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其の佰拾弐 エルフ三人衆

 ──“エルフの里”。


「ハクロ殿。話は付けて来た。アナタ方にお力を貸そう」

『早いな。どうだ? 善き王だっただろう。いや、厳密に言えば善き王夫婦だな』

「うむ。ハクロ殿の言葉に嘘偽りは無かった。改めて今回、拙者らもダークエルフへの対策に参加する事となる」

『そうか。よろしく頼む』


 話が終わり、報告をする。

 概要も説明し、“シャラン・トリュ・ウェーテ”では無くあくまで拙者とヴェネレ殿、セレーネ殿だけが参加する事も説明する。

 後は迎え撃つに当たり、如何様な戦力があるかだの。


「なるべく国の方には寄せ付けず、物の少ない場所で相手をしたい。此方の戦力、及びダークエルフの戦力。そして居場所を教えてくれ」


『分かった。王に会ったなら話を聞いたと思うが、“フォレス・サルトゥーヤ”の者達は皆が皆、特別な魔法を使えたり戦闘が得意と言う訳ではない。その為、戦闘になるとしたらエルフの民が主力となろう』


 此方の戦力はエルフの里の者達。

 王も言っていた。王を含め、王族や貴族などは少ないと。まさか兵も居なかったとはな。

 ともすれば、


「もしや、エルフの者達が“フォレス・サルトゥーヤ”の自警を?」


「そうなのだ。その対価として王様直々に色々と貰っている。無論、王様とその関係者の何人か以外には秘密でな」


 拙者の言葉に返してくれたのはフロル殿。

 姿を見せずとも国の住人と言っていたが、そう言う事であったか。

 物の生産などは人が行い、防衛などは裏でエルフの者達が行っている。これもまたある種の共生関係というもの。存外世界は上手く回っておる。


「ならばひっそりと終わらせる事も可能か。それならば恩着せがましくはならぬ。ある程度自由に動けるというもの」


『お主は……地位や名誉には興味ない人間か。静かに終わらせるのを望むとはな』


「無い訳では御座らん。地位や名誉を得る事で助けられる者も大勢居るからの。今回は平穏な国に不安を寄越したくないだけよ」


『それはそれで変わった人間だな』


 国民達は不安無く過ごしている。だが、ダークエルフの侵攻が表に出ればまたその様な事が起こるのではないかと平穏の形が崩れ落ちてしまうだろう。

 無謀とも言える天下泰平を望む身としてはそれを避けたい所存。故に、知られる訳にはいかない。


「では、改めて説明頂きたい。──拙者らを囲んでいる者達が仲間のエルフか?」


「あれれ? 気付かれた?」

「へえ、あの人間。やるじゃん♪」

「人間ってたまに面白いの居るよね~」


「……!?」

「いつの間に……」


 拙者はハクロ殿へ周りに集まっていた者達について聞いてみた。

 隠れ蓑術でも使っていたのか、見た様子では誰も居なかった木から現れる。思ったよりも人数がおったの。そして皆が皆女子(おなご)。エルフと言う種族は男が生まれないのだろうか。

