其の伍拾 新人の初任務
──“ギルド”。
「お疲れ様です。キエモン様で御座いますね。そしてそちらの方々は新規登録されたエルミス様。ペトラ様。ブランカ様。よくぞ起こし下さいました。“シャラン・トリュ・ウェーテ”、ギルドに御座います。エルミス様は冒険者の時にお会いしましたね」
「あ、はい。覚えていてくれたんですね」
「ええ。私はギルドに寄った全ての人達を覚えていますから♪」
「本当ですか!? スゴいですね……」
「ふふ、受付として当然の事です!」
それには拙者も驚嘆した。
一度見たら誰の顔も忘れぬのか。記憶力の良い者は居るが、此処までとは珍しい。
気を取り直し、受付の女性は言葉を綴った。
「では、クエストを受けるのですね。どのレベルのクエストを受けたいのかお教え下さい」
「フム、ではこの町の近く。そしてしぃ級程の任務を頼む」
「かしこまりました。条件選定、“シャラン・トリュ・ウェーテ”付近・“C級”以下の項目を探します」
また魔法による選定を執り行う。
魔力からなる絵巻が現れ、そこに複数の文字が連なる。受付の女性は更に訊ねるよう話した。
「ひとえにC級任務と申されましても多数顕在致します。その為の確認をしておきますが、魔物討伐。採取等。どちらのクエストを受けますか?」
それは任務の種類。
思えば常に複数の依頼が回っているギルド。この中で一番程度の低い任務となれば、その数は計り知れぬだろう。
前はサベル殿が塾し、拙者単独の場合は基本的にびぃ級任務以上なのでこの様な指摘をされる事もなかった。
ならば彼女らに委ねるか。
「フム、確かに数は多いの。主らはどうしたい?」
「やっぱり魔物討伐ですわ! 戦闘用魔法の鍛練になりますし、危険が多く民間人に被害が行きやすいのも魔物関連ですから!」
「そうですね。私も魔物討伐が良いと思います。運搬や採取も人助けにはなりますけど、実害が多い方をなんとかしたいところですので。結果的に魔物の邪魔が無くなり、採取などもしやすくなると思います!」
「私もそうかな。まだクエストを受けた事は無いし、単純に戦闘経験を積みたいところだ」
彼女らの意見は纏まった。
経験を積むのと人々の安全の為。それ故に魔物討伐を選択する。
ならば拙者もそれにお応え申そう。
「では魔物討伐を頼む。近くの場所であれば二つか三つ程を同時に受けたい」
「かしこまりました。条件に“魔物討伐”を付け加えます。では、こちらからご覧下さい」
受付に案内され、いくつかの文字が浮かび上がる。
さて、どれにしようか。最近は拙者も書庫にて本を読み、文字を勉強しているがまだ完全ではない。此処は意地を張らず、彼女らに訊ねるとしようか。
「すまぬが主ら。頼まれてくれぬか? 拙者、まだこの国の文字を学習中故、如何様な任務があるのかを訊ねたい」
「分かりましたわ。ここはおそらくこの中で一番勉学の得意な私にお任せください!」
「あ、じゃあよろしく頼みます。ブランカさん」
「よろー。私も勉強はそんな得意じゃないしな」
名乗り出たのはブランカ殿。
女学院を首席と申されていたの。女学院、学校と言うのは寺子屋のような物に御座ろう。首席と言うのはそこで一番の位に居たとなれば、おそらくこの中で一番の頭脳はブランカ殿が持ち合わせておられる。
読む事に対して適役だ。
「えーとですわね。“ファイアラットの駆除”。“ウィンドバードの捕獲”。“ウォータースネークの処理”。“ランドフィッシュの捕獲”。……そして“森の動物を大人しくさせて”……くらいですわね。因みに今の5つは私が個人的に気になり、レベルアップに最適と判断したクエストですわ!」
「フム、他のモノはよくある依頼だが、“森の中の動物を大人しくさせて”……というのは少々異質よの。内容が曖昧過ぎる」
「私もそう思いましたわ。だからこその選別です。後は皆様と私でどれを受けるかお考えしましょう」
