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其の佰伍拾玖 増援

「はあ!」

「……!」

「やあ!」

「……っ」

「であーっ!」

「……ッ!」


 炎魔法で加速させ、殴る蹴るの暴行を働く……って誤解を生みそう。

 だけど何も間違ってない。指が砕けても勢いに任せて打ち付け、爪が割れても蹴りを叩き付ける。

 痛い、凄く痛い。既に手足はボロボロ。骨は折れ、爪は剥がれ、そこに砂や埃が入り込んで更なる出血を滲ませている。

 泣きたいくらい痛いし力ももう入らないけど、私でも勝てるかもしれない敵の主力。既に相手は満身創痍。まだまだまだまだ突き立てる!


「手足が砕けても……!」

「……!」


 直進的に突き抜け、そのまま頭突きをかます。

 この勢いでの頭突き。首筋が凄く痛い。骨への衝撃は回復魔法で和らげているけど、寝違えたみたいな痛みは残る。

 顔を上げるだけで引きるような痛み。でも、私が死ななければ傷は全部治る!


「女性がそこまでする必要はありませんよ。私、よく生身で戦うから分かるのです。女性は体が柔らかく、男性より筋肉量が少ない。その為、近接戦闘を行えば先に砕けるのは女性の方々。戦い好きでも他人が苦しむ様を見るのも好きではありませんので……見ていていたましいですよ」


「関係無いね……! 肉体を犠牲にするだけで貴方に勝てるならそれで良い!」


 砕けた足で踏み込み、炎で加速。

 この移動方法も大分慣れた。しかも今は痛すぎて徐々に痛覚も感じなくなりつつある。

 ヤバい一歩手前なのは理解しているけど、それを差し引いても確実に打ち倒す!


「はあ!」

「……ッ!」


 すれ違い様に拳を一撃。速度は緩めず、旋回して更なる追撃。更に、更に更に更に更に連続して殴る蹴るの応酬。

 ムツの体に当たる度に私の腕も砕け、足も砕け、青み掛かる。けどそれこそ今更問題。既に両手足の骨は折れてる。複雑骨折も良いところ。なんなら慣性で皮膚と肉が千切れて飛んでいっちゃうかもね。それも覚悟の上。


「後少し押し込めば、貴方の体力は持たない!」

「貴女もですよ」

「……っ」


 炎の加速と共に頬へ拳を打ち付け、ムツはクロスカウンターの形で返した。

 勢いそのまま私の顔にも拳が突き刺さり、奥歯が割れるように飛んで地面に落ちる。

 もう永久歯だけど、あれを持って帰ればエルミスちゃんが治してくれる。口の中は既に鉄の味が広がってるし、依然として関係も問題も何もない!


「サンちゃん! その歯、拾っておいて! ちゃんと歯磨きしてるから綺麗だよ!」


「わ、分かったのじゃ! わらわはこやつには戦力外。先のやり方では殺してしまう可能性がある。だから主の助けになる事はするぞ!」


「ありがと!」


 サンちゃんはワガママに見えて物分かりが良い。

 今の時点で有効打を与えられないのも理解しているからこそ邪魔になら無いようにセレーネちゃんの近くで待機している。

 既に次元の拘束は取れているみたいだし、2人とサモンちゃん、使い魔達は大丈夫そうだね。


「お姫様がする頼みでも戦いでも無いでしょうに!」

「……っ」


 会話の隙を突かれ、鼻先に膝蹴りが叩き込まれる。

 意識が飛びそう……自然に出てくる涙で視界も悪くなってく。上唇にサラッとした液体の感覚……鼻水じゃなくて鼻血かな。変な方向に曲がってる。痛みはまだ体が追い付いてないけど、鼻が折れたみたい。


