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其の佰陸拾 町からの脱出

 ──さて、この戦力差。覆すのは難しくもないが、今以上に目立つ訳にもいかなかろう。よって今回はどうするべきかを決めた。


「ヴェネレ殿。そろそろ本格的に切り上げるとしようぞ。察しは付いているであろう。おそらくはあの二人が主力。故に逃亡を図る」

「うん。それには賛成。だけど今の私はそんなに大きく動けないよ」

「見れば分かる。打ち倒したようだが、全く無茶しおって……」

「アハハ……あの女の人にも無茶するって言われた……」

「誰が何処からどう見ても一国の姫君がする無茶ではないからの。その辺の感性は持ち合わせているので御座ろう」


 ヴェネレ殿の傷を考え、拙者が切り開いて抜けるのが得策。

 ほうきの操作は少し不安だがサモン殿に任せよう。やや傷付いているが獣達も居るが為、移動については気にする事も無い。

 となると問題はあの二人組みの男女。如何様な魔法を扱うのか。階級はどれ程か。色々と疑問はあろう。


「さて、主らは何者ぞ。後ろに居る有象無象とはまた違うような面持ちだ」


「当然よ。私達は二人とも次元魔導団。後ろの烏合の衆と一緒にしないで」


「そうだね。自己紹介をしておこうか。僕は次元魔導団のNo.5。名乗るならファイかな」


「なら私も。私はNo.5より上のNo.4。ジーカと名乗ってるわ」


 ファイとジーカ。なんばが“なんばぁ”。即ち番号を意味するなれば“ふぉう”と“ふぁいぶ”は四と五という意味。

 ザン殿よりかは下だが、上に位置する者のようだ。


「そうか。ファイ殿。ジーカ殿。では、しからば御免」

「ちょ、自己紹介だけさせてどこに行くのよ!?」

「逃げるみたいだね。合理的な判断だ」


 ヴェネレ殿を優しく抱え、鬼神をもちいて一気に駆け抜ける。

 多少は揺れるが傷に響かぬよう気を付けておる。近くにて話を聞いていたサン殿らも理解し、各々(おのおの)でほうきと獣に乗って突破を目指す。


「行かすか!」「通すか!」「やらせるか!」

「邪魔立てするでない」

「「「…………!」」」


 大勢居る兵士達が立ちはだかるが、所詮は寄せ集め。今回はまだ自己強化の魔道具も使っておらぬようだからの。

 余裕を以て突破し、出口となる外門の方へと駆け抜けた。


「仕方無いわね。私が連れ帰るわ」

「そうか。任せたよ。No.4」

「ええ」


 瞬間、世界から色が無くなったような錯覚を覚えた。

 一体どの様な力か。立ち止まって背後を見れば何故かセレーネ殿らが止まっておる。動きを止める魔法を使われたのか。


「──私の魔法は時間の操作。対象を加速させたり遅くさせたり停止させたり、世界その物を止めたり。ありとあらゆる物事を操る。本来止まった世界は寒く、自由に息も出来ないけれど……ただ唯一私だけがその世界を自由に動ける。No.4なのが惜しい程に最強を謳える能力。だけどNo.3~1は一線を画すからね。まあ、まだまだNo.3は自分の力を理解していないし、現時点での応用性は私の方が上かしら」


「………」


 長々と己の力について説明するジーカ殿。

 何を言うておるのかは存ぜぬが、凄い力を有しているのだろう。


「……まあ、全てが止まっているアナタ達に言っても聞こえていないんだろうけど。だからこそ説明したのよ♪」


「………」


 彼女は何を申しているので御座ろうか。今現在拙者に聞こえているというに。

 その様な事を考えていると世界に色が戻り、セレーネ殿らも動き出した。

 どうやら動きを止める魔法は解除したようだな。


「……!? いつの間に前へ……!」

「ふふ、アナタ達には分からないわ。この素敵な魔法についてはね♪」

「……っ」


 ヴェネレ殿の反応もおかしいの。拙者が邪魔で見えなかったか。長々と語りつつ、ゆっくりと迫ってきていたのだがの。

 構わぬ。逃げるとするか。


「また止められては大変だ」

「……!? その発言……貴方……!」


 呟くように言い、再び駆け出す。

 ジーカ殿は不思議な反応をしたの。何をそんなに驚いておるのか……いや、人々の動きを止める魔法らしいの。一番遠くに離れていた拙者が止まらなかったからこその驚きだろう。


