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其の佰拾肆 協力関係

「“乱花刃”!」

「……」


 乱れた花弁が刃となって放たれ、それらを斬り伏す。

 植物を刃物などの武器にして扱うのが彼女らのやり方。見た目は柔らかだが、実際はかなり強靭だろう。


「“操花・舞”!」

「……」


 己の周りに花を漂わせ、フミ殿自身が迫り来る。

 鎧ともまた違った用途。遠距離、中距離、近距離を全て補った状態か。

 花魔法は些か遅い。それでも十分な速度だが、拙者には避けられる。故に細い刀と宙舞う花。それの併用により速さも得たようだ。


「はっ!」

「……」

「そこっ!」


 刀が突かれ、鞘にて受けて距離を置く。そこから花弁の刃が迫り、ヒラリヒラリとそれらもかわす。

 その先へ矢が射られ、跳躍。これは、誘われたの。


「“旋風花”!」

「……」


 つい跳んでしまい、空中の拙者を花が飲み込む。

 鞘を再び回転させた風で防ぐが、時折混じる矢が厄介。

 魔法と武器。それらを巧みに操り自分の優位な位置を取る。フミ殿も強敵であるな。


「“旋花”!」


 正面の花を防ぐ拙者の背後から花が迫る。

 背の傷は逃げ傷にも等しきもの。これを受ける訳にはいかぬな。身を翻して横になり、両手に持った刀で前後の刃から護る。

 そこに向け、フミ殿は仕掛けた。


「やあ!」

「……」


 両手が塞がり、護る暇も無い。細い刀が拙者の肩を貫き、花刃の波に飲み込まれた。

 戦闘の最中に緻密な計算を織り交ぜ、確実な一撃を与える。見事と言う他あるまい。


「……」

「……っ!」


 小さな傷は気にせず、鞘にて体を叩き付ける。

 少々距離があり、威力も確実で無かったからか浅いの。吹き飛びはしたが意識まではまだ奪えておらぬ。


「結構傷付いているのに、よくもまあここまで……」

「フム、確かにの。サシの立ち合いで此処まで傷を負ったのは久しい感覚だ」


 鬼神の力は使っておらず、自ら縛りを課してしまったが、それにしても久しく負っていない傷。

 掠り傷程度はあれど、全身切り傷まみれは無い。かなりの強者よ。


「どうやら本当にそうみたい。さっきまであまり会話をしなかった。それがアナタの戦闘スタイル。けど今は普通に返答する。つまり少しは堪えたって事かな」


「聡明だな」


 よく見ておるの。

 拙者が戦いの最中に相手と会話する理由は、余程気になる事があるか何かしらの作戦か、あまり余裕が無い時くらい。

 今のように毒にも薬にもならぬ事への返答はほとんどせなんだ。

 この短時間でそれを見抜く彼女。あらゆる方面に長けているようだな。


「この調子ならやれるかな。“花連撃”!」

「…………」


 魔法と己の組み合わせ。それによって拙者を攻め立てる。

 連続した花が畳み掛け、それを躱せば細刀が迫るというもの。

 ただ質量に任せた攻撃ならまだしも、彼女は的確な狙いも付けておる。エノ殿もルタ殿も狙いは鋭かったが、フミ殿のそれは一線を画してるの。


「……」

「また黙り込んで……何かを企んでいるのかな?」


 企みと問われればそうと返せる。花の軌道、フミ殿の癖。向こうが短い時間で拙者の戦い方を学んだように、拙者も相手の動きを覚えた。

 侍同士の立ち合いは全てが瞬刻の出来事。短時間で相手の癖を見切り、討たなければ成す術無くやられるのみ。拙者もその分野には長けておる。


「“花龍進撃”!」

「……」


 花が纏まり、龍の形を作り出して高速で迫り来る。

 良き香りとは裏腹に殺意の塊のような力だの。視界が悪くなるのはまた難儀。

 その攻撃が自分に当たる直前に軌道を逸らすように刀を振るう。すると花はまるで何かに吸い寄せられるようにして拙者の背後へと飛んでいった。

 事は簡単。ただ空気を断ったまで。それは鬼神にならずとも行えるモノで、空気や風を伝う力なれば己で逸らせる。

 そして残った花弁。視界が悪くなるのは相手も同じよ。


「……」

「……!」


 風の隙間を縫うように駆け抜け、一瞬にしてフミ殿の眼前へと迫る。

 剣術にも精通しているようだが、それについては拙者も同じ。元より魔法が主体のこの世界。単純な剣技では拙者も劣っては御座らん。


「……」

「……」


 打刀と細刀がぶつかり合っては火花を散らし、剣戟けんげきを繰り広げる。

 金属のぶつかるキンッという音が複数回闘技場へと響き渡り、徐々にフミ殿の体へ鈍りが見えた。


「そんな……! 技は私の方が……!」

「……」


 それについてはそうかもしれぬの。

 あくまで拙者は十数年と言う短い時の中で剣術を磨いたまで。単純な年月では彼女の方が上だ。

 だが、魔法と刀の併用。加え、平穏な場所だったからこそあまり戦場にも赴いていない筈。

 鍛練を積み上げた年月か実践を積んだ経験か。そのいずれにせよ勝者は一人となる。


「“花──」

「……」


 押し切られ、我慢ならず魔力を込める。この距離でそれは隙となる。瞬時に拙者は踏み込み、片手で鞘を携え横に振るった。


「──斬”……!」

「………」


 細い刀から花弁が生まれては飛び出し、拙者の頬を掠る。これで更なる傷が増えたが、彼女の脇腹へと既に鞘は打ち込んだ後。

