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其の佰漆 火の国の祭典

 ──“一ヶ月後”。


 火の国の騒動から、一月ひとつきが経過していた。

 拙者がこの国に来てからそろそろ五ヶ月になるの。早いものだ。

 基本的に変わらず任務を受けて日々を過ごし、今日の拙者らは火の国へと寄っていた。


「では、これが以上の報告に御座る。火の国の王よ」

「すまんな。やはり同盟を組むとなると簡単には纏まらぬ」


 “フォーザ・ベアド・ブーク”と“シャラン・トリュ・ウェーテ”が同盟を組んでからは一月経っているが、諸々の手筈があるのでまだ完全に完了した訳では御座らん。

 同盟を組もう。良し。と簡単に終わる事でも無いのだ。

 大国同士となると隣国にも目を向けねばならぬからな。味方が増える代わりに敵も多くなろう。

 今現在、一先ずは落ち着いたと言ったところだ。


「そうじゃ、主ら。せっかくこの国に来たのだ。祭典へ参加せぬか?」


「祭典か」


 一ヶ月前時点での近日に行う予定であった祭典。それは騒動により先延ばされ、今日行われる事になっているのだ。

 然し、成る程の。


「これが狙いに御座ったか。ヴェネレ殿」

「アハハ~。まあね~」


 ヴェネレ殿が態々(わざわざ)赴かずとも良い報告。それに着いて来た理由は今日日この国で祭りがあると知っていたからか。

 相変わらず抜け目無いお人だ。


「最近また仕事が増えちゃってね。ずっとお城の中で監禁されてたの。この理由なら外に出る事も出来るし、ついでに楽しめるって訳! 同盟国の長が勧める事を無下にするのも悪いからね!」


