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ガリ勉ぼっちと真昼の幽霊  作者: 黄色い鳥
校外学習編(2年生6月)
23/30

第二十一話 ぼっちな僕の校外学習④

 全クラス共通の集合場所に着くと、まだ少し早かった様で集まっている生徒の数は3分の1くらいだった。


 しまった……。僕だけが早く着いていたら先生に怪しまれてしまう。そう思い、トイレかどこかで時間を潰そうと僕が生徒の列に(きびす)を返して立ち去ろうとしたその時だった。



 「それ、どういう事だよ!」

 聞き覚えのある声がして、僕は思わず後ろを振り返った。

 「おい、そんなに怒るなって……」

 見えた光景に目を疑った。()()温厚な祐介が声を荒げ、坂上くんの胸元に掴みかかっていたのだ。


 人気者が突然激昂した物だから周りの生徒達は呆然と立ち尽くすばかりで、誰も祐介を止めようとしない。

 「も、もうやめとけよ」

 ハッと気付いた様に、班員の1人である早崎くんが止めに入るが、雄介は掴んだ手を緩めない。今思えば、小学生の頃から祐介がこんなに怒る所は殆ど見た事がない。いつも笑顔で、クラスの輪の中心にいた。そんな彼が、かつてない程に怒っている。いつもの笑顔はすっかり消え、今は鋭い目つきで坂上くんを睨み付けているのだ。


 一体、何が祐介をそんなに怒らせたのだろう?僕がそう考えたその時。祐介が周りをキョロキョロと見回し始めたと思うと、遠巻きに見ていた僕とバッチリと目が合ってしまった。


 ひょっとして、僕が集合時間に遅れそうだから怒っているのか?咄嗟に時計を見ると、まだ時間に余裕はある。


 「ゆ、祐介、どうしたんだよ。もしかして、僕が集合場所に来ないから怒ってたのか?でも、まだ、時間10分ま、え……」

 オロオロとうろたえている僕をよそに、祐介は厳しい顔のままで一歩一歩踏みしめる様にこちらへ歩いてくる。その場から動けず固まっていると、目の前までやってきた祐介は口を開いた。

 「なぁ、健二が彰を置き去りにしたっていうのは本当なのか?」

 健二……坂上くんの名前だ。

 「俺だって信じたくなかったさ。でも、さっき健二が『あいつ、俺の話すぐ信じてずっとトイレの前で待ってるなんて馬鹿だよな』って話してたのが聞こえて、疑問が確信に変わったんだ」

 まさか、祐介があんなに怒った原因は僕だったなんて……。驚きのあまり、坂上くんへの怒りは一瞬で消え去り、僕は小学生の頃のとある出来事を思い出していた。


 そうだった。小学生の頃も、祐介は一度さっきみたいに激しく怒っていたっけ。あれは確か5年生の時。6年生の乱暴な男子が、4年生を突き飛ばして怪我をさせた時、祐介はその6年生に飛びかかっていって大騒ぎになったんだよな。


 祐介は真っ直ぐに僕を見て、悲痛な声でこう言った。

 「なぁ、本当の事を教えてくれよ。健二達は彰が自分から班から出て行ったって言うんだ。そんなの嘘だろ……?」

 僕を見つめる2つの眼は、小学生の頃と全く変わらない。嘘が嫌いで、全員が友達になれると信じていたあの頃そのままだ。


 


 でもな、祐介。僕らはもう()()()とは違うんだよ。全員と仲良くなんてなれないし、みんな小さな嘘を重ねて生きてるんだ。坂上くん達や……僕だって。


 「いや、坂上くん達の言う通りだよ。僕は()()()()班を抜けたんだ」

 「え……」

 呆然とする祐介に、僕は話を続ける。

 「だって、坂上くん達は僕の事あまり好きじゃないからさ。今回の班決めも、東先生が強引に決めたもので本意じゃないし」

 「そんな……。そんな事ないよ。あいつら、ちょっと無神経な所もあるけどさ、話せば分か、」

 「それは、お前だからだよ。……なぁ、祐介。『話せば誰でも友達』なんて時期は、もう終わったんだ。話しても、どうやっても上手くいかない事もあるんだよ」

 彼の言葉を遮ってそう言うと、祐介は相槌も打てない程にショックを受けている様だった。

 

 『2年3組の皆さん。こちらへ整列して下さい』


 2人の間の重苦しい空気を破る様に、バスガイドの唐田さんの明るい声が聞こえてきた。


 「祐介、そういう事だからさ。坂上くん達の所へ言って謝ってこいよ。坂上くん、お前に凄まれてめちゃくちゃビビってたからさ。ほら、バスガイドさんも呼んでるよ。早く行けったら」

 俯いて黙り込んだままの祐介を引っ張っていく様にしてバスへと戻る。


 行きのテンションが嘘の様に、帰りの車内はどこか重苦しい空気に満ちていた。祐介の怒り様を目の当たりにしたクラスメイト達の戸惑いが空気から伝わってくる。唐田さんも必死に盛り上げようとしていたが、全て空回りで、諦めた彼女はアニメ映画のDVDを流すと沈黙して席に着いていた。


