其の佰弐拾玖 お城でげえむ
──“魔族の街・城内”。
「はあ……はあ……逃げ仰せたのじゃ……」
「難しい言葉を知っておるの。良いのか? 一国の姫君がこの様な真似をして」
「うっ……だって……おぬし、居なくなるんだもん……」
箱に揺られ、若干の酔いを感じながら着いた先は大きな城の大きな部屋。
やはり姫君というだけあって広き城に住んでいるようだの。
そして居なくなるという言葉。子供らしい寂しさからなる行動と言ったところか。
「居なくなるも何も、元より拙者はこの町の出では御座らん。そも、此処に来たのも今回が初よ。今現在住む場所があり、待ってくれている者も居る。拙者にも帰る場所があるのだ」
「だってぇ……一人は退屈なのじゃあ! 妾はもっと遊びたいぞ!」
「気持ちは分からなくもない。一人遊びはふとした時、急に虚しくなるからの。然し己の我が儘に周りを巻き込むのは問題ぞ」
「うぅ……それはそうなんじゃがぁ……」
まだ若く、幼い魔族の姫。周りに同年代の者もおらず、そう言った日々を過ごしていたのだろう。
拙者に言える事も限られるの。気持ちは分かるが、彼女にとって説得力は生まれなかろう。単なる説教となってしまっては相手の気分が更に落ち込むだけだ。
「全く……しょっちゅう我が儘に巻き込まれるからな。私達は」
「「……!」」
するとそこに、箱の側面からアルマ殿が姿を見せた。
同じく小さくされてたからの。逃げる直前にでもくっ付いて来たのだろう。
「アルマ……」
「姫様。キエモンは貴女様との勝負に勝ち、約束を守ったのです。一国の姫足る者、威厳を見せねばなりません」
「……」
アルマ殿の説得。拙者よりも彼女をよく知る者。今さっき会ったばかりの拙者よりは信頼も高そうだが、当のサン殿はと言うと、
「い、イヤじゃ! まだ勝負は付いてない! ここから第2ラウンドじゃ!」
「姫様!」
小槌を振るい、拙者とアルマ殿が何処ぞの部屋へと送られた。
フム、拙者の体が低くてちと見えにくいが、机と椅子に本が詰め込まれた棚と此処は書庫か誰かの部屋のようだ。
隣ではアルマ殿が確認をしていた。
「城の書斎か。この体の大きさだとかなり広い空間になるな」
「やはりそう言った場所に御座るか。いやはや、サン殿の自室から一瞬で此処まで飛ばされるとは。あの小槌の秘めたる力はとんでもないの」
「ああ、本当にな。人間の魔道具を作る技術力には昔から驚かされた。それにあの不思議な魔力、とんでもない小槌だ」
アルマ殿には部屋に見覚えがあり、城の中である事は確かな様子。
そうなれば今回の勝負内容はこの城全体を使ったものとなるのだろうか。小槌から何を生み出して仕掛けてくるか、一筋縄ではいかぬだろうの。
『…………』
「……!」
「あれは……!」
その直後、本がバサバサと鳥の如く飛び行き、拙者とアルマ殿を分かつ。
あれも小槌によって生み出された存在。これも勝負なれば説明くらいしてくれるだろうか。
《聞こえてる? 妾じゃ、キエモン! アルマ! この城内の何処かへ妾はゴールを用意した! そこを探して目指せ! まだまだ妾のゲームは終わらんぞ!》
「向こうの声は届くようだが、拙者らの声は届かぬようだの。位置くらいは把握していると思うが……やるしかないか」
「そうだな。姫様は悪い奴じゃないんだけど、ちょっとな。少し前に両親が寿命で亡くなって、塞ぎ込んでしまったんだ。だから小槌を拝借して元気になってくれないかと……結果的に少し元気になって、落ち込んでいる所に現れたのがお前……いや、君だ。キエモン。姫様は楽しいんだろうな。久し振りに遊べて」
「フム、あの齢にて既に親を亡くしているか。いや、寿命という事は高齢の両親から生まれたのだろう。その気持ちもよく分かる」
「そう言って貰えるとこちらとしても嬉しいよ」
幼い姫であるサン殿。然しもう頼りは亡く、だからこそ少し悪戯が過ぎる。
そうする事で周りの気を引き、構って貰えるのが嬉しいのであろう。
我が儘お姫様であっても、人間も魔族も心がある以上、己で試行錯誤して日々を過ごしているのだろうな。
「なればさっさと攻略し、サン殿の部屋へと戻るか。姫君という立場であっても、友を欲しているただの少女なのには変わらぬからな」
「ふふ、君は良い奴だな。初日で姫様が懐いたのも頷ける」
話にまとまりが生まれたすぐ後、また複数の本が鳥のように舞って襲い来る。
一応この本類はこの城の物。故に切り伏すのも悪いだろうと鞘にて打ち沈めた。
「器物には手を上げないか。優しいな」
「姫君の戯れ。物を壊す必要も無かろう」
「それもそうだな」
