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其の佰参 主犯

「我は王ぞ。対談が望みナら相応の態度を取レ。戯け者が」


「急ぎの用事故、態度を改めるのに少々時間が掛かり申す。──さて、此処まで付き合ってやったが、主は誰だ? 稚拙な傀儡遊びだ。見世物にもならぬ酷き有り様よ。心底下らん」


「ナンダト……?」


 騙されるフリをせずとも良かろう。あまりにも見てられぬ三文役者の三文芝居。早起きしてこの者の芸を拝見する暇があるなら寝ていた方有意義なものよ。

 さっさとその素顔を暴き、茶番にもならぬ面倒事を終わらせたいの。

 愉快であった善き主君をこの様な形で使われている為、拙者は少々腹が立っておる。


「主の稚拙極まり無い虫ケラ以下の頭では言葉の意味も理解出来ぬか。さっさと王を解放し、その姿を見せるか立ち去れ。痴れ者が」


「貴様……言わせテおけバ……」


「主のような塵に等しき者への罵倒は多々思い付く。他人の姿を借りねば何も出来ぬ臆病者よ。昨日の獣も主の仕業で御座ろう。本物の獣は扱えぬ故、命令に従う死体を利用しただけの不出来な傀儡だ」


「ふざケルな!」


 怒鳴り声を挙げ、王の肉体を操りけしかける。

 挑発には乗るが、姿は見せぬ。余程の者の様子。身を翻してかわし、更に付け加えた。


「フッ、図星のようだの。やはり王は操られ、普段はせぬ愚かな行動を起こさせているか」


「殺す……!」


 物騒な事を口走る。口調を惟るにおそらくまだ若い者が魔法にて操っているので御座ろう。

 やはりサモン殿の言っていた“星の国”の裏切り者がこの国に潜伏していたようだの。

 いや、受付嬢の話では昨日の夜に拾われたらしい。つまり偶々行き着き、助けられて此処に居るという事か。

 助けられた恩を仇で返すとは不逞の輩。仕置きが必要だの。


「やレ、お前ラ……!」

『『『…………』』』


「フム、また命への冒涜を体現したかのような獣共よ」


 告げ、嗾けるは継ぎ接ぎだらけの獣。

 肉と皮を無理矢理縫い合わせ、形を作ったと言わんばかりの存在。

 これがサモン殿の言う実験動物の死体か。星の国も中々悪どい事をするが、それを操るこの者もこの者だ。


『『『…………!』』』

「鳴かず、吠えず。昨日の宝石獣よりも生き物という感性が無いの」


 何も声を出さずにただ仕掛ける。獣の声は威嚇の役割もあるが、それすら無いとはの。

 サモン殿が言っていた失敗作。それを鑑みればあの宝石獣は限りなく成功に近い存在だったという事か。


「切り捨て、御免」

『『『…………』』』


 切り伏せ、動きを止める。

 始めから死体の為、動向は術者次第。それ故に足などを切り落として動けぬようにした。


「さっさと出てこい。主の素性は分かっておる。“星の国”から逃げ出した者だろう」


「……!? な、ナぜそれを……!?」


「何の理由かは分からぬが、居場所無き主を拾って下さった主君への恩を仇で返すとはな。お主自身が何の感情も持たぬ傀儡という訳だ」


「知ったようナ事を……!」


「そも、既に申したが隠れてなければ何も出来ぬという事は己に自信が無く、己の脆弱性を表しているようなもの。下らん力を振りかざすな。弱者よ」


「……貴様ァ!!」


 言葉を吐き捨てつつ気配を探る。挑発には乗りやすい性格の様子。周囲への注意は散漫になるだろう。

 術者が近くに居るのか居ないのかは存ぜぬが、先程は何処からか獣を解き放った。つまり近場に居るという事。

 拙者は既に刃を抜いている打刀うちがたなの鞘を取り出し、そこへと放り投げた。


「既に主の存在にも気付いておる。さっさと出てくれば傷を負う事も無かろうて」


「……っ」


 鞘は直撃。同時に王は糸の切れた傀儡のように倒れ伏せた。

 その生死も不確かであるが、一先ずの解放はされたようだ。


「別に僕は隠れていた訳じゃない……出る必要が無いと判断したから出なかっただけだ……脆弱でも弱者でも無い……! ただ単に裏から国を牛耳り、“星の国”へと復讐をしようと思った次第だ……!」


