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其の佰伍拾参 ??魔法

「いつまでくっ付いている。離れろ」

「わっとと……」


 追っ手の女の子を捕まえたつもりだったけど、あっさりと引き離されちゃった。

 相手次第では倒せたら倒すつもりだけど、思ったのとは色々違うね。

 年齢も思ったより下だし、扱う魔法は思ったより手強い。

 そもそもあのレベルの斬撃魔法って……。


「貴女……もしかして“次元魔導団”?」

「そうだ。不服か?」

「いや、適任だなって思ってねぇ」


 やっぱりこの子、星の国の精鋭“次元魔導団”の一人だったみたい。

 まだまだ若いのにこんな力を持ってるなんて将来が楽しみ……って、なんかおばさんみたいた言い回しになっちゃった。

 本当に強敵みたいだし、私も気を引き締めなきゃ……!


「さあ、降伏しろ。見ての通り命は奪わぬ。大事な客人だからな」


「大事な客人に対してのやり方じゃないでしょ。貴女もそうだけど、主にあの帝王の態度とか色々!」


「それについては否定出来ないな。他国の王に対する扱いではないのは理解している」


「あれ? もしかして貴女も帝王をあまり信用していない?」


「どうだろうな。職を与えて頂き、給与も得られているからな」


「貴女自身に誘拐疑惑が出てるんじゃ……」

「故郷に居ても今の暮らしが出来ているかは分からぬ。今の私が私だ」


 あの帝王は、支持率は低そうな雰囲気。

 当たり前だよね。国民への対応からその思想。尊敬出来る要素がほぼ皆無。

 悪い方向に割り切っている所はある意味で真っ直ぐだけど、少なくとも私は尊敬出来ない。


「今の暮らしって……失礼を承知で言うけど……その格好からしてあまり良い暮らしはしてないように思えるけど……」


「服装は拘りが無いだけだ。飯は三食付いているし、風呂にも入れる。まだ幼い私を狙うような輩も居らず、基本的な土汚れは鍛練によるものだ」


「現状に満足してるって訳。生き甲斐は食事とお風呂と鍛練だけ……趣味趣向は人それぞれだから否定はしないけど……」


 この辺もキエモンに似てる。キエモンって娯楽をしようとか考えてないもんね。たまに少しのお酒を呑んだりするくらい。

 こんな年齢でここまで達観するなんて。彼女も苦労しているんだね。


「なんぞ? 何か言いたげな様子だな」

「ううん。知り合いに似ているなって思っただけ」

「知り合いとな?」

「うん。貴女に負けず劣らずの斬撃を使う知り合い」

「私に……フッ、一目見てみたいな。其奴をの」


 話を聞くだけで微笑む。シンパシーを感じているのかな。確かにキエモンは変わっているし、この子も変わっているから国では目立っちゃうのかも。そんな自分と似てるって人が居たら会いたくなるのも分かる。

 だけどキエモンと違って人付き合いは苦手そうだし、色々と心配。そもそもキエモンの存在自体は広まっている筈だもんね。一目見たら分かるかも。


「まあいい。さあ、姫様。お城へお戻りを。まだ此処に来てほんの数時間。一日も過ごしていないではありませぬか」


「もう十分過ごしたよ。この国の形も分かった。だから後は帰るだけ……! 邪魔立てするなら……!」

「するなら?」

「…………。どうしよっか?」

「それを聞かれても困るのだがな」


 本当にどうしようか。

 逃げても撃墜されたのが現状だし、正面から戦っても勝てるかは分からない。

 今の私達の戦力は私とちょっと怒ってる氷鳥。サモンちゃんは人質って名目だから戦えないし、割と絶望的……私も結構やる方だとは思ってるし特訓もしてるけど、イマイチ実感が湧かない。


(……って、後ろ向きになっちゃダメ……!)


 だからこそやれる事はやらなくちゃ。相手に私を殺すつもりはない。それは明確なチャンスに繋がる。最低限、キエモンが来るまで耐えるのが目的。だけど守られるだけのお姫様にならないように、四肢を失うくらいの気概でやらなきゃ!


「詠唱は略。“ファイアボール”!」

「選択は戦闘か。大人しく捕まってくれる訳ではないようだな」

「当たり前! あの帝王の目論みは止める!」


 火球は容易く斬り防がれ、火の縄にてサモンちゃんを氷鳥に乗せた後で改めて向き直る。

 ここは私一人だけでやって見せる。考えてみれば、格上の相手が殺さない縛りで戦ってくれるのは良い特訓になるもんね!


「私と戦うつもりとは、愚かな者だな。ヴェネレ姫」

「どうせ殺されないなら、胸を借りるつもりで戦うよ!」

「殺さずとも、手足を死なない範囲で斬り落とし、動きを封じる事も可能なんだがの」

「それも覚悟の上!」

「一国の姫君がする覚悟か。それは良いが、無謀とも取れる覚悟だ」


 杖が振るわれ、私は横に跳ぶようかわした。

 狙いは腕か足。このやり方なら当たらない。さっきまでは動きが見えなかったから成す術無かったけど、今は杖の動きを見ているからね。当たらない位置を何とか見切って避ける。そうするしか無い!


「(視界から消え去るのは愚策。彼女の姿は常に収めておかなきゃ!)“ファイアレーザー”!」


「ちゃんと考えているの。ただのお姫様では無き御様子」


 速くて鋭い炎魔法を放ち、見失わないように立ち回る。

 一瞬でも姿を眩まされたらまた不可視の斬撃が放たれるからね。それについては向こうも分かってると思うけど、気の抜けない戦い……!


