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ガリ勉ぼっちと真昼の幽霊  作者: 黄色い鳥
日常編3(2年生7月)
26/30

第二十四話 ぼっちな僕と突然の提案

 「ねえ、彰の友達の……祐介くんをこの図書室に連れてきて一緒にお昼を食べるっていうのはどうかな?」


 真昼の突然の言葉に驚いて、危うく箸に挟んだ玉子焼きを落としそうになった。図書室は一つの窓以外締め切っていて暑いはずなのに、何故か僕の頬には冷たい汗が流れる。


 「真昼……。それ、本気で言ってるの?」

 「勿論。彰の話を聞く限り、祐介くんすっごく良い子そうだし」

 「まぁ、それはそうなんだけど……」

 そう言って僕は椅子の背もたれに身を預けた。確かに祐介は良い奴だけど、だからといってその「良い奴」が立ち入り禁止の旧校舎に来てくれる柔軟な頭を持っているとは限らない。もし、万が一にもこの事が他の生徒や先生にバレてしまったら、もう図書室へは来れなくなってしまうのだ。それに……これ以上祐介に迷惑をかけてしまうのは避けたい。


 色々な事を考えて黙り込んでしまった僕に、真昼はこう言った。

 「それにね、私……この間彰のクラスをこっそり見に行ったんだ」

 「ええっ⁈僕、全然知らなかったんだけど」

 驚いてはいたけれど、内心納得している自分もいた。2日くらい前、クラスの男子が授業中に幽霊を見たと言って騒いでいたからだ。まぁ、幸いにもうちのクラスで真昼の姿を見たのは彼だけだった様で、その男子は授業中に居眠りして夢でも見たんじゃないかって軽くあしらわれていた。僕もまさか真昼が来る訳ないと思っていたけれど、本人だったのか……。

 「一言言ってくれたら良かったのに」

 むくれる僕をなだめる様に真昼は言う。

 「だって、彰に言ったら『駄目だ』って言われると思ったんだもん。あ、でも、ただ単に覗きに行った訳じゃないよ。彰が校外学習で話してくれた祐介くんってどんな子なのかなぁって思って見に行ったんだ」

 『そんな事、言わないよ』と言おうとして、僕は口をつぐんだ。真昼のやりたい事に協力するだなんて言っておきながら、もしそう言われたとしたら真昼の言う通り、嫌だと感じるかも知れないと思ったからだ。

 

 「何限目に来たの?」

 「うーん、確か理科の時間だったかなぁ……。あ!勿論、祐介くんだけじゃなくて彰の事も見てたよ〜。塾の課題、してたでしょ?」

 そう言って、ニヨニヨと悪戯な笑顔を見せる真昼。

 「もう!僕の事は別に見なくて良いから!」

 「ふふ、怒らないでよ。別に悪いって言ってる訳じゃないんだから」

 内心を見抜かれてしまったのに加え、必死に内職している所を見られていた恥ずかしさから、頬が熱くなるのを感じた。話題を逸らそうと、僕は口を開く。

 「それで、祐介はどうだったの?」

 「う〜ん。確かに、授業中も女子からこっそり手紙が回ってきたり、横の男子から話しかけられたりしてて人気者な感じはしたかな。でも……」

 「でも?」

 「何だか、元気がない感じがして。まぁ、普段の様子を見ている訳じゃないから何とも言えないんだけどね」

 一目見てそんな事まで分かるなんて、やっぱり真昼は凄い。僕は密かにそう思った。

 「……僕もそう思うよ」

 そう言って、僕はさっき聞いた噂を真昼に伝えた。




 「そうだったんだ……。ねえ、彰。祐介くんは、きっと彰の事大切な友達だと思ってると思うよ」

 真昼はいつも僕の心の奥底まで見抜いて、欲しい言葉をくれる。でも、この時は真昼の言う事に納得できない自分がいた。うつむいて、机の上の弁当箱を見つめながら僕はぽつりぽつりと話す。

 「何で……。僕が居なかったら、祐介は今も坂上くん達と一緒だったはずなのに」

 今でも分からない。何で、祐介は友達と決別する事も構わずに僕を庇ってくれたんだろう。僕はそんな事をしてもらえる程、祐介に何かしてあげた覚えもないんだ。


 中学に入ってから、僕は仲の良かった友達全員に冷たく当たった。彼らは僕の変化に始めは驚いていたけれど、次第に1人、2人と僕から離れていった。まぁ、それが当然の反応で、僕も孤立していく自分をどこか静観していた。


 でも、祐介だけは違った。どれだけそっけなくしても、毎日毎日僕に話しかけてきた。

 

 『おっはよー!彰!』

 『またテスト学年1位だったんだって?どうやって勉強してるのか教えてくれよ〜』

 『来週、サッカーの試合があるんだ。彰も観に来てくれたら嬉しいよ!』

 

 他の人達に「もうあいつには話しかけるな」って言われてたのに、懲りずに毎日毎日話しかけてきた。


 馬鹿だなぁ……。


 そう思ったその時、僕は何だか既視感を覚えた。…………そうだ。小学生の時の()()事件。無謀にも上級生に1人で立ち向かっていく祐介を止めながら、僕は今と同じ事を考えていたんだった。


 祐介はあの時と全く変わっていない。


 

 「ふふ、ふふふ」

 何だかおかしくなって、僕は笑い出していた。

 「ええっ⁈彰、どうしたの?」

 突然笑い出した僕を心配して僕の側まで近づいてきた真昼に僕は言った。


 「何でもないよ。ちょっと……小学生の頃の事思い出してたんだ」

 「そっか。いきなり笑い出したから、びっくりしちゃった!」

 そうして暫く2人で笑い合う。


 「ね、彰。さっきはあんな事言っちゃったけど、彰が嫌だったらやめても良いからね」

 ふと、真昼が心配そうな顔をして言った。

 「ううん。僕、祐介に話してみようと思う。ここなら、誰も見てないから大丈夫だよ。……でも、今はサッカー部が大会に向けてずっと練習してるから祐介がここに来るのは難しい気がするんだ。ただでさえ、祐介は校内で有名だから旧校舎に入る所を見られない様に気を付けないといけないし。だから、ここに誘うのは夏休み明けにしようと思う」

 そう言うと、真昼は頷いてカウンターの方へ飛んでいく。一体どうしたんだろう?


 残りの弁当を食べていると、真昼がこちらに戻ってくるなりこう言った。

 「来週から……もう夏休みなの?」

 透明な髪が乱れ、かなり焦った様子だ。

 「来週の水曜日が終業式だけど……」


 そう伝えると、今度は真昼の方がうなだれて落ち込んでしまった。膝を抱え、体操座りの姿勢で顔を伏せ、ふわふわと宙を漂っている。


 「あの〜、真昼さん?どうしたの?」

 そう聞いて見ても、一向に返答がない。暫くして、やっと顔を上げた真昼は虚ろな目でこう言った。



 「今年もまた始まるんだ……。()()季節が」


 そう呟いた真昼の後ろの開いた窓から真夏にも関わらず冷たい風が差し込み、僕の汗ばんだ肌が鳥肌を立てた。


 「あの季節」って何の事だろう?分からないながらも何か恐ろしい気配を感じずにはいられない僕なのだった。

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