其の佰肆拾漆 調査開始
「──ここがアナタ達の部屋。何もないけど寛いで。私は廊下で待機しているから」
サモン殿により、拙者らは自室となる部屋へと案内された。
それなりの広さで、想像していたものよりはずっと良い。もっと牢獄のような所と思っていたからの。
「全員一緒の部屋なんだね。キエモンなら心配無いと思うけど……普通年頃の男女を同じ部屋に入れるかな」
「さあ、それについては帝王様に聞いてみて。多分何も返って来ないから」
「アハハ……サモンさんだっけ。もしかして主君をそこまで尊敬していない?」
「さっきのやり取り見たら分かるでしょ。この国の国民も兵士もみんなただの手駒としか考えていない。尊敬する要素なんてこれっぽっちも無いよ。私もそれで良いと思ってる。変に情を抱かれるより無機質に指示される方が気が楽」
「キエモンとは別ベクトルで達観しているね……」
サモン殿、及び帝王と従者の関係が見えてきたの。利用されるのを甘んじて受け入れている。
ともかく、部屋は皆が同じ所。確かに男女が同じ部屋では色々と気を遣うの。特に女子は着替えなど気にする者は多かろう。
「サモン殿は廊下で待機か。せっかくだ。共に部屋で休まぬか? 見張りと言う役割なら近場の方が良かろう」
「……一理あるけど、命令では外で待機だから。悪いけど遠慮しておく。君達の扱いは捕虜にも近い感じ。だから手錠は外せない」
「そうに御座るか。大変だの。見張り役というものは」
「慣れてるから平気」
外で待つと言うサモン殿を誘ってみるが、これが任務との事なので断られてしまった。
仕事人よの。任務を全うしようとするその姿勢は好感が持てる。
「じゃあ何かあったら呼んで。あの子達も使って良いから」
「心得た」
「あの子達? あ、召喚獣か」
それだけ告げ、サモン殿は部屋の外へと出る。
さて、拙者らも早速行動に移るか。手始めに手錠を外し、動きを制限されていた体を伸ばして解す。
拙者ら四人は高布団の近くに集まり、これからについて話し合う。
「それで、まんまと潜入出来たけどどうする? あの操っている五人はそのままだから呼べば来ると思うけど」
「そうよの。あれらを利用せぬ手はない。現在地も把握出来ておる。何かしらの任務を受け渡されていたら対応出来ぬが、大きく動いてもおらぬしな。先の変装案で行こう」
「けどそうなると見張りのサモンさん……ちゃん? が気掛かり」
「彼女なれば問題無い。国への情も大して持ち合わせて無さそうだしの。加え、使い魔や召喚獣を大切にしている。あまり戦争にも駆り出したく無かろうて、止めるのであれば賛成してくれよう」
「へえ……そんなに親しい仲なんだ。よく分かってるって感じ……」
「一戦交えたからの。侍同士は刀を伝うて相手の大凡が分かる。サモン殿も似たようなものよ」
「そうなんだ」
関係無い話もあったが、操ってある者達を利用してこの城を調べる事は決まった。
と言うても全員で行くのは問題も御座ろう。此処は拙者が率先して引き受けるとする。
「さて、早速サモン殿を呼び、身代わり案を採用しよう」
「え、そんな簡単に……!? 国への情が少なくても流石に報告されるんじゃ……」
「サモン殿。ちと来てくれ」
「なに?」
「ちょ、私の話は……!?」
ヴェネレ殿の制止よりも前にサモン殿を呼び、彼女は直ぐにやって来た。
扉の前に居るのだから当然よの。そのまま事情を説明する。
「かくかくしかじかで、暫し部屋を抜ける。変わり身を用意していてくれ」
「そう。早めに帰って来なきゃ帝王にバレて大変な事になるよ。何なら今の時点で見張られてるかも」
「それはサモン殿以外にという事か。然し、確かにそうだの。迂闊だった。今は何の干渉も無いが、作戦が筒抜けの可能性もあるの」
