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其の佰肆 カチカチ森

「やれ! ポイズンゴーレム!」

『『『…………』』』

「……」


 歩む度に森が枯れる毒人形。けしかけられた瞬間に滅し、奴へと距離を詰める。


「……」

「なんて速さ……!」


 刀を振るい、ほうきにて逃亡。空中で死体と毒人形を次々と生み出しては射出し、拙者の進行を阻む。

 それもまた良し。先程毒の種類を聞いた時と同じく、彼奴との立ち合いは布石でしかないのだからの。

 だが、奴の最期を変更する事はない。

 生み出された毒人形と死体を切り伏せつつ間合いを詰める。


「“ポイズンアロー”!」

「……」


 そこに向けて毒の矢が射られるが、エスパシオ殿ら騎士団長が直々に攻め入った方が速いの。

 とは言え防ぎ漏らす訳にはいかぬ。森が死ぬ可能性があるからだ。

 毒の矢は消滅させ、更に駆け寄る。


「クソッ! “ポイズンソード”!」


 次いで放たれるは毒の刀。本人が扱う訳ではなく、生み出した毒人形へと持たせて拙者へ振り下ろした。


『…………』

「すっトロいの」


 毒の刀ごと毒人形を切り伏せて鬼神の力で消し去り、逃げ回る奴と一定の距離を保ったまま進む。


「毒魔法がことごとく消滅を……!? ただの斬撃魔法じゃないのか……!?」

「…………」


 流石にいぶかしんだの。魔法を魔法で打ち消すやり方もあるが、拙者のそれは方向性が違う。

 鬼が魔を完全に飲み込んで消し去っている。我ながら恐ろしい力だが、戦にて多くの人を斬り、殺めた拙者には相応しきもの。欲望のままに食らう鬼としては正しい在り方よ。


「クソッ! クソッ! クソッ! “ポイズンバレット”!」


 数分前までの余裕も消え去りて毒の弾を撃ち出し、またもや消滅させる。

 杖を掲げ、天に翳した。


「これでどうだ! 毒の化身よ。天候をも歪め、支配し、我が領域とせよ! “ポイズンレイン”!」


 天を支配し、毒の雨を広範囲に降らせる。

 これはまた面倒な魔法を使ったの。さて、これを斬れるだろうか。


「考えている暇はないか」


 更なる力を込め、十字の形に天を裂いた。

 火縄銃や弓矢の如く天まで届く斬撃。恐ろしくも便利な力よ。


「まさか……! 国中を覆う空を……斬ったのか!?」

「ああ、斬った」

「……っ」


 懐へ攻め入り、刀を薙ぐ。咄嗟に毒で守りに入るが刀は囮。がら空きの場所へ鞘を振るい、肋骨を砕いてその体を吹き飛ばした。


「ガハッ……!」


 やろうと思えば鞘で殺す事も出来る。然しそれはせぬ。血を吸った刀を納め、休ませる為の鞘。寝ても覚めても血の匂いが漂っていては刀に悪いからの。


「貴……様……」

「この辺りだの」


 予定地へと到達し、近くの岩へカチカチと鞘を当てる。軽く音を鳴らすその程度の役割。

 相手は疑問を浮かべた。


「ぐっ……何を……しているんだ……?」

「肋骨を複数本折ったのだが、話せるとはの。……何、この音は辺りの仕来たりよ。定期的にカチカチと音を鳴らす事から“カチカチ森”と謳われておる」

「まさか……そんな訳無いだろ……!」

「そうよの」


 また岩へ鞘を打ち付け、音を鳴らす。瞬間、奴の背後から火球が飛んできた。


「……ッ!? なんだ……!?」

「どうやら此奴は王に毒を盛り、操っていたらしい。毒に侵され、王は動けぬ状態だ」

「何を言っているんだ貴様!?」


 この者を無視し、彼女ら(・・・)へと告げる。

 何の事か全く分からぬであろう。拙者は見下ろした。


「そんな事より良いのか? 背中が焼けておるぞ?」

「……っ。“ウォーター”!」

「毒以外も使えたのか」

「元々毒魔法は様々な魔法の応用だ……!」


 燃えた体を水にて消し冷やし、肩で息をしながら話す。

 苦しそうだな。早いところ楽にしてやりたいところだ。


「良薬を塗ってやる」

「……!? あがぁ!?」

「間違えたの。これは香辛料だ」

「どこからそんなものを!?」


 背を擦り、辛子を塗りたくるがお気に召さなかった様子。泥にまみれたほうきに掴まり、拙者から一気に距離を置いた。


「クソッ……! イカれてやがる! 奴は何を……!」

「……」


 逃げ行く背を見、箒へ狙いを定める。瞬時に振り下ろし、その箒を断つ。


「んなっ!?」


 その先に待つは沼。

 頭から突っ込み、沼の水を飲んだのか慌てて岸へ浮上した。


「ゲホッ……ガハッ……」


 そして、その者を拙者らは取り囲んだ。


「苦しかろう。だが、主が受ける罰としては少々優しいかもしれぬの。既に城へと侵入する前から、拙者らは策を講じておったのだ」


「……っ」


「この方が王様を……!」

