其の佰参拾参 潜在能力
『はてさてどうだ。防げるか!』
「防がねばまた自然が消えてしまわれる」
直後に魔力が撃ち出され、それを鬼神混じりの小太刀にて斬り防いだ。
縦に裂かれるよう光線は割れ、左右に逸れるよう消え去る。
これならば他の者達に被害は及ばず、木々や山もやられなかろう。
『その調子だ!』
「………」
複数の球体を生み出し、それを放出。
何れも高い破壊力は込められておる。切り伏せ、余波による衝撃も消してアスの眼前へと迫る。
「……」
『やはり腕の立つ騎士だ……!』
鬼神の刃を振り下ろし、それを片手に魔力を込めて防ぐ。瞬時に切り落とし、防いだ腕を飛ばした。
『……! 確かに防いだんだがな。少なくとも余が先程放ったモノと同等の攻撃があっても防げる力は込めていた。主の刀は山河を砕く力など容易く超越するという事か』
「拙者、山など砕かぬ。如何様な力であろうと構わず斬るだけよ」
『クハハ……一点に込められたその力。如何なる魔法や魔術より遥かに強くなるのか』
相変わらず魔法などの理屈は分からぬの。そうであっても拙者は己の腕と刀を信頼しておる。
並大抵の魔法などより高い威力を誇ると賛されるのは悪くないが、結局のところ倒し切れてはおらぬからな。事はまだ済んでおらん。
『それでこそ面白い! リハビリなんかじゃなく、お前とは真剣勝負だ!』
「初めからそのつもりよ」
思わず会話へ返答してしまう。会話は不要と言うに、やはり拙者の本能で此奴を強敵と認識しているのだろう。
以前の邪悪、サクもそうであった。
だからこそより集中せねばなるまい。侍の決闘は一瞬で終わる。完全ではない此奴相手となれば、瞬刻の後にケリを付けよう。
「参る……!」
『クハハ……もうお話は終わりか……!』
踏み込み、加速。居合いの要領で小太刀を抜いてはアスが距離を置き、既に点在させている魔力の塊を撃ち出す。
それによって拙者らの居る山が完全崩壊を喫し、魔族達の居る地上へと降り立つ。
アスは構わず魔力を込め、弾幕を張るようにそれら全てを撃ち込んだ。
「………」
正面へ斬撃を放ってそれらを切り伏せ、辺りへの影響を抑える。
同時に眼前へと踏み込み、打刀の鞘と小太刀の二刀流にて攻め立てる。
今回は一撃の速度と重さより手数が鍵となろう。その証拠が奴の張る弾幕。一撃の威力は若干落ちるが、護る戦いが今の在り方よ。
『守ってみろ! 人間!』
「………」
更なる魔力の光弾を設置。それらが天上へと舞って雨のように降り注ぐ。
遠方で一足早くに着弾したモノを見たが、一つ一つの威力は山河や町を容易く崩壊させる程のモノに御座ろう。
拙者の届く範囲も限られておる。参るな。
気圧されている場合では御座らん。天に刃を振り翳し、光の雨を切り伏せる。一瞬の煌めきと共に大きな爆発が起こり、天上の雲を吹き飛ばして地上にまで大きな余波が降り掛かる。
魔族達は護ったが、魔族の町が消し飛んでしまったの。流石に裏側の町までは届いておらぬと思うが。不安よ。
『クハハハハ! 見事だ! 一〇〇以上の魔塊を全て切り防いだ! よし、次は五〇〇だ! 守って見せろよ!』
「これまた難儀な」
先の時点で町一つが吹き飛んでいると言うに、次は五〇〇か。
奴の魔力総量はどうなっているのか。本来なれば山河を砕けるとして数発しか放てなかろうに。それを数百の単位で次々と繰り出す。規格外も良いところよ。
然れど退く訳にはいかぬ。此方としても今日知り合った縁ある者達がおるからな。
『食らえ!』
「……」
鬼神を込め、小太刀を薙いで爆散させる。一回だけでは終わらぬ。
そこから連続して振るい、世界が照らされる目映い光と共に魔族の者達は護り切った。今度は上空の方で消し去った為、地上への余波も少ない。
『よーし! よくやった! では次……一〇〇〇の魔力を受けてみよ!』
「千か」
「……っ。私達でも及ばない範囲だな……!」
次に示された数へアルマ殿も歯噛みする。
ただ見ている訳では無く、既に何人かの魔族達がアスへ向けて魔力を用意していた。
「やられる前にやってやる! ──“深淵闇突”!」
「“層印影刺”!」
「“真黒斬”!」
闇と影が槍のように伸びて空中のアスを捕らえ、そこへ向けて黒き斬撃が放たれる。
それらを受けても尚の事無傷で佇み、衝撃波によって地上の魔族達を吹き飛ばした。
「「「……っ!」」」
『良いよい。悪くないが、余を相手に魔術で攻め立てるのは愚策よ。基本的に質が良く、量の多い魔力が上回るからな』
