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其の玖 武具店・愛刀

「マルテ殿。此処は?」

「武具専門店だ。魔法具を取り扱っている」


 マルテ殿の案内の元、拙者らは武具の専門店とやらに参っていた。

 魔法具。此れ即ち妖術と関連性のある道具が売られているという事。

 然し拙者が探し求めているのは手に馴染んだ刀。この様な所に刀が売っているのであろうか。


「さて、入ろう」

「フム」

「初めて来るお店……」


 店内に入ると、ズラリと陳列された様々な道具が目に入る。

 然し乍られも使用の意図が分からず、本当に刀があるのか疑問なところだ。


「らっしゃい! お、マルテさんにヴェネレ様じゃねえか! マルテさんはともかく、ヴェネレ様は珍しいね! そしてお隣のは……胸の記章からするに新しい騎士さんか!」


 店の中を見渡していると豪快な男性が話し掛けてきた。

 その様からするに店の主とお見受けする。拙者は会釈した。


「拙者、名を天神鬼右衛門と申す。此度こたびこの国の騎士となり、国の為に命を賭す所存。以後お見知り置きを」


「お、おう。なんだか難しい言葉遣いだな。よろしく頼むよ」


 名義を名乗り、店主の覇気が少しばかり小さくなった。

 この国に来てからよく難しい言葉遣いと謂われる。やはり南蛮の者達に日本語が通じにくいのだろう。国境に言語の壁があるのは致し方無き事で御座るが、慣れぬものよ。


「それで、マルテさんが来たって事はその新騎士さんの力添えがしたいって訳だな。何がお求めで?」


「ああ、実は……彼。キエモン殿は魔法を扱えなくてな。しかし騎士である以上、魔物の討伐や戦争に赴く事もある。なので護身用の武器が欲しいんだ」


「なんと!? 魔法を使えぬ者がこの世に居たんで!?」


 拙者の事情を聞き、驚愕する店主。

 やはりこの国で妖術を使えぬのはかなり異質なのだろう。拙者自身、少し見て回っただけで自分が如何に他者と異なる存在か実感した。


「そりゃ珍しい……だが、騎士となった以上、魔法相応の何かがあるのでは?」


「ああ。彼の身体能力は目に見張るものがある。おそらく魔法無しならば我らの国で一番の強さを誇るだろう。魔法ありきですら上位の方に連なる実力はあると見た」


「マルテさんがそこまで評するたァね。一見の価値ありだ。今時杖以外の武器なんざ扱っていないが、何とか仕入れてみよう。一先ず今は俺のコレクションから何か好きなのを持って行くと良い」


「フッ、相変わらず古来の武器類を集めているのだな」


「応ともよ! たまに“裏側”からも客が来るからな。料金の代わりに昔の武器をくれたりするんだ」


「それを売ってしまう貴殿も貴殿だ」


 何やら話が纏まった様子。

 その話からするに、城にあった物よりは種類も多かろう。後は拙者の手に馴染むかどうかで御座るな。


「キエモン。ヴェネレ様。着いてきてくれ。店主が紹介してくれる」


「相分かった」

「はーい」


 店主の案内に従い、我らは店の奥へと入る。

 見た目よりも広き店で御座るな。これも妖術による作用か、はたまたそう見えるだけか。中々に興味深い。

 奥の部屋へと辿り着き、店主殿がその扉を開閉した。


「わあ、色んな武器があるね」

「ほう。これは荘厳な」

「相変わらずコレクションの保管ルームの気合いの入れ様が凄いな」


「ハッハッハ! 男足る者、趣味には気合いを入れるべきだろう!?」


 仏壇の如く神々しさ感じる保管所。

 剣、盾、弓、槍、兜、鎧。れどその殆どは拙者の知る物と形状が違う。

 南蛮の者と争った時に見たような気もするが、おそらくこの国特有の物であろう。


「こんなに気合いを入れているのにキエモンにあげちゃって良いの?」


「あたぼーよ! 実は太古の武器を集めているは良いが、それを使って戦う様を見た事がなくてな。街に侵入してきた魔物退治とかなら一般市民の俺達にも見る機会がある。太古の武器を振りかざして駆け回る様。ロマンじゃねえか!」


