第十六話 ぼっちな僕と冷たい雨
6月12日、午後6時30分。駅前のファストフード店内は学校帰りの学生や一人暮らしのサラリーマン等で混み合っている。
ごった返す店内で、僕は座る事ができずトレーを持って右往左往していた。
「ねぇ、またさっきの子いるよ」
「可哀想に。空いてる席ないもんね……」
「うん、早く食べ終えて代わってあげないとね」
店内を1周、2周と歩き続けていると、周りの人々からの哀れみを含んだ視線が突き刺さる。……これは地味に恥ずかしい。
周りの席を見れば、学生グループは入店するや否や1人があらかじめ席を取り、他の人達が注文をするという鮮やかな連携プレーをとっている。
友達がいるとこんな事もできるのか……。そうしたら、今みたいに1人でウロウロせずに済むな。
そんな事を考えていると、目の前のボックス席に座っていた学生グループが食べ終わり、僕はようやく席に座る事ができた。やれやれ、折角の揚げたてポテトが冷めてしまうじゃないか。手を合わせ、包み紙を開くとそこには分厚いビーフパティとトロトロのチーズ、シャキシャキとみずみずしいレタスの挟まった豪華なハンバーガー。
一口齧ればそれぞれの食材の旨味が口の中いっぱいに広がり、口元にも自然と笑みがこぼれた。
この新商品のハンバーガー、前にCMで見てからずっと食べたかったんだよなぁ。セットで1000円越えは財布に厳しいけど、まぁ今日くらいはいいか……。
セットで注文したポテトを齧りながら、今日あった出来事を思い出す。
「テストも終わったし、来週はみんなお楽しみの校外学習だ!それにあたって、今日は自由行動の班を決めるぞー。5〜6人で好きに組んでくれー」
帰りのホームルームでの東先生のこの一言を聞いて、クラスの殆どの生徒は廊下中に響き渡る程の歓声を上げた。先生が少し声のボリュームを下げる様に促すが、それは杞憂だった。他のクラスからも少し遅れて同じ様に歓声が聞こえてきたからだ。5クラスの生徒達が一斉に騒いだ為に、廊下はたちまち騒がしくなる。
楽しいイベントにクラスメイト達のテンションは最高潮に達し、それと反比例する様に僕のテンションはみるみるうちにX軸をブチ抜いて急降下していった。
はぁ。僕は喧騒の中で大きなため息をついた。ぼっちにとっての班行動は体育の「それじゃあ2人組作ってー」と同じくらい、いや、少し上回るくらいに辛い。体育の2人組は準備運動やストレッチの間。長くても1時間で終わる。しかし、校外学習の班は大抵が仲良しグループで固まる中にぼっちの僕という異物が混入した状態で1日中過ごさなければならないのだ。しかも授業と違って事務的にこなす事もできない。
去年の校外学習は入学して間もない頃だったので、班は事前に先生が決めていたからまだ良かったのだけれど…。
皆が席を立って「誰と組もうか」「楽しみだね」なんて和気藹々と話しあっている中、僕は1人座ったまま、窓の外を眺めていた。
「先生、やっぱりダメですか?」
「うーん、でもなぁ……」
ふと、前を見ると教卓には東先生と……あれは、祐介?2人は困った様子で何かを話しているが、教室が騒がしくて話の内容までは聞き取れない。
「誰か、あと1人……」
そう言って、教室内を見渡す先生。嫌な予感がして、僕は咄嗟に下を向こうとしたが時すでに遅し。先生とバッチリ目が合ってしまった。
「そうだ!井上ー!」
良い獲物を見つけたとばかりに素早く僕の席まで歩いてくる先生。手遅れとは分かりつつも、僕は俯いて先生を見ない様にした。
と、いう訳で僕は祐介達4人グループへ人数合わせとして放り込まれる事となった。僕が班に入る事を知って、祐介だけは素直に喜んで「自由行動楽しみだな!」なんて無邪気に言っていたが、残りの3人は先生の手前何も言わなかったものの微妙な顔をしていた。
まぁ、友達と楽しく自由行動を過ごそうとしていたのに、突然ぼっちが横入りしてきたのだから、不満を抱くのは当然の事だし、第一に避けられる事には慣れている。しかし、このメンバーで校外学習の1日を過ごさなければならないと思うと、気が重い……。
ハンバーガーを食べ終え、時計を見れば時刻は19時過ぎ。よし、今から出れば塾には余裕で間に合うな。少し早めに行って英単語の予習をしておこう。
店の外へ出ると、ポツポツと雨が降り始めていた。雨粒一粒一粒が大きく、傘を差さずに出ればビショビショに濡れてしまうだろう。
そんな事もあろうかと、今日は傘を持って来ていたのだ。白い持ち手のビニール傘……。
あれ?
…………傘がない。
何度も確かめたが、結局僕の傘は見つからなかった。どうやら誰かに持って行かれてしまったらしい。はぁ……。特段お気に入りの物では無かったものの、「誰かが僕の傘を盗んでいった」という事実が僕のハンバーガーで少し上がったテンションを再び急降下させる。
コンビニで傘を買うのも地味に高いし、僕の財布事情的にも厳しい。残された道はただ一つ。
僕は雨の中、塾を目指して走り出した。
僕の体に大きな雨粒がポタポタと当たり、身体を冷やしていく。止む気配無く降り続く雨は、嫌な事続きの僕の心情を表している様だった。




