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導きの指輪を託されて  作者: 青井はる
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序章

 地球上の全ての国で信仰されているみちびきの星教せいきょう、この尊き教えにより世界はあの暗黒の十年以外の五千年近くを穏やかな繁栄に包まれております。

 導師どうしミヤコ様に代替わりをしてから六十五年が経過しましたが、地球上でその間戦争は一度も起こっておりません。自然災害もその全てが未然に防がれるか、被害が最小限に抑えられています。このことからも、その類い稀ない御力おちからは疑いようもありません。

 導きの星教において最高位にある導師様は、現在のミヤコ様を含め三百十四人もの御方おかたが存在いたしました。ミヤコ様の御力は、その歴代の導師様達の中でも十本の指に入るほどでございます。各国の政府関係者達は、その偉業に畏敬の念を込め「必定ひつじょうの御方」とミヤコ様のことをお呼びしているそうです。

 ご存知のように導きの星教は、太古の地球に神様を乗せて落ちて来た隕石を御神体ごしんたいにしております。その御神体は太平洋の中心に存在する約十万平方キロメートルの島国――そう、我らが導きの星教発祥(はっしょう)の地、独立宗教国家どくりつしゅうきょうこっかステッラです。導師ミヤコ様が国家元首を兼ねているこの国は、一年を通し温暖かつとても過ごしやすい気候でまさに地上の楽園といえるでしょう――の中心部、聖域内にある大神殿に今も奉られています。

 敬虔けいけんな信徒の方々でしたら、死ぬまでに一度はこの大神殿に巡礼したいと願うことでしょう。星邂祭せいかいさいの時期には、巡礼できなくともせめてこの地で過ごしたいと世界中から大勢の信徒が集まります。星邂祭に参列し大神殿に入るためには、日々戒律を守り最善をつくし生きていくことが肝要かんようです。各地の教会にいらっしゃる命師めいし様や仰師こうし様たちは、私たちの善行を必ず見てくださっています。どうか諦めずに信仰を強く持ちましょう。

 有史より世界各地を導き信徒を増やしてきたこの尊き教えですが、大昔に太平洋の中心にある島から世界中へと命師様を派遣することが出来た秘儀ひぎは未だ明かされてはいません。我々はいつか、その神の御業みわざを知るという幸運を得ることができるのでしょうか――。


(なるほど、つまりこの隕石から歴史が狂ったのか)


 夕陽が差し込む図書室の机の上で『星暦せいれき五〇二二年最新版 導きの星教完全解説――導師ミヤコ様の偉業とその御力の全て――』をパラパラとめくりながら要点を脳内にまとめていたセーラー服姿の女子高生、示ノ原(しのはら)エマは本の内容を反芻はんすうする。


(現代日本のはずなのに神社もお寺もないし、どこもかしこも導きの星教ってそればっかり。おまけに言葉は日本語なはずなのに星語せいごだっていうし、文字もへんてこな星字せいじってやつだし、他の言語が一つも存在しない……変だとは思ってたけど、これって地球は地球かもしれないけどパラレルワールドってやつ? ううん、ここまで色々違うならもう異世界って認識でもいいかも)


 どんよりとしたため息をつきながら、エマは視界に入った栗色の髪を色白で華奢きゃしゃな指を使い耳にかける。絹糸の様にしっとりと艶めく髪の指通りの良さに、思わず先ほどとは違う感嘆かんたんのため息がもれた。


(髪の毛本当に綺麗……普通の手入れしかしてないのにこんなにつやつやで天使の輪っかもできるし、やっぱり元が良いって違うんだな。顔も結構可愛いし、スタイルも良いし、勉強も人間関係も困ったことがないなんて恵まれすぎ。こんなに素敵な子に生まれ変わるなんて、前世の私って意外と徳を積んでたのかな)


 肩上まで伸びた艶めく栗色の髪を指で遊びつつ、街中にいれば少し周囲の目をくであろう可愛らしい顔をかしげながらそんなことを考える。エマがそんな風に自分のことを他人事のように観察してしまうのには理由があった。

