其の佰肆拾壱 同行願い
「──という事でサン殿。主の返答をお聞きしたい」
「なるほどのぅ。妾がさらわれ、大規模な戦争を止めるか」
会議が終わり、サン殿らを呼び出した拙者らは概要を話した。
意外と彼女は慌てておらず、腕を組んでうんうんと頷いておる。
「無論、断ってくれても構わぬ。拙者一人が居れば事は済むからの。念の為の確認と言ったところに御座る」
「……フム、なんであっても姫様を危険に晒す訳にはいかないな。しかし、騎士団長殿の作戦なら危険は少ない……万が一もあり得るが、私からは口出し出来ないか」
サン殿が作戦に利用されるのには思うものがある様子のアルマ殿。
然しエスパシオ殿の作戦は信頼性もあり、蔑ろには出来ぬものがあった。
此処は魔族の姫君であるサン殿が結論を出すところだ。
「面白そうじゃ! その案、乗ったぞ!」
「……はあ……やはりこうなるか……」
なるべく行かせたくは無さそうだが、サン殿の性格上こうなる事は薄々気付いていた様子。
アルマ殿は掌を額に当て、肩を落としてため息を吐いた。
「まあいい。キエモン。姫様を守れる保証はあるんだろうか?」
「ウム。くだんの件、行く者はヴェネレ殿。セレーネ殿、サン殿の三人と拙者。何れも戦えなくはないが、立場上は非戦闘員。故に拙者が命に変えても御護り致し候」
既にヴェネレ殿とセレーネ殿は同意しておる。
現時点ではまだ戦争を起こすつもりが無いのを踏まえ、事を荒立てる事もしなかろう。
そこを突き、拙者らは潜入して星の国を探る所存。
「一応私達も検査に引っ掛からないような魔道具は持つから、心配しなくても大丈夫だよ」
「うん……それに、私は私が許可した人にしか傷付けられないと思うから……。私の近くに居れば多分安全……」
「成る程……通信は可能であり、君には何か不思議な力があるから問題無い……か。ではその言葉を信じよう。ヴェネレ王。セレーネさん。姫様をよろしく頼む」
「任せて!」
「うん……」
話に纏まりが生まれ、サン殿も向かう事となった。
後はエスパシオ殿の作戦が上手く行くかどうか。心配はしていないが、拙者らの立ち振舞いも問題だからの。
一先ず今日は下準備。決行は明日。拙者らは特に準備する事も無いので任務などを受けるとしようぞ。
「では、然らば御免。拙者、また任務などを受けてくる」
「うん、分かった。私もまだお仕事が残ってるからじゃあね」
「私も行くわ。今日は遊べそうにないね。サン」
「むぅ、そうか。キエモンもヴェネレもミルも遊べぬのだな。妾は何をしよう……」
拙者とヴェネレ殿、ミル殿の三人は仕事があってサン殿と遊べない。
彼女は寂しそうにしていたが、拙者の方へと提案するよう話した。
「じゃあ、キエモンの仕事を観察して良いか!? 邪魔にならぬよう気を付けるからさ!」
「サン殿がか?」
「うむ!」
任務依頼への同行を願う面持ち。
真剣な目付きであり、遊びのつもりは無い様子。
然し、
「駄目に決まっておろう。サン殿はまだ幼く、正式な騎士でもないのだ。何と言っても魔族の姫君。危険な場へ行かせる訳にはいかぬ」
「なんでじゃー!? じゃあアルマも行くから。それでどうじゃ!?」
「確かにアルマ殿は騎士達を含めても上位に連なる実力者だが、拙者からすれば堅気。騎士でも冒険者でもない一般の者を争いへ巻き込む訳にいかぬのが人間の国での在り方よ」
「ううむ……人間の暮らしは不自由じゃのぅ……」
「秩序がなければ待つのは破滅。それを避ける為に定められた人の制約よ」
騎士、及び冒険者以外は許されぬが世界の規約。その為、サン殿やアルマ殿を参加させる訳にはいかぬ。
サン殿は口を尖らせ、ハッと思い付いたように不敵な笑みを浮かべる。
「ううむ、そうかそうか。騎士でも冒険者でもない妾は参加出来ぬな。致し方無し。では諦めよう」
「……? そうか。では、此れにて御免」
何であろうか。
星の国の目論見のみならず、サン殿の考えまで読まねばならなかろうか。
何にせよ参加は出来ぬ。拙者は一礼して王室から去り、待機していたエルミス殿らと合流した。
「あ、キエモンさん。話は終わったんですね」
「ウム。拙者らに準備は必要無いからの。強いて言えば武器などの所持くらい。後はエスパシオ殿らが上手く演じてくれる」
「そうですね。けど、やはり私は心配になります。相手は未知なる星の国。どうかお気を付けて……!」
「案ずるでない。拙者もヴェネレ殿らも柔ではない」
「それは……理解しているんですけど……」
些か心配が過ぎるの、エルミス殿は。
そこが良い所でもあるのだが、少々気に掛け過ぎな気も致す。
そんな中、他の二人が口を挟む。
「分かってないなー。キエモンさん。エルミスはキエモンさんだから心配しているんだぜ?」
「そうですわ。そろそろ彼女の好意にお気付きになっては如何?」
「好意?」
「ちょ、ペトラさんにブランカさん!?」
拙者だから心配している。フム、信頼が無いのだろうか。それなればちと悲しいの。
そして好意とな。彼女らは何を言っておるのか。
「好意なら気付いておる。拙者も主ら三人を好いておるからの。心配してくれるという事。それもまた好意であろう」
「「「……っ」」」
エルミス殿。ブランカ殿。ペトラ殿。この三人も例外無く好感を抱いておる。
