其の佰伍拾肆 番号
「戦力差は歴然……さあ、私達を逃がして!」
「勢い付いてきたの。ヴェネレ姫。然し、この程度で差と言えたものか」
「…………」
ザンちゃんの言葉には一理ある。
特訓しているとは言え、まだまだ完全に魔法……じゃなくて魔術が使えないサンちゃん。そして不思議な力はあるけど、戦闘向きでは無さそうなセレーネちゃん。
この場に駆け付けた雷狼、鉄猿、大蜘蛛。
小国を転覆させる事くらいは容易い存在を思えば私達が有利だけど、彼女にはそれが出来るか不安になるだけの説得力と魔法があるからね……。
次の瞬間に異変種のみんなが倒されてもおかしくないくらい。
「のう。ヴェネレぇ。人に向けて魔術を撃つのはダメと言われたが、あの者に撃っても良いのか?」
「うーん……多分。下手したら命を取り兼ねないから加減はしてね。加減して勝てる相手じゃないけど……」
「手加減するのかしないのか分からぬの。じゃが、取り敢えずはやっても良いのじゃな?」
「うん。取り敢えずはやっても良いよ」
サンちゃんが本気を出せば、どれ程の被害が及ぶかは分からない。
だからこそ心の奥底に加減するよう枷を付けている。多分、私が言わなくても手加減はすると思う。
戦わなくちゃ逃げられないと考え、一先ずの臨戦態勢に入った。
「待っててくれたんだね。ザンちゃん」
「まあの。この場で手足を奪うのも卑怯 元より命を奪う訳ではないからな。作戦会議くらいは待ってやる」
「命を奪う戦いだったら待ってくれないんだ……」
「それは当然だろう」
私達の会話を待っていてくれたザンちゃん。理由は今言われた通り。
彼女は杖を構え、私とサンちゃんも構える。
「女子供の四肢を切り落とすのは心が痛む」
「させない……と言うか君も女の子……」
「……!」
即座に斬撃が迫り、セレーネちゃんが前に出て庇う。
本来ならあの斬撃は彼女を切り刻むけど、あろう事か魔力が避けるように軌跡を描き、背後へと飛んで木々を斬り落とした。
「……今のは」
「セレーネちゃん。今のって……」
「私の体にあるっぽいおまじない……」
前に言ってたやつだ。夢で見た記憶からより鮮明になったみたい。
セレーネちゃんを傷付ける何者も拒むまじない。あんな概念的に作用するんだ……。
「不思議な力。月の巫女だからあっても変じゃないかの。厄介だ」
「また月の巫女。ミコってなに……?」
この国、やっぱり月に関する情報を色々持っているみたい。だけど確証が無いから月出身のセレーネちゃんや月の血筋の私を攫った。
キエモンやサンちゃんの事とか色々と謎は残っているけど、彼女を倒せたら話を聞いてみよう。
「攻撃を防ぐなら、攻撃じゃなければ良いだけよ」
「成る程……。動けない……」
「次元の拘束……! 初動すらなく介入するなんて……!」
セレーネちゃんの手足を、先程の私みたいに拘束する。
動きは分からなかった。杖は常に持っているから魔法は使えるんだけど、反応出来ない程なんて。
「……ヴェネレ。私は動けないけどやられない……だから敵が攻撃してきても私の近くは安全……」
「そ、そう。割と平然としているね……」
「動けないだけで痛くないから……足は少し疲れるけど……」
「そう言う問題かな……」
囚われていても、傷を負う事が無いと分かっているのでセレーネちゃんは平静を保っている。
彼女の精神力は私も見習わなくちゃね。自分で言うのもなんだけどオドオドしてたり焦ったりが多いし。
「食らえ! “超強い魔術”!」
「強ち間違っていないの、この威力」
またテキトーな呪文と共にサンちゃんが仕掛け、何の変哲もない魔力の塊を射出した。
何でもないただの魔力が放つエネルギーは凄まじく、ザンちゃんはまた姿を眩ませる。
「見たところ腕をそのまま触媒とする魔術。ならそれを斬れば良いだけだ」
「危ない! サンちゃん!」
「腕を斬られるのは困るのじゃ!」
杖が振るわれ、サンちゃんは魔力を放出してセレーネちゃんの近くへと飛び行く。
斬撃はまた逸れ、何とか当たらずに済んだ。
サンちゃんの魔力からなる推進力。スゴく速いね……そんな感想しか出てこない。