 拙者の戦いを見たい。ただその為だけの理由で貴重な武器を授けてくれる。

 此れまた何とも懐深き者で御座ろうか。

 そうは言っても、拙者にも懸念がある。


「基本的に妖術と違い、対象へ直接的な攻撃を仕掛ける武器類。戦闘途中で砕け、もう二度と戻らぬかもしれぬぞ。それでも良いのか? 店主殿」


「構わねえぜ。使えば壊れるのが道具の在り方。その武器達が生き生きしているのを見れたらそれで良い!」


「そうであるか。その覚悟、しかと受け賜った」


 どうやら懸念は杞憂に終わったようだ。

 礼を兼ねて頭を下げ、その武器達を吟味する。


「両刃剣。弓矢。槍。何れも馴染まぬな」


 一番手に馴染むのは刀に形状の近い両刃刀だが、些か重い。

 弓矢はあまり使った事がなく、刀の次くらいの頻度で扱っていた槍も拙者の知る物とは形が違う。厳密に言えば柄が短く、刃が重いので機敏に振り回せぬのだ。


「フム……悩みどころであるな……」

「騎士さん、見つからねえかい?」

「彼は一体何を見て判断しているんだろうか」

「キエモンは剣を使っていたんだって。だけどこの国の太古の武器と結構違うらしくて、模擬戦でも木刀を使っていたけど、あまり馴染まないみたい」

「成る程な。慣れ親しんだ武器。私も手に馴染んだ杖の方が使いやすい。その気持ちは分かる」


 ヴェネレ殿達を待たせるのは悪い。然しフム、困ったものだ。いずれも合わぬ。

 ふと隅の方へ視線が向いた。


「他と比べ、この辺りはあまり整っておらんな。一見は普通であるが、微かながら埃が目に映る」


「あー、その辺りは本当に昔のコレクションでな。場所も場所。隅っこなんでついつい掃除をサボっちまうんだ」


「成る程」


 確かに武器庫や宝物庫の清掃も隅々まで行き届いているかと問われればそうではない。何かしらを保管するのも楽ではないのだろう。

 特に店主は趣味で集めているようだからな。


「む? これは……」

「そんな所に何かあったかい?」


 埃っぽい隅の更に奥。立て掛けてある得物を見つけ、それを手に取る。

 息で埃を払い、鞘から抜いて銀色の刃をじっくりと見やった。


「これは……刀で御座るな。柄は黒漆塗。長丸形の鐔。刃文は基本となる直刃すぐは。奇しくも拙者の愛刀と同じに御座る」


「それは……変わった形の剣。騎士さん、知ってんのかい?」


「ウム。拙者の国にて侍が携える刀という武器だ。用途は戦、及び観賞。此れを使うて戦場へと赴いていた。本来は槍が主軸であるが、拙者の愛刀は特別製。刃零れしにくく最期まで共に仕えた仲間だ」


 まさかこの様な形で瓜二つの刀に巡り合うとは思わなんだ。


「凄い綺麗な刃物……周りは埃が被っていたのに、刃には汚れ一つ無く輝いてる……」


「ああ。これがキエモンの言っていた武器か。太古の剣や杖とは全く違うな」


「ウム。これぞ拙者の望んでいた物よ」


 鞘に仕舞い、腰に携える。

 この感覚はしっくり来る。さながら足りない物を補い、修繕した時の如し。だが脇差しは二つ。もう一つもそのうち欲しいところよの。

 改め、店主へと訊ねた。


「誠に此れを戴いて宜しいのか? 店主。これ程の業物。拙者の国では数万両は下らぬ代物ぞ」


「両? なんだか知らんが、しっくり来たならそれで良いぜ。金は要らねェ! 夢を見せてくれ! ロマンっーどんな金品よりも貴重な……なっ!」


「了解した。その浪漫とやらが何かは分からぬが、御覧にいれてしんぜよう」


「ああ、頼んだぜ!」


 料金は取られない。やはり懐の広き者も多い国だ。

 店の中へと戻り、少し会話して離れる。

 やはり刀は落ち着く。いざという時身を護る手段は必要で御座るからな。


「これでバッチリだね! キエモン! マルテさんもありがとう!」

「いや気にするな。何を隠そう私もキエモンに助けられたのだからな」

「そうであったか?」

「ああ、そうだぞ。ちゃんと覚えていてくれよ」


 談笑しつつ帰路に着く。

 さて、この後は何をして過ごそうか。日がな一日、のんびりと空を見て過ごすのも良かろう。


「あ! マルテさん! そして新人! 緊急招集だ! すぐに城へ集まってくれ!」


「「…………!」」

「……?」


 その道中、何やら慌てた様子の騎士が拙者達の前に現れた。

 招集と言っていたな。即ち敵襲か何かしらの問題か。どちらにせよ悠長な事ではなさそうだ。


「キエモン」

「ウム。直ぐに参る。ヴェネレ殿は?」

「勿論私も行くよ。私の扱う魔法はこの国でも上の方って自負しているからね! それに元々お城は私の家だし!」


 悩む暇は無い。我ら三人頷いて返し、報告に来た騎士の後を追う。

 ただ事でないのは明白。城へと向かうのであった。

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