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其の佰陸拾壱 帰国

 ──“スター・セイズ・ルーン、近隣の森”。


「もうそろそろそちらに着く。状況を言えば先程伝えた通りヴェネレ殿が重傷に御座る」

《了解。心得たよ。キエモン君自身はどうだい?》

「軽い掠り傷程度。問題は無い」


 町から抜け、通達の魔道具にて待機しているエスパシオ殿と連絡を取る。

 今のところ追っ手は来ておらぬな。ファイ殿の足とジーカ殿の魔法なれば即座に追い付く事も適うと思われるが、そうでないのを惟るに諦めたか、追わずとも良くなったかのいずれかに御座ろう。

 因みにヴェネレ殿は雷鳥の背に乗せてある。拙者が抱えるよりも揺れも少なく、羽毛の柔らかさも相まって適任だろう。


「暫しの辛抱ぞ。ヴェネレ殿。すぐにエルミス殿の元へと連れ帰る」

「うん……」


 此処からエルミス殿の元までは半日は掛かる。

 近場へ来ているのは主戦力のみだからの。彼女らも戦力になりうるが、こう言った場に慣れている騎士団長などが主体なのだ。

 そうであっても応急処置くらいは出来よう。何にせよ事を急がざるを得ない。


「到着した。エスパシオ殿。直ぐに治療を」

「OK。成る程、これは重傷だ。我らで上手く傷を癒す」

「任せて。ウチら、回復魔法も扱えっから」


 ヴェネレ殿の治療にはエスパシオ殿とフォティア殿が取り掛かる。来ている騎士団長はこの二人だけだからの。

 他にもアルマ殿を含めて何人か居るが、回復術は彼らの方が得意だろう。


「“涼水治療”」

「“ホットヒーリング”」


 ヴェネレ殿の体を清涼な水が包み込み、覆うように熱が伝って温める。

 水と火。拙者の見立てではどちらかは飲み込まれて消え去ってしまうのではないかと存念していたが、それも杞憂に終わった。

 相反する二つは上手く交わり、調和されて彼女の傷を癒していた。


「それで、彼女が通信にもあった星の国のNo.9か。話は聞いている。よろしく。サモンさん。私はフォーコ=マルテ。騎士の軍隊長を努めている」


「私はネプト=アルマ。よろしく」


「そう。私はサモン=プルトーネ。ナンバーに因んだ呼び方もあるけど、それはあまり好きじゃない」


 マルテ殿とアルマ殿がサモン殿へ自己紹介をする。

 理由は此処に来る途中に話した。なので警戒は薄いようだ。それは何より。

 これは拙者の誠に勝手な独断。サモン殿が拙者らの所為せいで不当な罰を受ける必要はないと言う判断の元、連れ帰ってきた。弁明はするつもりよ。


「一先ず国に帰ろうか。次元魔導団と呼ばれる者達を何人か倒したなら“スター・セイズ・ルーン”はちょっとした騒ぎになっている筈だからね」


「そうよの。結果的に都合が良くなった。今は何よりヴェネレ殿の治療が優先ぞ」


 エスパシオ殿らと募る話もあるが、それよりもヴェネレ殿の方が大事。応急処置は済ませても万全ではないからの。

 拙者らは互いに見合わせ、ほうきに乗り、拙者とヴェネレ殿は雷鳥の背に乗せて貰って国へと帰る。


「キエモン。貴方の方が速いのにわざわざこの子に乗るんだ」

「拙者だけが帰っても意味無いからの。それに、ヴェネレ殿の側に居てやりたいのが仕える者の在り方だ」

「そうなんだ。私もそんな人が居るよ」

「……先程ザン殿と話したが、あの国の姫君に御座るか」

「知ってたんだ。そう言えばそんな声が聞こえたような……」


 拙者がヴェネレ殿を思うように、サモン殿は“スター・セイズ・ルーン”の姫君を気に掛けているらしい。

 ザン殿もそうだったようにその姫君は人格者ようだからの。一目会って置けば良かったかもしれぬな。


「その時に聞いた話では月へ想い人が居るらしいが、セレーネ殿。主の記憶にそう言った人物はおるか?」


