其の佰肆拾 情報収集
──“シャラン・トリュ・ウェーテ、城内王室”。
「じゃあ後で騎士達は何人か呼ぶから、まずは私達に関係しているけど曖昧なセレーネちゃんの記憶から話すね」
「うむ、心得た」
説明口調で言い、拙者とヴェネレ殿。セレーネ殿にミル殿のみが王室に集まった。
ならず者達については後々。今は拙者らのみの話し合う。
「率直に言うと、セレーネちゃんの記憶は彼女が夢の中で見たものなの!」
「……夢とな?」
成る程の。確かに曖昧。夢で見たから協力してくれとはならぬだろう。
拙者らのみに話す理由もそれで頷ける。
ともすればその夢の内容は何かという事。普段は消極的なセレーネ殿が前に出て話す。
「私が見た夢は私の母親っぽい人が語り掛けてくるもので──」
それから、セレーネ殿の話が告げられる。
彼女の母親と思しき者が話した内容。全てを覚えておらずとも、“悪夢”と言う何か悪い事が起こるかもしれないという事だけは覚えていた。
大した夢よの。具体的で信用に値する。
この国に来て調べたが、夢と言うモノは記憶の中から登場人物、場所、その他が選ばれて物語が展開するらしい。
過去の体験その物が映る事は滅多に無いようだが、セレーネ殿のそれは誠だろう。
斯く言う拙者も過去の経験そのままを夢で見た事がある。拙者の場合はそれに該当する確かな記憶もあり、信憑性は高い。
要するに、セレーネ殿の夢を夢と一蹴する事は出来ないという訳だ。
「フム……近々、この世界に何か良からぬ事が起こるのだけはほぼ確実のようだの」
「けど、所詮は夢……。未来でも視れなきゃ確証には至らない……」
「未来視の魔法かぁ。世界中で色んな国や組織が研究してるけど、未だに確立はされてないね。視れても精々数秒後とかそんなの」
十中八九起こりうるが、本人も言うように夢な為信用する者も少なかろう。
未来を視る術があれば確実らしいが、そんな都合の良い魔法も御座らん。
拙者の故郷でもかつては占星術などで彼の陰陽師、安倍晴明殿などが未来を占っていたらしいが、拙者は斯様な力を有しておらん。
手詰まりよの。
「一先ず、話し半分で考えてその時が来たら対処出来るように準備しておくのが現状の最善かな」
「そうよの。騎士団長の者達などには教えても良いかもしれぬ。いざという時、指揮を執れる者は多い方が良かろう。……と言うてもヴェネレ殿の言う通り話し半分に留め、頭の片隅に置いておくくらいが丁度良い」
「そうだね。エスパシオさん達には教えておこっか」
話し合った結果、一先ず大々的な発表はせず、拙者らと騎士団長などにのみ教えておく方向へ纏まった。
これなればもしもの時対処も出来よう。
次いで拙者の方へとヴェネレ殿らは向き直る。
「じゃ、次はキエモンの方ね。さっきの人達については組織……なんなら国家的な何かが関わっていそうだから……今集まれる人は何人か集めておこっか」
「そうよの。拙者が狙いだった時点で実力のある者は狙われるかも知れぬ。教えた方が良いだろう。今城に居るのは……」
その後、ヴェネレ殿は城にて警備や見張り、遠征していない者達を捕らえた者達の居る場所へ集めた。
拙者、ミル殿、セレーネ殿はそのままに副団長が数人。騎士団長はエスパシオ殿にフォティア殿。軍隊長に昇格したマルテ殿に他の軍隊長がまた数人。
そして拙者の班と言うのもあり、エルミス殿。ブランカ殿。ペトラ殿と城の警備は問題無いだけの人数を寄せた。
捕縛した者達は当然の如く拘束されており、解析班は持ち物などを並べて調べている。
拙者の隣でエルミス殿が話した。
「キエモンさんを襲ったのはこの人達ですか。見覚えがない顔立ちですね」
「うむ、おそらく他国の者。火の国、森の国、海の島は対象外として、考えうる可能性は星の国からだろう」
「星の国……“スター・セイズ・ルーン”からの刺客……」
「その可能性は高いねー。アイツら色々と実験してっからさ。この持ち物の腕輪とか、その産物じゃね?」
拙者とエルミス殿が話していると、後ろからのし掛かるように肩を組むフォティア殿。
敵意もないので避けはせず、彼女の言葉へ返す。
「つまりあれらは星の国にて作り出された魔道具という事に御座るか」
