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ガリ勉ぼっちと真昼の幽霊  作者: 黄色い鳥
体育祭編(2年生5月)
12/30

第十話 ぼっちな僕の体育祭①

 気付けば、僕はランドセルを背負って歩いていた。周りには同じくランドセルを背負った小学生の集団。自分では何処に向かっているのか分からないのに、足は勝手に校舎を出て校門の方へと迷いなく進む。


 校門を出ようとした時、タッタッタッ、と背後から誰かが駆けてきて僕に半ばぶつかる様に飛びついてきた。驚いて、一体誰だろうと振り向くと、服装から男子と言う事は分かるが顔がぼやけていてはっきり見えない。


『あーきーらっ!なぁ、良かったら今週の土曜遊ばない?(れん)達と俺んちでゲームする約束してるんだけどさ。お前も来いよ』

 何と答えようか考える前に不思議と言葉が出てくる。

 『ごめん。行きたいんだけど土曜は兄ちゃんと遊びに行く約束してて』

 男子は顔がぼやけて表情が分からないにも関わらず、心底残念そうだ。

 『そっかぁ。じゃあ仕方ない。彰はお兄ちゃん大好きだもんな!』

 『はぁ⁈違うし!行きたいって言うから着いていってるだけ』

 『あー分かった分かった。じゃあ来週は俺らと遊べよ。約束な!』

 『うん』



 そう答えた所でアラームが鳴り、僕は薄く目を開けた。まだぼんやりとする頭で夢の内容を思い出す。


 久々に懐かしい夢を見た。この間、中山さんと話したのがきっかけになったのだろうか。そんな事を考えながらぼーっとしていると、ふと枕元のデジタル時計が目についた。


 えっと、今の時刻は……7時30分⁈一瞬見間違いかと思い、恐る恐るもう一度時計を見るとデジタルの表示は無常にも7時31分へと変わった。


 まずい。よりにもよって体育祭当日に遅刻するなんて。スポーツマン達がヒーローとなるこの日に全校生徒の前で遅刻して注目を集めるなんて()()()()ヒーローにはなれるかもしれないが絶対に嫌だ。


 ベッドから飛び起きると、運動着に着替えダッシュで階段を駆け降りる。身支度を済ませ、リビングの扉を開けるといつもの事ながら誰もいない。ダイニングテーブルの上にはメモ用紙に書かれた手紙と千円札、保冷バッグが乗っていた。手紙にはこう書いてある。


 『彰へ。今日も遅くなります。ご飯は塾の帰りに適当に食べてきて下さい。頑張ってね』


 また外食か……。嫌いじゃないんだけど、こうも続くと流石に飽きてくる。財布に千円札をしまって部屋の時計を見ると、焦って支度したからか、家を出る時間までにはまだ少し余裕があった。いつもこれくらい速く準備出来たらいいんだけど。


 冷蔵庫から惣菜パンを出して台所で立ち食いしながら、僕はぼんやりと今日の体育祭について考える。


 えっと、午前中は玉入れと綱引き。まあ、この2つは何とかなるだろう。次は午後1番でクラス競技の大縄跳び。確か、うちのクラスは練習で中々の好成績を収めていたっけ。これは気が抜けない。そして最後に体育祭のメインイベント、クラス対抗リレー。僕は丁度クラスの中間くらいの順番で走るから、アンカー程緊張はしない。でも、下手に足を引っ張って目立ってしまうのだけは避けなければならない。


 気付けばもういい時間になっていて、僕は急いで水筒にお茶を入れると保冷バッグを持って家を飛び出した。


 空は雲ひとつない真っ青な快晴。まだ梅雨入りもしていないと言うのに、真夏の様な日差しが真っ直ぐに降り注ぐ。



 これは、ぼっちには長い1日になりそうだ。


 

 僕は自転車のペダルを漕ぎ出し、急いで学校へと向かった。




 

 その頃、井上家のリビング。階段がキシキシと音を立て、誰かが降りてくる事を告げる。


 ガチャッ。


 荒っぽく扉が開かれ、1人の男が部屋に入ってきた。上下灰色のスウェット姿に、伸びきってボサボサの黒髪。一見だらしなく見えるが、髭は剃られていて清潔さもある。


 正反対の印象を併せ持つ彼は、洗い場のコップを手に取り水道水を入れると一気に飲み干した。


 ふぅ、と一息つくと彼はまた2階に帰ろうとするが、ダイニングテーブルの前で足を止める。


 目線の先には、彰の母が書いた手紙。


 男は手紙を手に取り、目を通すと、嘲笑う様な笑顔でこう言った。


 「()()()()……ね」


 男が2階に戻った後、テーブルの上には握り潰されてグシャグシャになった手紙だけが残されていた。 

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