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其の佰拾壱 森の国の王

「ダークエルフって……マザー……!」


 ハクロ殿の言葉に反応を示したのはフロル殿。

 そう言えばフロル殿はエルフ。同じような名を持っている以上、何かしらの関わりがあるので御座ろうか。

 だぁくエルフ……いや、ダークエルフ。文献にて見たような気もするが、然して情報も無かった。故にイマイチ分からぬ。

 ハクロ殿はフロル殿に返す。


『ああ。エルフの近縁種でありながら破壊と悦楽を好む野蛮な種族。お前達とは相反する存在だ』

「最近は大人しかったのに……」

『これの準備をしていたから身を潜めていたのだろう。エルフの森、その一角を枯らす程の力は蓄えているという事だ』

「ならその狙いは……!」

『さっきも言ったように戦争だろう。エルフだけではなく、森の国“フォレス・サルトゥーヤ”を巻き込む程のな』

「……っ」


 存ぜぬが、話を聞く限りダークエルフとは随分と荒々しい種族のようだ。

 自然を愛するエルフとは相容れぬ存在。近縁でもその様な者が居るのだなと思ったが、同じ種族である人ですら戦が絶えない以上、そう言うモノなのだろうと割り切る他無い。


「穏やかな話では御座らんな。袖振り合うも多生の縁。何か手伝える事はないか?」


『フッ、変わり者の人間だな。自ら進んで面倒事に首を突っ込むか』


「争い事は嫌いなのでな。事が起こるよりも前に阻止出来ればそれに越した事も無かろう」


『フム』


 いささかお節介だとは思うが、目の前で新たな血が流れようとしている現状、それを止めたいのが拙者の意思。

 ハクロ殿は小さく笑い、拙者はヴェネレ殿らの方へ視線を向けた。


「ヴェネレ殿。少々厄介事に巻き込まれそうな様子。主らは──」

「いや、私も行くよ。話を聞いた以上、じっとしていられない」

「然しだな。主は一国の王女。危険な場に身を乗り出す必要も無い」


 そんな気はしていた。

 ヴェネレ殿は優しいお方。それ故に危険が迫っていると知って黙っていられない性分。

 セレーネ殿は拙者の袖を引いた。


「私も帰れない……傷付く生き物は見たくないから……」

「主まで」


 優しいお二人。拙者はその辺も好いているが、王女と非戦闘員。巻き込むのは忍びない。

 ハクロ殿はそちらを見やった。


『では、国王と掛け合ってみると良い。彼奴は人間にしては話の分かる者。主らは同盟国でも無い以上、国王から直々に許可が降りねばならぬからな。私の名を王の古き友人のモノとして貸してやる』


「そうであるか。自国の問題である事には変わらぬ。人助けと言えど、部外者が戦のような大事に参加するのもまた罪。然し国から許可が降りれば別。ヴェネレ殿。この場には丁度主が居られる。行ってみるか?」


