其の佰弐拾伍 過去の記憶
──私は王族として生まれ、一族の中でも落ちこぼれだった。
様々な魔法を扱え、魔力も高い王族なのに私は炎魔法しか使えない。その為一家の中でも孤立していた。
「パパ! ママ! 見て見て! ──火の精霊よ。その力を解放し、敵を討て! “ファイアショット”!」
それでも無邪気に笑う私はパパとママの前で魔法を披露し、2人とも笑ってくれた。
「スゴいな。ヴェネレ。その歳でもう中級魔法を使えるようになったのか!」
「ふふ、流石は私達の子供ね」
魔法を使うとパパとママが喜んでくれる。だから私は更に張り切って杖に力を込めた。
だけど楽しい時間はすぐに過ぎる。パパとママはお仕事があるから離れなきゃならないから。その後は嫌な事が待ち構えている。
「──ヴェネレ。何をやっている。炎魔法を極めるより、他の魔法を使えるようにならなくては役に立たぬぞ」
「義兄ちゃん……」
「その腑抜けた呼び方はやめろ。敬意を込め、様を付けろ」
「は、はい。義兄ちゃん様」
「より変になっているだろう!」
「様!」
「今度は短過ぎだ!」
この人は私の義兄。見ての通り堅物で苦手なタイプ。けどまたマシな方。やり取りはそこそこ楽しんでるから。
本当に嫌なのはこれから。
「落ちこぼれが惨めに魔法の鍛練をしていて。見苦しいわね」
「そうね。貴女、もう王族やめちゃいなよ」
「炎魔法しか使えないなら中級魔法を覚えても無駄だな」
義理の兄弟は大勢居る。兄と姉と弟と妹。
王族の血族や世継ぎは多ければ多い程良いと言うのがこの世界の在り方。仮に誰かが失敗しても問題ないように。……そう、私みたいな。
一夫多妻制が国にとって重要なのは分かるけど、個人的に好きじゃない。だからママとしか繋がりを持っていないパパは好き。
「どけ、落ちこぼれ」
「邪魔よ。これからお父様とお母様達に用事があるんですもの」
姉弟達にあしらわれ、隅の方へ追いやられる。
言い返したい。抵抗したい。けど、それをするだけの勇気と力がない。反抗したところでやり返されるだけだから。
だったら傷を負わないうちに過ごすだけ。これがこの家族の中で覚えた防衛術。
「やれやれ。アンタは本当にダメだねぇ。なぜ優秀な私の息子である父親からこんな子が生まれたのか……いや、どこの馬の骨か分からないあの卑しい女なんかと婚姻を結ぶから。とんだバカ息子だよ」
「……! お祖母ちゃん……!」
「その甘ったれた呼び方を止めな。王族は言葉遣いから正さなければならないんだよ。それは家族にも該当する。敬称を使いな」
「はい……お婆様……」
「フン、本当はアンタなんか家族とも思いたくないんだよ」
「……っ」
一番苦手なのはお祖母ちゃん。端から私を家族とも思っていない。
このお城の中で、私の味方はパパとママ。そして使用人のみんなだけ。
幼い私でも、ここまで嫌われた時点で大体分かっていた。私が悪いから。私に何を言い返す権限もない。だから私は自分の殻に籠り、他の家族から心を閉ざした。
「ねえ、ママ。なんで私はこんな風に生まれちゃったの……」
「ヴェネレ……?」
信用出来るのは両親を含めて一部だけ。だからこそ、言ってはならない質問を母親にしてしまう。
ママの表情は悲しそうな、そんな雰囲気。それだけで聞いちゃダメな事というのも理解したけど、幼い私の精神的に誰かに頼る他無い。
「義兄ちゃん達は他の魔法も使えるのに……私だけは炎魔法しか使えない……私のせいでママがお祖母ちゃんに嫌われちゃった……ごめんなさい……」
「……」
私のせいで周りに迷惑が掛かる。私はそんな私が嫌だ。他の人に迷惑を掛けたくない。この頃から、私は好きだった絵本のお姫様が嫌いになった。他人に迷惑を掛けた挙げ句の果てに幸福になり、何食わぬ顔で平然としているお姫様と私を重ねてしまって。私は幸せじゃないのに。
そんな私を、ママは優しく抱き締めてくれた。
「大丈夫よ、ヴェネレ。大丈夫。辛い日々はすぐに過ぎ去る。きっと良い事がある。今の嫌な記憶も、貴女が大きくなる頃には綺麗に忘れられるわ」
「ママ?」
優しく抱き締め、撫でてくれる。今の表情は穏やかで、本当にそうなるかのように思える。
「もうすぐ貴女の嫌な人達は居なくなるわ。近い将来、貴女は幸せになれる」
「本当? 私、幸せになれる? 絵本のお姫様みたいに……」
「ええ。……その代わりに私が……」
「……?」
「ううん。なんでもない。さ、貴女は凄い魔法の才能があるもの。今の時点でやれる事を頑張りましょ!」
「うん!」
その言葉で元気が出て、私は魔法の勉強を更に頑張った。
誰に認められなくても、パパとママに認めて貰えるならそれで良い。
──……えーと、それでこれは何の記憶だっけ?──
*****
「……」
朝。私、ルーナ=シュトラール=ヴェネレは書類の上で目覚めた。