「そんな筈は……!」


 そして再び世界から色が無くなる錯覚を覚える。

 となるとまたセレーネ殿らが止まってしまっておるな。……む? 待てよ。拙者が抱えるヴェネレ殿も動きが止まっておる。この位置まで届いていたのか。


「止まっている……わよね……?」


 窺うように覗き込むジーカ殿。その顔には困惑と疑問の色が見られる。

 何をしたのか。小難しい説明では分からぬので此処は本人に聞いてみよう。


「……失礼だが……」

「うっひゃあおう!?」

「……!?」


 驚いた。なんぞこの反応は。先程までの余裕が一気に消え去り、後退って腰を抜かす。


「び、びびび……ビックリしたぁ……! ア、貴方……動けるの……!? 私の世界で……!? うひゃあ……」

「驚いたのは此方こちらぞ。それに、拙者には当たらなかったのだろう。だから動けておる」

「い、いや、当たる当たらないの問題じゃなくて動いているのが変なんだって……今まで動けたのはNo.6くらい……それでも呼吸とかが止まるから数十秒しか止めちゃダメだったり、No.6の周りだけ停止を避けてたのに……」


 動ける事が変とな。よく分からぬ。詳しく聞きたいところよ。


「すまぬが、もう少し噛み砕いて説明してくれ。拙者には分からぬ」


「そもそも普通に話せてるものね……今の時点でNo.6の周りには影響を与えてないけど、アナタ達は例外……」


「駄目ぞ。話をしてくれぬ」


 考察に集中してしまい、拙者の言葉は聞いてくれぬ。

 これは今のうちに去るのが正解か。いや然し、セレーネ殿らを置いて行く訳にもいかぬ。サモン殿の発信器も取り除かねばならぬしの。


「世界その物が対象……どうするべきなの……彼とこの世界で一緒に生きてく……何の影響も無く私の中に唯一対等に入り込めるものね……あれ、考えたらやっぱり適正じゃない」