「その割には近場にある拙者らの国を狙ったの」


「前哨戦さ……近隣の大国から戦力を奪い取り、万全を期して復讐する。それが僕のやり方だ……! “星の国”を僕が支配し、虐げてきた奴等へ目に物見せてやるんだ!」


「やはり臆病者のようだの。慎重とも言えるが、言葉違いで意味合いは同じ。特に主の場合はの」


 自国にて何があったか。それは不確かな事柄だが余程の事のようだ。

 だがそれもまた滑稽よ。


「要するに主を虐げた者へ同じ事をしようと言う事か」

「当たり前だろ。何を──」

「復讐を否定はせぬ。拙者の国でも敵討ちや仇討ちはあるからの。然し、面白いのが虐げた者と同じやり方でしか復讐が出来ぬという事だ。見てきた世界がそれだけ故に、同じ方法しか知らぬのだからな」


 斬られたら斬り返し、迫害されたら迫害し返す。方法は全く同じ。自分よりも優位に立つ者のした事がそれであり、それしか知らぬが為。

 やはり稚拙な者よ。


「だから、何が言いたい!?」

「拙者が言いたい事は何一つ変わらんよ。此処に来た当初からの。下らん。ただそれだけだ」

「くだらないだと!? 貴様は僕がどんな目に遇って来たか分からないからそんな事を言えるんだ! 大人しく従う訳無いだろ!」

「ああ、知らぬ。が、単刀直入に言う。主の思想に拙者らを巻き込むでない。戦はもう懲り懲りなのだ」

「……!」


 復讐したいのなればすれば良い。前述したように否定などせぬからな。それによって晴れる憂いもあるだろう。

 然し“シャラン・トリュ・ウェーテ”に関わりがあるならばまだしも、何の因果も無いのに巻き込まれたのでは堪ったモノではない。内輪揉めは内輪でだけやって欲しいものだ。


「ハッ、そんな事か。お前達の都合なんか知るか。僕が、僕がムカついているんだ! そこに止まる理由はない!」

「我が儘な奴だ」

「そう言われても構わない! 極論、僕の為なら世界が滅んでもいいんだからな!」

「誠に極論よの」


 周りが見えておらぬ。自分を中心に考え、全てがその通りにならなければ癇癪を起こす。

 主君の為に命を賭す侍とは相容れぬが、ある種の天下人かもしれぬの。我が儘も突き抜けると清々(すがすが)しいものだ。


「だから僕は──」

「もういい。話は終わった」

「……!」


 持論を振り翳すも良し。然れど微塵も興味に値せぬ。

 鞘を拾ってその体を打ち抜き、王室から外へと吹き飛ばした。


「クソッ! ガラスで切れた! 貴様……! まだ話の途中だったのに仕掛けてくるなんて……!」


「すまんな。興味無いのだ」


 彼奴はほうきに立ち、拙者から間合いを離す。杖を構え、魔力を込めていた。


「毒の化身よ。その力を地表に顕現させ、邪魔者を消し去れ! “ポイズンストレート”!」


「……」


 毒の化身……つまり彼奴は毒使いだろうか。

 直線上に射出された毒。このままでは城へと直撃してしまうの。

 だが問題は無い。鬼神を纏わせ、刀を振り下ろす。それによって毒が断たれ、あの男に掠って雲を割った。


「……っ。なんだよその力……斬撃魔法か? 上級魔法並みの威力じゃないか……!」


 斬撃を見、驚愕の表情となる。

 この程度の力、この世界では然して珍しくないようにも思えるが、あの者の知る小さな世界では大きなモノなので御座ろう。


「くっ……! 毒の化身よ──」

「町中で使うのはめて頂こう」

「……ッ!」


 斬れるとは言え、此処で使われるのはよろしくない。

 窓枠を踏み蹴って箒に立つ奴へ鞘を打ち付け、その体を更に吹き飛ばす。

 赤い瓦の屋根を転がり箒の上で持ち直す。体幹はそれなりのようだの。魔法使いは常に箒に乗るのもあり、自然と鍛えられるので御座ろう。


「簡易的にやらなければならないか。──“ポイズンアロー”!」


「…………」


 毒の矢が撃ち出され、それを刀にて斬り伏す。

 毒矢を逸らすだけでは被害が増える一方。故に完全に消し去る必要がある。拙者なればそれも可能よ。