「分からない……私の夢で出てきた人は母親っぽい人だけだから……」


 星の国の姫君について、月の記憶を僅かながら思い出したセレーネ殿へと聞いてみるが、ただでさえ曖昧なモノ。夢では母親以外に居なかったようだ。

 拙者は「そうか」と返し、言葉を続ける。


「手掛かりは御座らんようだ。結果的に主をさらった手前、何かしらの役に立ちたかったが申し訳が立たぬ」


「うん……もっとはっきり覚えていれば……」

「セレーネ殿が悔やむ事はない。主に聞く事でしか存ぜぬ拙者の方が恥よ」

「けど……」

「2人とも気にしなくていいよ。知ったところでどうこう出来ないだろうからね。いずれは辿り着けるかもしれないし」


 拙者らは優しいと申される姫の力にはなれぬようだ。それは残念。

 だが彼女自身があまり気にしておらぬな。元より月へ赴く術も無いので仮に知れたとしても牴牾もどかしさが増すだけかもしれぬのが現状か。


「なれば此処は保留としておこう。この速度なれば明日までは国に帰れるだろう」


「隣国と言っても私達の国と貴方達の国は何千キロも離れてるからね。速い方だと思うよ」


「それもそうよの。何千里とあろう距離を一日で渡れるのは大きなもの。船ではなく空を高速で行けるのがそれを可能にしているので御座ろう」


 数千里。故郷で思えば蝦夷や琉球……はまだ近場だの。日本からみん程の距離か。

 皆と共に一日で行けるのは有り難い。ヴェネレ殿の治療も直ぐに行える。彼女が生きてさえくれるのならば傷は癒えよう。

 彼女の身を案じつつ、拙者らは国へと急ぎ帰る。



*****



 ──“シャラン・トリュ・ウェーテ”。


 あれから休まず国へ向かい、着いたのは数刻を経た朝方に御座った。

 星の国を発ったのは既に午後を回った頃合い。ヴェネレ殿への負担を案じ、全速力で無かったのを惟ても上々の時間だろう。


「エルミス殿。朝早くから申し訳無いが、ヴェネレ殿の治療を頼みたい」


「ふぇ……キエモンさん……は、ひゃい。分かりまし……ヴェネレ様が!?」


 まだ日が昇って一刻程しか経っておらぬ頃合い、眠気眼のエルミス殿へ無茶を承知して頼んだ。

 何故かフォティア殿は一人部屋であるエルミス殿の元に向かうなら拙者だけと推奨していたが、それは兎も角として重傷と聞いた彼女は寝惚けながらも寝間着を替えた。

 拙者が居るのだがの。彼女の感性はヴェネレ殿と同じく男女は別と言ったモノの筈。迅速な治療に当たれるので都合は良いが。


「エルミス殿。主、拙者の前で着替えても良いのか?」

「え……? はっ! そ、そうでした。ど、どうしましょう!?」

「いや、手を止める必要は御座らんよ。目を閉じている故、どうぞやってくれ」

「は、はい!」


 気付き、半裸で手を止める。少し遅かったかの。拙者は目を綴じ、着替え終えたのを確認したのちヴェネレ殿の元へと向かう。


「酷い傷……すぐに治します。──癒しの力よ。彼女の傷を塞ぎ、安楽を与えん。体を治療する……“ヒール”!」


「……っ」


 完璧な回復術をもちいてヴェネレ殿の傷を癒す。

 あまりの重傷なので治す時にも微量な痛みが生じるのか、ヴェネレ殿は少し顔を歪める。

 然しそれは直ぐに消え、剥がれた爪、折れた歯や骨。出血やアザなどが消え去り、見事完治した。


「……治りました」

「流石だ。エルミス殿。忝なし」

「い、いえ。私もヴェネレ様にはお世話になっていますから。力になれて何よりです」


 物の数秒であれ程の傷が完治する。正に完璧な回復術。彼女の力には感銘致す。

 周りにも安堵の色が窺え、次第にヴェネレ殿も目覚めた。


「ここは……」

「自国の城に御座る。ヴェネレ殿」

「キエモン……とエルミスちゃんにみんな……そっか。エルミスちゃんが治してくれたんだね。ありがとう」

「い、いえ。私もヴェネレ様にはお世話になっていますから。力になれて何よりです」