 流石にそれは無いかの。


「やっほ。人間さん。私達の味方になるって本当?」

「あー、男だ。男の人って初めて見た」

「中々渋い人だね~」

「体が引き締まってゴツゴツしてる……」

「カタそー」

「澄んだ瞳……」


 男が居ないのは無いと思ったが、まさか本当に居ないのだろうか。男という存在自体を初めて見たと申す者が何人もおられる。


『うむ。この者らがエルフの民だ。軽薄な者や無知の者も何人かは居るが、魔力と身体能力はお墨付きだ』


「そうで御座るか。皆の者、宜しく頼み申す」


「よろー!」

「よろしくねー」

「よろしく……」

「ろしー!」

「感じいい人だね」


 キャッキャとしており、女子おなごらしさのある者達。だが、これで大抵の兵士よりも強いのだから感覚が揺らぐ。

 何にせよ、頼もしい限りだ。


「人間で、男か。ハクロさんのお眼鏡に叶ったようだが、私はイマイチ信用出来ないな」

「右に同じ。バカにするつもりはないが、人間は基本的に能力が低いからな。そして男はより野蛮と聞く。我らエルフを玩具としか見ていないとな」

「それをバカにしてるって言うんだけど……それに、その偏見の知識は本に触発され過ぎだよ」

「そう言うお前も信用はしていないだろう?」

「まだ素性も何も知らないからね。けど、種族や性別、見掛けで判断するのは早計だよ」


 拙者とハクロ殿が話していると、三人のエルフが木の上から見下ろしていた。

 一人は腕に胸を乗せて組んでおり、もう一人は女子おなごながら足を広げ、品の無い座り方をしておる。

 残りの一人は拙者を見定めていると言った様子。

 信用が無いのは分かる。唐突にやって来た部外者だからの。一応拙者の役割くらいは説明されていただろうが、目の当たりにしなければ理解も出来ぬのは当然。

 然しフム、この世界に来た初日、カーイ殿らに似たような事を言われたの。


「なにあの3人。失礼なの。キエモンはスゴいんだからね!」

「そう……キエモンを舐めないで……」


「ほう? 随分と信頼が厚いようだな」

「へえ。その実力、見てみたいな」

「信頼はそのまま本人の判断材料になる。面白そうだね」


「コレ、皆の者。そう殺気立つでない。拙者、争い事は好まぬ」

『そうだな。これから協力する仲間となるんだ。ダークエルフについても話し合わねば』


 拙者とハクロ殿の意見は合っているが、ヴェネレ殿らとエルフ三人衆の意見も合っておる。

 仲良く協力し、共に戦おうとはそうそうならぬようだな。


「お言葉ですがハクロ様。人間、しかも男などそう簡単に信頼出来ません」

「人間の力についてはある程度理解していますが、いずれも大した力ではないかと」

「私達と張り合えるのはそれこそ一部の者だけ。そんな私達と同程度の力を誇るダークエルフを相手に、この者は不足かと」


 また随分な言われようだ。

 拙者もこの者らの実力は知らぬが、長寿と言うエルフ。加えておそらく此処に居る者達はこの中でも戦闘が主体。人々の戦いも多く見てきたと思えば信憑性は高かろう。


「なになにー? 皆戦うのー?」

「今の人間の実力気になるー!」

「どんな魔法を使うのかなー?」

「ねえねえ、早くしないのー?」


 気付けば周りの者達も盛り上がっておるの。失礼ながら娯楽は少なそうな場所。立ち合いもまた娯楽になりうるのだろう。


「実力は協力するからこそ知るべきと思います」

「もし相応の力があると判断したら認めてやらない事もない」

「今一度ご判断を」


「そうだー! キエモンの実力見せてやれー!」

「やれー」


 すっかりその気の者達。ヴェネレ殿とセレーネ殿すらをもその気。拙者とハクロ殿は顔を見合せ、ため息を吐く。


「どうやら彼女らは収まらぬようだ」


『その様だな。だが、彼女らが言うようにそれもまた良いかもしれない。お主としてもお互いの実力を知っていた方が立ち回り易いだろう』


「それもそうだの。認めて貰った方が後々動きやすくもなるか」


 好戦的な種族という訳では無いようだが、これから戦になりうるかもしれぬ現在。力の見定めは重要であり、拙者もそれを理解しておる。

 互いの実力を知る事で行える連携もあると考え、その挑戦を受ける事にした。


「では、エルフの者達。そのお相手、拙者が請け負おう」


「その言葉を待っていた。だが、エルフの者達と多人称では紛らわしいだろう。私は“エノ”だ」

「私が“ルタ”」

「私は“フミ”。よろしくね。人間さん」


「……そうか」


 名をそれぞれエノ殿。ルタ殿。フミ殿。

 心無しか、一つの国につき三人はその様なニュアンスの者達が居る気がするの。何がそう思わせるのかは存ぜぬが。

 実は遠縁なのではなかろうか……いや、カーイ殿らとナーン殿らはともかく、エノ殿らは種族が違う。血族ではなかろう。

 不思議な事はどんな世界でもあるのだな。


「して、規約は如何致す? 殺し合いをすべきではなかろう」


「そうだな。純粋に戦い、敗北を認めるか意識を失ったら負けという事にしよう」


「成る程。分かりやすくて良いな」


 至って単純な制定。

 おそらくこの者達が負けを認める事は無いのだろうが、それでも終わらせられるもの。

 懸念があるとすれば女子おなごの意識を奪わねばならぬという事くらいか。