「かもね。まあ、しばらくは泳がされるんじゃない?」
「なら上々。元よりサモン殿が信用され、見張られていない可能性もあるからの。では出掛ける準備に移る」
「そ、気を付けて」
「ウム」
「え? 普通に会話してる……と言うか作戦をあっさり……そもそも協力的過ぎ……」
サモン殿は快く受けてくれた。
何やらヴェネレ殿が慌てていたが、彼女が横流しにする訳も無かろう。
理由は単純に報告するのが面倒だからの。
「サモンさん的には良いの……? 国が窮地に陥るかもしれないのに……」
「別に。あの子達が無事ならそれで構わない。 戦争の方が失う子達も増えるからね。あと単純に報告が面倒」
「そうなんだ……」
大方予想通りの反応。
その後、拙者の操る兵を引き寄せ、この部屋へと招き入れた。
一先ずの拘束をし、身動きは取れなくする。そしてヴェネレ殿へと訊ねた。
「して、ヴェネレ殿。変装とは? この者から外套を剥ぎ取るだけでは気付かれてしまう可能性もある」
「ふっふっふ……そんな時の為に、“変化石”~! 昨日の採取クエストでゲットしたこの石を使うんだよ!」
「フム、別の石や岩、壁などに擬態するその石をか」
「うん! これを利用して作った変装用の魔道具。時間は限られているけど、これを使えば姿形が変わるんだ。それにローブを合わせれば変装完了って訳!」
「成る程。便利な魔道具だの」
昨日の採掘任務の報酬にて金銭と共に貰っていたこの石。
それを魔道具の材料とし、変装具を作り出した。相変わらず魔法と言うものは何でもありよの。現世にも魔法があれば便利になっていたかもしれぬ。
いや、何れにせよ戦の火種となるかもの。兎も角今はこの魔法へ感謝致そう。
「では、拙者が行って参る。通信具の電源は入れておくが為、情報は主らも得られよう。二度小突いたら会話は打ち止めとする」
「うん、分かった。情報整理も任せて。まとめておくよ。……サモンさん。これからこの部屋に他の監視とかは来るかな?」
「さあね。それについては私にも分からない。多分来ないんじゃないかな。帝王、アナタ達を侮っていたし。けど、」
「もう見張られている可能性もある……だね。大丈夫。そうであってもキエモンなら上手くやれると思うから。根拠は無いけどね♪」
根拠は無くとも拙者を信用してくれている。喜ばしい限りよ。
拙者は外套を羽織り、変化の魔道具にて姿をこの者へ変える。
「おお! 変わったぞ! スゴいのう、人間の技術力と応用力は!」
「そっくり……」
「うん。バッチリの変装だよ。キエモン!」
鏡が無いのでどうなっているかは分からぬが、ヴェネレ殿らの表情を見るに瓜二つなのだろう。
なればそれで良し。拙者はヴェネレ殿らへ一礼し、その部屋から抜け出した。
*****
──“スター・セイズ・ルーン、城内、渡り廊下”。
「邪魔だ。どいてろ」
「我らの道を塞ぐな。下級兵」
「みすぼらしいローブだ」
「さっさと失せろ」
「………」
どうやらこの国の兵士同士はあまり仲良くないようだの。階級によって生じる格差から態度があからさまよ。
居心地は悪いが、拙者としては好都合。早速情報収集へと参ろう。
周囲に注意しながら渡り廊下を進み、資料室のような所を探す。
(無機質な城よの。正しく城塞。強靭な造りとなっている)
城内を見て回り、それらしき部屋を探してみる。
辺りは無機質な石壁であり、部屋すらあまり見掛けぬな。情報が得られそうな部屋は……やはり王室などになるか。然しそこに立ち入る事は難しく、入れたとしても下級兵ではやれる事が限られてしまおう。
保管庫ような部屋があれば良いが、あるとしたら地下などだろうか。
