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ガリ勉ぼっちと真昼の幽霊  作者: 黄色い鳥
校外学習編(2年生6月)
22/30

第二十話 ぼっちな僕の校外学習③

 自由行動。


 それは、多くの中学生にとって校外学習での一大イベントだ。商店街での食べ歩きをするもよし、有名観光地を見物しに行くもよし、はたまたどこにでもあるファミレスで駄弁るもよし。所持金や時間に制限はあれど、人気の観光地での自由行動にテンションが振り切れた井田川中学校2年の生徒達は小旅行気分でそれぞれに楽しい時間を過ごしていた。




 そんな中、僕は1人土産物屋のトイレの前にいた。


 念の為に言っておくと、体調が悪い訳でもないし、ましてや好き好んでこんな所にいる訳がない。


 じゃあ、何故こんな所にいるのかって?簡潔に言うと……()()()()()んだ。


 一応、こうなるまでの状況を振り返っておくとしよう。僕のいる班のメンバーは、僕と祐介、そして祐介の友達の梅田(うめだ)くん、早崎(はやさき)くん、そして先程僕と同じテーブルで和菓子作りをしていた坂上(さかがみ)くんの男子5人だ。


 自由行動が始まった直後から商店街でお土産探しを行っていた僕達のグループは何件か回って品揃えの良い店を見つけ、そこでお土産を買う事にした。そこでトイレに行こうとした僕に、坂上くんはこんな事を言った。


 「何か腹痛いから、俺もトイレ行くわ。井上、悪いんだけどトイレの前で待っててくれない?店広いし、俺方向音痴だから皆の所までたどり着けないかも」

 

 その時、僕は坂上くんの様子を見て何だかおかしいと思った。お腹が痛いと言っている割に、顔色も普通で元気そうだったからだ。でも、体調が悪いのを必死に隠しているのだと思った僕は、特にその点に触れずに彼とトイレに入った。今思えば。それが間違いだったんだ。


 広い店はトイレまで大規模で、小便器と個室が別の列に分かれていた。そこで僕と坂上君は分かれ、僕は小便器へ、坂上くんは個室へと向かった。


 用を足して、坂上くんの言う通りにトイレの前で待っていたのだけれど、待っても待っても彼は一向に戻ってこない。嫌な予感がして、個室の方を見に行ってみると……そこには誰もいなかった。


 それを見た時の僕の心情、教えてあげようか?



 ああ、()()()()()


 

 勿論、何であんなバレバレな嘘信じちゃったんだ、とか、坂上くんを恨めしく思う気持ちも多少はあった。でも、祐介以外のメンバーには僕は良く思われていない。だから、班が決まった時点でこんな事になるかもって心の奥底で思っていたんだ。まさかその通りになるとは思わなかったけれど。


 まぁ、1人になってしまったものは仕方ない。ここで東先生に連絡なんてしてみろ。その時点で僕の校外学習は終わり。自由行動の時間が終わるまで先生と2人きりで待っているなんて、悲しすぎる。


 そんな訳で僕は1人、商店街の散策へと繰り出した。




 その頃、彰以外の班員4人はと言うと……。


 「えっ⁉︎彰が居なくなった?」

 トイレから戻ってきた坂上の言葉に、祐介は驚いた。

 「うん。待っててもらう様に言ったんだけど、俺がトイレから出てきたらもう居なかったんだ」

 「それなら、東先生に連絡しないと!もし集合時間までに戻れなかったらどうするんだよ」


 祐介は、坂上が彰を騙してトイレに置き去りにしてきたなんて1ミリも考えてない様子でそう言った。そう、このクラスの人気者は幼い頃から優しい両親に「人を信じる事」を教えられてきた。そのため、彼の辞書に「人を疑う」という文字は無いのだ。その純粋さが彼の長所でもあり、短所でもあった。


 「まぁ待てよ、祐介。俺は井上がはぐれたんじゃなくて、自分から出て行ったんじゃないかと思うけどな」

 「……何で彰が出ていくんだよ」

 「考えてもみろよ。あいつは普段からぼっちだろ?今回の班決めだって東先生が無理矢理あいつを俺らの班に入れたんじゃないか」

 坂上の言葉を後押しする様に、梅田と早崎もこう言った。

 「そうそう、井上の方から出て行ったんだ。追いかける必要ないだろ?」

 「それに、あの優等生なら集合場所まで戻ってくるくらい余裕だよ。心配すんなって」

 

 「うーん……。大丈夫なのかな」

 「大丈夫だって!それに、こんな所でゆっくりしてる場合じゃない。折角の自由行動を楽しまないと」

 彰を探したいと思った祐介だったが、他の3人の意見に押され、渋々といった様子で頷く。最後に祐介が振り返った時、彰はまだトイレ前にいた。しかしそれには気付かず、後ろ髪を引かれながらも祐介は店の外に出たのだった。


 


 「う〜ん……」

 あれから食事を適当に済ませた僕は、とある店の商品棚の前でかれこれ10分程足を止めて考え込んでいた。


 この店は、さっきの商店街から1本奥に入った所にある。大通りを1人で歩いている所を先生やクラスメイトに見つかったらまずい、と路地に入ってぶらぶらと歩いていた時に偶然通りかかったのだ。古めかしい路地裏に1軒だけやけに綺麗な白い木造の建物があるのが何となく気になって中に入ると、こじんまりとした店内いっぱいに繊細で可愛らしい雑貨やアクセサリーが並んでいた。