 エマは昨日の夕方に学校の階段から転がり落ち、前世の記憶を思い出したいわゆる転生者なのだ。ちなみに運良く大した怪我はしていないので、そのあたりは安心していい。

 前世のエマは、西暦二〇二二年の日本でしがない会社員として働いていた凡庸ぼんようなアラサー女性である。

 前世のエマは、安い給料に苦しみながらも毎日あくせく働いていた。そんなある日、心の癒しだったイケメンで優しい先輩社員が結婚するということを知ったのだ。

 最初から望みはないと知ってはいたが、それでもやはり悲しいものは悲しい。せめて相手の女性が素敵な人物であれば諦めもつくと思ったが、顔は良いが性格は二面性があり仕事もさぼる問題児の後輩女性社員と結婚すると知り愕然がくぜんとした。

 あまりのショックに「結局顔なのか!」と叫びながらやけ酒をした挙句あげく、帰り道の途中で階段から足を踏み外したというのが思い出せる限りで最後の記憶だ。

 おそらく、前世と同じく階段から転がり落ちたことでこれらの記憶が思い出されたのだろう。

 普通ならパニックになってもおかしくなかったが、エマの前世はサブカルチャーをたしなむオタクであったため、転生に対してはわりと知識があり状況理解は早かった。

 そしてエマとして生きた十八年分の記憶や経験が失われることもなかったので、気持ちを切り替え二度目の高校生活を謳歌おうかしようとしたわけである。

 ただし、つい先ほどこれがただの転生ではなく「違う歴史を辿った地球」というパラレルワールド――エマからすればある意味異世界への転生であることに気が付き、色々と予定が狂ってしまったところだ。

 エマの前世の感覚でいうならば、異世界とは何でもありの世界である。古今東西、異世界を題材にした物語は数知れず、漫画、アニメ、ゲームでも大量の作品が存在した。その全てに目を通していたわけではないが、パラレルワールドの地球にも同じように想像もつかない特殊な能力や技術や文化が存在してもおかしくはない。


(そう、例えばこのミヤコ様とやらだけど、やってることが完全に未来予知なのよね。しかもそれがこの世界では当たり前ってことは、歴代の導師様も力の強弱はあるみたいだけど似たようなことができていたはず。そりゃ未来予知で自然災害を回避できるならあがめて宗教にもなるよね。この世界で他の大きな宗教が存在しないのって、完全にこのチート能力の導師様のせいだわ。しかも大昔に太平洋の真ん中にある島から世界中に布教できてるなんて、完全にオーバーテクノロジーの何かを使ったはず……ううん、もしかしたら知られてはいないだけで魔法が存在するのかも)


 魔法の存在に思い至り、エマは黒目がちでつぶらな瞳をキラキラと輝かせた。

 魔法という超常的な力が存在するのならば是非とも使ってみたい。そう思うくらいには、前世から魔法というものに夢や憧れを抱いていたのだ。

 それから超常的な力というものに、エマは多少覚えがあった。それは自身の持つ、異様な勘の良さだ。

 例えば選択問題は答えが全く分からなくても八割は確実に正解できる。そして閃きが必要な応用問題も大事なポイントにすぐ気が付くし、そもそも試験のヤマも大体当てることができた。失せ物探しはかなり得意だし、危機察知能力も高いため事故や事件が発生する場所には近付かない。他人の心の機微を察するのも得意なので、話が特別上手いわけではないが気持ちのいい付き合いができるためか友人も多い。

 まだまだ例はあるが、今挙げただけでもその異様さが十分に伝わるだろう。

 前世を思い出す前のエマは「そういうもの」だと思いなんの違和感も感じていなかったが、今のエマは違う。


(この勘の良さは普通じゃない。導師様の力に似てると言えなくもないけど、あそこまで正確に災害を予知するとかは絶対に不可能。劣化版、なのかな……でもこんな力がそうそうあるとも思えないし、もしかしたら私、導師様と何か関わりがある?)


