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其の佰弐拾 目覚めたモノ

「……ま、魔神……!? あの……!?」

「邪神が私を操って……!? 復活の為に……!!」


 現れた邪悪を見やり、フロル殿とレーナ殿を筆頭にエルフとダークエルフの者達がザワめく。

 これは想定外。拙者とエルフのみならず、ダークエルフも同様。

 そのザワめきを煩わしく思ったのか、邪悪は黒い刃を振り抜いた。


【お前らはもう用済みだ】

「「「…………!」」」


 誰一人として反応する間もなく斬撃が迫り、空間に線が入るような亀裂が生まれて切断された。


「……っ。刀が……!」

【ほう? あれを防いだか……】


 根本から刀が斬れ、一筋の斬撃は誰に当たる事も無かった。

 然し打刀が折れてしまったな。綺麗に切断されたのでまた直す事は可能だろうか……この世界に刀鍛冶師がおるのかも分からぬ。


【……その剣。見覚えが……クッ、ハハハ! 貴様、我の捨てたなまくらではないか。そんな物を使っているとはな! そんな剣で2度も防がれるとは、やはり我の力は全盛期には程遠いようだ!】


「……!」


 思わぬところで刀の持ち主と会ったの。

 だが、鈍とは聞き捨てならぬな。


「お言葉だが邪悪よ。この刀、決して鈍では御座らん。よく斬れる良き刀よ」

【フン、現に今砕けたではないか。所詮は使えぬ刀よ】

「刀が折れたのは拙者が未熟だったが為。武器は持ち主に応える。拙者がまだまだなだけだ」

【クハハ! 尚更だ! 使えぬ刀に使えぬ剣士! お似合いだ!】

「そうで御座るな。過去に主がこの刀を使っていた時も、主が未熟だったから使いこなせなかったのであろう。そんなものと同類の扱いをするとは、刀に悪い事をした」

【……なんだと?】


 軽快だった声色が変わり、気に障ったかのような反応を示す。

 はて、何であろうか。拙者はただ己の未熟さを嘆いていただけ。拙者の身を案じてくれているのか?


【貴様……今なんと言った?】

「すまぬな。いささか距離があり、よく聞こえなかったか。未熟だったのだ。この刀の持ち主は」

【ふざけるな、たかが人間如きが……我に向けて未熟と言っているように聞こえるぞ……!】

「そうであろう? この刀を使っても良さが分からず、今回復活を目論んでいたという事は、既に敗北した後。とどのつまり、主が未熟だったから敗れたのだろう。なに、気に病むでない。未熟という事は成長の余地があるという事。互いに精進し──」