「フッ、それも良かろう。確かにヴェネレ殿は休むに休めておらぬ。拙者も御付き添い致す」


「ホント! ありがとね。キエモン!」


 今回この国に来たのは拙者とヴェネレ殿。そしてセレーネ殿の三人。

 危険も少なく、あまり外に出ぬお二人を連れ出す為に参った。

 だがそれも全てヴェネレ殿の計算のうち。愉快なお方だ。


「キエモン! セレーネちゃん! 食べ歩きしよ!」

「うん……」

「うむ」


 拙者らの手を引き、嬉々として駆け出す。

 久方振りの外出。及び遠出。彼女も心が踊っているのだ。年相応で可愛らしいものよ。


「やあ、君達。暇かい?」

「どうなんだ!? あ゛ぁ゛!?」

「良ければ俺達と楽しまねーか!? 短い人生だしな!」


「え……」


 すると、何やら見覚えのある者達が現れた。

 確か、ナーン殿にパース殿。そしてルーゾ殿。何度かこの国に寄った時も姿が見えなかったが、どうやら無事だったようだの。


「んん!? と言うか君、前に可愛い女の子3人を連れていた古臭い人じゃないか」

「マジだぜ。なにしてんだァ?」

「ハッハ! 久し振りだな!」


「覚えておったか。主らのような者達は男の顔など覚えておらぬと思い込んでおった」


「いきなり失礼な事を言うね。あんな美人を連れながら、こんなに可愛い人達を連れるなんて。なんて贅沢」


 また勘違いされておる。思い込みが激しい性格なので御座ろうか。

 そう言う者も居る。それもまた個性。此処は温かく見守るのが良さそうだ。


「今回は護衛だ。彼女は“シャラン・トリュ・ウェーテ”の王女。もう一人は王女と親しき者。相応の礼儀は見せよ」


「お、おおお王女!? こ、これはご無礼を働きました!」

「マジかよ。直々にこの国に来たのか!?」

「へえ。王女様。可愛いじゃん!」


 ナーン殿は身分相応の在り方で、単純に驚くパース殿。そしてルーゾ殿は身分などお構い無しと言った面持ち。

 ヴェネレ殿は拙者の裾を引いて耳打ちするように訊ねた。


「ねえ、キエモン。この人達誰?」

「ナーン殿にパース殿。ルーゾ殿だ。以前この国に寄った時、エルミス殿らが今回と同じように茶へ誘われていた」

「完全にナンパ師じゃん……どうやって撒いたの?」

「程々に調弄はぐらかし、そのまま場を離れたの」

「なるほど……」


 難破師とはの。常に難航でもしているので御座ろうか。

 その様に哀れな者達を追いやるのも考え様かも知れぬな。


「悲しき者達の様子。相手してやるべきだろうか」

「えーと……悲しい人達なのはそうだけど、相手はしなくて良いよ。多分キエモンの思っているナンパと私の中のナンパは違うと思うから」

「そうであったか」


 やはり言葉は難しいの。確かに同じ言葉で二つの意味を持つものも多々ある。

 拙者とヴェネレ殿のやり取りを見、ナーン殿は顔をあげた。


「き、君……王女様相手になぜそのような態度を……!? しかも息が掛かり、振り向けば口付けを交わせるような位置に!?」

「……!? そ、そう言えばキエモンが近い……」

「フム、いやに説明的な言葉。まあいい。一つ聞きたいが、祭典にて屋台が出回る場所は何処だ?」

「え? それならその道を真っ直ぐに行き、角を曲がった大通りだけど」

「そうか。お二方。共に参ろう」

「キエモン……手……って、さっき私も手引いちゃってた……!」

「温かい……」


 エルミス殿らの時と同様、何となくヴェネレ殿とセレーネ殿の名は明かさず、調弄はぐらかすように訊ねてその場を去る。

 気付いたのか、お三方はハッとした。


「あ、また逃げられた……!」

「チッ、なんだアイツの言葉。質問へ全意思が逸らされやがる」

「ハッハ! 巧みな話術って訳だ!」


 どうせまた追ってくるだろうと人混みに紛れ、身を眩ませる。

 人を隠すなら人の中とはよく言ったものだ。すぐに逃れる事が出来たの。


「ヴェネレ殿、セレーネ殿。すまぬな。急に手を引いて。彼奴らの相手は面倒そうなので連れさせて頂いた」


「あ、ううん。全然良いよ。ナンパは興味ない人が相手だと断るのも面倒だからね。……まあ私はナンパで好みの人に会った事無いけど」


「一緒に走るの楽しかった……」


 どうやらお二方も迷惑だったご様子。英断に御座ったな。

 道を教えてくれたので悪いとは思っておるが、これもまた致し方無し。


「では、屋台の方へと向かおう。火の国では何が名産品なのか気になるからの」

「ふふ、キエモンって結構食べるの好きだよね」

「食とは生きる行為。それが美味な物であり、幸福感に包まれるのなら越した事はなかろう」

「うん。一理あるね」

「同感……」


 祭典の楽しみの一つは様々な食事。

 拙者の故郷でも祭典にのみ甘味などが出され、幸福を感じられた。

 食う、寝る、動く。人の欲というだけあり、時折溺れそうになるのは困ったものだが抑えられぬのもまた生よ。


「この国では辛い食べ物が名産品だね。ほら、あそこにあるあれとこれとそれとか」

「フム、ヴェネレ殿の言葉殆ど擬音だが、確かに香ばしい匂いが漂っておるな」

「それについてはいいの。後半の言葉だけで十分だよ」


 早速屋台に寄る。

 辛味のある食料。香辛料などを使われた物か。拙者の故郷では高級品だったが、この国ではそれをふんだんに使っているらしい。


「らっしゃい! らっしゃい! 火炎豚の焼き肉! 香辛料マシマシだよ!」

「なんとも唆る匂い。一つ頂こう」

「まいどあり!」


 火炎豚。名前からして熱そうだが、それを更に火で炙ったか。

 串に刺された肉を口に含み、味わう。噛む度に溢れる肉汁が口内に広がり、旨味と甘味が舌を刺激する。ちと辛いが、それがより食欲を増して進むの。うむ、美味だ。


「本当にキエモンって美味しそうに食べるよね~」

「む? そうよの。誠に美味である。そうだ。ヴェネレ殿も御一つ如何?」

「え? これって間接……」

「ヴェネレ……。エルミスと同じ反応してる……」

「え!? エルミスちゃんと!? て事はつまり……!? わ、私も負けてられない!」

「そうがっつくでない。拙者が持っておるのだ。逃げはせぬよ」

「そうじゃないんだけど……美味ひぃ……」


 拙者が串を渡し、セレーネ殿の言葉に触発されたよう食す。

 誠に元気で愉快な人だ。楽しいものよ。


「セレーネ殿もどうだ?」

「うん……いただきます……辛い……」

「それがまた癖になるのだ」

「確かに美味しい……」


 セレーネ殿にもやり、味わって食べる。

 まだ早い辛さだったのか一瞬だけ表情を歪ませたが、その後にやって来る旨味を感じて幸福そうな顔になる。

 セレーネ殿は小動物のような愛らしさがあるの。美味かったならそれで良し。


「おお、まだまだ見た事の無い食物がある。これは食べ回るのが楽しみだ!」

「アハハ、子供みたいだよ。キエモン」

「何を言うておる。せっかくの祭典。楽しまねば損損」

「それもそうだね。次のお店に行こっか。食べ物以外にも色々あるみたいだし!」

「フッ、やはり祭りは楽しいのう」


 年甲斐も無くはしゃいでしまうが、それもまた祭りの楽しみ方。祭りのみならず、物事を楽しむのに年齢は関係無かろう。退屈と享楽なれば後者の方が良いからの。

 無論限度はあるが、楽しませる為に用意された場は楽しむべきだ。


「あ、キエモン。あそこに行こ!」

「うむ、良いの」

「楽しい……」


 ヴェネレ殿とセレーネ殿も楽しんでいる様子。お二方が楽しそうなのは拙者も嬉しくなる。やはり妹を見るような心境なのだろうな。

 祭典は始まったばかり。まだまだこれから楽しもうぞ。



*****



 ──“???”。


「──“フォーザ・ベアド・ブーク”。到着しました」

《そうか。街の様子はどうだ?》

「相変わらずの暑苦しさですね。今日が祭りだからより一層楽しんでいますよ」

《ならば問題は無い。目的のモノを頼む》

「分かりました。我が主。母君様」

《任せた》


 そしてまた、拙者の知らぬ所では別の陰謀が動いていた。


《だが、やはり二重呼びは回りくどい。主か母君だけで十分。後者にも様は要らぬよ》

「オーケー、マイマザー」

《……。まあいい》


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