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ガリ勉ぼっちと真昼の幽霊  作者: 黄色い鳥
出会い編(2年生4月)
2/30

第一話 ぼっちな僕は静かに過ごしたい

 迂闊だった。



 まさか、これほどまでに静かな場所がないとは思わなかった。食堂なんてもっての外だし、空き教室も全て使われてしまっていた。最後の希望だった屋上へ続く階段では既にカップルがイチャついている始末。世界はぼっちに甘くはない。


 ポケットにこっそり入れていた腕時計を見ると、昼休みは残り30分弱。授業が始まるギリギリまで何処かで時間を潰して祐介達と顔を合わせない様にしたかったが……。仕方なくトボトボと教室に帰ろうとしたその時、近くにいた女子2人の会話が聞こえてきた。


「ええっっ⁉︎旧校舎に幽霊?」

「しーーーっ!声大きい!」

「ごめんごめん。ビックリして。でも、あれって私達が旧校舎に入らない様に先生が流した噂話じゃないの?」

「それが、本当らしいんだ。2階の図書室、いつもカーテンが閉まっているんだけどね。この間、窓1枚分だけカーテンが開いてて……」


 窓の外を見ているフリをして、盗み聞きしていた僕も女子達と一緒に息を呑む。


「一瞬、白い人影が見えたんだって!!」

「!!!」

「噂によるとね、旧校舎の屋上から飛び降りた生徒の霊が……」

「もーー!私が怖い話嫌いなの知ってるでしょ!」

「ごめんごめん。でも、旧校舎のあの雰囲気……。幽霊の1人や2人いてもおかしくないと思うけどね」


 

 怪談話を聞いた後だというのに、僕は不思議と旧校舎の方へと向かっていた。校舎の端から渡り廊下に出て、しばらく進むと道が二手に分かれている。片方はいつも使っている体育館への道、そして、もう片方が……高校の旧校舎へと続く道。


 この時、渡り廊下に他の人影は無かった。掃除が行き届いて綺麗な体育館への道に比べ、掃除当番も近づくのを嫌がるのか旧校舎への道は落ち葉や砂で汚れている。こんなに薄汚れた場所には誰も寄り付かないだろう。


 そもそも、旧校舎への立ち入りは禁止されている。加えて、()()幽霊の噂話が広まっている以上、ここに入りたがるのは心霊マニアか、静かな場所を求めるぼっちくらいしかいない。


 もう一度周りに誰かいないかを慎重に確かめ、旧校舎へ入ろうとした時。横開きの扉に鍵が掛かっている事に気付いた。一応、力一杯扉を引いてみるもののびくともしない。


 腕時計を見ると昼休みは残り20分。ここから場所を探して、軽く掃除して、弁当を食べて……と考えるとどれだけ急いだとしても5限目の授業には間に合わない。



 ……仕方がない。ここで食べよう。




 全く、最悪だ。今日の僕の行動を何も知らない奴が見たらクラスメイトからの折角の誘いをバレバレの嘘で断った挙句、こんな汚い場所でぼっち飯を喰らっているヤバい奴じゃないか。これじゃ、みんなから避けられるのも当然だ。最後に残っただし巻き卵を食べながら、僕の思考はどんどんネガティブな方向へと向かっていく。


 そうだ。こんな日陰の薄暗い場所にいるから思考までネガティブになるんだ。弁当の包みを結ぶと、僕は渡り廊下から外へ出た。4月の真っ昼間ともあって太陽の光がポカポカと降り注いでおり、気持ちがいい。食後という事もあって、次第に眠くなってくる。………………………………。はっ!つい、誘惑に負けて昼寝してしまいそうになった。5限目は鬼の赤沢先生(通称赤鬼)の数学なんだった。いけないいけない。


 眠さに抗う為に大きく伸びをすると、視線が少し上を向く。うーん。見れば見るほどボロボロの校舎だ。壁のほとんどが汚れと苔に覆われ、全ての窓は不気味な真っ黒のカーテンで閉ざされて中は全く見えない。


 そうこうしているうちに、時間は5限目が始まるまであと5分という所まで迫っていた。急いで帰らなければ。僕は旧校舎に背を向けて走り出した。



 その時。













 

 カラカラカラ、という軽い音が背後から聞こえてきた。




 違和感を感じた僕は咄嗟に立ち止まる。僕の後ろにあるのは()()()()()旧校舎。


 ゆっくりと振り返ると、僕の想像通り旧校舎の窓が一窓開いており風が窓から吹き込んで室内に真っ黒なカーテンがはためいている。




 まさか。


 僕はさっき聞いた噂話を思い出す。



 そもそも、僕は幽霊の存在を信じていない。窓だって、授業をサボりに来た誰かが開けたに違いない。そうだ。自分から変な事に首をつっこむ必要もないんだ。頭ではそう思っているのに、足は旧校舎の周りを回って正面玄関へと進む。


 きっと南京錠が掛かっていて入れないだろうと思って、半ば諦めながら向かった。しかし、南京錠自体は掛かっていたものの、錆びついたそれは壊れてしまっており少し引っ張るとカチャン、と音を立て簡単に開いた。何も無い旧校舎とはいえ、いささか不用心すぎないか?


 呆気なく開いた扉の前で数秒ボーっとしてしまった僕の意識をチャイムの音が現実へ呼び戻す。どうせ今戻っても、1時間サボっても怒られるのは同じなんだ。そう腹をくくってしまえば気分も軽くなってきた。



 僕は玄関の引き戸をゆっくりと開け、一歩を踏み出した。

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