其の佰肆拾弐 前途多難
「今日ある依頼はこれくらいか。大きな危険を伴うモノは無くて何よりだ」
「ほほーう? これがこの国のシステムか。便利なものよのぉ」
受付へ行き、任務依頼を確認。サン殿は興味深そうに映し出された文字を見ている。
目ぼしい物は“薬草採取”“オーク討伐”“ゴブリン討伐”“鉱石採取”その他の物の怪討伐等々。
オークとゴブリンはその数の多さから常に依頼へ入っておるの。繁殖力が高く、常に迷惑な存在なのは皆が思っているようだ。
実際、拙者が今まで見たオークやゴブリンはそう言ったモノばかり。人間のみならず他の動物達も迷惑しているなど、一体どの様な因果を背負って生まれてきたのか。
サン殿にそれらを見せるのは少々刺激が強いかもしれぬな。
「今日は採取任務を中心とするか」
「そうですね。サンちゃんも居ますし、遠出する必要のある採取は良さそうです」
「私も賛成ですわ。それに、キエモンさんは明日の事がありますもの。あまり疲れる任務は避けなくては」
「ま、今日の時間も時間だし妥当かもなー」
受ける依頼は採取類。
“シャラン・トリュ・ウェーテ”から遠くの場所にある森や洞窟が目的の物は人気が無く、基本的に余っておる。
採取は兎も角としてその道中が危険だからの。他の者達の気持ちも分かる。
然し広い世界を見せるという意味では適切な任務よ。
「採取依頼~? もっとこう、ドラゴン退治とか鬼神討伐とか魔王撃滅とか無いのかー!?」
「サンちゃん。それは低く見積もってもS級以上で荷が重いですよ。国家クラスが束になってようやくレベルの難易度です」
「そうよの。仮にその依頼が来ても国で対処する事になろう。不測の事態でしかギルドからは受けられぬよ」
尤も、鬼神討伐は拙者を対象にすれば叶うがの。依頼に出される程の脅威とはならぬだろうが、怨みは何処で買っているか分からぬ。
故に拙者の力については他者へ教えておらぬのだからな。
「しょうがないのぅ。良し、妾らも同行しようぞアルマ!」
「かしこまりました。サン様」
取り敢えず納得してくれた様子。子供らしく好奇心は旺盛に御座るな。
そして身の丈に合わぬ事をしようとするのも子供らしい。アルマ殿も苦労しておるが、サン殿の人の好さがあるので嫌そうな顔はしておらぬな。
「ではこの採取依頼を受ける」
「かしこまりました。キエモン様方。そして新冒険者のサン様にアルマ様」
依頼を受け、ギルドを後にする。
今回受けた物は全てが遠方。なのでアルマ殿は魔力から槍を生み出し、エルミス殿らは箒に乗る。
槍魔術による移動も珍しいとは思うが、空を飛び交う者は多いので然程目立たなかろう。
「あれ? そう言えばキエモン。君は箒などに乗らないのか?」
「ウム? そうか。言っていなかったの。拙者、魔法や魔術の類いは使えぬのだ」
「は!?」
「なんと!?」
拙者の言葉へアルマ殿とサン殿は驚愕するように話す。
確かにそれを教えてはいなかった。驚きのあまり槍の操作が少しブレたが大丈夫に御座ろうか。
「し、しかしあの刀を振るだけで放った力については……!」
「あれはまた別のものよの。魔法・魔術とは違っておる。そも、拙者に魔力自体が御座らんよ」
「魔力の無い人間……裏側には大勢居るが、君程の実力を有する存在は見た事がないぞ……」
裏側出身なのもあり、魔力が無い事自体には然して気にせぬが鬼神の力についての驚きが見えていた。
明かした訳では御座らんが、魔力とも違うこの力。そのうち襤褸が出るかもしれぬな。そろそろ隠し通すのも難しくなってきたか。
然しどの様に説明すべきか。
