コント「山登りしてたらやけに礼儀正しい熊に出会った」
男「ずいぶん登ったな。ここらへんまで登れば……」
熊「……」
男「熊!? やばっ、死んだふりしなきゃ!」
倒れ込む。
男「……」
熊「あ、人が倒れてる! 大丈夫ですかーっ! ダメだ全然動かない!」
男「……」
熊「そうだ、人工呼吸だ! いや熊がやるから熊工呼吸か!」
男「……」
熊「それより救急車呼んだ方がいいか。ええと119……」
男「呼ばんでいい!」
起き上がる。
熊「うわっ!?」
男「救急車なんか呼ばなくていい!」
熊「よかった、生き返ったんですね!」
男「生き返ったんじゃないよ。俺は元々生きてたんだよ」
熊「どういうことです?」
男「死んだふりしてたんだよ!」
熊「なぜそんなことを?」
男「お前が出てきたからだろ!」
熊「ああなるほど」
男「てかお前熊だよな?」
熊「熊です」
男「なんで言葉喋れるんだよ」
熊「なんでと聞かれても、くまっちゃうんですよね」
男「くまっちゃうとか言うな」
熊「すみません」
男「ったくおかしな熊だな」
熊「ああそうそう。熊に死んだふりってかえって危険ですよ」
男「そうなの?」
熊「熊は死んだ動物も食べますからね。あまり意味がないんです」
男「知らなかった」
熊「熊と出会った時は視線を合わせたまま、ゆっくり後ずさるのが一番いいんです」
男「勉強になるわ~」
熊「ってネットに書いてありました」
男「ネットかよ! 熊なのにネットするのかよ!」
熊「熊がネットやっちゃダメですか……?」
男「そんな悲しそうな顔すんな! 悪かったよ!」
熊「ところでなぜあなたはこの山に? 登山する格好にも見えませんが」
男「……別にいいだろ」
熊「よろしければ麓までお送りしましょうか? 僕に乗って下さい」
男「え、いいの?」
熊「はい」
男「……待てよ」
熊「え?」
男「熊のくせに優しすぎる。なんか企んでるだろ」
熊「企んでるなんてそんな」
男「いーや怪しい! 例えば俺を逃げられないところまで運んで食うとか」
熊「そんなことしませんよ」
男「俺には分かるんだ! この世の中、優しい奴はだいたい怪しい!」
熊「疑り深い人ですね。こりゃくまったな」
男「くまったなって言うな」
熊「僕は肉嫌いなんで、あなたを見ても食欲湧きませんよ」
男「じゃあなに食べるんだよ」
熊「野菜中心ですね」
男「ベジタリアンかよ」
熊「あとハチミツも好きですね」
男「プーさんかよ」
熊「失礼な! ちゃんと働いてますよ!」
男「そっちのプーじゃねえ!」
熊「ああ、あの赤いシャツ着てる彼ですか」
男「その彼だよ」
熊「彼、下半身丸出しですけど恥ずかしくないんですかね」
男「お前は全裸じゃねえか!」
熊「そういえばそうでした。くまったな」
男「だからくまったなはやめろ!」
熊「失礼しました」
男「ってちょっと待て。お前働いてるの?」
熊「ええ、まあ」
男「へぇ~、何やってんの?」
熊「カフェを経営しています」
男「カフェ?」
熊「ほら猫カフェって流行ってるじゃないですか。なら熊カフェもイケるかなと思いまして」
男「便乗の仕方が雑!」
熊「我ながらそう思います」
男「で、どんなカフェなの? 本物の熊と話せるのをウリにする感じ?」
熊「海外の厳選されたコーヒー豆を仕入れて、お洒落なジャズを流して……」
男「本格的!」
熊「そうですか?」
男「うん、正直熊カフェ舐めてた。雑なんて言ってごめん」
熊「いえいえ」
男「結構お客さん入ってるんじゃないの?」
熊「おかげ様で」
男「どんな人が来るの?」
熊「サラリーマンや女性の方が多いですね」
男「女の人も来るんだ」
熊「僕を見てキャーキャー言ってくれる人もいますよ」
男「それ悲鳴じゃね?」
熊「猟師の方が来たこともありますね」
男「え、大丈夫だったの?」
熊「狩りの後のコーヒーは美味いと喜んで下さいました」
男「平和か!」
熊「保健所の方が来たこともあります」
男「ほらやっぱり熊がやってるカフェなんて目ぇつけられちゃうよ」
熊「この地域の店で一番清潔だと褒めて下さいました」
男「人間もっと頑張れ!」
熊「それから……」
男「もういいよ。熊カフェが成功してるのは分かった」
熊「そうですか」
男「熊なのに人と共存してるなんて大したもんだよ」
熊「ありがとうございます」
男「それにひきかえ俺は……」
熊「?」
男「人なのに人と共存できなかった……」
熊「何があったんです?」
男「俺は優しかった奴に騙され、金も仕事も全て失った。この山に来たのも死に場所を求めてたからなんだ」
熊「そうだったんですか」
男「それなのに熊にビビって……情けない話さ」
熊「あの……もしよろしければ僕のカフェで働きませんか?」
男「え?」
熊「ちょうど人手が欲しかったんです」
男「いや、俺はもう死んだような人間だし……」
熊「さっきあなたは死んだふりをしたでしょう。あれで今までのあなたは死んだんです。生まれ変わったつもりでやり直してみませんか?」
男「俺なんかが……いいのか?」
熊「ぜひ」
男「ありがとう……熊ぁっ!」
熊に抱きつく。
熊「あの、僕オスなんですけど……くまったな」
男「最後までそれかよ!」
完
少しでも笑って頂ければ嬉しいです。