「しょんな事、知ってりゅよ!」

「呂律が回らなくなっていますが……貴女は構いませんか……!」


 呂律程度、どうでもいい。それを気にする暇があったらドンドン仕掛けてく。

 左右へ叩き込むように手の平を打ち、顎したに忍ばせて肘から炎を放出。顎を砕くつもりでアッパーを放った。


「……ッ!」

「前歯数本折れちゃったね……!」

「貴女もね……!」

「カハッ……!」

「貴女の場合は肋骨が数本ですか」


 胸元に膝蹴り。凄く痛く、本当に骨は折れたみたい。

 けど私って運が良いね。折れた骨が肺に突き刺さらないもん。だったらまだやれる。


「“フレイムヒール”!」

「……」


 私には回復が出来る。相手にはそれが出来ない。

 これは大きなアドバンテージ。鼻や口にも応急処置施したから呂律も戻った。

 あと、考えてみたら素手以外でもやれそうだよね。重点的に利き腕を治し、既に落としていた杖を拾って向き直る。


「今更魔法など……という訳では無さそうですね。それを得物としますか」

「その通り!」


 杖を使って直接殴る!

 私にはキエモンって言うお手本が居るんだもん。剣術はよく分からないけど、彼の動きを思い出せばそれなりに立ち回れる。


「やあ!」

「……!」


 杖を振り下ろし、ムツは手の平でいなすように避ける。

 そのまま杖が引かれ、再び顔へ膝蹴り。また意識が揺らぐけど、そこは気力で踏ん張って戻す! お姫様は根性!

 数ヶ月のハードワークで精神は鍛えられたからね!


「らぁ!」

「まだ動きますか……!」

「それはこっちのセリフ!」


 足を掴み、炎を放出してその遠心力でムツの体を振り回す。

 本来なら人一人も持ち上げられないくらい非力な私だけど、炎魔法で加速すればそれも可能。拘束出来ないのが少し気掛かりなくらい。


「……っ」

「すっぽ抜けちゃった……けど……!」

「更に……!」


 手から飛び出し、数メートル先に吹き飛ぶ。

 この距離なら炎の加速で追い付き、杖の先端をムツの腹部へ突き刺した。


「グハッ……!」

「さらにもう一発!」


 突き刺した杖を支えに跳び、空中回し蹴りでその顔を蹴り抜く。

 フラフラと揺らぎながら進み、何とか倒れる前に留まる。向こうの精神力もかなりのものだけど、肉体的なダメージは必ず残る!


「魔法とか杖だけじゃないよ! 魔法使いの武器は!」

「果たして物理攻撃主体の貴女を魔法使いと呼ぶのか疑問ですね……!」

「名付けて、物理魔法、ほうき殴り!」


 リーチは杖よりほうきの方がある。まあ今は真っ二つだからそうでもないけど。

 それはそれとしてほうきの先端を放り投げ、拾い上げる。杖と折れたほうきの片方からなる、キエモン風に言うなら二刀流で行く。


「はあ! やあ!」

「くっ……!」


 相手はもうほとんど動けない。だからこそさっきから私の単調な攻撃が当たっている。

 横殴り、突き刺し、薙ぎ払い、縦下ろし、足の裏から炎を放出。


「貴方が今までよく使ってた……名付けて“膝蹴り・改”!」

「……ッ……!」


 勢いが増した膝蹴り。もはや一種の魔法。膝の皿が割れないか心配だったけど、その点は大丈夫みたい。

 私の膝蹴りで空中に舞い、サンちゃんが再び土塊を操った。


「これで捕らえて逃走じゃ!」


 既に意識がないムツ。あの土塊の中に閉じ込めれば意識が戻ってもすぐには抜け出せない。

 これで私の勝──


「──してやられてしるわね。No.6。彼女、ただのお姫様じゃないみたい」


「……え……?」


 ──勝ちを確信した瞬間、空中に浮かんでいた筈のムツが1人の女性に抱えられ、寝かされていた。

 静かな青銀髪が風に揺れ、静謐な青と白のオッドアイでこちらを見やり、


「可愛い顔がボロボロね。貴女……お姫様なのに無茶するわ」

「……!?」


 次の瞬間には眼前に来ており、私の砕けた顎を悼ましそうに見ていた。

 クイッと顎が持ち上げられるけど、痛みは感じない。感覚が麻痺してるからね。……って、そんな事より……!