 いかにも女性向けといった感じの店内に学生服の僕は何だか場違いな気がして、(きびす)を返し、店から出ようとしたその時。


 「いらっしゃいませ」

 店の奥から、黒髪を後ろでお団子にした大人しそうな30代くらいの女性が出てきた。店員さんだろうか。

 「あ、すみません。僕みたいなのがこんなお洒落なお店に来てしまって……。場違いですよね。すぐに帰りますから」

 「ま、待って下さい」

 俯いて店から出ようとする僕を店員さんは呼び止める。

 「この店、店員の私が言うのもなんですが、全然お客さんが来ないんです。ですから、他の人の目も気になりません。良かったら、商品を見て行くだけでもどうですか?」

 そう言われて窓から店の外を見てみると、確かに路地には誰もいない。しかも、僕は真昼と中山さんの2人へのお土産を探していた所だったのだ。女子2人へのお土産を探すのにこの店はピッタリだろう。


 「……少し、見ていってもいいですか?」

 「はい!」

 店員さんはにっこりと笑った。


 そして、今に至るという訳だ。散々悩んだ末、料理が好きな中山さんには青と黄色のマーブル模様が綺麗なガラス玉付きのヘアゴムを買う事にした。


 よし、次は真昼へのプレゼントだ。お土産兼仲直りのプレゼントだから、更に気合いを入れて選ばなければ。再び店内を見始めた僕だったが、すぐに固まってしまう。


 まずい……。真昼は何が好きなのかが全く分からない。


 彼女と出会ってからの日々を思い出す。旧校舎の掃除をしていた姿……、宙に浮かんでいた姿……、そして一番印象に残っているのが本を読んでいた姿だ……。けれど、真昼は読書が()()()好きなのだろうか?気軽に外に出られない今の彼女にとって、最も身近にあるのが旧校舎に残された本達だったから仕方なく暇潰しに読んでいるんじゃないか?


 出会ってから3か月弱経つというのに、僕は真昼の事を何も知らない。そもそも、彼女自身ですら自分の事を殆ど覚えていないのだから、「彼女の事を知る」事自体が難しいのではないか?


 そんな事をぐるぐると考えながら店内を歩いていると、アクセサリーの棚のある商品が僕の目に入ってきた。そのまま、吸い寄せられる様に近付いて商品を手に取る。


 それは、細い金色のチェーンのブレスレットだった。所々に紫色と水色の小さなガラス石が付いていて、あまり目立つ装飾ではないけれどとても繊細で綺麗な所が真昼に似合うだろうと思った。


 一度しっくりくる物を見つけてしまうと、もうそれ以外の商品は目に入らず、僕はヘアゴムとブレスレットを持って店員さんの待つレジへと向かった。


 

 「あら、どちらもプレゼント用ですか?」

 「はい、別の子にあげるのでそれぞれ分けて包んでいただけますか?」

 何だか、こう言うと凄いプレイボーイみたいだな。現実はプレイボーイとは正反対のぼっちの僕は何気なく言った言葉に若干後悔する。


 「ふふっ、かしこまりました」

 そう言って手際良くラッピングをしていく店員さん。しかし、心なしか彼女が僕を見る目線も生暖かい気がする。駄目だ、誤解を解かなければ。

 「あのっ、言っておきますけど、2人とも、か、彼女とかじゃないですからね⁉︎」

 必死になるあまり、声が裏返ってしまい余計恥ずかしい。もう僕の顔は真っ赤だ。

 「え?違うんですか?2人とも、お友達?」

 「はい。2人とも、()()です」

 そう言うと、店員さんの態度が一変する。

 「なぁんだ。折角、面白い恋バナが聞けると思ったんですけどね……」

 あからさまにガッカリした様子だ。

 「無いですよ、そんな……。僕、中学の校外学習で来たんですけど、プレゼントを渡す2人は訳あって参加できなかったんです。だから、少しでも参加できなかったがっかりが薄まる様に、お土産を渡すんです。何かすみません。期待してもらった様な話がなくて……」

 僕が店員さんの方をチラリと見ると、彼女は先程までガッカリしていたのが嘘の様に優しく微笑んでいた。

 「いや、素敵なお話ですよ。……君にとって、そのおふたりは大切な存在なんですね」

 「……はい。ぼっちの僕に優しくしてくれる、大切な2人です」

 ラッピングできましたよ、と綺麗に包まれたプレゼントを渡してくれる彼女にお礼を言って、代金を払おうとすると、予想した金額よりも安くなっていた。

 「これ、金額間違ってませんか?」

 「楽しいお話を聞かせていただいたお礼に、特別割引です。また、京都に来た際にはお話を聞かせて下さいね」

 「……!ありがとうございます。絶対に、また来ます」


 店を後にした僕は、集合時間が近付いてきている事に気付く。わざと遅れて帰って坂上くん達に連帯責任を食らわせようか、という考えが一瞬浮かんだけれど、それはすぐに僕の中から消え、集合場所へと真っ直ぐに向かっていた。それはきっと、僕にとってこの1人で過ごした自由行動が楽しく充実していたからだろう。


 祐介達と班行動していたら、あの店には出会えなかった。そう思うと、きっかけを作ってくれた坂上くんにお礼を言いたくなる僕なのだった。

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