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ガリ勉ぼっちと真昼の幽霊  作者: 黄色い鳥
校外学習編(2年生6月)
21/30

第十九話 ぼっちな僕の校外学習②

 バスを降りた2年3組の一行が向かったのは大きな2階建ての建物だった。1階には重厚な木の板でできた看板が付いており、そこには「和菓子の桔梗(ききょう)屋」という文字が書かれている。


 そう、校外学習の最初は全員で和菓子の手作り体験を行うのだ。ちなみに、この体験は僕が選んだのではなく、クラス全員が強制参加。3組以外のクラスも他の場所で同じく和菓子作りをしているらしい。


 2列に並んでぞろぞろと店内へ入ると、上品ながらも古すぎない内装が僕達を出迎えた。ショーケースには沢山の和菓子が並んでいる。ツヤツヤと輝く水饅頭(みずまんじゅう)やふっくらと餡の詰まったどら焼き、中でも一際目を引いたのは紫陽花や金魚の形をしたお菓子だ。確か、練り切りって言うんだっけ。


 僕達が美しい和菓子達に目を奪われていると、担任の東先生に「早く2階へ上がる様に」と急かされて文句を言いながら2階へ続く階段をノロノロと上がっていった。すると、見えた光景に圧倒され、僕達は思わず息を呑んだ。和菓子の販売をしていた1階とは打って変わって部屋全体が家庭科室の様な調理スペースになっていたからだ。勿論、その規模も設備もうちの中学の家庭科室とは比べ物にならないけれど。


 貸してもらったエプロンと三角巾を付け、手を洗うと、名簿に書かれた机に座る。僕の机には、体育祭のリレーの時に話した田端さんが座っていた。


 「あ、井上くんもこの机なんだ。和菓子作りってやった事ないから緊張するね」

 そう言って彼女はにっこり笑った。

 「うん、そうだね。でも和菓子を作れる機会なんてあんまり無いから僕はちょっと楽しみかも」

 そんな会話をしていると、他のメンバーも席に着いた。僕達のテーブルは僕と田端さんの他には田端さんの友達の女子2人と、祐介といつも一緒にいる坂上くんの合計5人だ。


 そして、皆が席に着いたのを見計らって和菓子職人さんによる作り方の実演が始まった。

 「今日は、基本の梅の練り切りを作ります」

 そう言って職人さんは丸めた赤い餡を手のひらで平らに潰し、その上に丸めたこし餡を置き、僕達に見せながらこし餡を赤い餡で包んでいく。次に包んだ餡を少し潰すと、バランス良く外側5箇所に切り込みを入れた。


 すると、どうだろう。さっきまでただの球体だった餡が急に梅の花の形に見えてきた。クラスメイト達も同じ事を思った様で、室内に「おぉー!」と感嘆の声が上がった。


 「あとは、真ん中に細かくした黄色い餡を乗せて完成です。では、皆さんも作ってみましょう!まずは、こし餡を赤い餡で包む所まで」


 その言葉をきっかけに、2年3組の新米和菓子職人達は作業に取り掛かり始める。


 よし、僕も取り掛かるとするか……。テーブルの上には材料一式と、作り方の載った紙も用意してあった。しかも、ご丁寧に写真付きで分かりやすい。


 えーっと、初めに赤い餡を手のひらで平らに伸ばすんだな。あんまり薄くし過ぎると破れそうだから……。僕は手のひらにピンと力を入れ、赤い餡をそこそこの厚さまで伸ばしていく。


 そして、次は丸めたこし餡をさっきの赤い餡の上に乗せて、少しずつ包むのか。外側にこし餡が出てこない様に、ゆっくりゆっくり……。うん、職人さん程じゃ無いけど中々上手く包めた。


 作業が終わった僕が、ふと前の席に目をやると、そこには田端さんが作業に苦戦している姿があった。

 「田端さん、大丈夫?」

 「う〜ん、大丈夫……じゃないかも。赤い餡が破れてきちゃって。でも職人さん達も他のテーブルで教えるので手一杯みたいだし、もうこのままで良いかな……」

 彼女の手元を見れば、赤い餡を薄く伸ばし過ぎた様で一部こし餡が見えてしまっていた。けれど、伸ばした赤い餡の外側は厚くなっていて、球体は凸凹が目立っている。


 これなら、何とかリカバリーできるかも……。そう思った僕は、彼女にこう言った。

 「それ、ちょっと貸してもらってもいい?」




 「すごーい!さっきまであんなにデコボコだったのに、凄く綺麗になってる!!」

 「喜んでもらえて良かった。でも、僕はちょっと直しただけだから……。そんなに褒める程の事じゃないよ」

 僕のやった事と言えば、生地が厚い部分を少しちぎって破れた箇所に馴染ませただけ。でも、田端さんは少しオーバーなくらいに感動してくれていた。


 すると、いつの間にか僕達のやりとりを見ていた同じテーブルの女子2人がこんな事を言い始めた。

 「ねえ、私達にも教えてくれないかな?」

 「お願い!私も茉莉花と一緒で上手く包めなくってさ〜」

 そう言って自分達の作った練り切りをこちらへと持ってくる2人。

 「え、そんな、職人さん達に頼んだ方が確実だと」

 「そんな謙遜しないで下さいよ〜」

 僕が戸惑っているのを知ってか知らずか、田端さんはそんな事を言ってからかってくる。


 断って険悪な雰囲気になるのはできれば避けたいし……。まぁ、仕方ないか。


 諦めた僕は彼女達3人と一緒に和菓子作りを行う事にした。自分の作業に加えて、彼女達に教えながら実質4人分を作るのは中々大変な作業だった。けれど、こうして作業に集中している間は、真昼との喧嘩でもやもやした気持ちが少しは紛れる。そう思うと、彼女達を無下にする事もできず、真面目に教えている僕なのだった。


 そして、作業に夢中になっていた僕は同じ机に座っていた坂上くんが1人になっていた事に全く気付かなかった。

 「あいつ、陰キャのぼっちの癖にちょっと手先が器用ってだけで女子に頼られるなんてムカつく……」

 坂上くんがこの後の自由行動に大波乱をもたらす事をこの時の僕はまだ知らない。


 


 一方その頃。2年3組担任の東先生は自分も和菓子作り体験に参加していた。今は最後の行程を終え、職人の1人と話している所だ。


 「いや〜、職人さんが凄く手早く作るから僕にもできるだろうと思っていたんですが、実際にやってみると難しい物ですね。でも、何とか満足のいく物が完成させられて良かったです」

 「初めてだとやはり中々苦戦される方が多いですね……。今日はこちらの人数不足で手が足りず、申し訳ありませんでした」

 そう言って頭を下げる職人に東先生は笑ってこういった。

 「いやいや!あの子達も貴重な体験をさせていただいて喜んでましたよ」

 東先生の言葉に、職人はホッとした様子だ。

「それにしても、5番テーブルの男の子。……井上くんでしたっけ。あの子、職人顔負けの腕前ですよ!しかも、他の子への教え方も上手い」

 興奮した様子の職人に、東先生はまるで自分の事の様に得意げだ。

「でしょう?うちの学年トップは凄いんですよ。要領が良いって言うんでしょうか。すぐにコツを掴んで勉強と同じようにこなせるんですよね」

 

 東先生の作った練り切りを見てみると、形が歪んでいてどう考えても梅の花には見えない。花びらが細長くまるで南国に咲く花の様だ。


 『先生こそ、井上くんに教えてもらった方が良かったんじゃないか?』

 職人は内心そう思ったものの、上機嫌の先生を前にして口に出すのはグッと我慢した。これが正しく「()()()()()」。

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