「もちろん! こういう時こそ王としての威厳を見せつけなきゃ!」


 拙者としてはヴェネレ殿が参加する結果になるのは避けたいところだが、彼女が居なければ助太刀する事も叶わない。

 その為に必要な王の許可。拙者らは改め、“フォレス・サルトゥーヤ”へと向かってみる事にした。



*****



 ──“フォレス・サルトゥーヤ、外門”。


「──成る程。“ハクロ”と名乗る王様の知り合いから直々の指名ですか。わざわざ一国の王であらせられるシュトラール=ヴェネレ様が?」


「はい。重要な話がありますので、王様と対面させてください」


「……ふむ、流石に一国の王を無下にするのも問題。事によっては国際問題に発展しますね。連絡はしてみますが、あまり期待はせぬ方がよろしいかと」


「心得ています。許可が降りずとも事を荒立てるつもりはありません」


 改めて国の入り口へと行き、そこの受付と話をする。

 本来なれば王と直々に話すなど殆ど不可能に等しき事だが、此方も立場としては同じ。

 国内では自国の王が上であっても、他国の王を追い払う事も出来なかろう。

 そしてハクロ殿の話が誠なら返ってくる答えは──


「え!? 通せ!? は、はい。分かりました」


 大きく動揺を見せる。

 何の約束も無く押し掛けるのは無礼であり、受付の者が訝しむのも頷けるが、やはりハクロ殿の古き友人と言うのはそうなのだろう。

 簡単な手続きを済ませ、改めて入国した拙者らは王の待つ城へと向かった。



 ──“城内、貴賓室”。


「アナタ方がハクロの知り合いと?」

「うむ。斯く言う王、貴殿が友人か」

「そうじゃな。昔からよう知っとる」


 貴賓室へと招かれ、一先ずの確認を終えた。

 何と言おうか、この王は今までの王と違うの。

 今までの王は豪快なお方だったが、この方は豪快というよりは穏やかな雰囲気。

 心優しき方なのは一目見て分かったが、失礼ながら王らしさは感じられぬ。


「然し、貴殿がこの国の王か」

「ん? どうした?」

「いや、此方の事。大変失礼ながら、王には見えぬのだ」

「ホッホッ。ワシは平民上がりの王で王族ではないからの。無理もない」

「なんと、そうで御座ったか」


 森の国の王は元平民との事。

 親近感が湧くの。拙者も名家の出自などではなく、平民からの武士。素振りなどは木の棒をもちいて昔からしていたが、ごく普通の出だ。

 思えばその頃から主君に拾われていたの。そう言った縁があるのやも知れぬ。


「因みに妻もワシと同じく平民上がり。この森の国は由緒正しき貴族や王族は少ないのだ」

「よろしくねぇ~」


「そこにおられたご婦人が王妃にあらせられるか。仲睦まじい良き夫婦だ」


「そう言って貰えると此方としても嬉しいものだ」


 いつ頃王位に就いたのか存ぜぬが、お二方は大分高齢の様子。然し良い年の取り方をしており、理想の熟年夫婦と言った風貌に御座る。


「それで爺さん。この方がハクロちゃんの知り合いかえ?」

「そうだの。婆さんや。これから詳しい話を窺うところですじゃ」

「そうかいそうかい。なら、お茶を容れて来ようかねぇ~」


「ちょ、王妃様! そう言うのは私達使用人の仕事ですよ!」

「もう大分高齢なのですから……!」


「なんじゃと? 私ゃまだまだ若いもんにゃ負けんよ。ハクロちゃんも元気でやってるみたいだからねぇ。負けてられないさ!」


「困ります奥様!」


「……。元気なご老人だ」

「アハハ……そうだね。けど、なんかああいうのって良いよね。年老いても元気で。憧れるなぁ」


 “シャラン・トリュ・ウェーテ”。“フォーザ・ベアド・ブーク”。それらの主君に負けず劣らず、此方の者達も元気で暮らしておる。和むの。

 拙者、実は祖母と祖父っ子に御座る。よく遊びに行き、庭の柿を貰っていた。

 何でも拙者が産まれた時に植え、拙者が八つになってから頂いた。桃栗三年柿八年とはよく言ったものだ。

 祖父母は大往生。戦乱の世にて良い死に方だったの。


「ヴェネレ殿に祖父母は御座ったのか?」

「うーんと……実は覚えていないんだ。あまり思い出さなくても良いって私自身が思ってるくらい。どんな人が分からないんだけどね」

「そうか。それもまた一つの在り方よ」


 ヴェネレ殿の祖父母は不明。全く見に覚えがなく、ヴェネレ殿自身も然して気にして御座らん様子。

 気を取り直し、拙者らはお二人へハクロ殿の言葉を告げた。


「──という事にあり、ダークエルフとやらが森の国へ攻め入る可能性が出ておる」


「成る程の。また戦争か。最近は各国が静かだったのだが、やはりいつかは起きるのだろう。最近“シャラン・トリュ・ウェーテ”でもそう言った物事があったとか」


「そうであるな。それについては隣国に報告が行ってある。やはり貴殿の耳にも入っていましたか」


「そうじゃな。この地位に居るとあまり良くない情報も流れてくる。どうにかしたいが、ワシだけの力じゃどうにもならんからの。此処だけの話、他国と同盟を組まぬのも国民達を大きな争いなどに巻き込みたくない臆病心からなのじゃ」