アルマ殿は槌を魔力にて形成し、降り来る本の鳥を叩き落とす。
彼女の戦い方は槍術だけではなく、魔力を様々な形へと変化させて行うものであったか。
それを行える技量とは大したモノに御座るな。
「一先ず書斎は脱出するか。扉はあそこだ」
「そうか。今の拙者らでは届かぬが、あの隙間は抜けられそうよの」
「ああ。その様だ」
示す先は扉の方。
扉を壊せば手が届かずとも抜け出せるが、その必要も無い程度の隙間は空いておる。本を次々と打ち落とし、拙者とアルマ殿は扉の外へと向かった。
「先が見えぬ渡り廊下だの」
「私達の体が縮んでいるからな。単純に考えて小さくなった分だけ周りは広がる」
「サン殿の元に行くまで時間が掛かりそうだ」
扉から出た先は、千里にも及ぶのではないかと錯覚する程に広き渡り廊下。
アルマ殿の言う通りであり、何にしても急がねばなるまい。
無論の事、此処にもサン殿の繰り出した刺客達はおる。
『『『………』』』
「絵と鎧と椅子か」
「特にテクニカルな存在でもないな。基本的に質量に任せて振り下ろしてくるだけだ」
絵が先の本の如く舞っては落ち、今現在の拙者らからすれば大きな鎧が人のように嗾ける。
椅子も地響きを鳴らしながら向かい来て拙者とアルマ殿は一時的に離れ、各々で対処致す。
『……』
「鎧はともかくとし、絵は叩くと傷付いてしまうの」
絵画を避け、椅子を踏み越え、巨人が如き鎧の頭を鞘にて殴り飛ばす。
傷付くのを懸念しているが、どちらにせよかの。惟れば床と衝突している時点で絵も椅子も傷付いておる。
そも、サン殿曰くこれは“げえむ”。即ち遊戯の一種。なるべく傷付けるべきでは御座らんが、防衛は上手くいなすべきという事。サン殿もそれを望んでおろう。
子供の遊戯なれば、相手の気持ちや思惑を汲み取らねばならぬの。
「押し通る」
『『『………』』』
それらを散らし、一先ず敵の多い廊下を離れる。
と言うてもこの城の中は敵だらけ。王室へと赴かねば詰め寄られるだけに御座ろう。
取り敢えず一時的に身を隠す為また別の扉の隙間を抜け、他の部屋へと入った。
「此処は……風呂場か。少々水気が多いの」
文字通り転がり込んだ場所は風呂場。
此処では果たして何が敵となって襲ってくるのか。大凡の検討は付くがの。
『『『………』』』
「やはり風呂桶や石鹸か」
桶が覆い被さり、そこを抜けるように脱出。
足元は既に泡まみれ。動きは取り辛いが、体躯が低くなっているのが幸いして思ったよりは滑らぬ。
然し此処はまた別の意味で動きにくいの。さっさと桶と石鹸を払い除け、風呂場を脱した。
「アルマ殿。主も来ていたか」
「ああ。さっきまで別の部屋に居たよ。やっと合流出来た」
見ればアルマ殿に木片などが付いているの。誠に幾つかを破壊して来たのだろう。
彼女なれば壊して良い物などを見分ける事も可能であるからの。
「姫様の部屋は上階にある。部屋があったら一先ず入ってやり過ごし、直ぐ様階段の方へと向かおう」
「了解した。主に付いて行こう」
軽く話、また迫る鎧や椅子をいなして直進。
敵が多くなったら小部屋に入り、そこで照明や本などを片付けつつ上の階層へと向かう。
然し、さながら階段が崖の如し。一段一段を登るのも一苦労だの。
『『『………』』』
「此処まで追ってくるのは難儀な」
「城全体が姫様の玩具だからね」
高い階段を登ろうとするが、邪魔は入る。
アルマ殿は魔力を展開して空を舞い、拙者は階段の欄干へと立ち、一気に進み行く。
一段一段を登るよりかは楽で良いの。
「さて、此処がサン殿の待つ部屋か」
「多分な。元々は王室で、今は姫様の自室となっている。取り敢えず私達が来ているのは分かっているだろうから、早く入るか」
「そうよの。主から少し忙しなさを感じるが、それが何よりだ」
大きな扉の隙間を抜け、サン殿の部屋へと入る。
そこは家を象った物や人形などで散らかっており、背丈の合わぬ玉座に彼女が座っていた。
「フッフッフ……よく来たのじゃ。キエモンとアルマよ。ここからが妾の本気じゃ!」
「フム、心無しか乗り気よの」
「ああ。ポーズも取っているな。ノリノリだ。このお姫様」
顎に手を添え、不敵に笑って玉座へ腰掛けるサン殿。
先程までの癇癪は止まっておるな。気を持ち直したようだ。
「さあ、皆の者! ここからが本番じゃ!」
「皆の者とな」
「乗ってやれ。姫様のお戯れだ」
「フム、そうか」
この場に居るのは拙者とアルマ殿だけであり、サン殿も一人だけ。然し子供のするごっこ遊びのような事柄。戯れに乗るとしよう。
拙者らが小さくなり、行われている遊戯。それも終局へと差し掛かる。