 帰り道、僕の脳内に浮かんでいたのはさっきの祐介の悲痛な表情。サンタクロースの存在を信じきっている小さな子どもに真実を突きつけてしまった様な罪悪感がチクチクと僕の胸を(むしば)んでいた。




 ガラガラ、と音を立て、いつも通り立て付けの悪い玄関の戸を開ける。そう。学校に到着してすぐに、僕は旧校舎へと足を運んでいた。真昼に早く謝りたいと思ったんだ。


 この3ヶ月程、通ってきた図書室への道のりが今日はいつもよりも長く感じた。それはきっと、真昼と顔を合わせる気まずさから何度も立ち止まって、また歩いてを繰り返していたからだろう。


 そうこうしているうちに、遂に図書室の前に着いてしまった。


 ここまで来たんだ、逃げずに謝らないと……。っていうか、あんな酷い事言っておいてどんな顔して会えばいいんだ?第一声で謝る方がいいのか?それとも……。


 扉に手を掛けた一瞬で色々な考えが頭に浮かんでは消えていく。


 意を決して扉をガララ、と引くと目の前に浮かびながら読書をしている真昼がいた。


 「あれ?今日、校外学習だったよね。もしかして……帰ってきてそのままここへ来てくれたの?」

 喧嘩別れしたにも関わらず、いつも通りに明るい彼女に一瞬面食らったけれど、よく見るとその顔にはほんの少しだけ影りがある様に見えた。きっと、真昼は僕が気まずくならない様にしてくれているんだ。

 「うん。さっき帰ってきた所。……あのさ、真昼にお土産があるんだ」

 「え!本当?」

 ぱあっと花が咲いた様な笑顔を見せる真昼。

 「本当だよ。ほら、こっち」

 リュックサックを開け、宙から降りてきた真昼に包装紙で包まれたプレゼントを見せると、彼女は目を輝かせて見ていた。

 「自分で開けるのも、プレゼントの醍醐味だよ。真昼、開けてみて」

 「綺麗に包んでもらっているから、何だか勿体ないな……」

 プレゼントを宙に浮かせて、少しずつ包装を解いていく。最後に小さな紙袋を開けると、中からチェーンが擦れるチャラ、という音と共にブレスレットが出てきた。


 彼女はしばらく、西日に透かす様にしてブレスレットを眺めていた。もしかして、気に入らなかったのだろうか?僕なりに一生懸命考えて選んだのだけれど、やはりぼっちにプレゼント選びは難しかったのか……。僕が考え込んでいると、真昼が口を開いた。


 「すっごく綺麗……。幽霊になってからこんな素敵なプレゼント、貰えるなんて思ってなかったよ。本当にありがとう、彰」

 彼女はそう言うと、優しく目を細めて微笑んだ。あんなに酷い事を言った僕に、彼女は微笑みかけてくれた。そう思うと、罪悪感がまたしても僕の胸をチクチクと(むしば)む。


 「……ごめん。この間は、あんな酷い事言って」

 「彰……。もう、そんな事忘れてたのに」

 彼女はそんな事を言って明るく振る舞ってはいるけれど、きっと傷ついているはずだ。僕は話を続けた。

 「校外学習中にさ、ずっと考えてて気付いた。僕に真昼の行動を止める権利なんかないってね。考えたくもないけど、真昼の言う通りだ。今の真昼はいつ消えちゃうか分からない。それなら、真昼の好きな事をするべきだよ」

 「…………」

 真昼はブレスレットに指を沿わせながら、黙って話を聞いている。僕は更に続けた。

 「僕、真昼に消えて欲しくないんだ。真昼は、ぼっちな僕に優しくしてくれる数少ない大事な友達だから。それで、あんなワガママ言って……。本当、どうしようもないよな」

 

 「……そんな事ない!」

 (うつむ)く僕に、真昼は語気を強めて言った。

 「こっちこそ、ごめんね。私、夜はいつも1人でいるでしょ?それで、本読んだり考え事をするんだけど、『いつまでここにいられるのかな』って考えて、すごく不安になっちゃったんだよね。それで、焦ってあんな無理言っちゃったんだ」

 「無理じゃないよ。……僕も、真昼のやりたい事に協力する。こんなぼっちで良ければ、真昼の行きたい所、どこでも着いていくよ」

 「本当?じゃあまずは今日の話、聞かせて!行きたい場所の参考になるかもしれないし」

 「……僕の話、面白くないよ」

 「それでもいいよ!外の話ならきっと何でも面白いもん」

 「本当、期待しないでね。それじゃあ……」



 「真昼の願いを叶えてあげたい」頭ではそう思っているのに、心のどこかで「彼女が消えてしまったらどうしよう」と不安に思う気持ちがあった。けれど、僕はそんな思いを隠して彼女に微笑み掛けたのだった。

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