 フミ殿は空気を漏らしてフラフラと数歩下がり、揺れるように倒れた。


「私の……負けか……」

「見事であったぞ。フミ殿」


 倒れる直前、彼女を支える。

 武士の情けとでも言うのだろうか。エノ殿とルタ殿は支えてなかったが、あの時は少々遠かったからの。この距離なれば倒れる前に支え、更なる傷を負わせずに済む。

 立ち合いの終始を見届けたハクロ殿は口を開いた。


『そこまでだ。勝者、キエモン。見事三連勝を遂げたな』

「はっ、痛み入ります。ハクロ殿」


「やったやった! 3連勝ー!」

「流石鬼右衛門……好き……」


「フミちゃんまで負けちゃったー!」

「おもしれー奴」

「これはもう疑い様がないね~」

「あの人いいカモ~」


 勝利を告げられ、周りが盛り上がる。完全に見世物として楽しんでいたようだの。然しそれによって実力の疑いが晴れたのなら何よりだ。

 そこへもう目覚めたフミ殿を含め、エノ殿らがやって来た。


「認めるよ。お前は強い人間だ」

「ああ。これから味方になるなら頼もしい」

「まだまだ何かを隠しているようだもんね。個人的にもアナタが気になる」


「それを言うなら主らもまだまだ全力では無かろう。主らの経験と知能ならばもっと上手くやれる場面が多々あった。何やら勝利を急いでいるようにも思えたからの」


「ふふ、それは秘密♪」


 互いに本気は出しておらぬ。それは後々の事を思って。

 奥の手は秘めておくもの。研究されるのもよろしくないからの。特に拙者の場合はあまり明かしたくない心境。多くの人を殺めて手にした力というのもある。


「これでキエモンを認めてくれたでしょ! キエモンは凄いんだから!」

「だから……」


 ヴェネレ殿とセレーネ殿がやって来、胸を張って拙者を誇る。セレーネ殿も復唱するように言うとは珍しいの。

 エノ殿らは言葉を返した。


「認めてやる。だが、お前達は……あれ? ……と言うかお前達……本当に人間か?」


「え?」

「……?」


 唐突に、エノ殿がそう申された。

 魔力の持たぬ拙者は人間と判断していたが、拙者ではなくヴェネレ殿らを見ての言葉がそれ。

 強ち間違っては御座らんが、次第に周りへエルフの面々が集まってきた。


「ホントだ。不思議な気配」

「見た目は普通の女の子」

「高貴な印象……」

「姉妹かな?」

「人間じゃないみたい」


 等々。ヴェネレ殿らを見たエルフ達が口々にそう言う。

 彼女達が魅力的なのは分かるが、そう言った雰囲気でも御座らん。月の民の血が流れている事に感付いたのだろうか。

 ヴェネレ殿は説明するように口を開いた。


「わ、私は普通の人間だよ。多分セレーネちゃんも。高貴な感じなのは私が“シャラン・トリュ・ウェーテ”の王女じゃないかな?」


「お姫様」

「人間の?」

「違うみたい」

「不思議な感じ」

「ハーフなのかな」


 やはり、何かしらに気付いておるな。

 ヴェネレ殿から受けられる高貴な印象。それは単なる王族ではなく、人間の王族と月の王族の混血だからこそ。そしてセレーネ殿も……。

 一先ず困っておられる。此処は拙者が割って入ろう。


「ヴェネレ殿がお困りだ。皆の者、離れて頂こう」

「人間だ」

「だけど少し変」

「この人もハーフ?」

「違うんじゃない?」

「荒々しい感じ」

「神々しさもある」


 軽く押し退け、触れる度に拙者の素性も割り出されていく。

 エルフは拙者が思う以上にとてつもない種族なのかもしれぬな。思えばエノ殿らとの立ち合いでは体に触れる事は無かった。支えたのも意識を失っていた時だからの。


 それについて推測をするのなら、誠にただの人間である拙者が多くの人を殺め、その怨念か何かによって目覚めた鬼神の力だからこそ不思議な気配を感じられている。

 生まれついての王である彼女らはともかくとし、後々に成った拙者には触れなければ分からぬのだろう。

 拙者も知らぬ拙者の素性も分かってきたの。


『コラコラお前達。キエモンとヴェネレさん方が困っている。少し落ち着け。彼は連戦で疲れているのだ』


「母様」「ママ」「お母さん」

「ごめんなさい」

「ごめんねキエモン」

「ごめんねヴェネレ」

「ごめんねセレーネ」


 ハクロ殿が言葉を告げ、エルフの者達は謝罪しながら下がる。

 然し、他の者達にとってもハクロ殿は母親なのか? なんとも面妖な。


「アハハ……いいよ別に。エルフのみんな」

「私も……」

「拙者も問題無いが、ハクロ殿は皆の母君であったか」


『そうだな。私が産んだ訳ではないが、大切な家族だ。それについて話すのは長くなる。今は改めてお前達を歓迎する。ヴェネレ、セレーネ、そしてキエモンよ』


「はっ、ハクロ殿」

「よろしくね!」

「よろしく……」


 気になる事も色々あるが、第一関門は突破と言ったところ。エルフの者達に認めて貰い、円滑に事が進む事に御座ろう。

 さすれば本題のダークエルフ。今後何が起こるか、それはまだ予想出来ぬが、やれる限りの事は実行しようぞ。

 拙者らとエルフらの協定関係は築き上げる事に成功した。

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