

 拙者もこれを機に鍛練を積むとしようぞ。



*****



「海だー!」

「此処に来てからずっと海に御座る」

「もう、キエモンっち! こう言うのはノリと気分だよ!」


 水練に出、砂浜にてフォティア殿は駆けていた。

 まるで子供のようよの。既に下着……ではなく水着は着ており、ヴェネレ殿の物が白く、エルミス殿はあおい。セレーネ殿の水着は黄色を基調とした物でマルテ殿とフォティア殿は赤い物を着用していた。

 そんな皆だが、拙者の履き物へと興味を示す。


「キエモンのそれって……なんか変わった形の水着だね……」

「これか? これは褌に御座る」

「フンドシ……?」


 褌を見た事が無いのだろう。皆は囲うように眺める。

 こうも興味深く見られるとちと恥ずかしいの。


「そして水着では御座らん。どちらかと言えば下着よの。“シャラン・トリュ・ウェーテ”では売っていなかった故、特注で手配して貰った」


「へえ……~~っ!? ちょ、お尻がそのまま見えてる……! 本当に前だけ隠す感じなんだ……」


「今更恥ずかしがる事も無かろう。一度とは言え、風呂にて裸の付き合いをした仲なのだからの」


「え!? ヴェネレ様……一緒にお風呂って……前に聞きましたけど、は、裸の突き合いをしたんです!?」


「エルミスちゃん!? メチャクチャ大きく勘違いしてるよ!? そこまで進展も発展もしてないから!」


 ワーワーキャーキャーと盛り上がる。

 愉快な女子おなごらよ。年齢は拙者と然程変わらぬと思うが、妹とかそう言った方面に思える。


「フッ、キエモン。共に高め合おう。私は火魔法を得意とするが、泳ぎは嫌いじゃない」


「良かろう。マルテ殿。久しく泳いでおらんかったが、鈍っておらぬ所を御覧に入れてしんぜよう」


「フッ、面白い……!」


 仲間達が盛り上がる最中、マルテ殿に誘われて近くの遊泳場へ赴く。

 沿岸まで行き、軽く準備運動を終える。互いに位置へ付いて踏み込み、飛び込んだ。


「……はあ……惨敗か……」


 そして、拙者は圧勝した。

 然しフム。


「なれば次は魔法を使えば良かろう。どうやら拙者の身体能力はこの世界の面々に比べて高いらしい。常に魔法を使っているようなもの。マルテ殿も魔法を使わねば対等な勝負にはならん」


「成る程……いや、やめておくよ。魔法を使ってまで負けてしまったら自信が無くなる。プロポーションにはそこそこ自信があるのだがな」


「ぷろぽぉしょんとな?」

「ああ。この体の事だ」


 浜辺に横になり、勝負を決した後にマルテ殿は話す。

 流石にこれ程までの時間が経てば拙者とこの世界の者達の違いも分かる。身体能力に魔力。姿形は同じ人間と言うのに此処まで違うとはおかしなものよ。

 それはそれとて面白く思っているが、人が好いのは把握済み。特に思い詰める事も無かろう。


「もー! キエモン! マルテさんと勝手に行動して!」

「む? ヴェネレ殿。マルテ殿と行くのはダメで御座ったか?」

「え? ぁ……別にダメじゃないけど……とにかくあれだから!」


 何かを慌てている様子。然し言葉が纏まっておらぬの。

 そんなヴェネレ殿へ起き上がり、体の砂を払ったマルテ殿が話し掛けた。


「すみません。ヴェネレ様。一足先にキエモンと楽しんでしまいました。貴女様と言う御方がありながら」


「え、ちょ、そう言うのじゃないから! と言うかマルテさん! 貴女のキャラじゃないですよね!?」


「フッ、すまないな。ヴェネレ様。姫君であっても貴女をからかうのは楽しいんです」


「もう……私の威厳が……」


 ヴェネレ殿を揶揄からかうマルテ殿。その表情は楽しそうで御座った。

 その隣にエルミス殿が姿を見せる。


「えーと、キエモンさん……本当に何もしていないんですよね……?」

「ウム。少しばかり泳いだだけよ。ヴェネレ殿とエルミス殿も如何かな?」

「え!? は、はい! 一緒に泳ぎましょう!」

「私も泳ぐ!」

「平和的……」


 二人を誘い、また水練を行う事とする。

 近くではセレーネ殿が浮き輪と言う代物でプカプカと浮かんでおり、騒がしくも平穏な時が流れる。

 良い時間だが、それもこれも文献の読める夜が来るまで。読んだ後に何が分かるかも存ぜぬからの。

 何にせよ、拙者らは夜までこの平和な一時を暫し寛ぐので御座った。

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