「言われてみれば不思議ですね。キエモンさんの力。それをするだけの説得力があるのでスルーしていましたが、剣を振るだけであらゆる物を断ち斬るんですから」
「そう言えばそうですわ。凄いとは常々思っていましたが、キエモンさんって魔法使えないんですわよね……」
「スゲーもんなぁ。キエモンさんの剣裁き。なんかそう言った力かと思っていたけど、考えてみたら不思議だ」
思った通りの事態になってきたの。
以前にも似たようなやり取りをしたような気もする。
今までは上手く誤魔化せていたが、はてさて、一体どうするか。
「なるほどのぅ。キエモンにも妾の魔力と負けず劣らずの力があるという事か! 流石は妾のライバルじゃ!」
「拙者、いつの間に好敵手認定されたので御座ろうか」
「フッ、姫様はいつもそんな感じだ。あまり気にするな」
「その様だの」
サン殿のお陰で事は荒立たずに済んだ。
彼女の性格が幸いしたの。好敵手認定は気にせず、収まったこの場はそのままに限る。
箒と槍。そして己が足の移動によって目的地である採取場所へ向かう。
「ほほう! ここがその森の中か! 薄暗くて不気味なところよのぉ!」
「嬉々として話す事ではないと思うが……そう言った面持ちではあるな。任務依頼を読むに、此処に生えるは珍しい薬草らしいからの。こう言った人が近付かぬ場所にしか無いようだ」
サン殿の言うように、此処は少々不気味な雰囲気漂う森。
木々は鬱蒼と生い茂り、地面を覆う程の草が生え、足元は苔むしており、気を付けねば転んでしまいそうだ。
光の差し込みも少なく、常に薄暗い場所に御座った。
エルミス殿はしゃがみ、苔に手を添えて話す。
「確かに薄暗くて不気味な印象は受けられますけど、私はこう言った場所好きですよ。静かで落ち着く所。人里離れたからこその良さが見出だせます」
「フム、一理あるの。暗くジメジメしておるが、翠色からなる景観は美しい。喧騒なども無く、心身ともに休まるのを感じる」
「そうですよね♪ キエモンさん!」
この暗さと色合いだからこそ落ち着くと思える場所。
心無しか疲れも取れるような感覚に陥る。そして拙者らは早速対象となる薬草の捜索を開始した。
「えーと、クエスト依頼の内容によると……フムフム、成る程」
「その様な形の草を探せば良いのですわね」
「特徴的な形と言っても、辺り一面緑に覆われているからなー。中々至難の技だぜー」
「薬草が相手では気配を探知しても意味無いからの。地道に探すのみだ」
「アルマぁ。見つからぬぞ……」
「そう言ったモノなのですよ。姫様。全てが簡単に終わるなら始めから冒険者など必要ありませんからね」
読んで字の如く草を掻き分け、薬草となる物を探す。
依頼書にある絵を見るに形は特徴的だが、おそらく色合いは周りの雑草と同じ。探し出すのも一苦労。
然しそれを経て民達に届けば助かる者も多くなる。そう思えばやる気が出てくるというものよ。
「あ、ありましたよ! キエモンさん!」
「おお、流石ぞ。エルミス殿」
少し経ち、エルミス殿が手を掲げて見つけた薬草を翳す。
やはり回復術を得意とする彼女。そう言った物が惹かれるのであろう。
見事に御座る。
「お、妾も見つけたぞ!」
「サン殿も見つけになられたか」
エルミス殿に引き続き、薬草を見つけたサン殿が引っこ抜く。すると大地が揺れ、サン殿の下に穴が空いた。
「む? な、なんぞー!?」
「姫様!」
一瞬冷静になるが、即座に理解して落下。
アルマ殿が即座に助け、拙者らも巻き込まれぬよう空や近くの樹へと移動した。
