其の佰参拾漆 許可
──“王室”。
「それで、改めて話し合い? をするんだけど……貴女達の目的は何かな? キエモンの紹介でわざわざ魔族のお姫様が来るって事は大きな事情があると思うけど」
「はい。では単刀直入に申します。ヴェネレ様。我々魔族一同。この国“シャラン・トリュ・ウェーテ”へ移住の許可を下さい」
「……!」
決闘が終わり、王室へと戻った拙者らは改めてアルマ殿らから目的を聞いた。
と言うても拙者は知っておったがの。初耳のヴェネレ殿らは少々驚いている。
「なぜ魔族の姫が人間の国に……な、何かあったんですか!? 貴女方が魔族最後の生き残りとか!?」
「い、いえ。こちらのお姫様も賑やかですね。コホン、実はかくかくしかじかで、姫様に世界を見て貰いたく、本拠点をこの国にしようかと」
「あー、なるほど。そうだったんですね。私は構いません。貴女方が悪い人には見せませんから。その……絵本……絵物語などで魔族はよく悪役として描かれているので……」
「存じ上げています。彼の悪魔……人間の言い方では邪神・魔神は魔族の出ですから」
「え!? じゃ、邪神・魔神って……あの……!?」
「おっと、種族までは知りませんでしたか」
いつぞやの邪悪、サクを魔族と知らぬヴェネレ殿。そして邪神・魔神を名義で存在を認知しておる他の者達は驚きの色を隠せなんだ。
「そうですね。概要を知らねば不親切。これまでの事を更に詳しくお話しします」
改め、アルマ殿は何故今回の判断に至ったのか経緯を説明する。
「──という事があり、先のかくかくしかじかの前後に割り当てて下さい」
「それでキエモンに助けられて……。アハハ……キエモン的には剣を直しに行っただけなのに大きく苦労しちゃったんだね」
「そうよの。然し得られたモノもある。刀も順調。悪い事ばかりでは御座らんよ」
「そうなんだ。それなら良かったかな」
苦労はあったが、サン殿らと知り合えたりと収穫も多い。何より魔族と友好関係を築けたのが最も大きな成果に御座ろう。
話が終わり、ヴェネレ殿は改めてアルマ殿らへ向き直った。
「……サン=イグニス=グリモワール様。そしてお付きの方々。貴女方の移住を許可します。先程も申した通り、悪い人達では無さそうですからね。是非とも我ら人間と友好な在り方を築き、共に励みましょう♪」
「フム……姫様。ここは貴女の出番ですよ」
「妾の?」
お姫様もぉどとなって告げ、アルマ殿はサン殿へと指示を出した。
「はい。人間の姫君であられるヴェネレ様が私達の移住を認めてくれたのです。つまり、魔族の姫である貴女が然るべき態度を見せなくてはなりません」
「そ、そうか。姫としてだな。……良し……──許可、感謝するぞ。ヴェネレ姫。主の考えと同じく、妾としても人間と良き関係は築きたいものよ。妾ら魔族は数が少なくての。友と呼べる種族とも疎遠なのじゃ。かつては人間と協力したと言う。詳しくは知らぬが、その様な関係を主らと結べるのであれば願ってもない」
「お見事です。姫様」
アルマ殿はサン殿の演述を賛する。
彼女にも魔族の姫としての自覚はあり、見事それにお応え申した。
今回サン殿は大きく成長したの。ミル殿に魔力の使い方を学び、姫として外交を塾した。
ヴェネレ殿は笑って返す。
「では、よろしくお願いしますね。……よし、お姫様モード終了! 魔族としての素性は隠しているみたいだから、一先ずはこのお城で過ごして。仲間が増えるのは私としても嬉しいから!」
「そうか。この城に住んで良いのだな。感謝するぞ、ヴェネレ。部屋はあるのか? 広い部屋だと遊べるから良いがのう!」
「ご所望は広い部屋だね。丁度空いてるよ。アルマさん達もそこで良い?」
「妾は一向に構わぬぞ!」
「私も構いません。姫様の近くで見守れるならそれに越した事もありませんから」
サン殿の注文には答えられそうな様子。確かにこの城は多くの部屋が空いているからの。彼女らの望む部屋もあろう。
これにて話は纏まる。ヴェネレ殿は更に話した。
「それじゃ、案内するから来て。サンちゃん……って、こんな呼び方で良い?」
「構わぬ! 妾としても気を遣われるのは疲れるからの!」
行うは部屋への案内。即ち此れにてこの場は解散となる。
役職のある騎士団長やマルテ殿。戦闘面以外の活動が多いサベル殿はこの場を去る。
拙者の班であるエルミス殿。ブランカ殿。ペトラ殿とセレーネ殿。ヴェネレ殿に側近のミル殿はこの場に残った。
「ミルちゃん。私の仕事は空けられる?」
「まあ、今日の分はまだまだ残っているけど……部屋を案内して紹介するくらいの時間はあるかな。何より魔族のお姫様を無下にする訳にもいかないからね」
仕事の残っておるヴェネレ殿はミル殿へと訊ね、此方も許可が降りる。
ではついでだ。拙者も行くとしよう。
「ヴェネレ殿。此処までの縁。拙者も同行仕る。エルミス殿、ブランカ殿にペトラ殿。セレーネ殿は如何致す?」
