其の佰肆拾伍 星の国
──“スター・セイズ・ルーン”。
「此処が例の国か」
「街の雰囲気は普通だね」
門を抜け、足を踏み入れるは星の国。
そこの景観は普通の町並みであり、星の要素はほぼ見受けられなかった。
強いて言えば五芒星を象った装飾品が所々に見られるくらい。
もうちっと闇の深き場所かと存念していたが、それもまた杞憂に終わる。最近は要らぬ心配をしては何事も無い事が増えてきたの。ちと警戒し過ぎているか。
「国中が満天の星空という事もなく、ただただ普通の町だの」
「うん。外門は数十メートルの高さがあって何者も拒むような雰囲気だったけど、内部は何の変哲もないや……」
星の国の外周か何か、そこには高き壁が造られており全方位が囲まれた鎖国国家。
円状ではなく所々に角がある歪な形の壁。不思議な防壁よの。
「閉ざされた国なのに物資とかはどこから運ばれているんだろう……」
「鎖国と言えど、完全に外との繋がりが無い訳ではないのだろう。何者も信用せずとも、己だけでやれる事には限りがあるからの」
見ての通り外部からの立ち入りを禁じている様相だが、町自体は発展の色が窺えられる。
だが、煉瓦造りの建物だけでは御座らんな。木造からなる母屋が所々に存する。あらゆる建物が入り交じったかのような国だ。
尤も、隅の方に見受けられる朽ちた建物やボロボロの衣服を着ている者達も気になるが。
「この秘密国家感……! ワクワクするのぅ……! これから妾らはどこへ行くんじゃ?」
「此奴らの目論み通りなればまずはこの国の長……即ち支配者が居る場所よの。と言うても真っ直ぐ行っては今のタネもバレ、確実に問題となろう。そこまでは行くとして、それからどう動くかだ」
拙者らは今、囚われの体で進んでおる。
故に順当に行けば目的地はこの町の支配者が治める城か何かとなろう。
然し今告げた通り、そのまま進んでは何れ気付かれる。そこに入るとして、その後は各々で行動をせねばなるまい。
「取り敢えず今はまだ真っ直ぐ進めば良さそうだね。問題点はこの国の偉い人達がどこに居るかだけど……」
「基本的には中心部だろう。その方が安全だからの。よもや仲間が操られているのが前提で敢えて近場に作る事もせまい。不利点の方が多くなる」
「アハハ……そりゃそうだよね」
支配者の居場所は掴めなかったが、検討は付く。
先ず何より安全である必要がある為、危険の少ない中心部に位置取られよう。加え、権力を誇示し、支配者であるという事を民達へ知ら示す為に大きな建物に住まうだろう。
それを惟れば居場所も自ずと分かってくるというもの。
「じゃあ向かう場所はこの街の更に奥の都市部。それまでこれでやり過ごせるかな?」
「問題無かろう。手錠に繋がれているのもあって少しは視線を集めるが、国民達も理解しているのか直ぐに目を逸らす。頻繁に拙者らのような者達が来ているのだろう」
「そうみたいだね。あのローブがこの街で言う騎士団の証みたいな物。見れば紋章とかもあるし、普通のローブとは違ってる」
操った五人が着ている外套。それはこの町にて就いている役職の証明。
あれを入手すれば侵入も容易そうだが、細かい箇所を見ていると番号のような物があり、何かしらの文字が刻まれておる。
おそらくあれはその者の存在を示しておろう。拙者らがこの五人から奪ったところで誤魔化せるかも分からぬな。
逆に考えればアレがあるから顔などを覚えておらず、容易に出し抜ける可能性もある。何れにせよあの外套は欲しいところよの。
「ヴェネレ殿。セレーネ殿。サン殿。あの文字、おそらく──」
「なるほどね。確かに書かれてる。それなら後々物陰とかで上手く変装しよっか」
「了解……」
「うむ。ワクワクするのぅ」
お三方へ拙者の推察を話す。
然し変装とな。一体どうするのか。自信はあり気な様子。此処はヴェネレ殿へ委ねても良さそうだの。
小声での話し合いを終わらせ、拙者らは中心部へと向かい行く。
「キエモン様。セレーネ様。ヴェネレ王に魔族の姫君。お迎えに上がりました。手錠は外せませんが、どうぞ御寛ぎ下さい」
「あ、これはご親切にどうも」
「ふふ、変わったお人ですね。囚われているのに礼を言うなど」
その道中、拙者ら四人を馬車が迎えに来た。
確かに拙者の元に来た名目は勧誘。扱いとしては厚待遇なのかもしれぬ。手錠はあるがの。
然し乍ら、楽を出来るのは良いが徒歩の方が合う都合もある。物陰で変装すると言うやり方は難しくなってしまった。
一先ず乗らぬのも問題。拙者らは馬車へと乗り込み、馬に引かれてそれなりの速さで町を進む。思ったよりも広き町に御座るな。
少し行くとまた壁が現れ、取り調べを受けた。当然五人を操り調査網を抜ける。この五人は魔力によって移動しているので馬車には乗っていないが、それが却って操りにくく難儀なものよ。