「何を呟いておるのか……」

「ねえ貴方。私と結婚しない?」

「せぬ。拙者の話は聞かぬのに一方的に申すでない」

「残念。フラれちゃったわ……私の世界を真の意味で共有出来る人なのに……」


 唐突な求婚。駄目だ。彼女の全てが分からぬ。

 ある種、今までで一番の強敵かもしれぬな。自分の領域に相手を乗せる。なんという存在か。


「……。1人でも動ける人が居ては私は不利ね。No.3を倒しちゃうんだし、正面からやったら負けそう。……解除」


「……! またいつの間にか前に……!」

「フム、やはりヴェネレ殿は気付いておらぬか」


 世界に色が戻り、ヴェネレ殿が先程と同じような反応を示す。

 何かしらの力を解除した様子。これもまた先程と同じような光景。何かを作用させ、世界を止めるのが彼女の魔法に御座るか。


「貴方本当に何者なの? 私の中に入るなんて……」

「え!? 中に!?」

「主が勝手にした事であろう。拙者に言われても困るぞ」

「何があったの本当にィ!?」


 拙者とジーカ殿の言葉に困惑の色が隠せぬヴェネレ殿。

 先ずは彼女へ説明するとしよう。


「ジーカ殿へ求婚された」

「ヴェ!?」

「断ったがの」

「そ、そうなんだ……」


「私の初めて(の魔空間共有)を奪っておいて断るなんて無粋な男」

「は、ははははははははじ……!?」

「知らぬがな。ヴェネレ殿も混乱するでない。拙者に奴の魔法が通じなかっただけだ」

「あ、そう言うこと……」


 わざと語弊を生むような話し方をしておるの。

 ヴェネレ殿が何故か安堵し、ジーカ殿はファイ殿へと話し掛けた。


「No.5。どうやらこの男に私の力は通じない。援護を頼むわ」

「へえ。No.6以外でそんな……面白そうだね」


 援軍か。だが、と拙者らは今のうちに一気に駆け出した。

 セレーネ殿らも当然。また何かをされるよりも前に見えてきた門に向かう。


「逃がさないよ。アマガミ=キエモン」

「ほう? 中々に速いの」


 馬よりも速く迫り、ヴェネレ殿を抱える拙者へ回し蹴りを打ち付ける。

 その風圧で地面が抉れ、踵を落として大地を割った。


「人間の出せる力じゃない……けど貴方は単純みたいだね……」

「そうだね。ヴェネレ王。僕はファイトスタイル。単純な肉弾戦特化。だけどNo.6よりは遥かに力があるよ。彼と僕の強さは方向性が違うから一概には言えないけど」


 単純な殴る蹴る。それがファイ殿の在り方。

 此方は分かりやすいの。重力やら次元やら時間やら複雑な魔法ではなく、この様な者ばかりなればやり易いと言うに。


「さて、僕達の追跡から逃れられるかな」

「例えキエモンだけが逃れても、私の力はそれ以外に作用する。そしてあれだけがやり方じゃない……方法はいくらでもあるわ」


 ファイ殿とジーカ殿が同時に詰め寄る。

 二人とも速いの。ファイ殿は兎も角、ジーカ殿の言っていた加速させると言うのはこういう事か。


「続けェ!」

「「「オオオォォォォ!!」」」


 指示と共に他の兵士達もほうきに乗って迫り来る。

 これまた難儀だが、有象無象の方は問題無かろう。


『ヒュオ!』

『ゴロォン!』

『ウッホー!』

「食らえ! “超絶魔術改”!」


「「「…………!?」」」


 サン殿らと獣達が打ち落としてくれる。

 氷、雷、魔術はいずれも範囲技であり、鉄によって壁も造られておる。

 直ぐ様主戦力を削れば逃走にも成功するというもの。


「負傷者を抱え、この高速の攻撃をどうこう出来るかしら!?」

「僕達もそれなりに必死なのさ。キエモンさん」


 目まぐるしく動き回り、拙者を挟み込むような攻撃。

 それを跳躍にてかわし、追尾するようファイ殿が拳を打ち上げた。


「凄まじい圧力によって飛ばされた空気は、ちょっとした上級魔法にも匹敵する力となる!」


「成る程の」


 拳自体は当たらぬが、拳によって弾き飛ばされた空気圧は別。

 さながら大砲の如き塊が突き抜け、拙者は小太刀にてそれを切り裂いた。

 そのまま進んだ空気圧は上空へと消え去り、雲を割って晴れ間が見える。


「超速で空気を踏めば空中に上がれる。空気を停止させればそれに乗れる。私はほうきに乗らずとも空中戦が可能よ。キエモン」


「その様だの。ジーカ殿」


 タタンと軽快に空気を踏み、高速で迫り来るジーカ殿。

 拙者は既に落下途中。体勢を立て直す事は叶わぬが、何とか腕を動かし鞘を振るって空中で動く。

 後は己で風を起こし、方向転換と共に地面へと着地するよう降り立った。


「無理矢理体を動かして……貴方も無茶するわね」


「これくらい軽い事よ」

「ごめんね。キエモン。私が動けないばかりに……」

「ヴェネレ殿が謝る事は無かろう。言ってしまえば拙者らを連れてきた星の国の帝王が元凶だからの」


 重傷であるヴェネレ殿へ負担を掛ける訳にもいかぬ。避けに徹するのも一つの在り方だが、それによって伝わる振動などは重荷になろう。

 早いところ治して頂きたいものだ。


「はぁ……はぁ……」

「ヴェネレ殿。体が熱くなっておる。早くも傷口が熱を持ってしまったか。衛生的にあまり宜しくない場所。大丈夫に御座るか?」

「私は……大丈夫……ちょっと血を出し過ぎたかな……血液が足りなくなってるかも……」

「ちとマズそうだ」


 骨が複数本折れ、外傷も目立つヴェネレ殿は肉体的にも限界が近付いておる。

 血を流し過ぎており、体に掛かっておる負担も想像を絶するものがあろう。痛みによって却って痛みを感じなくなっているが、それが良からぬ傾向なのは明白よ。


「一つ断りを入れたい。今現在、我が主であらせられるヴェネレ殿が苦しんでおる。故に失敬ながら無作法で即座に終わらせる」


「「…………」」


 時間は惜しい。主君の為なれば命を賭す覚悟だが、その主君が居なくなっては元も子も御座らん。

 故に、拙者なりのやり方でこの場を切り開く。


(気配、呼吸、それらが示す位置。この場に居る者達が同時に動き、誰一人として交わらぬ場所)


 大凡おおよその位置を把握した。これなれば巻き込む事無く現状を打開出来よう。

 打刀に力を込め、片手に構える。


「何かが来るわ……」

「ああ、そうだね。けど……動いたら死ぬ」

「勿論理解しているわよ」


 二人は様子を窺い動かない。

 聡明よの。拙者の動きを理解しておる。

 鬼神の気配が高まり、この場全てを威圧する。刹那に振るい、縦に斬撃を放出した。


「「……っ」」


 大地と空が割れ、第二都市と中心部の外門が両断。城にも切れ込みが入った。

 既に何十里も離れているが、我ながら鬼神は凄まじいの。それを理解した。

 砂塵が立ち込めり、拙者らは一気に駆け出す。


「では、然らば御免!」

「バイバイ……」

「サラバじゃー!」

「逃げられた……の……」

(私は人質。私は人質……)


「……っ。待て……!」

「……無駄、かな」


 誰も殺めておらぬが蹴散らす事は叶い、外門を抜けた。

 未だに星の国の陣地だが町から離れる事には成功する。此処なれば騎士団長の何人かとアルマ殿らもおるからの。

 このまま国へと帰れば損した物は無く、得られた物が多く手に入った。紛れもなく拙者らの勝利に御座ろう。

 短くも長い星の国からの逃亡劇。拙者らは逃げ仰せる事に成功した。

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