「そうであるな」
いくつかの任務を同時に受けるのが目的。
それなら同じ位置の物を選ぶとするか……いや、それらも彼女らと共に選ぼう。拙者に合わせる方が愚作よ。
「なるほど。ブランカさんは基本的なエレメントの参考になりそうなクエストを選んだのですね」
「そうですわ! 私は天才ですので全てのエレメントを高水準で扱えますゆえに心配無用ですが、貴女方2人は使える力が限られております! なのでその種族の特性となる属性を目の当たりにし、参考にしようと言う次第です!」
「よく考えていますね」
「やるなぁ。ブランカ!」
魔法を使えぬ拙者はともかくとし、他の生き物を参考にするやり方で学ぶ。
それを指定するブランカ殿は他者へ教える事へ長けているやも知れぬの。入団試験の時もエルミス殿へ助言を申されていた。
「それで、どれにしますの?」
「私が得意なのは回復と水で、少し出来るのが風ですね」
「私は火と土……風魔法に興味あるかな。火を強化出来るようになるし」
「なれば風を意味すると言う“うぃんど”の名を冠する“うぃんどばぁどの捕獲”は決定で良さそうよの」
「そうですわね!」
「良さそうです!」
「森に巣があるらしいから……もう一つは“森の動物を大人しくさせて”が良いかな?」
「では、決定ですわね!」
テキパキと決まる。
因みに補足だが、“ふぁいあらっと”は鼠の一種らしく町におり、“うぉーたーすねえく”は蛇の一種であり水辺。“らんどふぃっしゅ”は地を泳ぐ魚で荒れ地の為、場所が近いこの二つの任務の併用が手一杯に御座った。
「では、“うぃんどばぁどの捕獲”と“森の動物を大人しくさせて”を受けよう」
「かしこまりました。“ウィンドバードの捕獲”。“森の動物を大人しくさせて”。2つのクエストを受注致しました。気を付けて行ってください」
「ウム」
任務を受け、拙者ら四人一組はギルドを後にする。
今回受けた任務は二つ。難易度はそこそこであろう。彼女らの鍛練には相応しいと思われる。
*****
「ウィンドバードはこの辺りですね」
「生息地はこの近辺ですわね」
「鳥かぁ。飛んでるから探しにくいかもなー」
任務を受け、指定地点にやって来た拙者ら。主にエルミス殿、ブランカ殿、ペトラ殿の三人は箒に乗って空から探していた。
飛べぬ拙者は木から木へと跳び行き、辺りに目を凝らして探す。
「キエモンさん。凄い身体能力ですわね……空を飛んでいる私達より速いですわ……」
「しかも私達より詳しく探しているってな~。魔法が使えないのに騎士になれて、更には周りからの信頼が厚い理由も分かったかも知れないや」
「ふふ、ですよね。やはりキエモンさんはスゴいんですよ」
「なんでエルミスが誇らしげなんだ……。まあ、本当にスゴいけどさ」
「そうですわね」
空を行くエルミス殿らの会話は分からぬが、向こうも苦戦はしているようだの。
上空の三人と地上付近の拙者。他所にも集中出来る陣形による探し方は正しいと思われるが、それでも難しかろう。
「見つかりませんわ……キエモンさんはどうでしょう?」
「ウム、拙者も見つけられぬ。難儀也」
「ですわよね……」
数刻は探したが、一向に気配無し。仮に巣があったとしてもずっと巣に居る訳も無く、そこから離れた場所を探さなくてはならぬと考え、到達点はまだ先だろう。
フム、ならば少し観点を変え、集中するか。
「お三方。うぃんどばーどとやらは風を司る鳥という事に御座るの。即ち風を纏っていると?」
「多分なー。生物の授業でやったくらいだけど、風を纏って空気抵抗を少なくして空を飛んだり高度な飛行を可能にしたり、外敵から身を守ったり、基本的に風を纏って行動しているんだってさ」
「フム、ならば風を探れば良いのだな」
「風を……? キエモンさん、一体どうやって」
「肌に感じるだけに御座る」