拙者の言葉に固まり、少し経て更に続けた。
「そ、それは嬉しいですけど……貴方の仰る好意は友愛とか親愛に近しいものですわ。そうではなくてですね、エルミスさんは貴方を……」
「ブランカさん!」
「もがっ!? ひょ、エルミシュしゃん!?」
パシーン! と、快音を鳴らしてブランカ殿の口を塞ぐエルミス殿。
何をしておるのか。相変わらず愉快な者達よの。見る分には楽しき事だが、考えている事までは分からぬ。
「愉快愉快。では、今日も任務に参ろうぞ。お三方」
「はい、キエモンさん!」
「……ちょっと、エルミスさん。キエモンさんの鈍さは筋金入りですわ。やはりここは率直に婚姻を結びたいと告げなくては……!」
「そんな事言える訳無いじゃないですか……! と言うか段階を踏まず進展が早過ぎますよそれは……!」
「いいえ、キエモンさんはそれくらい真っ直ぐに言わなければ振り向きません事よ……!」
エルミス殿が返事をした後、何やら二人がヒソヒソと話を始める。
所々に拙者の名が出ているようだが、何かしたであろうか。なんとなくそれを聞くのは無粋な気がしてならぬ。
疑問を浮かべながらギルドへと入る。さて、今日は如何様な任務依頼が連なっているか……。
「ふふ、待っておったぞ。キエモン!」
「……サン殿。何故此処に? 拙者らの方が早く城を出た気がするがの」
何故かこの場にサン殿とアルマ殿が居た。
人間界の勉強。その為ギルドに立ち寄るのは別に変でもないが、拙者より後に城から出た筈という疑問が残る。
はて、何が狙いなのだろうか。
「ふっふっふ……何を隠そう、アルマの槍で飛んできたのだ! そしてキエモン! 主と共に行く算段もある!」
「……そうか」
何と返すのが正解か。それは一向に分からぬ。故の単調な返答。
そして周りの人々がサン殿とマルテ殿へ注目し始めた。
「誰だあの子?」
「キエモンさんの知り合いみたいだ」
「あー、最近街でもたまに見る子だよ」
「キエモンさん困ってるな」
「助けてやるか?」
「いや、俺達より子供の扱いはキエモンさんの方が上手いだろ」
「それもそうだな」
拙者を知る者もチラホラ。それもあって拙者も目立っておる。
参ったの。拙者は兎も角、サン殿らの気配から人間ではないと気付かれる可能性も出てきた。
此処はさっさと終わらせよう。
「して、要件は何ぞ? 主の算段とやらを訊ねよう」
「~~っ。良い返答じゃあ……! ふふん! では教えよう! 妾ら、冒険者登録を済ませたのじゃ!」
「なんと。冒険者がワラワラ出てくるのか」
「違う! ワラワラではなく妾らじゃ!」
「成る程。ワラワラだの」
「違うと言っておろうが! 擬音のワラワラではなく、人称の妾らじゃ!」
「即ち、妾ラという事だの」
「だから……あれ? ニュアンスが少し変な気もするが、合っておるか? と、また主のペースに乗せられてしもうた!」
拙者のおふざけに気付いたようだの。然し、まさかサン殿らが冒険者登録を済ませたとな。
「何故態々斯様な事を。そこまでして行きたかったのか?」
「うむ。それもあるが、世界を見る為には冒険者として色々なクエストを受けるのが良いと判断してな!」
「フム、一理あるの」
斯く言う拙者も騎士として任務を受ける事によって世界を広げる事が出来た。サン殿にとっても良い経験だろう。
騎士にならずとも冒険者として任務に同行するとは考えたの。それなれば即席で可能だ。
「だが、拙者らと同じ任務を受けるのか? 戦力としては申し分無いが、正直言って面白味に欠けると思うがの」
「構わぬ! 冒険者は許可書を提出する事で城の騎士と組めると言われての! それをここで使いたい!」
何から何まで準備は終えていた様子。
初心者である冒険者は、危険という理由で騎士の同伴を願える……とヴェネレ殿が王位に就いてから制定した。
それによって負傷者や死者。行方不明者が減り、忙しい場合は騎士達へ無理強いもせぬので評判も良い。
その規約を使うとはの。アルマ殿の案かと思ったが、拙者が立ち去った時点で何かを目論んでいた。
即ちサン殿が規約を読み、今回の案を思い付いたのだろう。頭脳面でも順調に成長しておるの。
「フム、エルミス殿。ブランカ殿。ペトラ殿。如何致す? 隊長は拙者だが、此処は班の全員で決めるとしよう」
「私は別に構いませんよ。アルマさんやサンちゃんの実力を改めて見てみたいですし!」
「私も構いません事よ。寛大な心意気を見せて差し上げますわ!」
「私も良いよー。色々と気になるからな~!」
三人全員が同意。
拙者も賛成ではある。先はあくまで騎士でも冒険者でも無かったが為に否定したが、冒険者となったなら断る理由も無かろう。
「相分かった。サン殿。アルマ殿。主らの同行を許可致そう」
「やった! これでまた世界が広がるの! アルマ!」
「ええ、そうですね。姫……ではなく、サン様」
身分と種族は相変わらず隠し通す。故に呼び方も改めた。
サン殿らの同行は決まったが、勉強になるかは任務次第。拙者らは基本的に人気の無い依頼を受けるからの。何が来るかは見てみなくては知り得ぬ。
星の国へ向かう明日までの準備中、拙者らはいつものように任務依頼を受けるので御座った。