えーと……あ、そうそう。エルフの里に行った後、また何週間か経って書類が溜まっちゃったからそれの処理をしていたら眠っちゃったんだ。
変な体勢で寝てたから体が固くなり、伸びをして解す。
なんか夢を見ていたような気がするな……パパとママが出ていたけど……他の人達は誰だっけ? 顔も声も、夢の内容が何一つ覚えていない。
けど夢ってそう言うものだよね。あり得ない関係や知らない人が出てくる感じ。
「ヴェネレ……貴女またこんな所で寝ちゃって」
「アハハ……ミルちゃん。朝早いね」
「もう昼前……朝まで執務作業してここで寝ちゃってたから感覚も変わるよね」
「あー、そう言えば」
扉を開け、ミルちゃんが入ってきた。
もう昼前って事は、私を起こさないようにしてくれたんだね。見てみたら肩に毛布も掛かってるし、気を遣ってくれたんだ。
やっぱり彼女は優しいね。恵まれてるなぁ、私。
ミルちゃんは思い出したように口を開く。
「あ、そうそう。キエモンから伝令が一つあるよ」
「キエモンが?」
「うん。──“己を鍛え直す為、暫しこの町を離れ申す。案ずる事勿れ”……だってさ」
「え゛……それってどう言う……」
「さあ? カタナがどうとか言ってたからそれ関連じゃない?」
「あー、そう言えばキエモンの剣折れちゃってたもんね」
どうやらキエモンは剣を直す為に出掛けたらしい。
剣は侍の魂って言ってたもんね。剣を直す事が自分を鍛え直すってのは間違ってないのかも。
「じゃあ私はキエモンが帰ってくるまでに仕事を片付けなきゃ!」
「私も手伝うよ。ヴェネレ。という事でこれ、追加の書類」
「始めてないのに追加が……!?」
相変わらず王様って大変。けど私はめげない。悄気ない、諦めない。最近は自分でもよく分かるくらいに落ち込んだりしていたからね。ウジウジするよりも前に行動を起こさなきゃ。
「そして更に上乗せね」
「うぅ……」
早速挫けそうになる。これが務めだから仕方無いんだけど、大変なものは大変。
取り敢えずガムシャラにやるしかないよね。私、王女だもん。
*****
──“裏側”。
「フム、今日の景色は快晴の青空。幸先は良いかもしれぬな」
森の国の騒動から何週間かが過ぎ、ある程度の任務を終えた拙者は打刀を直す為に可能性がある“裏側”へと来ていた。
今日の景色は日本晴れの青空に広々とした草原。美しき光景よ。
いつも通りの道筋を行き、裏側の町へと入る。
「お、キエモンさん。久々だね」
「うむ、最近は色々とあったからの。武具店は御座らんか?」
「あー、それなら……」
裏側の町は既に元通り。色々と店も増え、前に来た時とは大分景観が変わっておる。
なので町の者へ訊ね、武具店へと来た。
「店主。この刀、打ち直せるで御座ろうか」
「打ち直せるかって……根本から綺麗に折れてるね。この剣を直すのはかなり難しいよ。やり方を模索するなら炎の魔道具か炎魔法で一度熔解させて付け直すとかになるけど……生憎そんな道具も魔法も無いからね」
「そうか、残念だ」
「まあ、町の宝である魔法道具を使えばそれくらい出来ると思うけど、実は最近無くなっちゃってね」
「なんと?」
拙者の刀を直す術は、前にも使った様々な力を有する小槌。
だがその小槌は行方不明らしく、店主は説明する。
「3日くらい前に長の屋敷に泥棒……ともまた違う何かが忍び込んで持って行ってしまったらしいんだ。今のところそれに対しての悪い噂は聞かないから何もされていないとは思うんだけど……結構不安でね」
「その言い方からするに、人間かどうかも怪しいという事に御座ろうか」
「そうだね。影を見た程度の情報しか無いから何者の仕業かも不明さ」
「フム……」
何者かによって持ち出された。悪用はまだされていないとの事だが、不安は募るばかりか。
なればと拙者は一つ提案致す。
「では、拙者がそれを取り返すとしようぞ。何処に行ったのかさえ分かれば後は気配をお探り致す」
「本当かい? それなら願ってもないけど、騎士隊長であるキエモンさんに頼むなら正式な依頼の形でなきゃ」
「問題無い。元より拙者が必要としているのだからな。寧ろ此方から申し出たいところよ」
「そうか……じゃあ、小槌が戻ってきたら無償で直す。これでどうだ? 長とか町の人にはこちらから連絡しておくよ」
「うむ、なれば良かろう。直して貰う立場。無償というのは悪い気がするが、依頼報酬の代わりと考えれば対等な立ち位置だ」
「よし、決まり。それじゃ頼んだよ。キエモンさん。詳しい場所はね──」
拙者は位置を聞き、刀を直す為にそちらへと向かう事となる。
簡単に物事が進む訳も無いが、これもまた鍛練となりうるであろう。何事も良い方向に受け取れば何れ報われる。
お互いにとっての依頼のような形となり、拙者は小槌捜索を開始した。