「ねえ、キエモン……本当に私達の王様は……」

「この者の説明を聞く限り、操られた時点では生きていたかもしれぬが、その際に使用した毒によっていずれ死するらしい。今はもう分からぬ」

「なんて奴……!」「非情な……!」「許せん……!」


 待っていたのは受付嬢にヒノコ殿。そして王のやり方を不審に思っていた兵士達。

 此処はヒノコ殿と相対した場所の近く。加え、魔物も少ない安全圏。受付達に策を伝え、行動に移ったまで。

 拙者一人で終わらせても良かったのだが、国の者として落とし前は付けたいとの事。誠に情熱的な者達ぞ。


「ぐっ……揃いも揃って囲みやがって……! 僕を見下すんじゃない!」


「主のした事への因果が返ってきただけよ。王を操り、戦争を引き起こす。今回は事前に阻止出来たから良かったが、主の所為で多くの命が奪われるところで御座った」


「ハッ、そりゃ惜しかったね。もう少しでウザイ奴等全員殺せたってのによ……!」


 この状況でもなお減らず口を叩く気概は認めよう。

 だが、世間知らずも良いところ。世界どころか自分の住む場所すら理解していなかろう。此処に来て四ヶ月の拙者が言えた義理も無いがの。


「だったら……やってやるよ……! 貴様ら全員、僕の毒の餌食に──」


「「「………!」」」


 瞬刻の間、黒き線が奴の心臓を貫き、絶命させた。吐血し、動かなくなる。

 なんとなく既視感があるの。

 拙者は、今回は目で終えた線の主へ視線を向ける。


「お主が此奴を殺ったのか? 星の国の者」


「ご迷惑御掛けしました。“シャラン・トリュ・ウェーテ”及び“フォーザ・ベアド・ブーク”の皆々様方。裏切り者はキッチリ始末し、全てを終わらせましたので後はごゆるりと」


「待て」

「おやおや、お速いで御座いますね」


 場所は木の上。仕掛けぬが、逃がす訳にもいかぬ。

 跳躍してこの者の前に立ち、拙者は刀を向けた。


「あの飛ぶ魔力。見覚えがあっての。“シャラン・トリュ・ウェーテ”にて謀反を起こした侯爵を殺め……王女であらせられるヴェネレ殿を狙った攻撃だ。あれも主の仕業か?」


「お答え兼ねます。機密事項ですので」


「では主の手足を切り落とし、詳しい事情を聞くとしよう。目論見はヴェネレ殿の暗殺。あの方へ仇成す輩は何人足りとも放っては置けぬ」


「……。凄い殺気だ……流れる気配は魔力とも違う……神々しく、荒々しい。さながら」

「鬼神か?」


 刀を薙ぎ、上空の雲全てを切り払う。

 外套に包まれたその者の顔が一瞬だけ見え、瞬時に魔力の縄で主犯の遺体を寄せて拙者から距離を置いた。


「危ない危ない。顔バレ厳禁なんですよ。私達は。命を狙う立場が狙われる立場になって逆転してしまいますからね」


「そうか。では一つ申しておこう。主らは俗に言う暗殺部隊。その中の誰か一人がヴェネレ殿を狙ったのは事実。して、諜報も役割の一つで御座ろう。拙者の国にも似たような役職、“忍者”というものがおっての。それなりに詳しくある。……故に此処で話しておく。──金輪際ヴェネレ殿、及び“シャラン・トリュ・ウェーテ”へと近付くな。近付いた暁には主の国の王、兵、民。その全てが鬼によって食らわれると思え……!」


「……っ!? ………。……はい。肝に命じておきます。貴方が相手では完成しても一筋縄にはいかなそうなので。この死体は国に持ち帰るので悪しからず」


 警告はした。ヴェネレ殿を一度でも狙った事実は変わらず、今すぐにでも星の国を文字通り天上の星にしてやりたいが、此処は気を留めておく。余計な争いを生む必要もない。

 暗殺者は闇夜に紛れて消え去り、この場には拙者と“フォーザ・ベアド・ブーク”の面々のみが残った。


「キエモン様。あの方は?」


「知り合いでは御座らん。だが少々国家的な意味合いで関わりがあっての。穏やかな間柄でもない」


「その様で……」


 この者達の前で少々怒ってしまった。落ち着かねばならぬな。国の印象が悪くなっては今後の付き合いに支障をきたす。

 此方としても隣国とは友好関係を築きたいからの。


「一先ず、拙者の仲間達も近くに来ている。死者蘇生は出来ぬが、王にほんの少しでも意識があれば完治させる事も可能やも知れぬ。ヒノコ殿。炎六団であらせられる主の言葉なら兵達を宥める事も可能だろう。人々へ話してくれ」


「分かった。取り敢えずは国に帰る事だね。みんな、戻るよ」


「「「はっ。ヒノコさん」」」


 町に帰るのが先決。まずは国の騒動を収めねばな。

 “シャラン・トリュ・ウェーテ”の方にも偽りの王の指示でこの国の者達が向かっていると考え、早急に終わらせる必要がある。

 不届き者を片付けた拙者らは“フォーザ・ベアド・ブーク”の町へ戻った。

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