『………』
「クモ。何故改造生物が私へ仇なすのか」
大蜘蛛が糸を吐き、ザンちゃんの体を拘束。そこへ鉄猿、雷狼が飛び掛かった。……今更だけどそれが正しい名前なのかな……キエモンがそう言っていただけだけど……。
「鉄格子という訳か。親切に雷を付与して脱出の難しい物となっている」
クモの糸で拘束され、周囲に生えた金属。それを電流が通り、かなり頑丈な檻が作られた。
「だが、私の前には如何なる硬さも無意味」
「そうなるよね……」
杖は振るえないのに、クモの糸と鉄格子を切り裂いた。
詠唱も何も付与しない、単なる魔力の射出。威力は確かに下がっているけど、それでも鉄くらいなら簡単に斬れちゃうんだ……。
「確かに数は不利だな。仕方無い。国としての戦力を減らす事になるが、改造生物は殺すか」
「……!」
ザンちゃんが杖を構え、ずっと意識を失っているふりをしていたサモンちゃんが起き上がって魔力の鞭を作り出す。
そのままを放り、ザンちゃんの腕を引き止めた。
「それは……させない……!」
「やはり起きていたか。ご丁寧に倒れたふりをしおってからに」
「ヴェネレ姫達の気遣いだよ……!」
「だろうの。主としても不服そうだ」
「否定はしない」
使い魔達をやられるのは、召喚師として見過ごせない様子。けどザンちゃんも起きているのには気付いていたみたい。それなのに敢えて攻撃を当てなかったんだ。
サモンちゃんを見、彼女はため息と共に言葉を続ける。
「“クー”=サモン=プルトーネ。この国のNo.9。一桁の番号を貰いながら生き物なんぞに現を抜かしおって。本来なら次元魔導団に主が入る予定だったのだがな」
「それは性に合わない。ジュウ辺りに任せておくのが良い。それ以下は全て同じような扱いだし関係無い」
「それもそうだが、惜しいものだな。すぐ自棄になり、子供のように喚くジュウとは合わぬのだ」
「ただ単に自分の都合なだけ。私は別にどうでもいい」
2人は知り合い。それは分かっていたけど、思っていたよりも親しい関係だったみたい。
番号とか本来の次元魔導団とかちょっとよく分かんないんだけど……。
私は挙手して2人に聞いてみる。
「すみませーん。話の内容が入ってこないので説明くださーい」
「お主は学問を受ける生徒か、ヴェネレ姫。……はあ……此処、星の国ではな。番号によって階級が決まっているのだ。基本的に桁が少なければ少ない程に階級が上……と言ってもNo.10以下が同等の扱いを受けるように、一桁以外は貰った番号とは関係無く己を鍛えて上へ行かねばならぬ。最初の番号が低ければ相応の恩恵はあるのだが……だからこそ二桁番号の者達は己を鍛えず、怠け、怠り、結局は下級兵士のままと言う奴が多いのだ」
「へえー」
番号の低さ? 少なさ? で階級が決まる。割とそんな感じなの多いよね。国や地域次第では高い方が偉いってのもあるけど。
それがこの国のシステム。分かりやすくはある。うちの騎士団長は階級としては同じであり、その中で強さによる順位分けはしていない。……まあエスパシオさんが最強を名乗ってるけど。
「それならザンちゃんはどれくらいなの?」
「……。No.3。まあ、そんなところだ」
「成る程ね。それはそのままの意味で受け取っても良さそう」
「そう思ってくれて構わない」
No.3のザンちゃん。つまり単純に、3番目に強い存在という事。
予想以上だったね。戦力は揃ってるけど、どこまでやれるか……。今の時点で明確なダメージは与えられていないもんね。
「だが、そんな事は関係無いだろう。貴女方を捕らえ、帰還するのが目的だからな」
「それが一番の問題なんだよね……」
杖を動かし、無数の魔力の気配が漂う。
周りを埋め尽くすこの魔力全てが斬撃。恐ろしい力だね。
しかも次元から次元に移動したりも出来る。と言うか、それってずっと次元の中に閉じ籠って斬撃を放ち続ければ無敵じゃない? もしかしてさっきまでの不可視の力ってそう言うことかも……。隙を見せたら次元の中に入り込んで不可避の斬撃が来る……!