 持ち前の勘の良さで推理を進めていたエマの思考は、無情にも鳴り響いたチャイムによって中断させられた。

 帰宅を促すその音に反応し、司書教諭ししょきょうゆが図書室内の生徒へと退室を促す声かけをする。エマは迷わず読んでいた本を司書教諭へと渡し、貸し出しの手続きをしてもらうことにした。


「あら、示ノ原さんこの本を借りるの? それ入ったばかりの新書でおすすめだったのよ。学生の内からこうして星教せいきょうについて調べるなんて感心ね。ここだけの話、毎年星教大学(せいきょうだいがく)の入試問題にその本から何問も出題されているの。受けるつもりならしっかり読み込んでおくといいわ。五月の今から準備すれば、示ノ原さんならきっと合格できるから!」

「先生、ありがとうございます。まだ第一志望は決めきれていないから参考になります」

「良いのよ、私もちゃんと星教を勉強する真面目な子は応援したくなっちゃうから。星教大学に興味があるならいつでも相談に乗るわ。私の子供、二人ともそこだから色々と情報もあるし遠慮しないでね」

「はい、その時はよろしくお願いします」


 にこにこと嬉しそうに微笑む司書教諭に、エマは嬉しそうに見えるようにゆるりと微笑む。もちろん作り笑いだが、相手は上機嫌なので気付かれるようなことはなかった。軽くお辞儀をして、再度感謝の言葉を伝えてからエマは図書館を後にする。

 先ほどの司書教諭の言動からも分かるように、導きの星教は驚くほどに世界中に浸透している。前世では特別宗教に傾倒けいとうしていなかったエマにとって、周囲の人間がこぞって一つの宗教を褒め称える様子はどうしても異様に見えてしまうのだ。

 ハロウィンの仮装を楽しみ、クリスマスを祝い、お正月の初詣に神社へ参拝し、バレンタインデーにチョコレートを食べ、お墓や仏壇、葬式で手を合わせて時にお祈りする。そんな風に生きていた前世の宗教に対する気軽さが恋しくなるのも仕方がないだろう。

 どっと疲れた気持ちのまま、エマはとぼとぼと歩く。歩きながらスクールバッグに入れっぱなしだったスマホを確認すると、母親からの着信履歴が何回か残っており、最後に着信した時間は三十分ほど前であった。何か用があったのかと思いかけ直すが、何回コール音が鳴っても通話は繋がらない。エマは諦めて呼び出しを中止し、スマホをスクールバッグにしまった。

 メッセージが残っているわけでもないので、用事がなくなったのかもしれない。後二十分もすれば家に帰るのだし、連絡がつかない以上そのまま帰るべきだろう。

 放課後の人気がない校舎を出て、すぐ近くにある最寄駅から電車に乗り、そこそこ混み合う車内でぼんやりと揺られて約十分。いつものように到着した駅のホームへと降り立った途端とたん、エマは異様な悪寒に体が震えた。


(何これ、ぞわっとして気持ち悪い……! こういう感じ、前にどこかで……そうだ、事件。刃物を振り回した人が出た事件の時、知らずにその場所に行こうとしたらこんな風に感じたんだ。もしかして、近くでまた事件が起こるの? それならとにかく離れなくちゃ)


 はやる気持ちを何とか抑え込み、平然を装いながら早足で駅を出る。

 しかし駅を出ても、いつもの通学路を数分間歩いても悪寒はましにはならない。後少しで家だというのにむしろより強まる気持ち悪さに、エマは自分の考えが間違っていたことを悟った。


(これ、違う……事件がどこかで起こるんじゃ無い。多分、私が誰かに狙われてるんだ。どんどん気持ち悪くなるのは、少しずつ犯人が近付いて来ているから……? どうしよう、このまま家に帰るのは危険だから、警察に助けてもらう――ううん、それも駄目。理由は分からないけど、それじゃ駄目だって分かる。じゃあ一体どうすれば良いの? 助かる方法は……)