「あれは……擬態獣! 髭を薬草に見立てて引っ掛かった生き物を食すそうです!」
「擬態獣。名前だけなら共通する獣は多そうだが、あの擬態。拙者でも読めなかった。見事な奴よ」
「フム、それも自然の摂理。しかし、姫様を食おうとした報いは受けて貰う!」
あの獣、擬態獣。
曰く擬態して餌を取る種との事。
拙者の故郷にもそう言った虫や魚は居たが、彼奴の擬態はかなりのもの。気配を完全に消し、ただひたすらに待ち続ける。その根性もまた大したものよ。
だが、サン殿が危険に晒された現状、アルマ殿が魔力から大槌を形成して思い切り打ち付けた。
『……!?』
その重さで大きく拉げ、擬態獣の居た大地が陥没する。
彼奴は意識を失い倒れ、アルマ殿は言葉を続ける。
「貴様も生きる為の行動だったのだろう。命までは奪わないでやる。だが、今度からは獲物を見定めるんだな」
「ビ、ビックリしたのじゃ……」
それもまた生態系。不要な殺生は行わず、アルマ殿は大槌を消し去る。
此処は少々危険というのもあり、拙者らはその場を後にした。
「おお、沢山あったぞー!」
「此処は群生地に御座るな。先程の場所は彼奴の縄張りだったから数が少なかったのか」
「いえ、もしかしたら森の入り口付近というのもあり、他の冒険者などが多く持っていったのではないでしょうか。だから擬態獣が棲み着き、やって来る冒険者などを食すようになったとか」
「成る程の。それはあり得る。あの薬草は人間に効くが、他の獣らには効かぬと書いてあるからの。元より人に狙いを付けた獣が居座るのは理に適っておる」
先程と打って変わり、この場には薬草が多く生えていた。
エルミス殿の理論には説得力がある。そして擬態獣とは、その環境に適した姿となって居着くモノに御座ったか。自然界も上手く回っておるの。
拙者らは必要な分だけ採り、次いで鉱石採取へと赴いた。
「ここは薄暗い洞窟ですわね。先程の森と言いここと言い、なぜこうも不気味なんでしょう」
「不気味で誰も近付かないからこそ、そこにある物は貴重になるんじゃないか? ほら、地底何千キロとか海の中とか、その環境に人間が適すればそこの貴重な物質は取り放題になる訳だし」
「なるほど。一理ありますわね。だからこのクエストは初心者向けの採取であっても人気が無いのですわ」
ブランカ殿の疑問にペトラ殿が返す。
先の擬態獣のような危険もあり、足場も環境も悪く箒でも徒歩でも近寄り難い。故の不人気。
人気が無いのは相応の理由があるので御座るな。
「さて、洞窟の中も多くの獣が居るだろうの。心して掛かろうぞ」
「「「は(ー)い(ですわ)!」」」
「おお、キエモン。よく部下をまとめておるの!」
「統率力。見事だな」
「号令を掛けただけでそこまで褒められるとはの……と言うより、アルマ殿の場合はふざけておろう」
「ふっ、見事だな」
「同じ言葉で返すでない」
ちょっとした茶番を経て洞窟の中へ。
ちと暗いが、ブランカ殿曰く洞窟にはガスなどが立ち込めている場合があるのでそう簡単に火は使えぬらしい。
然し鉱石採取。打った時に火花も散ろう。念の為に準備はしておくか。
『『『…………!』』』
「む? 蝙蝠の群れか」
少し行くと、物音に反応したのか蝙蝠が飛んできた。
拙者は鞘に納めたままの刀を握り、横からエルミス殿が情報を提供する。
「あれは“ポイズンバット”! 体に毒などがあるので気を付けてください!」
「フム、難儀よの。叩けば毒が散るかもしれぬ」
毒の体を持つ蝙蝠。ともすれば叩いた衝撃で毒、及びガスなどが散るかもしれぬ。
仕方無い。叩くと同時に毒の気配を察知し、それを防ぐか。