「“ファイアネット”!」

「……火炎網……私の姿は見失わず、私を上手く捕らえたか」


 炎の包囲網を張り巡らせ、彼女の逃げ場を塞ぐ。

 網目状なので姿は確認出来る。人外染みた彼女でも火に触れたら熱いだろうし、完全に閉じ込める事には成功した。


「だが、無意味」

「……っ。だよね……!」


 その網は斬撃によって切り捨てられた。

 軽く杖を振るっただけで何でも切れる刃になる。

 キエモンの剣で見慣れている光景だけど、敵になるとかなり絶望的。全部の攻撃が防がれて、自分には一方的に触れたら終わりの攻撃が迫り来る。

 本当にキエモンは頼もしいんだね。それが分かった。


「なるべく四肢とか斬り落としたくないのだ。他人が苦しむ様は好ましくない」

「そう言うところもそっくり……じゃあ逃がしてあげようって気にはならないのかな……えーと……斬撃の魔導員!」

「長い。私は“ザン”。魔族の姫様に名前は近いな」


 キエモンっぽい性格をしたサンちゃんっぽい名前のザン……ザンちゃん?

 とにかく、名前は分かった。私に名前をどうこうする魔法は使えないけど、取り敢えずこれで呼びやすくなるね。


「それじゃあ改めてザンちゃん。私達を逃がしてあげるって気にはならない?」


「ならぬ。それが帝王の望みだからの。私はただそれを遂行するだけ。生かしたまま捕らえなければな」


「そんなに月の国の情報が知りたいの……あの帝王は……! 一体何を企んでいるの本当に!?」


「それは私にも分からぬ。戦争が目的という事くらいしかな。ひたすらに従うだけよ」


「機械的……!」


 淡々としてる系女子多くない? セレーネちゃんを初めとしてサモンちゃんにザンちゃん。今の状況が特質なだけかな。

 私の手足を切り落とす事に躊躇い自体は無いみたいだし、かなり危険な相手……って今更か。


「避けてばかりでは勝負は付かぬが、よく避けられるの」


「身近に似たような人が居るからね……! けど、魔力の消費量も少ないみたいだし避け続けるのも苦行かな」


 上下左右、あらゆる方向から放たれる斬撃魔法。

 杖と彼女の動きから何とか避けられてるけど、私の体力の方が先に尽きそう。


「一人で攻めてくるからダメなのだ。サモンと協力でもすれば隙を突けように」


「そんな事したらサモンちゃんが反逆罪で処刑されるでしょ! そもそも人質なんだから戦わないよ!」


「そうか。それもそうだな」

「あれ? そう言えばザンちゃん……サモンちゃんをナンバーで呼ばないんだ。普通に名前で呼んでる……」

「いつまで避けられるか!」

「わっ!」


 ザンちゃん。彼女も“次元魔導団”の一人だけど、あの重力の人とは大分違う。

 氷鳥を躊躇なく斬りに掛かったとは言え生かしているし、サモンちゃんに斬撃が行かないようにもしてある。

 もしかしてこの子、根は優しい子なんじゃ……。


「まずは動きを止めて確かめなきゃ……! “ファイアロープ”!」

「こんなもの、私には効かない」

「それは知ってるよ!」

「……!」


 炎の縄は切断される。それは想定の範囲内。

 そして彼女は私を殺せない。そこを突けば必ず隙は生まれる。それが今。

 火の粉となった隙間を通り抜け、ザンちゃんの眼前に迫った。


「“火炎二重縄”!」

「左右から縄を……?」


 杖を横に持ち、周囲を囲むような炎の縄がザンちゃんを覆った。

 正面には私。左右は炎の縄。仮に左右の炎を斬ったら私も斬れちゃうから行動は防げる。

 これで身動きを封じる事が──


「──“次元転移”」

「……え?」


 空間の中に吸い込まれるよう、彼女の姿が消え去った。

 これって一体……。


「手の内はなるべく明かしたくなかったが、命令の為だ。致し方無し」

「後ろから……!?」


 手の内。斬撃魔法が主体なのはそうだとして、別の力も使えたんだ。

 そのまま手足が謎の空間に囚われ、私の身動きが取れなくなる。キエモンの故郷の言葉で表すなら万事休すって感じ……。


「やれやれ。漸く捕らえられたの。苦労させる姫様だ」

「くぅ……力が出ない……」

「次元の彼方に体があるんだ。動けなかろう」

「次元の……もしかして斬撃魔法じゃなくて次元魔法……」

「さあ、どうだろうの」


 ザンちゃんの魔法。それは別のモノだったかもしれない。

 斬撃魔法の原理や不可視の攻撃。それが次元魔法からなるものなら合点がいく。


「さて、城へと戻──」


 ──その瞬間、大きな魔力が私達の前を横切った。

 それは大きな破壊を生み出し、断層が抉れて見える程。これって……。


「ようやく見つけたのじゃあ! ヴェネレ! 頼れる助っ人じゃぞー!」

「追い付いた……」

『ウオーン!』『ウッホォ!』『………』


「サンちゃんにセレーネちゃん!」

「……。あの子達……」

「ふむ、私に名が似ているサン姫と月の巫女か」


 助っ人2人に3匹。それについてサモンちゃんも氷鳥の上で呟くように話す。

 正直、明らかに年下のサンちゃんに助けられるのは恥ずかしさもある。けど、助かったのは事実。

 今の魔力で拘束から抜け出せたからね! ……って、“月の巫女”? なにそれ?


「増援……と言うよりかは合流だな。元々四人だった。初めから狙いは主ら全員。さっさと終わらせようぞ」


「貴女のタネも分かってきた。こっちも本腰入れて取り組むよ!」


 分からないワードは一旦保留。今はザンちゃんを上手くかわさなきゃ。

 セレーネちゃんちサンちゃんと合流した私。戦力で言えば一気に上回った。

 ここからが本番だよ! 多分……。

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