 恐怖で顔をこわばらせながら助かる方法を必死に考えていたエマは、ふと通学路の途中にある細い路地に目が留まった。

 二つの雑居ビルの間にあるその路地は、狭くて暗く、見るからに危なそうな人が溜まっていそうな雰囲気だ。普段なら絶対に入ろうと思わないその路地に、こんな状況にも関わらず何故だか強烈に視線が惹き寄せられる。

 数瞬迷い、しかしエマはその迷いを振り切るようにその路地へと走り出した。自身の持つ特異な勘が、ここに逃げ込めと教えているのだという可能性にかけたのだ。

 恐怖で足がもつれそうになりながらも、細く暗い路地を息を切らしながら必死に走る。


「なっ⁉︎」

「うぷっ!」


 そうして路地の狭い角を曲がった途端、エマは勢い良く大きな何かにぶつかり、バランスを崩してアスファルトへと転倒した。それとほぼ同時に、カシャンと何かが落ちた音が路地に響く。

 とっさに付いたてのひらと膝がアスファルトによってけ、ずきずきと痛む。きっと肉もえぐれて血が出ているであろう、ここ何年かはしたことがないくらいには悲惨ひさんな怪我だ。


「申し、訳ない……怪我は大丈夫だろうか」

「あ、私もぶつかってすみません。転けちゃったからちょっと擦り剥けましたけど――」


 ぶつかった相手であろう落ち着いた男性の声と共に、大きな手が差し出される。エマはその手を掴んで立ち上がろうとして、絶句した。暗いから見えづらいが、差し出されたその手はエマの擦り傷なんて比較にならないほど、大量の赤黒い血でべったりと濡れていたのである。

 

「ああ、失礼……こんな手では、逆に貴女を汚してしまうところだった。重ね重ね、申し訳ない」

「いえ、そんな、それより血が! あの、救急車、救急車を呼ばないと!」

「見ず知らずの私を気遣っていただき、ありがとうございます。ですが、今はそれよりも優先すべきことが――危ないっ!」

「っ、きゃ!」


 男の大声と共に、エマは起こしていた上半身をまたアスファルトへと強引に伏せられた。その衝撃で目を白黒させている内にも、緊迫した様子の男の短い唸り声と、何かが空気を切りながら振り回されている音や鈍い打撃音が何度も路地に反響する。

 エマは慌てながらも何が起こっているのかを確認しようと目を凝らした。しかし日も落ち街灯もないこの路地では、素早く大きな影が二つ動いているということ以外はほとんど理解できない。

 何か、とんでもない攻防が行われていることだけは理解できたが、エマには身を潜めて恐怖に縮こまることしかできなかった。


「っせいっ!」

「ぐぁっ!」


 数分後、男の気迫ある掛け声に合わせて、ばごんっと一際大きく鈍い音が響き、くぐもった誰かの叫び声がする。どさりとその誰かが倒れたであろう音が響き、その後は男の荒い呼吸のみが聞こえるだけになった。


「だ、大丈夫ですか……?」


 恐る恐るエマが問いかけると、大柄な男の影が返事もなく呼吸を荒げたまま雑居ビルの壁にもたれかかり、そのままずるずると座り込むのが見えた。

 その様子にはっとしたエマが近付こうとすれば、足先で何か硬いものを蹴飛ばした感触がして、カラララ……とそれがアスファルトの上を滑ったような音がする。タイミング良く雑居ビルの壁に付けられた小さな灯りが点けば、エマが蹴飛ばしたものがおそらく男のスマホ――エマの母親と同じスマホケースであり、男性が持つにしては随分と可愛いらしい柄だ――だと分かった。おそらく男がぶつかった拍子に落としていたのだろう。