そこへブランカ殿が名乗り出た。
「だったら私にお任せくださいな。“ウォーターケージ”!」
『『『…………!』』』
ブランカ殿が杖を振るい、蝙蝠の群れを水からなる牢屋へ閉じ込めた。
見事な手腕。手際の良さ。彼女も常に鍛え、成長しているので御座ろう。
「さ、今のうちに。なるべく殺めたくないので数秒後に解除しますわ!」
「見事だ。ブランカ殿」
「ほ、褒められても嬉しくありません事よ♪」
嬉そうに返し、拙者らは駆け抜ける。
少し行くと、足元から蜘蛛が這い出てきた。
「キャアアア!? く、くくく……クモです! “ポイズンスパイダー”です!」
「また“ぽいずん”か。となるとあれも毒蟲よの」
「は、はい! 脚がワラワラで毛も生えてて気持ち悪いです!!!」
蜘蛛を見、心底恐怖するエルミス殿。
彼女は良いのだが、さてこの状況。如何するか。
「何故主らは拙者へ抱き付くのだ?」
「不可抗力ですキエモンさん!」
「わ、私もああいった脚が複数本生えた生き物の群れは苦手なんですわ……」
「私は結構慣れてるけど……あんなに沢山居るのは普通にキモい……」
状況と言うのはエルミス殿らが拙者に抱き付く状況の事。
柔らかな女子の肌を直に感じられるが、お陰で刀が抜けぬ。足に鬼神を込め、一瞬で蹴散らそうか。
そう思案しているところに、アルマ殿が手を翳していた。
「“無限槍術”」
『『『…………!』』』
湧き出てきた蜘蛛へ槍魔術を使い、その全てを絶命させる。
サン殿はそんな彼女へ問い質していた。
「アルマ。何も殺める事は無かったんじゃないか? ただ追っ払うだけで良かったと思うが」
「いいえ、あれで良かったのです」
「しかしの、アルマ」
「良いんです」
「……。もしや主、クモとか嫌いか?」
「…………」
返事はない。然し明白。
成る程の。アルマ殿も蜘蛛は嫌悪対象に御座ったか。
となると明日拙者らと別動隊で星の国に潜入する時、アルマ殿をサモン殿と鉢合わせる訳にはいかぬな。理由は今見た通り。
ともかく、毒蜘蛛は殺処分された。拙者らは更に奥へと歩み行く。
「……ん? なんか踏んだな。キノコ?」
「如何した? ペトラ殿」
「いや、足に柔らかい触感があって、キノコが生えてた」
立ち止まり、キノコを踏んだと言うペトラ殿の足元は苔が大量に生えておる。
この辺りは洞窟の奥地だが、植物が生えているらしいの。また一歩踏み込み、キノコから胞子のような物が飛び散った。
「うわっ!? なんだ!?」
「胞子ではなかろうか」
慌てて飛び退き、ペトラ殿は己の体を見る。
すると腕からキノコが生えていた。
彼女は一瞬戸惑い、少し冷静になると顔が青ざめる。
「こ、これが本当に胞子なら……それを全身に浴びた私は……!」
バッと服を脱ぎ、生まれたままの姿となる。
女子が何と言う格好かと指摘したいが、彼女の全身を見てそうは言えなくなった。
「ペトラ殿。その体……」
「うわあ!? 私の全身にキノコ生えてるーっ!? ちょ、キエモンさん! 取ってくれー! キエモンさんなら私の体に触れて良いからさー!!」
「待て! 落ち着け! 慌てるでない!」
「お、おお、落ち着いて深呼吸しましょう!」
「ダメですわ! 胞子が口の中に入ったら喉や肺がやられます!」
裸体で拙者に抱き付き、エルミス殿とブランカ殿。そして拙者も含めて少々混乱する。サン殿とアルマ殿もその姿を見、ゾッとしていた。
簡単な任務依頼の筈だったが、擬態獣に蝙蝠に蜘蛛にキノコにと、中々に難易度が高くなっておるの。正しく前途多難。はて、初級任務を攻略出来るだろうか。