「その気持ちはお分かり致す。拙者も戦は懲り懲りよ」

「そうか、分かってくれるか。若き騎士よ」


 国王と言うのも、大抵は苦労してらっしゃるものよ。

 特に平和主義の善き王はの。話の分かる王とハクロ殿がそう申されていたが、誠のようだ。


「それにつき、今回、仮に戦となった場合、拙者もお力を御貸ししたい所存」


「フム、話には聞いている。それは噂の範疇だが、かなりの実力を秘めた騎士が居るとな。主らは善き者の様子だが、同盟を結んでいる訳でもないワシらに力を貸し、危険を冒すのは避けて欲しい心情だ」


 心優しき王。だからこその意見。

 何の関わりもない他国の者を巻き込みたくないのは当然の意思。

 それについて改めて話す。


「故に、巻き込まれるのは拙者のみで構わぬ。国の騎士達が大勢で押し掛けては恩着せがましくなるからの。考えうる最小人数で、あくまで手助けの領域は抜けぬ」


「ちょ、キエモン。私達も……!」


「ヴェネレ殿。特に主の存在は大き過ぎる。貴女は頼りになり、誠に助けたいと思っているのも分かるが、他国の王が内乱に参加するのは問題しかなかろう」


「それは……そうなんだけど……」


「案ずるな。帰ってくだされとは申さぬ。一国の王であるからこそ、やれる事は多々あるだろう。今回も含めての。深入りはせず、貴女様のやれる戦いをして欲しい次第」


「私のやれる戦い……」


 ヴェネレ殿の立場を思えば動こうにも動けぬだろう。それは本人も理解している。

 だからこそ、彼女には王位継承者に出来る事をして頂きたい。


「セレーネ殿も深入りはせず、手助けを頼む」

「うん……」


 ヴェネレ殿とセレーネ殿を説得させ、王へと向き直る。


「王よ。今の形なれば如何だろうか。王の懸念する結果には致しませぬ」


「しかしだな。君達に危険があるのは変わらないのではないか」


「それはダークエルフが攻めてきた場合、この国と近隣の民や生き物全てに該当する事柄。拙者は事前に止める方向にする次第。今のダークエルフは森の一角を枯らす程の力を有しております。この国で育てた作物などが被害に遭えば、多くの国民が苦しむ結果になりましょう。最善策は拙者の思う方法かと」


「一理ある……しかし……ううむ……」


 他国の部外者である拙者らを思い、真剣に悩む。斯様なお人を巻き込むのは避けたい所存。

 隣では王妃も話す。


「若い方。なぜそこまでして私らに手をお貸ししてくださる? メリットが無いですじゃ」


「めりっと……利点の問題ではありませぬ。優しき者達にはなるべく長く生きて欲しい。ただそれだけの事です」


「アナタも善い人なんだねぇ」

「拙者は決して善い人ではありませぬよ。王妃殿……」


 思えば、現世での罪滅ぼしをしたいのかもしれぬ。

 多くの人を斬り、殺め、非道となって戦場を駆け抜けた。

 戦の勝率が高いという事は、それ程までに多くの人を亡き者にした意。

 人を殺して称えられたとしても、行き詰めれば単なる人斬りと何ら変わらぬ。受け取り手によって右往左往しようとも、拙者は何処まで行っても悪鬼。だからこそ手に入れられた鬼神の力。

 これは祝福ではなく、罪滅ぼしをしろと言う天からのおぼしなのかもしれぬな。


「……フム、アナタも若いながら色々あったみたいだねぇ。爺さん。此処まで言うんだ。やらせてやったらどうだい」


「そうじゃな。老い先短いワシらよりも苦労しているみたいだ。その心意気に賛し、アナタのやりたいようにやってみてくれ。騎士さん」


「はっ。ご協力、感謝致す」


 やはり年の功には及ばぬな。拙者の表情から何かを読み取ったようだ。

 その様な人らを巻き込みたくはない。拙者が授かった、命を奪った事で手にした鬼神の力。

 現世にて拙者の殺めた者が報われる事は無いがその罪を背負い、拙者はこの世界で生涯を懸けて償いをしよう。

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