「貴女! いつの間に……!?」

「ふふ、驚かせてしまったかしら。ごめんなさいね」


 不敵な笑みを浮かべ、私から離れる。

 今度はちゃんと移動している様が見える。けど、彼女のあれは一体……。


「……おや、No.6もやられたか。捨て身で挑んでくる人は強いよね。実際」


「……そ、そんな……」


 声の方を向くと、1人の男性が無数の兵士達を引き連れて来ていた。

 そりゃそうだよね……あんな派手に暴れたら流石に増援が来ちゃうか。


「……っ。結構厳しい状況だね……」

「うむ……このままでは捕まってしまうぞよ……」

「大変……」

(あの二人も出てくるなんて……気絶したふり気絶したふり……ヴェネレ姫。力になれなくてごめんなさいね)


 態度的にまた次元魔導団かそれに準ずる人達が2人。そしてかき集められた星の国の兵士達。

 その数ざっと100人以上。うん。今のボロボロな私にはもうどうする事も出来ない……って、諦めちゃダメ。キエモンは別次元で戦ってるし、私もしっかりしなきゃ……!

 せめてキエモンが来るまで耐え──


「──……さて、これはどういう状況に御座ろうか。ヴェネレ殿。一番の問題点は貴女様の負傷だが」


 そして、そう思った矢先に当のキエモンがザンちゃんを抱えて現れた。

 やっぱり彼は来て欲しい時に来てくれる。

 ……と言うか今、次元を縦に斬ってたよね? 一体どゆこと?

 安堵と疑問と困惑。それらが混ざり合い、私は掠れた笑みでキエモンに返す。


「アハハ……傷は大体反動的なあれだけど……状況は流れでこうなったかな……」


 取り敢えずあまり心配は掛けたくないからテキトーに調弄はぐらかす。

 ……って、もう手遅れか。私の負傷を見たら心配してくれるもんね。

 その横で現れた人達も話す。


「No.3がやられたの。思ったよりも手強そうね」

「お姫様一人にNo.6も重傷。“シャラン・トリュ・ウェーテ”。その戦力は思った以上みたいだ」

「なぜ捕まったのか理解し兼ねるわ。いえ、わざとと考えるのが妥当かしら」

「そうだね。資料室で倒れている兵が居た。つまりそう言うことだ」

「つまりそう言うことね。大変」


 淡々と機械的に分析し、理解する。

 うわー……なんかすごい仕事人って感じ。仲間がやられてもちょっとやそっとじゃ動じないんだね……。No.3とNo.6が倒されてるのに……。


「ヴェネレ殿。その傷はあの二人にか?」

「あ、ううん。違うよ。キエモン。あそこの……ほら、倒れてる人。あの人とほぼ引き分けてこうなっちゃったかな」

「刺し違えという事に御座るか。これは難儀な……」

「ハハハ……今回は強ち間違ってないかも」


 やっぱりキエモンは私を心配してくれた。

 なんか嬉しいよね。他の人に心配されるって……はっ、もしや絵本のお姫様は心配されたくて演じているのかも……! ……そんな訳ないか。


「さて、如何致す。ヴェネレ殿。あの者達を斬るか、脱出を優先するか」

「……脱出かな。あんな大人数相手にしていたらキリが無いもん」

「心得た。では、ヴェネレ殿らの活路をお開きになって御見せしよう」

「うん……けど、自分も大事にね。キエモン」

「主もの。然し、了解した」


 私達を護り、逃がす為に囮役を担う。

 結局私はキエモンに頼りっぱなし。今はもう痛みも感じ始めたし辛くなりつつある。だけど足手纏いにはならない!

 私達と星の国のNo.6、ムツの戦闘では私達が勝利した。だけどまだ脱出は出来そうにないかも……。

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