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御負け 人間と魔族の日常

 ──食堂にて。


「おお! これが人間達の食べ物か! 妾らの物とあまり変わらんの!」

「変わらぬのなら何故そこまで興奮するので御座ろうか。サン殿」

「見た目や食品が同じであっても味付けは違うからの! それが楽しみなのじゃ!」


 今宵の食事は溶かしたチーズを塗ったパン(※お好みで)にシチュー。そして肉と卵。そろそろ冷えてくる頃合いだからの。温かい品物が増えてきた。

 相変わらず美味なる食事だが、サン殿らは別に気に掛けているものもある。


「なんじゃこれは……おにぎり? 鬼を切る食べ物か?」

「主体は米のようですね。外側の人間の国にも米が流通していたとは」


 それは拙者が頼み込んでお品書きに記された握り飯。

 米は知っているようだが、おにぎりは知らぬ様子。なれば勧めるとしよう。


「これは拙者の故郷の料理だ。この国風に言うと“しんぷる”だが、美味ぞ」


「そうか。では早速──……ッ!? す、酸っぱいぞ!? なんじゃこの赤い果実は!? 口が曲がり、唾液が溢れる……!」


「なんだこの酸ゅっぴゃひゃは……呂律が回りゃない……! 毒か!?」


「それは梅干しと言ってな。癖になる酸っぱさが美味なのだ。故郷と全く同じ梅は無かったが、似たような果実があったのでな。漬けていたのだ」


 梅入りの握り飯を食し、口を曲げるお二方。

 その反応を見た使用人二人は握り飯は取らず、黙々とパンを口に運んでいた。強かだの。


「酸っぱい……美味しい……」

「フッ、セレーネ殿はすっかり慣れておるの。初日は暫く拙者と口を聞かなかったと言うに」

「あの時はあの時……今は別……」


 同じく握り飯を頼んだセレーネ殿は若干口を萎めつつ味わって食す。

 そう、実は梅干しを前に食べさせた事があるのだが、その衝撃によって少し嫌われた事がある。またいつかに話すとしよう。


「フム……慣れれば中々イケるな。ウメボシとやら……!」

「妾はムリじゃ……ギブぞ……」


 味覚の違いからか、大人であるアルマ殿は慣れており、子供であるサン殿はぐったりしていた。

 拙者も幼き日は梅が苦手だったからの。食せるようになったのは案外最近に御座る。……と言うても現世では既に死しているがな。


「ええーい! パンとシチューで流し込むぞ!」

「これこれ。落ち着いて食べよ。サン殿」


 酸っぱさを掻き消すかの如く、別の物を頬張る。

 まるで小動物のよう。彼女もいずれ食べれるようになるだろう。

 こうして賑やかな食事は終わりを迎えた。



 ──お風呂にて。


 私はルーナ=シュトラール=ヴェネレ。以下略。

 やっと仕事を終えてお風呂に入ったんだけど……。


「ほほー! 見よ見よ! 泳げるぞ! ヴェネレ!」

「アハハ……そうだね……」


 ……食事を終え、少し仮眠を取った後のサンちゃんとバッタリ出会でくわしていた。

 確かに彼女も王族だもんね。ここのお風呂を利用するのは何も変じゃないけど……。


「……えーと、アルマさんに使用人のお二方……そこで見ていないで、せっかくだから一緒に入ろ? ミルちゃんも」


 アルマさん達とミルちゃんが付き添いとしてお風呂に入らず待機していた。

 遠慮しなくていいのに。特にミルちゃんとは一緒に入る事が多いから見張りに徹するのは今更だよ……。

 彼女達は応える。


「いえ、私はあくまで側近なので」

「私もだよ。ヴェネレ。アルマさん達が全うしているのに入るのは気が引けるかな」


「えー? いいじゃんいいじゃん! 主らも共に入るのじゃ!」

「そうだよ。私達の仲なんだしさ、ミルちゃん!」


「……その誤解を招くような言い方はして……」

「うーむ、姫様がそう言うのなれば……」


 見てるだけなんてつまらない。なので4人を誘い、アルマさん達とミルちゃんは衣服を脱いだ。


「では、失礼ながら」

「もう、ヴェネレは寂しがり屋だな~」


 その裸体を露にして湯船に浸かる。

 2人とも綺麗な体だよね。私も負けてないとは思うけど、白い素肌に柔らかそうな肢体。腰回りの曲線美。アルマさんは私より胸も大きくて形が整っているし、魅力的な体。