ペトラ殿から説明を受け、エルミス殿の問い掛けへ応える。
風を纏うのなれば、その鳥が居る近辺だけは風や空気の流れが違う筈。静かで穏やかな空気の森。少し集中すればその場所を見つける事は容易い。
「……居た。北方に数町……いや、この国の呼び方なら数百めぇとる先の場所に空気の流れが違う存在がおられる。上昇し、下降し、移動中。これ程までに飛べるのは鳥くらいだろう」
「数百メートル……北方ですね!」
「本当に鋭いですわね……キエモンさん」
「空気の流れとか、普通分からねえよ……」
北側に向け、木の枝を蹴って進む。
後ろからはエルミス殿らも着いて来、木から木へと跳び移り、彼女らは箒にて風を切って風の流れを感じた所に立つ。
「彼処に御座る」
「あ、本当だ。山の方から降りてくる風なのに逆方向に吹いてる……」
「その中心部に居るのは鳥ですわね」
「つまりあれがウィンドバード……!」
風を全身に感じるよう、逆風であろうと無かろうと優雅に進み行く鳥類。
では、此処からが役割分担だ。
「拙者は主らの行動を見ている。三人だけで捕獲してみよ。必要とあらば助けに入る故、案ずる事はない」
「成る程……力試しですか……!」
「構いませんわ。魅せて差し上げましょう!」
「ブランカ。あまり大声はダメだぜ?」
「分かっておりますわよ……!」
三人の力量を確かめる。
元より飛べぬ拙者であるが、あの程度の速度ならば近くの木から跳び移る事で容易く捕らえられる。
故に拙者ではなく、彼女らの実力を拝見しようと考えた所存。
「基本的に近くを旋回していますね」
「エサでも探しているみたいですわ」
「多分そうだと思うよ~」
先ずは鳥の状態確認。
風に逆らい、その場を回るように飛んでいる。そこからエサが目当てと判断し、三人は箒でもう少し近付く。
途中で三手に分かれ、クルクルと回る鳥を三角形の陣にて囲んだ。
『……!』
(気付かれた……!)
(思った通りですわ!)
(ここから一気に畳み掛ける……!)
鳥が気配を察知し、風を操り上昇。
三人はその後を追い、風が吹く中、箒に立ち杖を構える。
「青き水の精よ。その力を我に譲渡し、対象を捕らえる……! “水縄拘束”!」
「雷の精よ。その力の片鱗を私にお与えし、敵を痺れさせなさい! “麻痺電流”!」
「土の精よ。その力を用い、逃げ場を塞げ! “土壌障壁”!」
エルミス殿が水の縄を顕現させて鳥を追い、ブランカ殿が動きを止める為に速い電流を伸ばす。
逃げ道をペトラ殿が狭め、鳥を誘い込んだ。
良い連携に御座るな。
『……!』
「命中しましたわ! いくら速くとも、雷の速度を越えられる魔物はそうそうおりませんの!」
「逃げ道も絞れたからな!」
「そしていくら暴れても絡み付き、解けない私の水でフィニッシュです!」
暴風にも匹敵する風を打ち出して暴れるが、それもペトラ殿の壁が阻み無効化する。
次第に痺れが回って速度も落ち、絡めるような水縄が全身を抑え込んだ。
『キーッ!』
「……! 最後の足掻きですわね……!」
「ほうきを乗りこなす良い鍛練になりますね……!」
「お、その考えポジティブ~!」
纏った風を放出し、箒に乗る三人を振り落とそうと試みる。
然しそれを鍛練と称し、落ちぬよう堪えた。それについてもブランカ殿の狙い通りだろう。
この中ではあまり箒が得意ではないエルミス殿にとっても、自分にとっても良き修行。暴風を耐え忍び、徐々に力を無くした鳥は落下した。
「これで捕獲完了です」
「楽勝ですわ! やはりC級任務クラスなら問題無さそうですわね!」
「私ら3人の勝利だな!」
捕らえたうぃんどばーどはそのまま拘束。ギルドに差し出し、任務完了で御座るな。
やはりこの三人はかなりの実力を有するであろう。今後の成長も期待出来る。
初任務を終わらせ、残るは“森の動物を大人しくさせて”という一番謎の物だけだ。