「させるか! “千矢一矢”!」
説明するアスへ向け、アルマ殿が数だけならば弾幕と同じ矢を射る。
高速の矢は空気を切り裂き、突き抜けて舞い上がった。
『質も量も上々だ。だが、余の立つ天上へは到達しない』
「……!」
「アルマ殿!」
手を薙ぎ、射られた全ての矢を地上へと返す。
それによってアルマ殿は貫かれ、未だ目覚めぬサン殿を庇うよう魔力の矢を受け、鮮血にまみれた。
「ガハッ……!」
「しっかりしろ。アルマ殿。すぐに手当てを……!」
「俺達がやるぜ……!」
拙者がやれる事は精々己の衣服を破り、血止めの布とするくらい。
何より血を流すのが問題だろう。他の者達が近寄って傷を癒し、アルマ殿を安静にさせた。
「……ん……なんじゃ……この騒ぎは……」
「姫様……」
「サン殿。お目覚めか」
「おお、キエモン。それと……!?」
それと共にサン殿が目覚める。
一先ず彼女が目覚めたのは良かったが、アルマ殿の負傷は気の休まる状態ではない。
サン殿も自分に掛かったアルマ殿の血と倒れる彼女を見、顔を青ざめさせた。
「ァ……アルマ……おんし……!」
「フ、フフ……大丈夫です……姫様……間抜けにも己の魔力で貫かれただけ……少し休めば治ります……」
「そんな……妾の……妾のせいで……」
アルマ殿の体へ恐る恐る触れ、目に涙を浮かべる。
小槌からアスが出てきたのは知っておるか。故に自分の所為であると苛まれ、罪の意識に駆られている。
アルマ殿は優しく頭を撫で、小さく微笑んだ。
「大丈夫ですって……己の魔力によって死ぬ程間抜けではありません……本当に少し、休むだけです……」
「アルマ……アルマぁ!」
ゆっくりと目を閉じる。
弱々しくも呼吸はあるので死してはおらぬが、早急にこの状況を打開せねば時間の問題。
山河を砕く千の魔力。あれを今すぐ全て消滅させ、直ぐ様トドメを刺す。それを成して初めて誰も死なぬ勝利を収められよう。
難しいという言葉で言い表すのも軽く思える程に苦しい所業だが、やるしかない。
『話は終わったか? 悪ィな。ま、これを防げなかったら遅かれ早かれそうなるんだ。終わらせようぜ。お互いに』
「…………」
「……アイツが……アイツが妾達魔族の街を……!」
サン殿がアスの姿を認識し、体を震わせて立ち上がる。
この震えは恐怖……ではなく、怒り。悲しみ。あらゆる感情の混ざり合ったもの。
アスはクッと笑い、サン殿へと言い放った。
「悪いな。お姫様。テメェだけを殺して魔族は支配するつもりだったが……予想以上に楽しかった。だから今終わらせる。魔族は今この場で絶滅だ」
「……っ」
「………」
天へ掲げ、魔力が動く。
千ある中の一つで山河が消え去る力。拙者も集中力をより高め、一度鞘に納めて居合いの体勢となる。
居合い斬りは、実は威力に変化がある訳ではない。然し何となく其の方が落ち着く為、一種の所作として段階を踏んでいる。
これによって全てが決まる。それは間違いない。
『終わりだ。魔族の集落……!』
「……っ。妾の……妾の街を傷付けるでない──!」
『……!』
──瞬間、何が起こったか。はたまた何も起こらなかったのか。空が晴れ、光の魔力が一つとして残らず消え去った。
今まで見ていたモノは幻覚だったのか。さも初めから何も無いかの如く快晴の空が広がり、振り下ろす体勢のままアスも固まる。
『……なん……だと……? 一体……何が……?』
「切り捨て──」
『人間……いや、お前じゃない。今余を斬り、倒したのは主だが……お前じゃない』
「──御免」
呆気に取られるアスへ向けて跳躍。居合いの形そのままで切り伏せ、小太刀を鞘に納める。
何が起こったのか。それは拙者にも分からぬ。だが、何かが起こって一瞬世界が静止したかの如く錯覚を覚えた。
拙者はただ、その隙を突いてトドメを刺しただけ。
『魔族の姫……そうか。余が小槌から出れたのも……全ては奴の魔力の一端によるモノ……不完全とは言え……今宿る余の全魔力すら、奴の一片にも……!』
アスの体が斬り離され、霧散するように消失する。
困惑混じりの最期の言葉。サン=イグニス=グリモワール殿。彼女は一体、どれ程の潜在能力が秘められているのか。
魔族の姫。その存在を見つめ、消え去るアスへ敬意を払って鞘を腰に携え、彼女らの元へ行く。
小槌から生まれた謎の存在、アス殿。彼との戦闘は終わりを迎えた。