「あ、じゃあせっかくなので私も行きます」
「そうですわね。もう夜ですし、今日はお城に泊まってアナタ方と過ごしますわ」
「んじゃ私もだなー。お泊まり会しよ!」
「私も鬼右衛門に付いてく……」
確認したところ、エルミス殿らもサン殿らの案内に付き添うらしい。
急遽集めたのもあって既に夜。このまま帰るのも億劫に御座ろう。故に今日は城に宿泊するとの事。
「じゃあみんな行くんだね。ふふ、なんか大所帯になっちゃった」
「楽しみじゃのう! どんな部屋があるんじゃろうか!」
「姫様。他の人達の迷惑になるので廊下は走らないでください」
その数十人以上。確かに大所帯よの。
浮き足立っているサン殿は先走るように城内を駆け抜け、アルマ殿に注意された。
現時刻は夜だが、まだ静まる頃合いでも無し。故に人通りは平常で、それなりの者達が行き交っている。ぶつかったりしては体格差的にもサン殿が危ない。
なので若干は早足になりつつ安全に進み、部屋へと到達した。
「ここがサンちゃん達4人の部屋だよ! 結構広いでしょ!」
「おお、中々の広さじゃの! 妾の自室よりは狭いが、十分じゃ!」
「アハハ……そうなんだ」
「ヴェネレ殿。実はこうであって、サン殿の部屋は王室なのだ」
「なるほどねぇ。確かに王室に比べたら狭いかも」
事情は説明し、改めて部屋を見渡す。
布団の大きさは大人三人が寝転がってもまだ余裕のある程。部屋には絵画が飾ってあり、机や椅子も金で装飾されていたりと高価そうな作りをしておる。と言うてもこの城で使われている平均的な物だがの。
本棚や窓に着ける布……カーテン。長椅子などかなり良い部屋だ。
「それで、サンちゃん達の荷物は?」
「無論、持ってきているぞ!」
「あー……やっぱり後ろの大きな入れ物。あれ全部荷物だったんだ」
「そうじゃ!」
えっへん! と、サン殿は何故か誇らしげに胸を張る。
彼女の荷物は基本的に玩具。娯楽が多いのは良い事かもしれぬが、何より魔術の鍛練をもう少しした方が良い気もするの。
然しそれも兼ねた世界を見ると言う行為。彼女は才に溢れている。努力をしようと言う気概もある。無用の心配かもしれぬな。
「木の人形につみき……動物のぬいぐるみetc.ほとんどがおもちゃだね。サン」
「ふふん、主になら貸してやらん事もないぞ! ミル!」
「魅力的だけど、遠慮しておくわ。ぬいぐるみは本当に気になるけど……」
大人びているミル殿だが、年相応の面もある。愛らしいぬいぐるみに気を取られていた。
その隣ではアルマ殿らも荷物を整理して置く。
「逆にアナタ達は少ないんだね。着替えも最低限の物だけだし。と言うか着替えしか持ってきてない……」
「ふふ、私達はいいんですよ。ヴェネレ姫。元々お洒落とかにも興味が無いんです。欲求は主に戦闘へ割いているので」
「そ、そうなんだ。戦い好きなんだね。本当に」
「ええ、本当に♪」
サン殿に比べ、遥かに少ない荷物。
戦闘以外の欲は誠に御座らんからの。様々な事へ興味を持つサン殿が魔族の中では異質なのやも知れぬな。いや、だからこその姫君か。
気付けば彼女は布団の上に寝転がっていた。
「フカフカのベッドじゃあ~! 柔らかいのぅ。キエモン! ヴェネレ! ミル! 他にも城の中を案内してくれ!」
「忙しないの。基本的な施設は風呂場や食事処。書庫など主らの城と然して変わらぬと思うがな」
「それでいーのじゃ! 同じ施設であっても内観など色々違うからの! それを見るのも楽しみじゃ!」
「気持ちは分かるが、もう夜も遅い。夕食もまだだろう。案内などはまた後日で良かろうて」
「むぅ、確かに腹も空いたの。仕方無い。それでは早速食事じゃ食事! 行くぞ! キエモン! アルマ! 主ら!」
話を区切り、目的を即座に変えて食事へと赴く。
忙しないが、これもまた彼女なりの交流方法。拙者も腹が減ったの。このまま同行するとしよう。
「では参るか。拙者も夕食を摂っておらんからの」
「私も行く……」
「私は食べちゃったからねぇ……残りの仕事を終わらせよっと……」
「ほら、やる気だして。ヴェネレ」
「では、私達は入浴に参りましょう。エルミスさん。ペトラさん」
「そうですね。食事は摂りましたけど、お風呂はまだです」
「だなー。じゃ、キエモンさん。また後で」
「うむ」
そのままの流れで拙者らは別れる。
城の案内も後々するとは思うが、何より先ずは食事から。
食事も時間は掛かる。故に一旦離れ、また合流しようと言う次第。その意図を汲み、各々で行動に移る。
──拙者の刀を打ち直す為だけに赴き、アスと言う強敵を打ち倒した後、得られた新たな仲間。
魔族の姫君であるサン=イグニス=グリモワール殿にネプト=アルマ殿。そして魔族の面々。地上に出てきたのは数人だけだが、また城が賑わいを見せる事に御座ろう。
刀が直るまで数週間。それまではサン殿らの相手を致す。
今日と言う日は何事も無く終えるので御座った。
めでたし。めでたし。




