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其の佰拾捌 突入

 ──“大樹”。


『なんと。多くのダークエルフが集まる場所が』

「うむ。魔力によって覆われ、表面からは見えない位置にあった」

『成る程。枯れた土地を覆っていた魔力の応用か……』


 一先ずあの場から離れ、大樹へと戻った拙者らはハクロ殿に報告した。

 灯台もと暗しとはこの事。目当ての者らが近場に巣食って居たとはの。流石のハクロ殿も驚きの色を隠せておらぬ。


「して、如何致す。今回の指揮は主。めいとあらば今すぐにでもダークエルフの者達を討ち取ってくるが」


『そうだな。行動は迅速の方が良い。拠点が見つかり、そのあるじを逃がしたとなれば直ぐに拠点を変えてしまうだろうからな。慎重に行動し、なるべく情報を集める必要もあるが本元を見失っては元も子もない。隊を組み、そこへ向かってくれ』


「御意」


 迂闊な行動は破滅を招くが、今回は早急な対応が必要となる。故に迂闊を承知として積極的に仕掛ける。

 そう決まり、拙者はヴェネレ殿へと向き直った。


「ヴェネレ殿。此処からが本格的な戦になりうる。故に……」


「うん。分かってる。今回は付いて行かないよ。さっきので思い知ったからね。だけどこの拠点の防衛には参加する。誰一人としてダークエルフは流れ込んでこない保証は無いからね!」


 言い淀む拙者の言葉へ凛とした表情で返す。

 皆まで言わずとも理解しておったか。元よりヴェネレ殿は任務でも戦闘でも余計な事はしない。自分の力を真の意味で理解しているからこそ考えて行動しているのだ。

 今回は拠点にて待機。だが何もせずに待つのではなく、何人かのエルフと共に防衛に当たるとの事。それが彼女の考えた己のやれる事なのだろう。


「分かった。ではヴェネレ殿。セレーネ殿。お二人は此処での防衛をお頼み申す」


「任せて!」

「うん……」


 彼女らは問題無い。後は拠点へと乗り込む、拙者を含めた者達についてだが。


「ハクロ殿。後は拙者と誰が向かう?」


『フロルとエノ、ルタ、フミ。そして数人の兵士を向かわせる。人数は多い方が良いと思うが、あまり多すぎても困るからな。拠点の防衛もあり、最低限とまではいかない程度の人数を向かわせるつもりだ』


「相分かった。では、集まり終えたら参ろう。残りは何人だ?」


『フッ、やはり気付いていたか。既に大半は集まり終えている』


 ハクロ殿の言葉と共にまたエルフの者達が何もない所から姿を見せる。

 特定の樹と同化出来るのもまたエルフの力なのだろう。自然と共に生きるとはまさにこの事。読んで字の如くだ。


「主らの中で誰が隊長を勤める? 拙者は四人のエルフ以外知らぬからな。拙者以外の誰かが適正であろう」


「へえ、無駄に自分を主張しないって良いね。謙虚って言うのかな。私達と同じように場を弁えてる」


「フッ、やはり私が見込んだ通りだな。好きになったぞ。人間」


「先に戦ったのは私だ。つまり、フミとルタよりも前に私が目を付けていた。つまりキエモンは私と共に行った方が良いだろう」


「「それはダメ」」

「抜け駆けはいけないよ」

「ああ、以ての外だ」

「なにっ!? 人間の女……ルタにフミ。お前達まで……!」


 フミ殿らが話、ヴェネレ殿とセレーネ殿が同時に返してはエノ殿が指摘する。

 賑やかな者達だの。仲良くなったのならそれは何よりだが、ヴェネレ殿とセレーネ殿の表情から少し阿修羅が見えた。女子おなごと言うものは、あらゆる方面で強いの。


「キエモン。一緒に行くのだ! ダークエルフを止め、野望を阻止しよう!」


「うむ、そうだの。フロル殿」


「「あ……!」」

「「「……!」」」


 ヴェネレ殿らが楽しそうに会話する横で、拙者はフロル殿に誘われて拠点の外へと出る。

 彼女らの息も合っているの。何となく悔しそうな表情を見せておるが、果たして何があったのか。

 兎も角、ダークエルフの拠点へ向かう部隊は決まった。拙者らは早速行動へと移るのであった。



*****



 ──“枯れた土地”。


「ここにダークエルフの拠点が?」

「魔力の気配も感じず、よく分からないな」

「こんなところに居るんだ」


「ちょっと特別なのだ。キエモン。任せたぞ」

「うむ、まあ見ておれ」


 先程の場所に戻り、疑問を浮かべるエノ殿らへ告げ、フロル殿の言うがままに刀を構える。

 特定の場所で振るわねばならぬのか、近場なら何処でも良いのか。そのいずれも分からぬが、近くにあった枯れ木の形などから大凡おおよそを把握。鬼を纏い、その空間を切り裂いた。