 ミルちゃんは年齢的に私よりって感じはないけど……明らかに私が彼女くらいの年齢の時よりは育ってる。


「何を見てるんじゃ? ヴェネレ」

「え!? あ、いや……2人とも魅力的だなぁってね。他意は無いよ?」

「そうですか? 私は別にそんな事無いと思うが……」

「何を言ってるんだか。確かにアルマさんは同性から見ても魅力的だけど」

「ミルちゃんも負けてないよ。だってこの年齢で今の状態だもん。将来有望!」

「そ、そう。ありがと?」


 同じ女でも綺麗な人とか胸の大きさは気になる。私個人的には憧れとかの感情が近いかな。厳密に言えば違くて上手く言い表せないけど。

 取り敢えず私はこれから成長するんだろうか。


ぬくいのぅ。人間の風呂も中々じゃ」

「アハハ……サンちゃんって行動は子供っぽいけど、言い回しとかは年相応じゃないよね」

「むぅ? それはバカにしておるのかー!? 妾もよく指摘されたが、今はもう誰からもされんぞ!」

「バカにはしてないけど……不思議だなって思ったの」

「ふむ、なら良し!」

「不思議なのは良いんだ……」


 何が良いのかは分からないけど、別に怒らせた訳でもないみたい。ただ単に他人の口調は気にしなくても良いって事かな。

 けど何て言うんだろうね。古風って言うか、キエモンにも近い感じの言葉遣い。私が知らないだけでキエモンの故郷はどこかにあるのかな。けど帰れないって言っていたよね。何でだろう。


「ねえ、サンちゃんかアルマさん。魔族の住み処って、裏側なんだよね? 本当に残っているのは貴女達だけなの?」


「む? どうなんじゃ。アルマ」


「そうだな……じゃなくて、そうですね。かつての同族殺しのサクによって魔族の大半は死滅しました。その時点での魔族達は数ヶ所に住んでいましたが、戦争を経て数を著しく減らし、最終的に今の人数となったのです。繁殖行為も滅多にしませんからね。私も行為に移った事がなく、子供とか居ませんし。……ですので仮に徴兵を逃れた魔族が居て、ずっと身を潜めていたとかなら可能性はありますけど、魔族の本能にその様な者は居ないので今の数は私達の集落に居る方々だけですよ」


「へえ……サク……あの魔神にそんな名前があったなんてね」


 サクって人? についてはさっき王室で聞いた。

 同族殺しと大戦争。神話の中の事だったけど、それは実際に起きていた。前にハクロさんからも聞いたもんね。

 一体何がそうさせたんだろう。純粋な戦闘意欲? 何かしらの野望? ただ単に暇潰しをしたかったからってのもあり得る。

 気になるけど、深くは考えなくて良いかな。今は彼女達とのんびり、お風呂で過ごそっか。


「ミル! 端まで競争じゃ!」

「勝手にすれば。私はそこまで子供じゃないから」

「ふっ、負けるのを恐れているな。当然じゃな。妾の魔術の恐ろしさを身を以て知ったんじゃからの!」

「……! 恐れてる? 私が? あまり舐めないでよね。貴女のはたまたま。偶然の産物。その証拠を見せてあげるわ」

「上等じゃあ! 行くぞ! ミル!」

「やってやる!」


 そう言い、2人は泳いで端に向かう。

 何だかんだ、サンちゃんのお陰でミルちゃんにも同年代の友達が出来たし、出会った当初以来久々に年相応の面を見れたかな。

 私は同年代の友達とか居なかったし、張り合える友達が居るのはちょっと羨ましい。ふふ、なんか保護者みたいな目線。

 お風呂で私達の数十分は過ぎて行く。



 ──街にて。


「おお! ついに人間の街を見れるのだな!」

「姫様。魔族なのは内密なので他種族っぽい事は以下同文」

「そうじゃった!」


 翌日、拙者はサン殿へと町の案内をしていた。

 来ているのは拙者の班とサン殿にアルマ殿のみ。初めて見る人間の暮らしを興味深そうに眺め、楽しそうにしておる。


「エルミス殿。ブランカ殿。ペトラ殿。今日の任務はサン殿の護衛。かなり重要且つ、おそらくかなり疲れるので心して掛かれ」


「そうですね……サンさんのお相手は疲れそうです」

「なんですの。そのサンサンとした太陽みたいな人称は……」

「ハハ、実際に名前の呼び方は悩むなぁ。サン様って私達騎士が呼ぶと街の人達に他国の王族か貴族って思われて気を遣われそうだし、サンさんだとブランカの言う通り。サンちゃんってのもしっくりこない」