「多分ねー。ウチも確信がある訳じゃないけどさ、キエモンっちの予想通りあれは魔力増強の道具。本来よりも高い魔力を出せる……この国で分かりやすく例えるなら、入団したてでまだあまり力の無い新人騎士が一気に隊長クラスまでランクアップ出来るくらいの上昇量。あの腕輪を量産出来れば隊長クラスから騎士団長クラスまで一気に増やせるね。無論、元となる素体は重要だけど」
フォティア殿の見立てでは魔力の少ない新人騎士が騎士隊長にまで追い付ける程の上昇幅。
それを量産出来るのなら、考える間もなく戦力強化が望めるだろう。
国家の力が一気に高まると考えて良さそうだ。
「要するに兵器とも言えるか。個の強さを上に押し上げ、一つの軍隊を上澄みとすれば強国になろう」
「今の時代、昔より戦争は減ったとは言え、それを行っている国はまだある。そう言った戦力強化の魔道具なんかは自軍の強化にも金儲けにも使えるな」
マルテ殿の言うように、腕輪型魔道具の使い道は様々。
戦から金銭稼ぎ。用途は多々あろう。
キナ臭くなってきたの。その様な物を嵌め、拙者へと接触を図った。
星の国か、はたまた何処ぞの国が戦でも企てているのか、穏やかな雰囲気では御座らんな。
マルテ殿は更に続ける。
「キエモンを勧誘すると言っていたらしいな。まず確実に戦力の強化は図っていた。後は詳しい事情を聞くとするか。エルミス。この者達を治療し、口を割らせろ。この場でなら自害も出来ず、何かしらの仕込みがあっても全員で対抗出来る」
「は、はい!」
目的は拙者。この者達の出身地さえ知れば後はそれについての対策を練るだけ。
既に嘘発見の魔道具も用意してあり、準備は万端に御座る。
エルミス殿は魔力を込め、一人を回復させた。
「さて、尋問開始だ。“スモールウォーター”」
「……!?」
エスパシオ殿が軽く水を放ち、回復させた一人を起こす。
突発的な衝撃は目覚めるのに最適。起きた男は繋がれている自分を見、拙者らを見て眉を顰める。
「貴様ら……!」
「やあ。君がうちの大切な騎士を狙った不届き者だね。早速聞きたいんだけど、君って星の国“スター・セイズ・ルーン”から来たの?」
「……ハッ、話すか。どこの国か。それを言う訳にはいかな──」
「フム、困ったね。やっぱり尋問だけじゃ口を割らないか」
「ガボッ……」
尋問と言いつつ質問は一つだけ。それだけで無駄と判断し、拷問へと変更した。
エスパシオ殿は水球を男の顔に被せて窒息させる。
殺めはしないが、その過程は苦しかろう。拙者の故郷でも逆さ釣りにし、水の入った大桶へと罪人を沈める拷問がある。
「フム、1分半。そろそろかな」
「ゴホッ! ゲホッ!」
少し経ち、水球を外す。
直前の呼吸も何も無く、唐突に向けた水。耐えられる時間も限られよう。
水を含んだのか吐き出すように咳き込み、エスパシオ殿は改めて優しい微笑みを向ける。
「さあ、YESかNOだけで良いんだ。君の出身国は星の国かい?」
「言わない……理解しているからな。嘘発見の魔道具があるという事──ガブァ!?」
長ったるい会話は遮り、また水を覆って拷問に掛ける。
溺れる直前になればエスパシオ殿が判断して止める。それによって拷問は続く。
「やっぱり痛みによる拷問が適性かな。けど別に悲鳴を聞きたい訳でもない。やる側としても心が折れるんだよねぇ」
「ゲホッ……ゲホッ……ハッ、何でもしてみろ……我らは貴様らに屈しない……!」
「そうか……それは大変だ」
男の言葉に軽く返答し、息つく間もなく再び水球で顔を覆う。
少し考え、エスパシオ殿は行動に移った。
「じゃあ君は──星の国についてなんとも思っていないという事か」
「ハッ……俺が知るか……」
その言葉を告げた瞬間、嘘発見の魔道具が動いた。
男は困惑の色を見せる。
「な、なぜだ!? なぜ答えていないのに……!?」
「バカだなぁ。星の国についてなんとも思っていない訳じゃない事の証明じゃないか。敵国でもその国出身でも、何か思うところがあるから反応した。星の国さえ知っていれば、今の質問に対してある程度の答えは反応しちゃうよ。後はそれがどちらに転ぶか。まあ、君達が星の国出身なのは大凡の検討が付いているし、ここから更に尋問と拷問を組み合わせて色々と聞き出すよ」
「……っ。悪魔め……!」