 やってしまったと思ったエマが、スマホの近くにいる男へとそのまま視線を移す。すると暗かった路地にポツポツと灯った頼りない光のおかげで、満身創痍まんしんそういのその男の全容がようやく把握できた。

 短く切られた硬質な黒い髪に、小麦色の肌のおそらく日本人ではない大柄な成人男性だ。年齢は三十代から四十路くらいだろうか。前世を含めて、エマが今まで見てきた中で一番大きな人間であるのは疑いようもないくらい、座り込んでいるにも関わらずびっくりするほどの大きな体だ。そしてよほど鍛えられているのだろう、服越しからでも尋常ではない筋肉の盛り上がりが良く分かった。

 大柄な男の体格にぴったりと合う、きっちりと着込んでいたであろう上等そうな黒いスーツは、所々切り裂かれ血がにじみぼろぼろになっている。それだけでなく腹部には一つの穴が空いていて、そこから赤黒い血が流れてまるで下半身だけ雨に降られた様にぐっしょりと濡れていた。

 極め付けに顔には、真新しく深い切り傷が凛々しい眉から左目を横断する様に走っており、赤い鮮血がパタパタと頬を伝い流れ落ちている。辛うじて開いている右目には傷が無いが、その美しく輝いていたであろう緑の瞳はどこかうつろで、意識がはっきりしているようには見えない。

 死の間際の人間独特の、命がこぼれ落ちて行くような喪失感にエマは体が震えてしまう。

 この男はきっと出会った時から大怪我をしていた。しかし新しい傷を作り瀕死の状態になるまで体力と血を消耗したのは、エマを狙っていたであろう謎の人物と交戦したからなのは明らかだ。

 自分が助かるためにこの男の命を犠牲にしてしまうのだと、その事実にエマの頭は真っ白になってしまった。

 

「すみ、ません……貴女、に、お願い……」


 呆然とするエマに対し、男が息もえに話しかけ、力無くのろのろと血塗ちまみれの左手を動かし、右手にはめている黒い皮のグローブをもどかしそうにゆっくりと外した。

 グローブの下の大きな右手には、親指と小指に同じ様な白銀の指輪がつけられている。幅が広く、複雑な柄が刻み込まれているからだろうか。その指輪はどこか目を惹く特別な存在感があった。

 小指につけられた方の指輪を外し、男はエマへと手を震わせながら差し出す。


「指輪……右、人差し指……はめて……」


 エマは戸惑いながらも慌てて少し血がついたその指輪を受け取り、男の言う通り右手の人差し指へとはめてみる。

 少し緩かったその指輪は、サイズが急に変わったようにピッタリとエマの指にフィットし、つけているのを忘れてしまうくらい自然に馴染んだ。

 その不思議な感覚にエマが気を取られていると、男が急に大きくせ出した。

 血を吐くのではないかというほど何度も咽せ、苦しげに身体を曲げる男の背中を、エマは必死に何度もさする。


「お兄さん、だ、大丈夫ですか⁉︎」

「ああ……適応者てきおうしゃとは、これも星の導きか……。私が、それを取りに来るまで、絶対……外さないで、ください」

「分かりました、分かりましたから! 約束します!」

「ありがとう……少し……休み、ます……」

「え、ねえっ! お兄さん⁉︎」


 休むと言った後、ゆっくりと右目を閉じた男はそれきり動かなくなった。辛うじて聞こえる弱々しい呼吸だけが、男がまだ生きていることを示している。

 エマは震える手で鞄からスマホを取り出し、何とか三桁の番号を押し、通話を繋げる。


「救急車、救急車を! 血がっ、人が、死にそうなんです!」


 数秒後、スマホ越しに消防指令センターの職員へと叫ぶ、エマの悲痛な声が静かな路地にこだましていた。

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[良い点] 発想が面白く、文章を読むにつれ物語に引き込まれました。素晴らしい作品になる予感がします。作品の続きを楽しみにしております。 [気になる点] なし [一言] 非常に読みやすかったです。
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