「私はサンちゃんでしっくり来ますよ」

「エルミスは柔軟だからなー」

「そうですわね」


 街に出て数分、エルミス殿らは早速苦労しておる。……サン殿の呼び方について。

 いずれの呼び方も手応えは感じず、それについて悩んでいたようだ。


「オイ! 主ら! おもちゃ屋はどこじゃ!? 流石にあるじゃろ!」


「お、おもちゃ屋さん?」

「年相応ですわね……」

「ハハ、確かにそう言った店は寄らないから気になるかも」


 サン殿の御望みは玩具店。

 彼女の目的地は大方予想通りよの。今の時点で朝食直後、飲食店に行く事はない。魔道具などもあまり興味は無かろう。

 彼女の性格を惟れば必然的にそうなろう。

 ふふ、拙者、人間観察にも少々自信があり申す。流石に忍の者程では御座らんがの。


「玩具店なれば此処の大通りを真っ直ぐ進み、途中で何回か曲がり角を曲がった先にあり申す」


「ホントか!? では早速参ろうぞ!」

「同行仕る」


「さ、流石キエモンさん。地の利が私達よりあります」

「迅速な対応ですわね」

「やるなー」


 案内も拙者。目的地へと着き、中へ入るとサン殿は目を輝かせた。


「おおー! これがにんげ……ここのおもちゃ屋か! 品揃えが良く、精巧に造られている!」


「お、嬉しいこと言ってくれるお客さんだね。キエモンさん。貴方の連れかい?」


「そんなところだ。少し見て回る」

「OK。良いおもちゃ色々あるよ」


 此処の店主とも知り合いに御座る。いや、冒険者などの定期的にやって来る者以外、街の住人とは皆と知り合っておる。

 交友関係を広げるのは今回のように色々と都合が良いからの。拙者、悪党以外は町の皆を好いておる。


「お眼鏡に適う物があったか。サン殿」

「どれも良くて迷うのぉ。見よこの人形! 良くないか!?」

「人形……に御座るか」


 サン殿が指し示したのは人形……なのだが、何と言おうか。目の焦点が合っておらず、何かしらの薬物でも飲用しているかのような顔付き。

 俗に言う可愛いという言葉に遠く及ばぬそれだが、人気商品らしく数も少ない。残り二つだ。

 そう言う物が人気なので御座ろうか……拙者には分からぬ世界よ。

 ともあれ、気に入ったのならそれを買うか。


「これにするか? サン殿」

「うむ! それと彼女のミョンも欲しいぞ!」

「彼女……つがいに御座ったのか。そしてミョン?」


 値札を見ると、“リョン”と“ミョン”と書かれておる。

 この人形は二つで一つだったので御座ろう。残り二つという事は番の人形が一つずつ。品切れ間近という事に御座ろう。


「ではこれを。金銭は……」

「それについては私が払おう。金銭は表側も裏側も変わらないからな」


「へえ。アンタら、裏側から来たのか。確かに不思議な雰囲気はあるな」


 金銭についてはアルマ殿が払うらしい。

 此処での金銭は金貨など。それもあって混乱が生まれぬのは良いかもしれぬの。

 二つの人形を購入し、サン殿は嬉々として紙袋を持つ。


「サンちゃん、楽しんでいるようで何よりですね」

「そうですわね。人間の国を好きになってくれるのならそれに越した事はありませんわ」

「そうだな。今回の任務は大変だけど、結構楽しいや!」


 大人数で入るのは悪いと考え、エルミス殿らは外で待機。然し今回の任務を楽しんでいるようで何よりだ。

 魔族達の地上生活。サン殿の修行も兼ねているのだが、今のところは平穏な日々が過ぎ行くのみに御座るな。

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