ビーム
冬になると、肩が凝ります。自分だけじゃないと思います。みんなそういう感じがあるんじゃないかと思うんです。血行でしょうか。血流の流れが寒さによって悪くなるのか、あるいは寒さで体が固まって、それで血行が悪くなるのか。
とにかく冬になると肩が凝ります。ですので、冬になるとアンメルツヨコヨコかあるいはバンテリンの存在が必須になってきます。
「肩痛い!」
ってなったらすぐに塗らないと。時と場合をわきまえてる場合じゃありません。すぐに解消する方向にもっていかないと。
「肩こりは恐ろしい」
私がこう思うようになったのは、今から10年くらい前の自身の体験によるものです。
というのも、肩こりって歯痛に連動するでしょう?あと首こりとかも。肩こりってその周辺の他の人達と結託して襲い掛かってくるんです。
逆も然り。
肩こりからの歯痛首こり。首こりからの肩こり歯痛。歯痛からの肩こり首こり。この辺の三部位の異常、エマージェンシーの事を私はジェットストリームアタックと呼んでいます。あるいは輪廻。
「うあああああ」
だから一か所でも痛みが発生すると、本当に不安になるんです。歯痛の根源、親知らずを全部ぶち抜いてもらった今でも、この三羽烏のどれかが痛み出すと本当に不安に苛まれます。私は歯痛が苦手です。本当に耐えられません。耐えられた過去がある分、もう二度とは耐えられません。耐えられないと思うんです。一回目はなんとなく、よくわからないから、何もわからないから耐えられた。でも、二回目は、
「その過程を知ってしまってる分」
無理。リームー。本当に怖い。恐ろしい。
もし、あの当時、10年くらい前のあの時をもう一度体験するとなったら。恐ろしい。考えるだけで恐ろしい。本当に恐ろしい。それはもうほんとに世にも奇妙な物語の最初の話に匹敵します。世にもは大抵最初に一番強い話を持ってくるから。あるいは四番目とか。最後に向けたもう一盛り上がりの所のやつ。谷原章介さんの迷宮の話みたいに。
だから冬になると、アンメルツヨコヨコかバンテリン的なものが絶対に必需品となってくるわけです。
痛くなったらすぐに塗る。塗りたくる。
すべてが連動しているとはいえ、歯痛の原因は取り除いているし(たまに幻肢痛がある)、首にはピップマグネループ巻いてるし(一回千切れたことがあってパニックになった)、それだから大抵肩こりから始まります。だからとにかく肩との戦い。肩が痛くなったらすぐにアンメルツ。あるいはバンテリン的なもの。
ちなみに歯痛全盛期の頃、これらを塗りすぎて肩と首が多少ばかり溶けた経験があります。で、その溶けた事態を経て、
「これだけではもう溶けてしまう」
と思って、飲み薬に手を出した経緯。痛み止め。ロキソニンとか。
そんな訳で、冬はとにかく戦いだ。
「必勝祈願!」
と思って、今年の冬もどうか無事で過ごせますようにと冬の綺麗な空気の中を流れる流れ星にお願い事をしていた折、知り合いから、
「そう言えば、肩こり解消のストレッチがあるよ」
と、教えてもらいました。
「マジか!」
一万円払って知り合いからそのストレッチ方法を聞きだすと、その方法というのが、
「ラジオ体操第二の二個目の感じで手をロボットみたいにして」
あのあれ、
ラジオ体操第二、ピアノ音楽、両足飛びで全身を揺する運動から、の次、手足の曲げ伸ばし。
小学校の頃一番恥ずかしかった奴。小学校中学校高校って思春期とかに一番恥ずかしかった奴。
あれ。
「手足の曲げ伸ばしでさ、あれの時手が凹の形になるでしょ?」
「う、うん」
「で、その状態で手を前後に出す。出し入れする」
「前後に?」
「ラジ体の時は、上下じゃん」
「ラジオ体操の事ラジ体って言ってるの?」
「でも、そうじゃなくて、前後に。凹の形のまま、前後に」
それをお風呂で温まった後とかにするといいそうです。
「これで、肩の凝りなんて絶滅っすよ。絶滅危惧種。殲滅」
絶滅危惧種?殲滅?
というわけで知り合いと別れて家に帰ってお風呂に入って十分に温まった後、ベランダに出て(体がポカポカしていたから)やってみたんです。それ。知り合いに教えてもらったそれ。ラジ体の第二の両足飛びで全身を揺する運動の次の二個目の手足の曲げ伸ばしみたいな状態で上半身凹みたいな形の時にラジ体みたいに上下にするんじゃなくて前後に。凹の形になってる二本の手を上下するんじゃなくて前後に。
パキ。パキパキパキ。ゴキゴキゴキ。ガコン。ガシャン。
凹の形になってる腕を前後にするたびに音がしました。肩や首のあたりから、何かそんな音がしました。今までため込んでいた色々なものを解放するような。音。長い事開けてなかった扉の鍵を、開かずの蔵とかを開ける時みたいな。音。でっけーサビた南京錠に鍵を突っ込むみたいな。音。あるいはインディージョーンズとかで今まで誰も到達してなかった洞窟の最奥の扉を開けるみたいな。音。機械仕掛けの何かが動くみたいな音。
ガコン。ガシャン。カリ、カリカリカリ。ウィーン。ゴン。ピピピ。ピーン。
ビリッ。
ビリ?
それはちょうど、何度目かの、凹の形になってる手を後ろにもっていった時でした。
ビリ。
そんな音はさすがにしないだろ。
あと胸部が急に寒くなったなと思って、見てみると、そこが裂けていたんです。皮膚。ビリって。ポテチの袋開けるみたいに。キレイに開けたポテチの袋みたいに。
「え?」
で、その中には青く光るコアみたいのがありました。どう説明したらいいんだろ。ラピュタ!飛行石!力を発揮してる時の飛行石。でっけーやつ。ラピュタ自体を浮かせてたやつみたいな形の。
それが自分の胸部に埋まっており、しかも青々と光っていました。pixivで例えると、青の衝撃ってタグが付くような感じで。
そして、次の瞬間そこからビームが出たんです。ビーム。薙ぎ払え!ナウシカの巨神兵のビームみたいなビーム。クシャナ殿下が薙ぎ払え!って言った時に出したビーム。
ああいうのが出ました。それが隣の家の屋根をぎりぎり掠って、で、そのまま空に向かって照射されて飛んで行ったんです。
その後、胸の青いコアみたいのは光るのをやめて、胸も凹の形をやめて手をだらんとさせると、裂けた部分が修復されて、裂けたことなんてないっていう感じになりました。何もなかったよっていう感じで。
色々ありすぎてその日はそのまま何もせず、何も思わず、何も考えずに寝ました。
次の日起きたら、各方面のニュースで今まで誰も観測したことが無い流星が突如として出現。みたいな感じで私が昨日出したビームがニュースになっていました。
専門家は頭を抱えてて、マヤ文明は世界の終わりって言ってて、矢追さんはUFO関係って言ってるらしいです。私は私の事だけど、個人的にはゴジラに敗れて宇宙に散っていったビオランテの粒子の残りが何か関係しているんじゃないかなーって思いました。そうであってほしいって言うか。寧ろそうあってって言うか。スペースゴジラになった奴の残りみたいなさ。
うん。
あと凹の手を前後に、ラジ体の第二の二個目の奴みたいにしてさ。上下じゃなくて前後に。って言ってきた知り合い。それを、その情報を私は一万円で買ったのに、そんな事になっちゃったじゃんって思ったんで、次の日、知り合いの家にビームをぶち込んで家を焼きました。