壁を抜けた奥にも更なる壁が見えるが、ふむ。
「成る程の。多重の防壁。前門が突破されても中門と後門がある為により安全なのか」
「そうみたいだね。かなりの警戒体制……外部に流れる国の情報が少ない訳だよ」
何重かは存ぜぬが、中心部を覆うように複数の壁が見える。これによって真ん中の町は安全なようだ。
壁の中には都市があり、壁と壁の間はそれなりの広さを有しておる。
隣では付き添い人と見張りを兼ねているであろう案内役の女性が返答するように話した。
「無論です。しかし抜け出そうと言う輩はチラホラ。その場合は体に埋め込まれた探知の魔道具で探して始末します」
「うへぇ……って、それって私達に言って良いんだ」
「取り出そうとすれば絶命するので知ったところで利用はされませんからね。あ、御客人のアナタ方に手錠はしてもその様な事はしませんのでご心配無く」
「アハハ……そうなんだ」
ヴェネレ殿が作り笑いで返す。彼女は優しきお方。話を聞くだけで胸を痛めておる様子。
成る程の。そう言ったカラクリがあったのか。
逃亡者は漏れなく殺処分。拙者も以前にその様な光景を見ておる。
国の秘密を護る為とは言え、随分と手荒なやり方よの。拙者とは馬が合わぬ。
今現在の拙者らにそう言った仕掛けは無いらしいので良しとするか。
「次の壁を抜けた先にこの国の主が住まうお城が御座います。アナタ方は客人ですが、くれぐれも失礼の無いようお願い申し上げます」
「存じ上げておる。拙者、礼儀については心得ておるぞ」
「キエモンの故郷のじゃなくて“シャラン・トリュ・ウェーテ”とかの礼儀作法だからね……」
「ウム、暇な時間に本を読み、それも知った。案ずるでない」
「ふふ、頼もしいですね。キエモン様。貴方様の故郷……ですか」
この世界へ来た当初、ヴェネレ殿には世話を焼かせたからの。礼儀はしかと身に付けた。
拙者が今までに会った主君は皆が寛容で言動を気にする者でもなかったが、今回はどう転ぶか分からぬからの。肝に命じておく。
また別の外門を抜け、中心都市へとやって来た。
「一層の賑わいが見受けられるの。流石は中心部よ」
「ええ。裕福層が住み、“スター・セイズ・ルーン”で一番発展している場所ですから」
「その様だな。建物なども他とは違う。小綺麗で整っておる。装飾も豪華だ」
「ふふ、その割にはあまりお好きではないようですね。中心部の街並みは」
「目がチカチカするからの。拙者はもう少し落ち着きのある町が好みだ」
「成る程。質素な雰囲気の方が性に合っているという事ですか。私も嫌いじゃありませんよ」
発展している町並みだが、拙者には少々合わぬ。五芒星の装飾は良いと思うがの。星の国の名に相応しい。
“シャラン・トリュ・ウェーテ”にも騎士の紋章が飾られていたりと騎士の国を謳われるだけの事はある。
何にせよそのまま馬車に揺られ、結局変装する事無く国の城へと到達した。
*****
──“スター・セイズ・ルーン、城前”。
「ようこそ御越し下さいました。ヴェネレ様方御一行の皆様」
「手錠に繋げてよく言える」
「仕方ありませんよ。キエモン様。警戒はしていますからね」
城前に辿り着くや否や、門が開いて使用人や兵士達が出迎える。
扱いは客人だが、現状はそうも思えぬ。外しやすくしてあるとは言え手錠をしているのだからの。
馬車から降り、手錠に繋がれたままの拙者らを出迎える影が一つ。
「よくぞ御越し下さいました。ヴェネレ様。キエモン様。セレーネ様に魔族の姫様。ワタクシ、この国を治める王で御座います。そうですね、周りからはこの国を帝国と呼ばれているので“帝王”とでもお呼びください」
「そうに御座いますか。帝王殿」
自称帝王の主君。
今までの国は“シャラン・トリュ・ウェーテ”を含め基本的に王と呼ばれていたが、此方は帝王。呼び方の抑揚が付いて差別化出来るのでそう呼ばせて頂こう。
「それで、“シャラン・トリュ・ウェーテ”の王として訊ねますが私達に何の用ですか? わざわざ手錠までさせ、連行のような形で呼び出すとは」
「そうですね。他国の王を無下にするのも失礼です。率直に申し上げますと、月と関わりのあるアナタ方へ興味があるのです」
「……!」
質問の返答は、ある程度の予想は付いていたがそれでも尚冷静に語れぬものだった。
ヴェネレ殿とセレーネ殿の月関連。それについては自国ですら内密のモノとして明かさなかったが、この国の者が何処から入手したのか。
帝王は笑顔を向けて言葉を続ける。
「募る話も御座います。どうぞお城の中へ」
大きな城門が閉じ、風圧によってその場に居た皆の髪が揺れる。
逃げ場は無くなり、城の中へ入るのを避ける事は出来なくなったの。
なれば望むところ。拙者らは帝王の案内の元、城へと入るのだった。