(よし、やはり地下室にでも向かおう。あまり変に動けば即座に気付かれてしまうからの。手当たり次第に行けると言う訳でも御座らん。難儀なものだ)
行動出来る範囲は限られている。理由は以上の通り。
下級兵は肩身の狭い思いをしておるのだな。階級による格差の無い“シャラン・トリュ・ウェーテ”だったが為に気にしていなかったが、こう言った所も世界には多いのだろう。
城に居る人の気配を探り、誰もおらぬ所を通って地下へとやって来た。
「幾つか部屋はあるが、地下牢が殆どよの。厳重な造りだが、戦争計画を掴む手立ては無いやも知れぬ」
《了解》
人が居ないのを確認し、敢えて声に出す。
通信はそのままヴェネレ殿らへと通じているからの。何の手掛かりを得られずとも現在地や城内を話す事で城の地図となろう。地の利を少しでも得られるのなら不足はない。
「一通り見て回ったが、当ては無し。一階層付近へと舞い戻る」
地下には無さげな様子。
牢屋となっているにも関わらず見張りなどもおらぬからな。
一階への階段を探していると、また別の部屋が映り込んだ。
「此処は……」
《どうかした? キエモン》
その部屋を前に、思わず言葉に詰まる。
ヴェネレ殿が通信装置から聞こえ、なんと説明するか迷うの。
「あまり話したい事ではないな。ある程度の覚悟があるのなら話すが……如何致す?」
《……っ。うん。分かった。セレーネちゃん達はどうする?》
「サン殿には刺激が強かろう。セレーネ殿も慣れてはおらぬ。二人は離していてくれ」
《OK。伝えとく》
この光景はまだ幼いサン殿。そして懸念のあるセレーネ殿には言わずに置く。
外にて待機しておる一部の騎士団長やアルマ殿はどうだろうか。小型の魔道具故、此方の声は届くが向こうからの通信は届かぬのだ。
然しそう言った場には慣れている筈。各々で対処するだろう。これもまた貴重な星の国の情報に御座る。
《いいよ。キエモン》
ヴェネレ殿からの通信が再び入る。セレーネ殿らは引き離した様子。
では、今拙者が見て感じている事を告げよう。
「率直に申せば、夥しい数の血痕。腕や足など、一部が腐り骨となっている人間の部位と獣の部位が落ちている。今現在の時点でも繋がれている者はおるぞ。獣の頭と人間の体を無理矢理縫い合わせた歪な形でな」
《……っ。オエ……》
拙者の眼前に広がる光景を想像し、ヴェネレ殿は嗚咽を漏らす。
少々刺激の強い光景。それもまた仕方無い。拙者の場合は近場に居るが為、死臭や血の匂いがそのまま鼻腔へと差し込まれてくる。居心地は最悪よの。
「大丈夫に御座るか?」
《うん……平気……続けて……》
平気そうには思えぬが、いつ誰がやって来るかも存ぜぬ。ヴェネレ殿の言葉を信じ、より詳細な情報を告げる。
「おそらくあれは変異種を作り出そうとしている痕跡よの。人……この牢屋に囚われた人間を基盤とし、その辺の妖や物の怪を捕獲して掛け合わせているのに御座ろう。石畳なのに砂が落ちていたり水溜まりや焦げ目があったりと、様々な魔法を用いて実験を繰り返しているのだろう。見慣れぬ小瓶からするに薬物も色々と投与されているようだ」
「人体実験……非人道的な在り方だけど、閉ざされた国だからルールはこの国のモノが適用される……咎める人も居ないんだね……」
所謂変異種の起源が此処にあった。
情報としては大きなモノだが、今求めているモノでは御座らんな。
一先ずこの場は去るか。
「──オイ、下級兵。実験場に何の用だ?」
「………」
すると、拙者に話し掛けてくる何かが一つ。
また、何の気配も無しに現れたの。常に警戒はしているのだが、話し掛けられるまでその存在が此処に居た事にすら気付かなんだ。
さて、去るよりも前に先ずはこの者についての対処を考えるか。