「……」

「……っ。何が狙いだ……!」


 更に距離を詰め、鞘で叩く。

 狙いが何かを問われれば人里から引き離す事。毒魔法とは難儀なモノ。及ぶ被害が大き過ぎる。

 だからと言って森の中でも草木や花が枯れ、動物達が苦しむ結果になろう。やむを得ずともなるべく避けたい。

 吹き飛んだ奴は町を抜け出し、森の方へと到達する。瞬時に魔力を込め、奴は再び死体を操る。


「やれ! お前ら!」

『『『…………』』』


「…………」


 思えば不思議なものだの。先程から使っているのは毒魔法。拙者はてっきり糸の類いかと思うたが、そう言う訳でも御座らん。

 如何様にして死体や人を操っておるのか。気になる所存。


『『『───』』』

「……」

「チッ、相変わらず一瞬で……!」


 動く亡骸は切り捨て、眼前へと迫る。

 奴はほうきにて移動し、森の中へと入って行った。

 一先ず国から引き離す事は成功したが、森の生き物達にも気を遣わねばならぬ。操作術だけならまだしも毒を使われては堪ったモノではないな。


「一つ聞きたいが、主は如何様な方法にて人を操っておるのだ? 毒魔法は理解したが、あれでは生き物を動かせなかろう」


 拙者も森へと入り、気配を探って質問する。

 また身を眩ませたが、この辺りに居る事は理解しておるからの。疑問を訊ね、少しでも時間稼ぎをしておこう。布石の為にの。


「……いいよ。答えてやる」


 そして向こうは乗ってきた。

 それも当然かもしれぬな。打つ側もそうだが、やられる側も疲弊する。それに加えて相手は魔力を使うておろう。

 理由を付けて休もうとしてもおかしくない。


「ひとえに毒と言っても、物を溶かす酸性の毒から体内へ侵食する神経系の毒。体内を破壊する出血毒とか種類自体は豊富なのさ。中には幻覚作用のある毒や意図せぬ場所を動かす毒もある。それを応用して僕は生物を操っている……いや、厳密に言えば死体だね。生き物を操る事も可能だとは思うけど、万能って訳じゃない。確実なのは毒殺した死体だよ。仮に生き物を操っても少し経てば毒に侵されて死ぬからね!」


「…………」


 奴が操る者は死体のみ……か。

 つまりあの王はもう既に……いや、可能性が無くなった訳ではないか。あくまで少し経てば。

 然しこの瞬間、拙者に此奴を生かす理由は無くなった。今回のみならず己の為に平然と殺め、意に介しておらぬ存在。改心する余地も無かろう。


「ふふ、バカだな貴様は。敵である僕に時間を与えるなんて。お陰で準備が出来た。後は唱えるだけ……──毒の化身よ。その姿を現し、敵を殺めよ。“ポイズンゴーレム”!」


『…………』


 全身毒の毒人形。

 ボタボタと液体が零れ、そこから煙が出る。溶かしておるの。奴が言っていた酸とやらの毒か。

 近くの小動物が一瞬止まり、痙攣して死した。即ち神経毒とやら。様々な毒が人形となって動く。これが奴の奥の手か。


「+“大進行”!」

『『『…………』』』

「……」


 複数体おったか。

 歩んだ先々にて毒が侵食し、植物を枯らす。もう少し殴り飛ばし、森から抜けたかったが距離があり過ぎるの。元より火の国の近場に広野は御座らん故、割り切る他無いか。

 だが、被害は最小限に抑える次第。刀を握り、前方へと振り下ろした。


「さて、後何体で御座るか?」

「僕の魔力が持つ限りかな!」


 正面の全ては切り伏せ消滅させたが、本人の言うように魔力の続く限りは永続のようだ。

 さすれば簡単。奴を討てば全てが終わるという事。


「これ以上被害が広がるよりも前に主を切り捨てる」

「やってみろ! 斬撃魔法の騎士!」


 魔法ではないのだが、不思議な力を魔法と申すのなれば強ち間違っておらん。言われた通り、やってやろうぞ。

 拙者と火の国を襲った主犯の立ち合い。容易に終わらせるとしよう。

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