「全く同じ事を申されておるな」


 照れ隠しか、同じ言葉で謙遜する。

 本人はそうなのだが、拙者らにとって彼女の存在は有り難しモノ。今回ばかりは謙遜する事も無かろうて。


「もう、無茶ばっかり……貴女、一国の姫なんだよ。ヴェネレ様」

「ミルちゃん。心配掛けてごめんね。もう大丈夫。傷は癒えたから」

「傷についてじゃなくて貴女の行動について指摘してるんだけど」

「それには返す言葉もございません……」


 無茶をしたのは重々承知しておるご様子。拙者らのような一兵士の無茶とは違い、彼女のそれは一国の危機となる。

 若くとも戦争や病気で死する事はあるからの。やはりヴェネレ殿には国に留まって頂くか。然し……いや、何よりも先ずは謝罪せねば。


「面目無い。ヴェネレ殿。主を御護り致すと誓ったにも関わらずこれ程の手傷を負わせる結果となってしまい。申し訳が立たぬ。それもこれもジュウを倒した後、ザン殿と遊ばず終わらせるべきだった。つい楽しさが増し、結果的に貴女様を傷付ける羽目に。主君への詫びとして拙者、腹を切り申す」


「そんな事しないでいいから! 本当に!!」

「なれば髷を剃り、断髪して貴女への謝罪を改めて」

「それもしなくていいよ!!」

「然しそれでは貴女様を護ると誓った事へのケジメが付けられぬ」

「ちゃんと守ってくれたよ。キエモンは」


 腹を切るか髷を剃る。それは武士が行うケジメの付け方。

 今後もヴェネレ殿を護るのなれば腹を切る訳にはいかぬが、せめて髷を剃るくらいはさせて欲しいもの。

 拙者だけの問題ではなく、部下の騎士に好き勝手されてはヴェネレ殿の王としての威厳にも関わる。元を言えば今回の件、及びサモン殿を連れ出した事など拙者の我が儘なのだから。

 やはり腹を切るべきか……それでヴェネレ殿を護れなくなれば恥ともなる。悩みどころよ。

 ヴェネレ殿も「えーと」と悩みを見せ、思い付いたように話した。


「それじゃ、今後も私を守ってよ。そもそも今回の同行は私が名乗り出た自業自得だし、私自身も賛成したから本来はケジメなんて付ける必要も無いのに。どうしても何かしてあげたいなら……その……今後も私の力になって。……出来ればずっと、側に居て……」


「……? 最後の方の声が小さかったが……ヴェネレ殿の御力になるのは当然に御座ろう。許しを得られるのなればヴェネレ殿に永劫お仕え致す」


「……ふふ、ありがと。キエモン♪」


 彼女の願いは側に付き、共にある事。

 それは今までと変わらぬ気もするの。果たしてケジメと呼べるか怪しいが、彼女がそれを望むのなれば拙者は従うまで。


「ぐぬぬ……やはりヴェネレ様には一歩劣るような……」

「エルミー! まだまだ大丈夫っしょ。あくまで仕事とかそっち方面が強いみたいだからさ!」

「ちょ、フォティアさん……!」


 拙者とベッドに寝るヴェネレ殿の余所でエルミス殿とフォティア殿が何かを話しておる。

 ヴェネレ殿が治り、感覚が何時ものように戻ってきたの。


「さて、私も治ったし、しばらくは安静にするけどもう平気。後はサモンちゃんに埋め込まれた発信器の魔道具を取り除かないとね」


「そうよの。何時この場に星の国の使徒がやって来るかは分からぬ。早いうちに処理しておくべきだの」


「じゃあまずはそれからだね。戦争についても話し合わなきゃだけど、名目上は捕虜になるサモンちゃんを守ろう!」


「私を守ろうって……まあいいけど」


 やるべき事は色々とある。サモン殿の問題と戦争計画について。

 丁度今は朝方。今日だけでも話し合う時間はある。戦争を止める為、サモン殿を護る為に精進しようぞ。

 拙者らは各々(おのおの)で行動を開始するので御座った。

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