「いやいや、ウチの有望な騎士を勧誘しようとしていたんだし、なんなら襲撃したし、当然の報いじゃないかな? 寧ろ痛み以外の拷問の時点で優しい方じゃないかな?」
流石であるな。エスパシオ殿も。
この調子なら情報は更に掴めよう。
そして血は流れず、死者も出ない。拙者としても良い判断と思う。
まあ、拷問ではあるので穏やかではないがの。
その後、エスパシオ殿は事を終わらせた。
「色々と聞き出せたよ。星の国出身なのは確定。狙いは彼らの言った通り、星の国へ君を連れ出すつもりだ」
「成る程」
「こちら解析班。魔道具の解析が終わりましたよー!」
「ご苦労様!」
エスパシオ殿が情報を聞き出し、解析班の女性が腕輪を持って手を振る。
拙者とヴェネレ殿がそれらに反応を示し、先に概要が分からぬ解析班の見解を聞く。
「予想通りこれは魔力の質や量を高める物みたいです。ほんの少し魔力を流すと光を放って体内に別の魔力が流れて、己の力を高める構造ですね。しかしながら肉体的なダメージも当然負い、連用すると何れ肉体が壊れる危険な代物です」
「己の技量に合わぬ力を注入しているという事か。肉体が持たなくなるのも頷ける」
「そんな危険な魔道具を……この人達は使い捨てって事……?」
「おそらくはそうですね。ヴェネレ様」
肉体の破壊と引き換えにそれなりの力を得る道具。
俗に言う諸刃の剣という事に御座ろうか。代償のある強化。一時的に兵士を強く出来るが、少し経て以前より肉体が砕けては元も子も御座らん。
早熟が悪いとは申さぬが、兵士などはじっくりと育てた方が良かろう。幼少期から戦場に出ていた拙者の言葉。信憑性は高いと自負しておる。
解析班の説明を聞き終えたエスパシオ殿は拙者らの方を向いた。
「それじゃ、我からも得られた残りの情報を話すよ。彼ら星の国の捨て駒達。キエモン君と他の有望な者達を世界各国から攫った後、全世界へ宣戦布告するらしい」
「「「…………!」」」
その言葉に、この場に居た全員が反応を示した。
世界への宣戦布告。また奇っ怪な目的を掲げておられる。
星の国については殆ど何も知らぬが、己の国に閉じ籠り、企て、目論んでいた事が世界との戦争とは。今の時点では救い様が見つからぬ。
星の国にもサモン殿と言う知り合いがおられるが、彼女が無事かどうか不安よの。
「エスパシオさん。そんな重要な情報を一体どうやって……!」
「簡単さ。戦争について訊ねる。当然それについて話す事は無いけど、さっきみたいにある程度の選択肢を絞った言い方で質問する事によって抜き出したんだ。沈黙という手もあったけど、話さざるを得ない状況にしてね」
「さ、流石ですね。エスパシオさん」
ウム、誠に見事な手腕。
人の心理を突き、それについての話をさせる。本人は自分が追い詰められている事にも気付かず情報を話してしまう。
嘘発見の魔道具があるとは言え、そこまで誘導して紡ぐのは彼の腕からなる事柄に御座る。
「まあ、下っ端というのもあって戦争を起こす以外の情報は得られなかったんだけどね。此方としてもそれは見過ごせない。そこで提案なんだけどヴェネレ姫。星の国“スター・セイズ・ルーン”に諜報員……つまりスパイを派遣するのはどうかな」
「スパイ……確かに内側から戦争を止められたら良いけど、一体誰を……」
「それについてはキエモン君が適性さ。具体的な内容は後で話すけど、キエモン君だけじゃなくてヴェネレ姫とセレーネちゃん……そして魔族のお姫様も対象みたいだよ」
「……!」
星の国の狙いは拙者のみならず、ヴェネレ殿にセレーネ殿。そしてサン殿とな。
サン殿の情報を何処で仕入れたのかは分からぬが、この三人の時点で純粋な力だけが目的ではないと分かるの。
「……仮にそうであるとして、如何様な方法で?」
「ああ、この場に居るのは信用出来る人達。だから率直に話すよ。……君達、一度星の国に捕まるんだ」
「……!」
エスパシオ殿の案。それは星の国の標的となっている拙者らを差し出すという事。
彼は更に言葉を続ける。
「当然君達を売る訳じゃない。その方法は──」
その口から紡がれる方法。
危険ではあるが、確実性も高く先ず潜入するだけなら容易に御座ろう。
然し答えを出すのは拙者ら。その案に興味を引かれつつ、会議は終わるのだった。