【死ネ】


 黒い斬撃が放たれ、脇差しの小太刀にて受ける。

 打刀はこの世界に来た初日から使っていた愛刀。無茶な使い方もよくした。故に傷を負っていたようだ。

 拙者の未熟さと刀への配慮を欠いたからこそ起こった事態。なればそのケジメは付けねばなるまい。


【剣はもう一本あったか……だが、知らぬ剣だ。何も感じぬ】

「無銘刀。良いではないか。使う事によって全ての刀は名刀に成りうる」

【貴様の持論だろ】

「己の信条を持たねばやれる事も出来ぬよ」

【減らず口を……!】


 漆黒の刃が振るわれ、鬼神の力と共にそれを振り払う。

 既に傷があった打刀ではなく、新調して然程さほど経って御座らん脇差しなれば耐えられる。

 後はエルフとダークエルフを護りつつ、上手く立ち回らねばならぬな。


【丁度良い……ここに集いし者達を皆殺しにし、リハビリとしようではないか】

「初めからそのつもりに御座ろうて」

【まあな】


 踏み出し、漆黒の軌跡と共に邪悪が眼前へと迫り出た。

 エルフとダークエルフの面々も臨戦態勢には入っている。戦いを好まぬエルフも心得はあり、ダークエルフは言わずもがな。

 故に──


【全滅……にはならなかったか。不思議な剣士だ】

「………」


 瞬く間もなく斬られたが、なんとか彼女らへ及ぶ範囲は抑えられた。

 然し速いの。いつぞやの雷を纏ったリュゼ殿よりも速い。これで不完全と言うのだからこれを倒す事の出来た先人の凄まじさがよく分かる。


「全く目で追えなかった……」

「我らダークエルフが人間に護られるなんて……!」

「この人間は凄いんだよ。ダークエルフのみんな」

「エルフの者……」


 臨戦態勢には入っていたが、少々速過ぎた様子。現時点で拙者の追えぬ速さでは御座らんが荷は重かろう。


【まあいい。良き前菜だ】

「……」


 魔力の刀を振り下ろし、小太刀で逸らすように受ける。

 相手は二刀流どころでは御座らんな。腕が二本ずつの計四本。目にした事もない四刀流。捌くのも一苦労だ。


【剣一本でいつまで耐えられる!】

「……」


 目にも止まらぬ速度で四本の刀が振り回され、拙者は一本で凌ぐ。

 左右と上下からの刃が同時に迫り、軌道を推察して避け、当たる物は防ぐ。それの応酬。

 一見すれば圧倒的に不利な状況で御座るが、拙者は一人では御座らんからの。


「“聖樹刺突”!」

「ダークエンブレム・フォース

【小娘が……!】


 フロル殿の大樹が伸びて突き、レーナ殿の紋様が四方を取り囲んでいかづちのような現象を起こす。

 邪悪の体は鋭い枝に貫かれ、その枝を伝う雷が体内から感電させた。

 二重の魔法からなる攻撃。これを受け、本来ならただでは済まなかろう。


【自然の力を借りる魔法。そんなもの、我には通じぬ。万物を飲み込み、無力化するのが我だ。全てを我に染めてやろう!】


「「……っ」」


 帯電しながらも仰々しく告げ、フロル殿とレーナ殿へ黒き刃を向ける。それを阻止すべく、踏み込んで居合いのように斬り込んだ。

 お二人へ気が向いていたのもあり、一本の腕を切り落とすのに成功致す。


【人間如きが……!】

「その人間如きに一度敗れているのがお主だろう」

【殺ス!】

「口で言っても、やれなければ意味もない」


 三本となった刀。少しは楽になった。

 今一度剣戟(けんげき)を行い、周りからはエルフとダークエルフがけしかける。


「“発枝”!」

「“斬葉”!」

「“乱花”!」


「“シャドウツリー”!」

「“ブラックリーフ”!」

「“ナイトフラワー”!」


【チッ、虫が……!】


 エノ殿の枝が貫き、ルタ殿の葉で切り裂き、フミ殿の花が乱れる。

 ダークエルフの面々も黒い植物にて取り囲み、邪悪は煩わしそうにそれらを振り払う。


【容易い! この程度で我を──】

「……」

【──!?】


 また、気を取られたの。

 侍を前に一瞬の隙は死を意味する。また腕を切り落とし、腕の数は拙者らと同じようになった。


【貴様……何故貴様の攻撃は……!】

「さあな。拙者にも分からぬ。そう言う理屈なので御座ろう」

【小癪……!】


 刀が振るわれ、更に避けやすくなったのもあってかわす。

 拙者自身は薄々だが気付いておる。鬼神の力が作用し、魔法が効かぬと豪語する彼奴を斬れるのだろう。

 攻撃力は大したものだが、拙者からすれば防御力は大した事もない。まだ流動するスライム辺りの方がやりにくかったぞ。


【周りの羽虫共が煩わしいようだ!】

「……皆の者! 屈め!」

「「「…………!」」」


 攻撃の気配は掴んだ。

 咄嗟に指示を出し、エルフとダークエルフの者達は皆うつ伏せとなる。

 瞬刻に闇の斬撃が周囲へ払われ、周りの大樹。そして更に先へある複数座の山々を斬撃のみで切り裂いた。

 この距離。ヴェネレ殿らへ影響が及ぶかとも知れぬが……斬撃は斜面。故にそのまま高所へ向かったようなのでギリギリ当たっておらぬな。


「余波で複数の山を……!」

「何キロ先まで向かったの……!?」

「けど被害があの位置の山ならマザー達は無事かな……」


 エルフの者達も理解しておる。然し強大な力なのは犇々(ひしひし)と伝わり、皆がゆっくりと立ち上がって息を飲む。


【もう少し慣らしたかったが……仕方無い。此方としても遊んでいる暇は無いようだ】

「初めから遊びでは御座らんよ」

【クク……ならば貴様らは遊んでいた我以下だな】

「遊びで腕を失っていては堪ったものじゃないの」

【一々癪に障る奴だな……人間!】


 拙者は踏み込み、邪悪の眼前へと斬り込む。

 武器は小太刀のみだが、相手も腕を失っている。五分五分に御座ろう。


「……」

【死に晒せ!】


 二本の刀が律動的に振り下ろされ、それを一本で凌ぐ。

 一つ目の刀を地面に逸らし、刺し込まれた二つ目をいなす。そのまま切り上げ、邪悪は仰け反るようにかわして四本足で背後へと回り込んだ。


いずれにせよ遅いんだよ!】

「……」


 相変わらずよく喋る。今回は拙者も言えた義理ではないので言わぬがな。

 死角の場所は即座に把握。気配を読み解き、背面で敵の刀を受けて身を低くし、股下を滑り抜けるよう相手の死角へと入り込む。


【猪口才なッ!】

「……!」


 魔力か何か、黒い衝撃によって全方位を吹き飛ばす。

 周りの倒れている木々は宙を舞うように飛ばされ、エルフとダークエルフの者達も距離を置かれた。

 単なる放出かと思った次の刹那、自由の利かぬエルフ達を狙い闇の刃を全方位へと放った。


【邪魔立てを……!】

「……」


 それを小太刀と打刀の鞘にて逸らす。

 直接防いだのではなく、腕を打ち軌道を逸らした。

 本来なればもう一本を奪いたかったが、拙者自身も吹き飛ばされたが為に斯様な余裕は御座らん。


【やはりまずは貴様から仕留めねばならないようだな!】

「先程から聞いておる」


 二本の刃が縦に下ろされ、身を翻して躱す。瞬時に体勢を立て直し、その体を刺突にて貫いた。


「浅いか……」

【的確に心臓を……だが、貴様ら人間と違い、我に心臓などの弱点は無い!】


 貫いたが、小太刀故の短さが相まり傷は浅い。

 元よりこの者に心臓は無いらしい。邪悪の概念がそのまま意思を持った姿と考えればそれも当然か。

 やはり現状、四肢か頭を狙いて斬るしかない。


【まだだ……! 我の力を思い知れ、人間!】

「力を示されては周りへの被害が大きい。御免被る」

【ふざけやがって……!】


 拙者の言葉に誘われ、また高速で迫り来る。

 幾度となく繰り返した剣戟によって火花が散り、奴の体を押し退けた。

 拙者らと邪悪の戦闘。それはまだ終わらなかろう。

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