「………」
「……っ」
考えていると、無数の魔力のうちの一つが横切った。
思考しながらでも油断はしてないよ。手足が斬れたら滅茶苦茶痛いだろうし、逃げられなくなるからね。ちゃんと避ける。
「うおー! “超凄い魔術・其の弐”!」
「……」
私から引き離すよう、サンちゃんが魔力の塊を放出。
相変わらずスゴい威力だけど、見失わないように注意はしている。その証拠がこれ。
「“ファイアレイン”!」
「火の雨か。逃げ場が無いの」
「そう言いながら当たってない……!」
「ちゃんと斬撃は使っている」
当たってはいないけど、姿を眩ませる暇も与えていない。
安全圏になっているセレーネちゃんの背後から畳み掛けるように魔力を込める。
「“ファイアランス”!」
「“超超魔術改”!」
「“次元転送”」
私とサンちゃんの放った力に対し、正面に次元の壁を生み出して別次元へと攻撃を飛ばした。
あんな事も出来るんだ。
彼女はそのまま攻撃に転じ、杖を振り上げる。
「……やっぱり当たらない」
「怖~……セレーネちゃんが居ないとバラバラに……」
「お! 見たことあるぞそう言う本! バラバラ殺人事件と言うらしいの!」
「サンちゃんのそれはまた別次元の話だよ……殺されたら目的は達成されないし」
「次元の話……興味ある」
「次元魔法じゃなくてね……」
天然な2人に別方面でも振り回される。
あんな性格から放たれる殺意剥き出しの魔法……感性が一般的なお姫様の私にとっては別ベクトルで2人とも怖いよ。
「あ! 思い付いたぞヴェネレ! 試してみて良いか!」
「何が……まあいいけど」
「分かった!」
突発的な思い付きに困惑する私。けどこの場を打開出来るかもしれないから許可を降ろす。
サンちゃん。人に魔術をぶつけちゃダメって教えられたからちゃんと報告してるね。本当に良い子だよ。
「じゃあやるぞ! “真・ジグザグ超魔術戦法改”!」
「初めての試みなのにもう進化してる……」
片手を突き出し、勢いよくその魔術を放出。
相変わらずのマップ兵器みたいな超魔力がその名の通り左右に進んで相手を翻弄する。
「狙いが定まらぬの。だが、避けずとも当たらぬ“次元転送・四方”」
縦横無尽に動き回るそれは、ザンちゃんの四方に生み出された次元の壁と共に消え去る。
あの壁……色んな範囲に作り出せるんだ。確かにさっきはあらゆる方向から飛んできてたから違和感は無いけど。
「この程度……威力は流石だが……」
「天地共鳴!」
「……!」
すると、消え去った筈の魔術が上下から突き出された。
これがサンちゃんの……えーと……技名略魔術。全て防いだと思った瞬間に死角から攻め込まれる技。天地共鳴は多分即興で思い付いた言葉だろうけど、大した力だよ本当に。
「……マズイな」
魔術は的確に隙を突き、そのままザンちゃんへ──
「──手を貸しましょうか? No.3」
「……余計な真似を」
「むぅ? 妾の魔術がー!?」
「消された……!?」
突然人影が現れ、サンちゃんの魔術を消し去った。
ザンちゃんは煩わしそうに見やり、その人は丁寧な態度で頭を下げる。
「どうもこんにちは。ヴェネレ王。及び魔族の姫君、月の巫女様。私、ムツと申します。番号はNo.6。No.3には及びませんが、“次元魔導団”に勤めております。以後お見知りおきを」
「……っ。また……」
現れた人、執事っぽい黒髪の男性。
白混じりの黒髪にやや垂れ目。片方にはモノクルを着けている。
きっちりと紳士服で決めてるし、執事みたいな役割なのかな。
ザンちゃんはムツという人から距離を置く。
「手を貸されずとも、私一人で十分だ!」
「しまっ……!」
油断した……! 急に執事風の変な人が現れるから注意が……!
居場所はセレーネちゃんから少し離れてる……。何とか奪われるのだけは避けないと……!
「──間に合ったの。斬撃使いの女子とは……これまた大層な相手をしておる」
「……!」
「斬撃が……斬れた……?」
「ほう?」
疾風のような風が吹き抜け、お城のお風呂で使われている石鹸の匂いが鼻腔を擽る。
マゲと言うポニーテールみたいな髪型を揺らし、カタナと言う剣で次元越しの斬撃を切り捨てた。
「助太刀致す。ヴェネレ殿」
「キエモン!」
「……あの男が例の」
「No.10はやられたようですね。成る程。強者だ」
現れたのは私の……護衛……なのかな? のキエモン。
相手には次元魔導団の一人。私達にはキエモン。お互いに増援が揃った。
魔導団はまだまだ居ると思うけど、一先ず今の戦力は整ったみたい。