 だがこの者達も戦士。性別を理由に手を抜くのはそれこそ失礼というもの。この世界では男も女も関係無く、力のある者が戦場に赴くのだからな。精一杯戦うとしよう。


『では、闘技場がある。戦闘を見たい者達は移動しろ』


「「「はーい!」」」


 ハクロ殿がまとめ、エルフ達はまた姿を眩ませるように消え去った。

 拙者らもその闘技場へと向かい、臨戦態勢に入る。

 エルフの里での立ち合い。はてさて、如何なるだろうかの。



*****



 ──“エルフの里、闘技場”。


 向かった場所はそれなりの大きさの平らな場所に御座った。

 城の場所にも似ておるな。やはり力を発揮する為、至って単純に作られているのだろう。違いと言えば此処の闘技場は外にあり、木に囲まれている事くらい。

 周りではエルフの者達が席に着き、客人という事もあってヴェネレ殿とセレーネ殿は特等席。加え、その近くには比較的親しきフロル殿とハクロ殿もおられる。


「ルールはさっきも言った通りだ。シンプルなもの。敗北を認めるか意識を失った者の負けだ」

「心得ている。では、いつでも来るが良い」

「ほうきも持たず、舐めた奴だな」


 初戦はエノ殿。

 片手には細い刃物のような物を持っており、背には拙者も故郷で見慣れた弓がある。

 ほうきと杖だけの人間とはまた違う戦い方のようだの。


「ならば、小手調べだ!」

「……」


 踏み込み、加速。疾風のように眼前へと迫り、細き刃物を突き付ける。

 斬るのではなく、突く事に特化した刃。槍にも近い物だな。それを見切ってかわし、鞘に納まったままの刀をもちいる。


「それがお前の杖か。随分と変わった形だ」

「これは杖では御座らん。刀と言う人斬り包丁だ」


 エノ殿は刃を構え、高速で連続した刺突を繰り出す。

 狙いは正確。的確に急所を外し、意識を奪うか傷を負わせて敗北を促すやり方。

 だが避けられぬ速度では御座らん。互いに様子見の範疇と言ったところだの。


「フッ、避けてばかりでは埒が明かないぞ!」

「心得ている」


 さて、そろそろ口を噤むか。立ち合いに置いて、名乗り以外の文言は不必要だ。


「…………」

「……! 人間がなんて速さ……!」


 鞘を振るい、エノ殿が仰け反って回避。足元を掬い、その身を転ばせた。


「……っ」


 彼女は即座に起き上がって距離を置き、拙者の姿を視界に収めた。


「………」

「……っ」


 刹那に頬を鞘が横切る。動体視力は高いの。不特定多数の人間の兵士ならこれを顔に受けて倒れていた。

 身を翻すように刃物を斬り付け、拙者は紙一重で躱す。そのまま脇腹へと鞘を打ち付け、彼女の体を吹き飛ばした。


「カハッ……! 人間の癖に……!」

「……フム、ギリギリで衝撃を和らげたか」


 体術も優れておるの。

 打ち付けた瞬間、咄嗟の判断で自身の体を引いて威力を落とさせた。

 華麗な技に速度。そして的確な狙いと状況判断能力。まだ小手調べで此処までの能力を見せて貰った。確かに強いの。


「魔法も使わず、刃を収めた剣で此処まで戦うとは……!」

「言い忘れていたが、拙者、魔法などの類いは扱えぬ。基本的にはその身一つで戦っておる」

「なにっ……?」


「またキエモンったら……」


 名乗り以外の会話は不要だが、公平になるような事は教えておかねばな。

 彼女は魔法を警戒して近距離から攻めて来ていたので御座ろう。フロル殿以外は拙者に魔力が無い事を知らされていなかったのだろうか。

 兎も角、お陰でその身体の力を見せて貰った。お次は遠距離での在り方を窺おう。


「フッ、それをわざわざ教えてくれるか。お前もまた一途なようだな」

「戦に公平は無いが、一対一サシの立ち合いくらいでは明かさねばな」

「その気概、嫌いじゃない」


 拙者の在り方を評するエノ殿。

 今一度彼女の元へと駆け出し、鞘を振るい上げる。


「では、お望み通り優位に立ってやろう」

「………」


 反転するように跳躍して避け、背の弓矢を抜く。それを引き、高速の矢が複数本射られた。

 見れば魔力によって強化されておるな。そして今の言葉、拙者も見定めようとしていると気付いたか。なれば好都合。


「……」

「目視で見切って避けるか」


 矢を避け、エノ殿へと迫り行く。

 まさに猪突猛進。直線上に攻め入る拙者を見、彼女は細き刃物を構えた。


「“樹木創世”!」

「……」


 次の刻に大地から周りの木々とも違う、魔力からなる樹木が生えた。

 自然を愛すると言うエルフらしい魔法だの。樹を生み出すか。


「この木々は私の手足。さあ、剣しかないお前はどうする?」

「……フム」


 拙者のやる事は変わらぬ。ただ直進するのみ。

 自然の木々と違うのは有り難いの。心が痛まずに済む。


「………」

「成る程。行動で示してくれたか」


 放たれる樹を斬り伏せ、根に乗って駆け行く。

 鞭の如く打ち出されるが、いつぞやのリッチが操る大樹に比べたらまだ対処もしやすい。このまま行かせて頂こう。

 互いの実力を見定める為の模擬戦。今回はカーイ殿らの時より苦戦もありそうだ。

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