「……この力……!」

「さっきの決闘では見せなかった……!」

「やっぱり何か隠してた……」


 エノ殿らにも見せる事となったが、やむを得ない。得たであろう経緯が経緯な為、あまり他人へ見せたくなかったが、誰かを護る為なれば呪われた力も存分に使うまで。

 振り下ろした先の空間が割れ、魔力による乱気流が発生する。瞬間的に包み込まれ、部隊が魔力の中へと吸い寄せられた。


「……! ここは……」

「例の場所に御座る。フミ殿」

「……成る程ね。ダークエルフが居そうな雰囲気……」


 空間同士は無事に繋がった。

 既に先程放った火は無くなっており、戦闘の形跡も何もないが間違いなく同じ場所に御座る。

 先と違ってダークエルフの気配は無くなっているが、何処に消えたのか。


「皆の者、あまり離れるでない。拙者とフロル殿は確認したが、ダークエルフは幻術を使ってくる」


「見た数は少ないけど、私達に似た樹の魔法や精神や心理に関与してくるモノを扱うのだ」


「「「………っ」」」


 息を飲み、拙者とフロル殿の忠告を聞いて辺りへ警戒する。

 気配は無いが、気配を消すような魔法も使えるかもしれぬからの。出入口となる空間に目星を付け、拙者らは慎重に奥へと進み行く。


「酷い有り様。植物は枯れ、草の一つも生えてない…… 」

「破壊の結果だろう。何となく息苦しい」

「ここでは呼吸を落ち着けた方が良いかもな」


 エノ殿らが辺りを見渡して話す。

 改めて見れば生命の気配すらない空間。洞窟ともまた違う暗さがあり、さながら夕刻の森の如し。

 然れど周囲の木々は枯れ果て、何処と無く物寂しさも窺えられる。こんな所に長居しては気が滅入るの。


「フム、此処までダークエルフの気配は微塵も感じられぬな」

「やっぱり逃げちゃったのかな?」

「どうだろうの。言うても数十分。逃げたとしてもそう遠くには行かぬ筈だが」


 数分歩き進み、得られたモノは今のところ何も無し。

 警戒は解かぬが、それはそれとして動きが無いのが気掛かり。何が狙いかと思案していた矢先、足元から黒い魔力が溢れ出た。


「これは……!」

「やはり罠などの類いがあったようだな」


 警戒はしていたが、気配は無かった。そして拙者は魔力などの感知を行えぬ。合点はいったな。こう言った罠なれば拙者は気付けぬ。

 エルフの者達は跳ぶようにそれらを避け、拙者も魔力から離れて切り伏せる。

 気配が無いのは変わらず。それを思えば罠だけが張られていたという事に御座ろう。


「肝心のダークエルフはおらぬ。理由は分からぬが、足止めが狙いのようだ」


「理由……上手く分断させようとかかな。一旦帰った時点で増援を引き連れてくるのは向こうも考えているだろうし」


「戦える力があれど、警戒は怠らぬか。その線はあり得るな」


 単純に考えれば戦力の分断。この魔力に触れたらどうなるかも分からぬが、良い結果にはならなかろう。

 黒い鞭のような魔力とおもんみ、拘束するのが狙いか。


「随分と狡猾に動くな。それこそ幻覚とかの搦め手に嵌めれば良いのに」

「魔力は断ち切られるから? それはそれで罠も同じだよね」

「何にせよ、ちゃんと向こうもやる気はあるって事だよね」


 他のエルフ達もダークエルフの意図を読み解く。

 彼女らも言うように迎え撃つつもりがあるからこその罠。奥では何人かのダークエルフが待ち構えている事に御座ろう。そう思い、また一歩進んだ。


「……って、また……!?」


 瞬間的に伸び寄る黒い魔力。それらを断ち斬る。

 急に罠が増えたの。即ち本元が近いという事。

 このままでは埒が明かんな。


「皆の者。拙者が道を切り開く。その間に突き抜けよ!」

「人間が勝手に指示を……! まあいいけど!」

「乗ってあげる!」


 鬼神を込め、振り下ろす。刹那に正面の魔力が消失し、息苦しさが無くなった。

 同時にエルフ達が風の如く駆け抜け、正面突破。後から発現した魔力の罠も残波に飲まれて消え去り、一気に最奥へと到達する。

 皆が皆、馬より速いの。大したものだ。

 穴のような場所を抜け、拙者らは拓けた所に出た。


「……どうやら正解みたいなのだ。一気に突き進んだのはな」

「その様だの。皆がお出迎えだ」


 入るや否や、待ち構えていたのは多くのダークエルフ。此方も総人数は十数人居るが、倍以上は確実だの。

 そして気になるは更に奥から感じられる奇妙な気配。


「あ、来たね。さっきの人間とエルフ。後は沢山のエルフ」

「つまり人間とエルフ」

「やっぱり皆可愛い~」

「あーん、欲しい~♡」


 だがその前に立ちはだかる多くのダークエルフ。先ずは彼奴らの対処が必要だの。

 既に力は込めている様子。臨戦態勢には入っていた。


「“シャドーツリー”!」

「“巨木殴打”!」


 エルフとダークエルフ。二つの木々が正面からぶつかり合って魔力を散らした。

 相変わらず範囲のある魔法よの。お互いに。然しこの場では色々と不都合があるな。これまたお互いに。


「これはもう全面戦争開始と見て良いかな?」

「良いと思うよ」

「うん、勿論!」

「じゃあ楽しもっか!」


 黒い木々が無数に生え、光を放つ木々が無数に受け止める。その度に魔力が散り、心無しか周囲に吸われているようにも思える。

 これは早いところケリを付けねばなるまい。理由は分からぬが、培った拙者の勘がそう告げている。

 エルフとダークエルフの争い。まだ公にはなっておらず、範囲も此処だけだが始まった。

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